提案
宗助は一瞬で真顔になった。
「結婚や婚約を約束した者がいるのか?」
「いえ、いません」
「恋人がいるのか?」
「いません」
「想い人は?」
「残念ながら、いませんよ。宗助さん」
「よし」
宗助は拳を握りしめる。
何がよしだ、何が。そう言うことは結婚を申し込む前に確認するべきものではないか。
「では、まずお互いを知ってから、婚約のちに結婚でお願いしたい」
「時間をとらせて申し訳ありません。彼は憲兵団に突き出しますので安心してください」
諦める気がない、ドン引きの執念をみせる宗助を、ローランドとニールは憲兵団に突きつけることを決めた。
「大丈夫大丈夫。こういうの初めてじゃないから」
「そういえばそうでしたね」
モンドが笑って止めて、懐かしいと綾音が呟く。
「えっ、何それ?ワタシ知らない」
「ん?ああ、お前が入ってくる前のことだからな。実はリアの」
「やめなさい。今話すことではありません」
食いつくアンネに説明しようとするモンドを、コーデリアが止める。モンドは肩を竦めて、口を閉じる。
アンネは聞きたそうにしていたが、話すと長くなるから後でねと綾音が耳打ち。
まぁ、話は戻しまして。
「お友達から始めましょう」
「始めちゃうの!?」
綾音の言葉に、ニールが思わず叫ぶ。宗助は拘束する二人の腕を振り払いガッツポーズ。
「えっ、大丈夫?ホントにいいのか……?」
「大丈夫大丈夫。最終的に、団長が判断してくれるから」
「そうですわね。団長に任せるのがよいかもしれませんわ」
戸惑うローランドにモンドは軽く、コーデリアはため息交じりに言った。
フォーチュナ劇場の団長は破天荒な人だが、確かな人をみる目を持っている。過去に、団員が結婚詐欺などにあいかけたを団長が阻止、フォーチュナ劇場を騙そうとする人達をやり返したりした。それから、フォーチュナ劇場の団員達の間では、恋人や婚約者は最初に団長に紹介するのが、暗黙の了解になった。
それに、団長は貴族でも簡単に手を出せない存在でもあった。それはフォーチュナ劇場が創立して間もない頃、とある貴族が初代宝石姫を無理矢理に妾にしようとしたことがあった。
平民である自分達では貴族に逆らう訳にはいかない。団員と初代宝石姫が諦めて悲しむ中で、団長はその貴族の要求を断った。その数日後、その貴族の家が罪を犯していたことが発覚して、断絶された。
もともと黒い噂のある家だったが、こんなにも都合よく王都から監査が入るものだろうか。その後も同じようなことが起こるたびに、相手が自滅していった。
その噂は辺境都市だけではなく王都にも広まり、フォーチュナ劇場は手出しされることがなくなった。
そんな訳で、団長が宗助をアウトと判断したら片付けてくれるだろう。
「ちなみに団長さんはどちらに?」
「王都に行っちまったよ」
次期団長とルビーの宝石姫、古参組の団員一人を連れて、団長は王都に向かってしまった。
余談だが、団長が留守の場合のフォーチュナ劇場は、団長代理としてモンドとコーデリアが、取り仕切る。他の団員では任せられない。
「次期団長のお勉強とかで、いつ帰ってくるかわからん」
モンドは呆れるように首を振る。
団長はふと思いついた気まぐれを即実行。今回もその日に決めて、その日に王都に向かって行った。団長の気まぐれには困ったものだ。
「しばらくは帰ってこないと思いますわ」
「そうですか……」
経験者コーデリアのため息交じりの言葉には、苦労が詰まっていた。大変なのだなとローランドは同情。
その間にも宗助と綾音は、話しを進めていた。アンネはキャッキャッと楽しそうに、ニールは遠い目で傍観。
「なので、文通から始めましょう」
「えっ、古」
お互いをよく知るためにと提案した綾音に、思わずアンネが声を出した。
「わかった」
「あ、いいんだ」
頷く宗助にニールの声。
ローランドは心配そうに、モンドは面白そうに見守る。コーデリアは当然のことと頷いた。




