8(第一話完結)
リーナは今日もアリスとともに『リリンの森』に来ていた。
コリンが捕えられたから、リーナの危険はなくなったけれど、弟子は継続中だった。
――コリンは護衛依頼の帰りに、ギルドを通さない荷運びの依頼を受けた。それが、闇ギルドの依頼で、知らずに違法薬物を運ばされていたらしい。
そのことで脅され、引き続き荷運びや採取依頼をやらされた。
コリンはリーナを遠ざけたくて別れた。そのあとも絡んできたのは、そうすればリーナが故郷に帰ると思ったからだそうだ。
警備兵に捕えられたコリンは移送されていくときに、リーナに言った。
「リーナ、俺ちゃんと償って帰ってくるから、待っていてくれないか?」
ギルドの前、事件に関わった皆が集まる中、リーナは答える。
「嫌です!」
コリンはぽかんとした。
「私のためって言いましたけど、単なる自己満足じゃないですか! 私を遠ざけてもノーラを巻き込んだわけですし、彼女に乗り換えたのは事実です。許せません」
リーナの返答にアリスやミラたち女性陣はうなずいている。ノーラは複雑な顔をしていた。
「最初のときに自首すれば良かったんですよ」
コリンはがっくりとうなだれながら、少しだけ気の毒そうにした警備兵に支えられて、馬車に乗せられていった。
それがおとといのことだ。
「気晴らしに簡単な依頼でも受けましょう」
アリスにそう言われてリーナが選んだのは、木の実を拾うだけの依頼。
ただ最短ルート上に魔物が多い場所が複数あり、避けていくと一日余計にかかる、地味に嫌な依頼だった。
アリスなら防御壁で魔物多発地帯を突っ切れる。
全部討伐できるわよ、と張り切るアリスを、体力温存で行きましょう、とリーナは説得した。アリスの防御壁の中で、大きな魔物がポンポン軽く吹っ飛ばされていくのを見ながら、最短距離で往復したのだ。
そして、今。
ギルドに帰るまでが冒険とはよく言ったものだ。
関所に近い辺りで大きめの魔物と遭遇した。鬱憤が溜まっていたのかアリスが一人で倒したから、それはいい。
(それより、なんですか、この人たち。アリスおばさんに絡んでくるなんて命知らずですよ!)
リーナとアリスの行手に柄の悪い二人組が立ち塞がっていた。
「おい、バ」
「兄貴、ちげーよ。ババアじゃなくておばさん、おばさん!」
「やべ、忘れてた」
(全部聞こえてますよ!)
アリスも苦笑しつつ待っている。
「おい、おばさん!」
「なあに? あら? あんたたちどこかで見たような?」
アリスは首をかしげる。
「俺らは、王都近くの街道でおばさんにぶちのめされた盗賊だ!」
(盗賊って自分で言っちゃってますよ!)
「あんときは世話になったな!」
「お礼参りに来てやったぜ!」
「あら、お礼なんて別にいいのに。あたしは当然のことをしたまでよ」
(当たり前のようにぶちのめしたんですね!? それに、お礼参りって良い意味のほうじゃないですよね?)
おろおろするリーナをよそに、自称盗賊の二人組はアリスに迫る。
「ここまで来てやったんだから、なんか手伝わせろ!」
「俺たち役に立つぜ!」
リーナは「え? 良い意味のほうです?」と小声で突っ込む。
アリスはリーナの驚きに気づかずに、
「それじゃあ、これをギルドまで運んでちょうだい」
これ、と指された魔物を見た二人組は固まった。
「これって、なんだっけ?」
「森青鹿?」
「大がつくわよ。大森青鹿。……あ、赤毛が混じってるから変異種かもしれないわね」
B級パーティが協力して倒すような魔物だ。
二人組に視線を送られたリーナは、ぶんぶんと首を振る。
「私は単なる案内人です。付き添いです。戦力外ですから!」
「あらやだ、弟子が何言ってるのよ」
アリスの言葉に、二人組は「弟子!」と目を輝かせてリーナを見る。
「違うんです。ほんとに私は戦力外で……!」
「まあ、いいから。リーナ、行くわよ」
歩き出すアリスに、リーナは小走りでついていく。
巨大な魔物と一緒に残された二人組は、
「これ、俺らだけで持てるのか?」
「無理っすよ、兄貴ー」
と悲鳴を上げていた。
第一話終わり




