第5話 才能
あれから僕は大いに反省した。
呪力というのは、一歩間違えれば、大事故に繋がる危険な力なんだ。
その制御に、もっと真剣に取り組まないと。
それから僕は、お父さまに教わって、呪力の制御に全霊を掛けた。
この前は呪力を引き抜きすぎた。
だから少量ずつ、ちょろちょろとコップの水をこぼしていくように、呪力を解放する。
天音と遊ぶときも、お母さまに本を読んでもらうときも、ご飯の時も寝るときも、僕は常に呪力を微量ずつ放出し続けた。
最初は本当に少しずつだ。
あの時みたいに結界を壊すわけにはいかない。
――事情は分かったが、だからと言ってそれで済むものではない!
ちなみに、お父さまは僕の代わりにたっぷり千景さんに絞られてしまったらしい。
――あの結界は、莫大な予算、しかも国民の税金で維持されているものなのだ。臣民の支えがあって我々の暮らしがあることを忘れるでないぞ。
とのことだ。
被害が微量だったとは言え、確かに千景さんの言うとおりだ。
今の僕は皇族に属しているわけなのだから。
お父さまの受けた叱責は、そのまま僕が受け止めるべきものだ。
そうして、僕は呪力の制御を完璧にすべく、約半年に亘って、呪力放出の鍛錬を続けた。
最初は少しずつだけど、今ではその数十倍の量を常時放出することが可能になった。
「伊織……少し、いいか」
そんなある日、僕はお父さまに呼び出される。
まさか、また何かやらかしてしまったのだろうか……?
「えっと、お父さま。ごめんなさい……」
「……? どうして謝るんだ」
「いえ、その……また何かやらかしたのかと思って……」
「はっはっは! まさか、あの時のことを気にしているのか? なら必要あるまい」
そう言ってお父さまは豪快に笑った。
「で、ですが……みんなの税金で作った結界が」
「お前、税金の意味まで分かるのか……? むう、とことん頭の回る奴だ」
お父さまが僕の頭を撫でる。
「なら、これも理解して欲しい。お前は俺の言いつけ通りに呪力を解放しただけだ。どんなに頭が良くったって、お前はまだ赤ちゃんなんだからな。その結果を受け止めるのは、親である俺と千歳の務めだ。それを俺たちから奪わんでくれよ」
「はい……」
少しだけ、心が軽くなった。
この人は、子育ての良いところも悪いところも、余すことなく受け入れてるんだ。
それは、僕のことを本気で我が子と思ってくれてる証だ。
実の子ではない僕を……
「ありがとうございます、お父さま」
本当にありがたい縁だ。
「おう。強くなれよ、伊織。お前には特別な才能がある。それを伸ばして、活かして、幸せになれ。それがきっと姉さんと義兄さんの願いで、今は俺たちの願いでもある」
「はい!」
ああ、本当にみんなが僕の家族で良かった。
みんなのためにも、僕はこの力を鍛えよう。
これから何が起きても、みんなを守れるように。
「あれ、そう言えば」
決意を新たにしたところで、僕はある疑問が湧いた。
「結局、お父さまの話って、今のことだったんですか?」
「…………忘れてた」
どうやら、盛大に話が横にずれてしまっていたようだ。
「お前の修行の話だ」
「修行……?」
「前のことを気にして、呪力の制御を練習してただろう?」
「あ、はい」
この呪力の制御法はお母さまに教わったものだ。
コップの水を少しずつ流すように、微量の呪力を放出するよう意識しろって。
言いつけ通りに修行したつもりだけど……
「身体の方は大丈夫なのか?」
「特にはなんとも……」
「なら、いいんだ……だが、一つ忠告だ。その修行は程々にするんだ」
「え……? でも、これはお母さまに教わった……」
「無論、最初は良かった。微量な呪力の放出は繊細な呪力操作の練習になるからな。だが、今の量はさすがにまずい」
「え…………?」
そうだったの……?
最初は少しずつだったけど、段々慣れてきたから徐々に量を増やした、それだけなんだけど。
まさか、それが危険なことだったなんて。
「今は何ともないようだが、あれだけの呪力を何時間も放出し続けたら命に関わるんだぞ」
「え………………?」
それはまずい。かなりまずい。
「ご、ごめんなさい……」
「いや、俺たちももっと気に掛ければ良かった。お前は呪力の量が多い分、ある程度の時間なら耐えられるんだろうが、呪力欠乏症に陥ったら、身体機能に深刻な影響が出るからな」
「ち、違うんです、お父さま。えっと、その……」
「まあまあ、そんなに怖がらなくて良い。寝てる間は呪力が回復するから、現状何ともなければ……」
「半年なんです……」
「ん?」
「その……この修行、半年間ずっと続けてたんです」
「ああ、知ってるぞ。継続は力なりだ。お前は本当に努力家だな!」
話が噛み合っていないようだ。
どうやらお父さまは、毎日僕がこの修行を頑張っていると解釈したようだ。
だが実際には……
「そうじゃなくて、寝るときもずっとで……この半年間一秒たりとも、放出を止めてないんです」
「……………………は?」
「ごめんなさい。それがいけない修行だって思ってなくて……僕、死んじゃうんですか?」
「死ぬものか……」
「え……?」
「……お前は天才だ。呪力量だけで言えば、この国で、いや歴史を振り返っても並び立つものはいないだろう」
「そ、そんなに凄いんですか……?」
他人と比べたことがないから、呪力量がどれ程のものか、自分でも良く分からない。
「きっと、お前は何か大きな事を為す。そんな予感がする」
「大きな事……」
「よし、決めたぞ。今までは、お前を赤子だと思って遠慮していた。だが、お前は頭脳も呪力も桁外れなんだ。これからは千歳と一緒に、徹底的に鍛える。もちろん、お前が望むなら……だがな」
どうだ?とお父さまが首を傾げて尋ねてくる。
「望むところです。僕はもっと、強くなりたい」
「よし、なら厳しく行くぞ。俺は剣術、千歳は呪力の扱いを徹底して教え込むからな!」
こうして、僕の修行は次のステップへと進むのであった。




