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おばさん冒険者、職場復帰する  作者: 神田柊子
第二話 おばさん冒険者、特命依頼を受ける

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14/22

6

 薬草畑から歩くこと半日、リーナたちは次の目的地であるダンジョンに到着した。

 捜査員たちがダンジョンの入り口を記録するのを待ってから、中に入る。

 このダンジョンは石組みの砦タイプだ。

「こちらは73番ダンジョンです。砦タイプで、二十一層。踏破済みなので、転移魔法陣でどこでも行けます。出てくる魔物はあまり強くなくて、ダンジョンの中では中の下というレベルでしょうか」

 リーナが説明すると、リックが「よっ、ダンジョンガイド!」と謎の名前で囃し立てる。

 事前の打ち合わせで、寄り道せずに犯人の証言に出てきた階層に行くことになっていたため、リーナたちはまっすぐに転移魔法陣の部屋に向かった。

 アリスの主導で、畑以降、列の並びは、アリスとリックが先頭。ダウトとサダイズが後方となっている。リーナは変わらず、捜査員たちと一緒に真ん中だ。

 先頭のアリスたちが話している。

「ここは灯りがあるわね」

「そうだな。ま、下層に行ったらわからんが」

 屋敷タイプも砦タイプも、綺麗な屋敷と寂れた屋敷とボロボロの廃屋……という感じに、ダンジョンによって内部の状態が異なる。

 このダンジョンは、綺麗な砦のようだった。


 七層に転移し、違法薬物製造に使われていた隠し部屋の手前の部屋に着いた。

 この部屋には扉がない。

「待って」

 アリスが制止する前から、リーナにも不審な音が聞こえていた。

「何だ、あれは」

 リックの戸惑う声に、リーナもそっと部屋の中を見てみる。

「闇騎士? ……ですよね?」

 動く鎧だ。砦タイプのダンジョンの上層によくいる魔物だった。ここまで来る間にも何体か行き合ったが、速攻でリックに倒されていた。

 人間を見つける前の闇騎士といえば、入り口や壁際に立っているか、廊下を巡回しているのが普通だ。

 それなのに、部屋の中にいる闇騎士は、その場でくるくる回っていたり、壁に頭をぶつけていたり。寝転んで床を転がっている者や、座り込んで動かない者もいる。

 魔物としてもおかしいが、人型のせいで余計に異様だった。

 そんな闇騎士が十体ほどいるため、ガチャガチャと鎧の音がうるさい。

「何してるんでしょうか?」

「変異種かしら?」

「闇騎士の異常行動なんて、今まで聞いたことがないぞ」

 ベテラン冒険者のアリスや『籠目』メンバーも首をひねっている。

 そこで、テリーが「あっ!」と声を上げかけ、ビリーに口を塞がれた。

「静かに!」

 アリスに圧をかけられて、テリーは何度もうなずく。テリーが何か言いたそうにするから、アリスはビリーに許可を出した。

(アリスおばさん、いつのまに、ビリーさんをテリーさん係にしたんですか?)

 ビリーはさりげなくテリーの腕を捕まえていた。

 口を解放されたテリーは、小声で、

「奥の壁の穴は隠し部屋の入り口じゃないですか? もしかして、残っていた違法薬物を魔物が食べたんじゃ?」

「え?」

 目を凝らすと、確かに隠し部屋の入り口が開いている。

「あの闇騎士の行動は、薬物中毒の人間に似ています」

「ええっ!」

「なるほど、似てるな……」

 冒険者側は驚くが、捜査員側は納得している。

 リックがラリーに尋ねた。

「どうする? 記録するか? このまま倒しちまっていいか?」

「大丈夫です。倒してください。――テリーさん、観察しておいてあとで報告書をお願いします。ビリーはカメラで撮影を」

 ラリーはそう指示してから、リックに向き直る。

「人間の薬物使用者は、痛みを感じなかったりありえない力を出したりします。魔物も同じかわかりませんが、気をつけてください」

「おぅ! 助かるぜ」

 リックはラリーに礼を言ってから、サダイズを振り返る。

「サダイズはここで待機だ。俺とダウトで行く」

「俺だって、あのくらい! 雑魚じゃねぇか!」

「普通の雑魚じゃねぇだろ! お前に何かあってからじゃ遅ぇんだよ! 黙って見てろ!」

 リックが怒鳴ると、中の鎧の音が一瞬止まった。それから、先ほどより音が大きくなる。見るとこちらに向かって来る者もいた。

「気づかれた! 行くぞ!」

 リックがそう言って室内に飛び込む。ダウトはサダイズの肩を一度叩いてから、リックを追った。

 一歩前に出かけたサダイズの腕をアリスが掴んで、防御壁を張った。

「リックたちの心配もわかるでしょ?」

「くそっ……!」

 悔しいのはわかるが、有真白のときのように無理されるのも心配だ。

 サダイズも気になるが、ガチャンガチャンと大きな音が響く戦況も気になる。リーナは室内に視線を向けた。

 間口が広いため、記録している捜査員たちと並んでも邪魔にならない。

 中では、リックが大剣で鎧を吹っ飛ばし、ダウトが風魔法で切り刻んでいる。

「鎧がガタガタに崩れても動いているの、今までと違いますね……」

「ええ。気持ち悪いわね……」

 さすがのアリスも顔をしかめている。

 多少しぶといが、元の強さが変わるほどではなかったようで、A級冒険者が遅れを取ることはなかった。

 しかし、テリーが「あっ!」とまた叫んで、部屋の奥を指差す。

「隠し部屋から鎧が出てきますよ!」

「えっ!」

「あら、まだいたの?」

 薬物製造室だったと思われる隠し部屋から闇騎士が、さらに十体近く現れた。それらは一層動きがおかしかった。

「あれ、兜だけぐるぐる回ってますよー! 怖いです! アンデッド系じゃないんですよね!?」

 新しく出てきたうちの一体が、ものすごいスピードで壁を走り――闇騎士としては有り得ないが――、防御壁の前にやってきた。

「動きの予測がつかないうえに、個体差が大きいなんて、面倒ね!」

 悪態をつきながら、アリスは防御壁の弾を飛ばして闇騎士の頭を落とす。

 闇騎士はそれだけでは止まらなかったが、防御壁に勢いよくぶつかったせいで吹っ飛び、壁にぶつかって崩れて動かなくなった。

 それを見ていたリーナは、はっと思いつく。

「アリスおばさん! このくらいの大きさで、色付きの球体の防御壁って出せますか?」

「出せるわよ? これでいいの?」

「はい!」

 アリスの手の上には、拳大の白い球が出てきた。

 リーナはそれを手に取って、サダイズに差し出した。

「サダイズさん! これです、これ!」

「これって、なんだよ?」

 サダイズは困惑した顔で聞く。

 リーナは彼の手に防御壁の球を押し付けた。

「ここから魔物に投げるんです!」

 それでやっとサダイズもわかったようで、

「ああ! そういうことか! それなら、任せろ!」

「あ、膝は使わずに投げてくださいね!」

 アリスも作戦をわかってくれたらしく、「こっちからも攻撃するから!」と室内の二人に声をかけてくれた。

 サダイズは腕の振りだけで球を投げた。

 びゅっと、風を切る音がする。

 リーナでは目で追えない速さで飛んだ球は、闇騎士の腹をえぐって、鎧ごと壁に当たった。折れ曲がった胴体部を中心に、バラバラと鎧が崩れて、闇騎士は動かなくなった。

「わっ、一撃! すごい!」

「へへっ、このくらいは楽勝だな」

 サダイズは久しぶりに笑顔を見せた。

 アリスがすかさず次の球を作る。

 ――サダイズの活躍もあって、いくらも経たずに、闇騎士は全て倒されたのだった。

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