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第2話 天帝

 睦さん達に拾われてから数日後。

 僕はある場所へとやってきていた。


 睦さん達の屋敷から五分もせずに歩いた場所に大きな城がある。

 その天守閣の最上層にて。


「して、その子を預かりたいと?」


 御簾(みす)の向こうに女性が鎮座している。

 見た目は千歳さんとあまり変わらない歳に見えるが、この国の頂点に立つ存在――天帝というそうだ。

 睦さんは前に、あの人について、母上と言いかけた。


 ということは僕のおばあちゃん!?

 それにしては、あまりにも若すぎる……


 御簾越しだが、それでも見た目は二十代の半ばと行った雰囲気で、これも呪力とやらの為せる技なのだろうか。


「はい。姉が身命を賭して遺した宝です。何としても私たちの手で」


 天帝の前で神妙に膝をついて、睦さんが頭を下げている。

 その話題は僕についてだ。


 両親を失った僕を、自らの手で育てたい。

 それが睦さんと千歳さんの意志だ。


 僕としては本当にありがたいことだ。

 だが同時に、そのためにこうして二人が頭を下げている光景を見ると、本当に申し訳ないというか、自立できないこの身を恨めしく感じてしまう。


「ならぬ。その子は施設に預けると、既に決めたことだ」


 ピリッと凄まじい力の余波を感じた。

 これは呪力と呼ばれるものなのだろうか?


 赤ちゃんの僕でも分かる。

 この向こうにいる人間は、これほどの地位に相応しいほどの力を持っている。


「ですが、この子は……陛下にとっても、孫に当たる子です。何卒……! 何卒、ご再考を!」

「先日も申した通りだ。千歳はこれからが正念場。その腹に女の子を宿しているだ。その意味が分からぬお前では無いな?」


 睦さんによると、産後の女性は力が弱まるとのことだ。

 それは禍ツに命を狙われる危険が増えるということ。

 だからこそ、僕というリスクを背負うのに、及び腰になっているのだろう。


「女子を産んだ者は、七年の間その身から呪力が失われる。無論、承知しております。故に、私は全霊を懸けて、天音(あまね)と千歳、そして伊織を守り抜く所存です」

「口先だけの覚悟で何とかなるものか。第一、お前は男子だ。呪力を持てぬお前が、どう家族を守るつもりだ!」


 呪力を持てない……?

 その口ぶり……もしかしてだが、男性は呪力を授からないものなのだろうか?


「そのために、私は全霊を懸けると、そう申し上げました」


 そう言って、睦さんは着物のはだけさせ、右肩を露わにした。

 そこには、奇怪な紋様が走っていた。


「睦!? あなた、まさか神降(かみおろし)を!?」

「はい。先日、イワトより出土した遺物を取り込みました」

「ああ……なんてことを……身体はなんともないのですか? 吐き気がしたり、めまいがしたりとか……」


 それまで威厳に満ちていた、天帝の言動が徐々に崩れていく。

 まるで我が子を心配する母のような、そんな雰囲気であった。

 これが彼女の素なのだろうか?


「むしろ気力に満ち溢れているところです。千歳ほどではありませんが、これで私も呪力が扱えます」

「で、ですが、そのままの状態でいれば、いずれはあなたも……」


 よく分からないが、睦さんが行ったのは、男性でも呪力が扱えるようになる儀式の類いなのだろう。

 天帝の口ぶりでは代償が必要なようだが、そこまでして、僕を引き取ってくれると言っているなんて、本当に何と言えば……


「リスクは承知しております。遺物は長く取り込めば、より強力な力を得られますが、その代わり自らが取り込まれるリスクも高まる。ですが元より、千歳が子を授かってからこうすることは決めておりました」

「あなた……本当に、強情なんだから」


 そんな睦さんに寄り添うように、千歳さんが身体を寄せる。

 その雰囲気から、二人が本当に愛し合っていることが窺われる。


「どうしても、お前と天音を守りたかったんだ。俺は男で、お前と比べたら弱いけど、出来ることは何でもしたかった」


 呪力が無いながら、家族を守ろうと睦さんも必死なんだ。

 それがこの世界における男……か。


「陛下。この通り、我が夫も並々ならぬ覚悟を示しております。どうかこの子のことを……」

「無論、天照を継ぐ九曜家に大切な跡取り娘が出来た以上、男子一人引き取ることが難しいことは承知しております。ですがそれでも……」

「うぅ……」


 二人の気迫に圧されて、天帝が言葉を詰まらせる。


「私だって……」


 ぼそりと天帝が呟く。


「私だって、一生懸命考えたんだもん!! その上での結論だもん!!」


 だもん……

 突然、駄々っ子になってしまった。


「本当は伊織ちゃんを引き取って、私たち親族の手で育てた方が……その子のためだって……分かってます。ですが、私は天帝……天照を継ぐ天音ちゃんとその母親の千歳ちゃんを守る義務があるんです……!」


 その声が微かに震えてる。

 まるで、今にも泣き出しそうな……


「だから、ネットで良い施設いっぱい探したし、予算が降りるように長老達にいっぱい頭下げたもん……でも、たかが男子に割く予算はないって……」


 たかが男子……

 周りに恵まれたせいで実感は湧かないが、それがこの世界の常識……なのだろう。

 僕を引き取って育てると、睦さんたちは言ってくれたけど、本当はそれはとても無茶なことなのだ。


「もうどうすれば分からない……この世界で親を亡くした男の子は生きづらいってSNSにも書いてあったし……もうどうすれば……どうすれば……うわあああああああああああああん!!!!」


 泣き出してしまった。

 これがまさか、この国の頂点に立つ人物だとは……

 というか天帝もSNSやるんだ……


「は、母上、落ち着いてください。我々は何も、母上を責めるつもりでは……」

「そ、そうです、お義母さま! 私たちはただ、香織さまの意思を継ごうと思っただけで……」


 二人が天帝をなだめようとあたふたしている。

 なんとも、ぐだぐだだ……


 しかし、一つ分かったのは、天帝も決して僕を無碍にしようとしたわけではないということだ。

 彼女には立場なりに果たすべき責任があり、それが彼女の跡を継ぐこととなる、千歳さんたちの娘を守り抜くことなのだ。

 しばらくして、天帝が涙を拭った。


「分かりました……私も覚悟を決めます。天音ちゃんと伊織ちゃんを守るために……全力を尽くします」

「おお、それでは陛下……」

「うむ。睦、千歳、両名は養親として、伊織の養育に全力を尽くせ。ただし、これより生まれる天音は我が九曜家を継ぐ、大事な後継者でもある。両名ともその事をゆめ忘れるな」

「御意」

「余も全力でサポートする故、必ず守り通すのだぞ」


 こうして僕は、無事に睦さんたちに引き取られることが決まった。

 生まれたての赤ちゃんである僕には、これがどれだけ重大で無茶な事なのか推し量ることはできないが、それでも一つ思ったことがある。


 この恩を絶対に返したい。


 天涯孤独で、男子という呪力を授からない存在として生まれた僕は、本来なら大変な人生を送ることになっていた。

 だが、それを無理して受け入れてくれたのが睦さん達なのだ。


 この世界で僕に何が出来るのかは分からないけど、必ずこの恩に報いよう。

 僕はそう決意するのであった。

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