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おばさん冒険者、職場復帰する  作者: 神田柊子
第三話 おばさん冒険者、からくりダンジョンに挑む

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 ことの起こりは数日前。

 ファーラドの冒険者ギルドの職員リーナ・オルトは、A級冒険者で師匠でもあるアリス・カルスと次回の依頼について、相談用の受付カウンターで打ち合わせをしていた。

 そこにギルドマスターのドム・キャリッジがやってきた。

「ちょうど良かった。アリス、お前に指名依頼だ」

「依頼主は誰なの?」

 アリスは少し嫌そうに尋ねる。――面倒な依頼主からの護衛依頼が終わったばかりだったから、リーナも気持ちがわかる。

 ドムは苦笑して、「冒険者パーティ『アーサーとディア』だ」とアリスに依頼票を渡した。

「まあ! ディアたちね!」

 アリスが顔を綻ばせたから、リーナは尋ねる。

「お知り合いですか?」

「うーん、昔なじみの友人、かしら?」

 アリスの言葉に、ドムが「まぁ、間違っちゃいないが」と笑う。

「リーナも世話になった人だぞ?」

「えっ! 誰ですか? パーティ名のまま、アーサーさんとディアさんなんですよね?」

 珍しい名前ではない。リーナはその名前の冒険者の顔を思い浮かべるが、世話になったと言える人はいなかった。

「わかりませんー。誰ですか?」

「それじゃリーナも一緒に行きましょ?」

「でも、私も行ったら護衛対象が三人になっちゃいますよ?」

 三対一では、アリスに負担がかかる。

 リーナが断ると、ドムが、

「あー、この二人はそれなりに戦えるから、気にすんな。アリスと一緒に出かけたいから護衛依頼ってことにしてんだろ」

「行き先はからくりダンジョンだから、きっと楽しいわよ」

 アリスにもそう言われ、リーナは「依頼主さんたちから許可が出たら」と答えた。

 そして、あっさり了承され、リーナも参加することになったのだった。


 依頼の当日。

 リーナの受付カウンターに来たのは、三十代半ばの男女だった。

 ダンジョンに出かける前に、ギルドカードを更新しておくことになっていたのだ。

(顔を見てもわかりませんよ……。初めましてだと思うんですが……。世話になったってどういうことでしょうか?)

 リーナは立ち上がって礼をする。

「リーナ・オルトです。あの、ギルドマスターから私がお二人にお世話になったって聞いたんですけど……」

「ああ、あのときは顔を合わせてはなかったね」

 アーサーが少し声を落として、

「君の誘拐事件の捜査に加わってたんだよ」

「えっ! あのときの! それは、ありがとうございました! おかげで無事に帰ってこれました!」

 リーナはぺこりと頭を下げた。

 すると、アーサーは「僕の仕事だからね」と手を振る。

(警備兵の方なんでしょうか?)

 リーナは疑問に思いながらも、渡されたギルドカードを読み取り機に差し込んだ。

 アーサーのカードに刻まれた紋章はC級の青色だった。

「本人確認のためにこちらの水晶に手を乗せてください。はい。ええと、アーサー・ソっ!?」

 リーナは大きな声を出しそうになり、慌てて口を押さえる。

「アーサー・ソシレ、様……ですか? あああの、も、もしかして領主様ですか?」

 アリスとA級パーティ『籠目』に出された特命依頼。その依頼主がアーサー・ソシレ伯爵だった。リーナは依頼票を見たから知っている。

(今回の依頼主はパーティ名になっていたから、気づきませんでした! 知ってたら参加しなかったのに……! アリスおばさんはともかく、マスターは確信犯ですね!?)

 リーナが振り返ると、奥の机に座っていたドムがにやりと笑った。

 一方のアーサーは、

「様なんて他人行儀な。リーナはアリス様の弟子なんだから、僕らと同じ立場だよ」

「え! えええ、そんなまさか!」

「アーサーって呼び捨てでいいよ?」

「いえいえ、いえいえ! 無理です。できません!」

 一応気を使って小声で、しかし全力でリーナは断った。

 そこで、ディアがアーサーの腕を叩く。

「アーサー。あんまりからかったらかわいそうよ」

 ごめんなさいね? と微笑む。

(えーと、この方は伯爵夫人ですよね?)

 領主夫妻とダンジョンに行くのか、とリーナは気が遠くなる。

(アリスおばさんも一緒なのは心強いですけど)

 ――そういうアリスが実は一番身分が高いことをリーナは知らない。

 とりあえず仕事だとリーナは、アーサーのカードの更新手続きを進める。

「十年以上、依頼や討伐の記録がないので、冒険者ランクが一つ下がってしまいます」

「ああ、そうだよね。悪人は討伐しても経験値にならないんだよね。残念だなぁ」

 アーサーの不穏な発言は聞かないことにして、リーナはD級に変わったカードを返した。

 ディアのカード更新も終わるころに、アリスが現れた。

「ディア!」

「アリス様、ごきげんよう。今日はよろしくお願いいたします」

「こちらこそ! 楽しみにしてたのよ」

 二人は笑顔で挨拶し合う。

(本当にお友達なんですね。アリスおばさんなら納得ですけど……)

「そのローブかわいいわね。ディアに似合っているわ」

「ディアは何でも似合うからね! ほら、アリス様! 僕もお揃いなんですよ!」

「あー、はいはい。アーサーも似合ってるわよ」

「ふふっ。アリス様、こちらをどうぞ」

「アリス様のローブも作ったんですよ!」

「えっ、今日のために作ったの?」

(アリスおばさん、領主夫妻から様付けで呼ばれてますよね!? これが通常なんですか? 仲が良いの程度が違いません?)

 リーナは他人事のように三人を見ていたけれど、振り返ったアーサーにお揃いのローブを手渡されて固まる。

「リーナの分ももちろん用意したよ! リーナも着るなら、アリス様も着てくれるんだって。だから、ほら」

「皆でお揃いにして出発しましょうね?」

 伯爵夫人ににっこり微笑まれて、リーナに断る術はなかった。

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