第1話 未知の日本に転生して
それは突然訪れた地獄だった。
夏休みのある日。
僕の家は突然、押し入ってきた男達に襲われた。
「さっさと、暗証番号を吐きやがれ! ガキがどうなってもいいのか!!」
脳天がどくどくと脈打つ。
僕は男達に鈍器で脳天を殴られ、うずくまっていた。
身体から血が抜け、意識がもうろうとする。
「いや……やめて……やめてよ……」
クソッ……妹が……ユリカが襲われてる。
兄ちゃんが助けないと……なのに……!
「どう……して、動けないんだよ……」
必死に手を伸ばそうとすしてるのに、うまく腕が動かない。
視界にはほとんど何も映らず、力を入れても腕や、足の感触を感じられないのだ。
「ギャハハ!! こいつ、泣いてやがるぜ。なっさけねええええ!!」
「つべこべ言ってないで、金目のものを運べ!!」
「娘も連れてくか。退屈凌ぎになりそうだぜ」
「や、やめて……子ども達には手を出さないで……! お金ならいくらでも持っていって良いから、だから……!」
理不尽に暴力を振るわれ、家中を荒らされる。
金目のもの、母親、妹、すべてが一瞬にして奪われた。
それが僕が見た最期の光景だ。
僕は、欲望に塗れたクズ達の行いで、あっさりとこの世を去ってしまったのだ。
*
「ごめんね……ごめんね、伊織」
誰かが呼んでいる。女の人の声だ。
どうして……どうしてまだ意識があるんだろう。
まるで海に溺れているかのようだった。
音も光も、全てが曖昧な空間で、僕はただ揺らめいていて。
「ごめん……ごめんね……」
そうだ。謝らないと……
ユリカ……母さん……ごめん。
何も出来なくて……
惨めだった。
僕は二人を守ることが出来なかった。
二人が襲われるのをただ見送るしかなかったのだ。
「伊織……お前だけでも生きて……健やかに……」
今度は男の声がした。
一体、何が起こってるんだろう……?
僕は死んだはずだ。あの出血量で助かるはずが……
やがて、ぼやけた視界に光が差した。
僕はそれを頼りに目を開く。
「伊織……私の、愛しい子……」
それはおぞましい光景だった。
目の前で、人が刺し貫かれていたのだ。
「グルゥウウウウウ!!!!」
暴風が吹き荒れていた。
漆黒の瘴気が渦巻き、周囲を暗黒へと変えている。
その中心に居るのは、剣を咥えた獅子だ。
その肉体は、機械的な装甲
双方向に伸びる刃の先には、二人の若い男女が貫かれている。
血走ったような紅い目をして、全身から瘴気を発している。
同じ空間にいるだけで、生命力が根こそぎ奪われそうな、そんなおぞましさだ。
「パパ……ママ……」
幼子の声で、僕はそう叫んだ。
直感的に状況を理解した。
二人は僕の実の親で、今まさにその命を散らそうとしているのだと。
「は、はは……生まれたばかり……なのに、もう言葉を……母さん! 母さん、僕たちの息子は天才だ……」
「そう……ね、あなた。末は博士か……でも、私たちはその姿を見られない……」
なんで、こんなことに……
どういう訳か、赤ちゃんとして生まれ直したというのに、待っていたのは両親の死別だなんて。
「でも、伊織だけは守ってみせるわ……」
周りを半球状の、結界のようなものが包んでいた。
五芒星が描かれた、不思議な障壁で、まるで僕を守るように展開されている。
「伊織……私の全ての呪力をそれに注いだ。きっと、あなたを守ってくれるはず」
母は最後の力を振り絞って、僕を守ってくれたようだ。
優しさに満ち溢れた素敵な人……なのに、この後に待ち受けているのは別れだけだなんて……
「ごめんな……お前が大人になるまで、側にいてやれなくて」
どうしてだよ……
どうして、僕に二度も家族の死を見せつけるんだよ……
僕は神を恨んだ。
そんなものがいるのなら、僕の魂をこの世界に転生させたというのなら、あまりにも悪趣味だ。
ふざけるな……ふざけるなあああああああ!!!!
「おぎゃあああああああああ!!!!」
僕は悲痛な想いを泣き声に込める。
生まれたばかりの幼い身体。できることはそれしかなかった。
*
いつの間にか意識を失っていた僕は、見知らぬ天井を見上げていた。
ここの落ち着くイグサの香り、ヒノキ造りの高級感溢れる内装、なんだか高級感のある和室だ。
いかにも日本家屋らしい雰囲気で、それでいて古めかしさを感じさせない。
新築のような居心地の良さのようなものを感じる。
「ああ! 目を覚ました! 目を覚ましました!」
この屋敷の使用人だろうか?
彼女は僕を見て飛び上がると、すぐさま、どこかへ走り去った。
「伊織ぃいいいっ!! 目が覚めたのかああああ!?」
二秒もせず、筋骨隆々とした大男が駆け込んできた。
「おおおお生きてる……生きてるぞおおおお!! うわあああああああああんん!!!!」
状況が分からず目をぱちくりさせていると、大柄の男が歓喜のあまり泣き出していた。
「良かった……お前だけでも……お前だけでも生きていてくれて……」
大男は僕を抱き上げると、力強く抱きしめ、凄まじい勢いで頬を擦り寄せてきた。
「あ、あぎゃああ!?」
髭が強烈に赤ちゃんの柔肌を刺激し、僕は思わず叫び出してしまった。
「こら、睦さん。目覚めたばかりなんだから、無茶しないの」
「お、おう。そうだな。すまない、千歳」
ようやく解放された……
続けてやってきたのは楚々とした雰囲気の黒髪の女性だ。
千歳……さんと言うのだろうか、とても綺麗な人だ。
身重なのか、大きくなったお腹を気遣うように、ゆったりと歩いている。
千歳さんはふとんに横たわる僕の頬をそっと撫でる。
「この子が、義姉さんが命懸けで守り通した。私たちの甥……」
「ああ。産後の弱った身体で参級の禍ツから息子を守り切るなんて、大した人だよ」
二人は神妙な面持ちで語り合う。
どうやら二人は僕の叔父と叔母に当たるようだ。
そして、僕の命の恩人でもある。
あの場から、僕を連れ出してくれたのだろう。
「あなた……やっぱりこの子は私たちで預かるわけにはいきませんか?」
「ああ、俺もそう考えてた。いくら男の子だからって、施設に預けるなんて嫌だからな。母上……おっと、陛下も僕が説得する」
二人の言葉に僕は心が温かくなる。
天涯孤独になった僕のことを案じてくれているようだ。
あまりにも辛い人生の始まりだったけど、優しい人に恵まれてよかった。
それにしても陛下……陛下って言った?
ここはどうやら日本のようだが、まさか、僕ってすごい家系に生まれたのか?
「そんなに気負わなくて大丈夫。陛下はお優しい方ですもの。きっと分かってくださるわ」
「そうだな。たんまり手土産を持っていこう」
ん……?
なんだか違和感を覚える。
ここは多分、日本であることは間違いないだろう。
だけど、陛下と呼ばれる人物は、女性のようだ。
だとすると妙じゃないか? 今は何年なんだ?
それに、さっきから呪力とか禍ツとか、なんだかラノベみたいな単語が飛び交っている。
恐らく禍ツというのは両親を襲った獣のことだろう。
そして、母は呪力とやらを使って、僕を守り抜いたということなのだろう。
なら、この世界はなんなんだ?
僕の知る日本とよく似ていながら、どこかラノベの世界のようだ。
「あ、そうだ。その前にご飯をあげなくちゃね」
今の状況に混乱していると、千歳さんがもぞもぞと衣服を脱ぎ始めた。
「おお、そうだな。赤子には栄養がたっぷり必要だからな」
「おぎゃ!?」
ご飯ってまさか……
いや待ってくれ。それは流石に……まずいのでは、色々と。
「ちょうどって言うのも変だけど、この子が生まれるタイミングで良かったわ。お母さんのじゃなくて、嫌だろうけど、我慢してね……」
「おぎゃ……おぎゃ、おぎゃああああああああ!!!!」
市販の粉ミルクにしてええええええええええと、僕は強く叫び続けるのであった。
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