第六話
序章と3話目を修正しました!
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私は呟きながら神の癒し池から少し離れた場所に降り立った。
神の癒し池は神聖な場所であるため、普段は滅多に立ち入れないし、皆、立ち入ろうともしない。
だが、今日は池に浸かっている人影が見える。
誰だろう?
近くまで行ってみると、池に入っていたのは帝の一族と呼ばれている葵の名無し様だった。
私たち天上人はこの神の癒し池から生まれるのだが、各々の能力により各部署に振り分けられ、仕事を担う。
だが帝の一族と呼ばれる者達だけは少し違っている。この池で生まれるのは同じなのだけれど、大地や風、水、森、人間の声に耳を傾ける能力を持っている者だ。
彼らは隠の社と呼ばれる所に住み、その数は数人~十数人いるようだ。
その中でも一番能力が高い者だけが帝という名を名乗ることが出来る。帝は春の国では蒼帝と呼ばれ、夏の国は炎帝、秋の国は白帝、冬の国は玄帝と呼ばれている。
彼らは隠の社で衛門府から送られてきた悪しきものを消滅させたり、風読みを修行したりと日々切磋琢磨しているという話だ。
私たち天上人にとっての頂点であり、憧れの存在である帝様は私たちよりもずっと、ずっと過酷な生活をしている。
因みに葵の名無し様と呼ばれているのは髪の毛の色に由来する。
白帝の名を名乗れない名無し様がこうして隠の社から出てきた時に呼び名がないと不便なためだ。
私は緊張しながら池に入るために名無し様に声を掛けた。
「葵の名無し様、失礼します。瘴気当たりを起こし、ここに来ました」
「ああ、宵闇だっけ。気にせず入って」
葵の名無し様は頬に切られたような傷や肩口に深い傷が付いていてどうやら体中怪我をしており、沢山の光の玉が傷口を癒すように浮かび上がっている。
「宵闇、君は能力が分かったの?」
「先日、分かりました。私の能力は瘴気や悪しきものを体内に取り込み、悪しきものを封印できるようなのです。先日、白帝様と番紅花様に連れて行ってもらった人間界の神事で判明したのです」
「自身に瘴気を取り込むことが出来るなんて凄いな」
「まだまだ練習も始めたばかりで失敗ばかりなんです。上手く操ることが出来なくて封印の玉も思うように作れないのです」
「誰も持っていない能力だしそれはとても凄いことだよ。今は上手くいかなくても努力していれば必ず報われるさ。僕も努力はしているけれど、まだまだ今代の白帝様に追いつけそうにないな」
「葵の名無し様は努力家で今の白帝様を超えるのではないかとお噂を耳にしております」
「そう言ってもらえると嬉しい。僕はまだまだ弱くていつも怪我をしてしまう。もっと努力しないとね」
葵様は頬笑みながら話をしている。
これだけ怪我をしていて自分はまだまだ弱いという葵様はとても努力家なのだろう。私も葵様のようにもっと努力しないといけない。
「私も葵の名無し様のように頑張ります」
私は葵の名無し様と軽い雑談をしながら回復するまで神の癒し池に浸かった。
先ほどまで身体中が悲鳴を上げるような痛みを訴えていたのに小さな光の玉がふわりと浮き上がると共に痛みは軽くなり、治まっていく。
身体に残った瘴気も同時に浄化されているようで心も軽くなってくる。
「始めて神の癒し池を使わせていただいたのですが、凄いですね。もう痛くない。それに身体中から力が漲る感じがします」
「この池は本当に凄いね。神の力を感じるよ」
私はものの十数分程度で光の玉は見えなくなり、治ったようだ。葵の名無し様の身体からはまだいくつもの光の玉が浮かび上がっている。
葵の名無し様は笑っているけれど、どれだけ重傷だったのだろうかと心配になる。
「……回復しました。では私はこれで社へ戻ります。葵の名無し様、無理はなさらないでくださいね」
「ああ。宵闇も頑張り過ぎないようにね」
私は池から上がると水は衣からさらりと落ちていき、来た時と同じように乾いた状態になる。そのまま私は飛び、社に戻っていった。