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リーナたちの旅は順調に進み、領境を超えて二つ目の街ネプラースで馬車を下りた。ここから三時間ほど歩けばリーナの故郷ミロルルだ。
「リーナ! あいつの顔に水をかけて!」
「はいっ!」
ノーラの指示でリーナは大きめの水球を山送狼にぶつけた。狼そっくりな魔物は一瞬だけ速度を落とす。そこをノーラが後ろから切りつけた。
「ギャァ!」
山送狼は叫び声を上げて倒れる。
「足元を狙います! ノーラは離れてください!」
リーナは狼の下の地面に水を出して泥濘を作った。狼は起き上がろうとして足を滑らせる。
「行くわよ!」
ノーラが飛び掛かろうとしたとき、アリスが「待って!」と声を上げた。
瞬間、狼の身体から緑の細い鞭のようなものが飛び出した。
それはノーラとリーナに迫ったが、アリスが張ってくれた防御壁に当たり跳ね返る。
「ええっ!! 今の何ですか?」
「植物みたいだったわよ」
「野山送狼になりかけているのね」
アリスに言われて見ると、野山送狼の特徴である緑色の体毛が耳の辺りに生えていた。
最初から高レベルの魔物もいるが、進化する魔物もいる。――魔物の名付けは人間の都合だから、進化ではなくて単なる成長とする説もある。
目の前にいる山送狼も進化すると野山送狼になると言われていた。
「リーナ、ノーラ、二人で行けるかしら?」
「はいっ! って言ってもここからはノーラ頼りですけど」
「あの植物は私だとちょっと……」
ノーラは顔をしかめて狼を見た。
アリスの防御壁の中で相談しているが、ぴしぴしと緑の鞭が当たる。しかし、狼の本体は倒れたまま、泥の中でもがいている。
「それじゃあ、植物はあたしが焼くわ。火が消えたらノーラはすぐに出て大丈夫よ」
アリスがそう請け負って、ノーラはレイピアを構える。――見たことがあると思って聞いたら、リーナと誘拐された先のダンジョンで得た武器をそのまま使っているそうだ。
「いいかしら?」
ノーラがうなずくと、アリスは強い火炎を放った。
「わぁ、もうこれ、狼ごと焼けてませんか?」
「あたしの魔法精度を舐めてもらっちゃ困るわね」
火が消えてノーラが防御壁から飛び出す。植物は襲ってこなかったけれど、狼は変わらずもがいていた。毛皮が焼けている様子もない。
ノーラは狼を何度か刺す。そうすると狼は痙攣して動かなくなった。
魔物の死亡を確認してから、ノーラが「はあああ……」と大きな息を吐いて座り込んだ。
「ノーラ、大丈夫ですか?」
「疲れた……」
「水飲みます?」
リーナが水球を出すけれど、ノーラは首を振った。
リーナは自分の手のひらに水球を落とし、自分で飲んだ。
「私も疲れましたぁ」
「アリスさんは元気ね……あんな大きな火魔法を放ってたのに」
「まあ、アリスおばさんは魔力多いみたいですから」
二人で座り込んで、魔物を検分しているアリスを見る。
馬車の休憩などで魔物を見つけるたびに共闘の修行をしていたため、リーナとノーラはだいぶ話ができるようになった。
「次に魔物が出たときは、討伐講習は無しで、防御壁で突破したい……」
「ですね……」
そんなことを言っているとアリスが振り返る。
「リーナ、四字名の魔物ってこのあたりはよく出るの?」
「いえ、出ません……。魔物が出ても三字名くらいです」
アリスから指摘されてリーナは初めて気づく。
「ちょっとおかしいですかね?」
「そうね、気を付けたほうがいいわね」
ネプラースからミロルルまでは、木々もまばらな林の中の道を通る。
リーナはなりかけの野山送狼が出てきた方角を見やった。
(ちょうど山の方向ですね)
その山の裾にミロルル村があった。




