第五十九話
火影様達と合流し、そのまま冬の国に向かって飛び始める。四季殿から冬の国はすぐだ。
「白帝様、冬の国の結界が弱まっているとはいえ、結界が覆っています。我々が通るほどの隙間を作りますか?」
「火影、大丈夫だよ。私が結界に干渉して少しの間隙間を作るから問題ない」
白帝様はたしかにアキコク様の結界に力を流して支えていた。
私は物理的に割ってはいったが 、名無し様や白帝様達は結界に干渉する術を持っているのだろう。
そう話をしているうちに冬の国の前に到着した。
確かに秋の国や春の国の結界に比べて薄く、今にも消えてしまいそうだ。そして結界の中から見えるおびただしい瘴気がここからでも感じる。
目に見える範囲には悪しきものはまだ涌いていないようだが一体中はどうなっているのだろうか。
白帝様が薄い結界に触れ、静かに詠い始めた。言葉というよりは祈りのような音はじわりと結界に溶け、人が通れるほどの穴が開いた。
「私から入ろう」
火影様が先に入り、次にもう一人の武官が入り、その後を私も入る。そうして白帝様が入った後、最後にまた武官が入り結界はまた元に戻るように修復されていく。
その様子を確認した後、私達は前を向き、本殿に向かって飛び始めた。
冬の国の人達はみんな外へ出て瘴気を散らそうと必死に対処しているようだ。総出で対処しているから悪しきものが涌きだしていない、もしくは涌き始めた時に対処ができているのだろう。最悪の事態を想定していたが、思っていたより状況は良いようだ。
建物に近づくにつれて瘴気が濃くなっている。きっと本殿に春隣様がいるのだろう。
私達は飛ぶのを止めて建物の敷地へ歩いて入っていく。
「貴方は秋の国の白帝様ではありませんかっ」
名無し様の一人が浄化しながら私達に気づいて声を上げた。
「玄帝を助けに来ました。玄帝はどこですか?」
「玄帝様は春隣様と一緒に本殿にいると思われます。我々も本殿に向かおうとしているのですが、何分この濃い瘴気のためなかなか近づくことが出来ずにいるのです」
名無し様達が神祇官、武官達と協力し、浄化と瘴気の封印を行っているが瘴気は衰えを知らず攻防が続いている様子だった。
私も無理に歩みを進めても瘴気に囲まれるだけで不利な状況になってしまうだろう。だが、瘴気の大元である春隣様をなんとかしなければ名無し様達も疲弊し瘴気に負けてしまう。
そう思っていると、シャランと澄んだ音が鳴り振り返ると白帝様が錫杖を取り出していた。
「道を作ります。皆さんは少し離れて下さい」
白帝様は長い錫杖を鳴らし地面を突いた後、手を翳して一閃を放つ。
すると瘴気は一閃を放った場所は浄化され、一筋の道が出来ていた。
冬の国の名無し様達が何人も掛かって少しずつ本殿に向かっていたのだ。
どれだけ白帝様の力が凄いのかということが分かる。
「では私達は先に急ぎましょう」
「はい」
火影様を先頭に私達は本殿に向かった。誰も口を開くことはない。玉砂利を踏む音だけがし、否応なく緊張が張り詰めていく。
「瘴気が濃いですね」
「ええ、やはり春隣はここにいるのでしょう」
なぜ本殿に?
もしかして神への報告時に神界と繋がり、そこから神界に入ろうということなのだろうか。
春隣様がそう望まれているというより、春隣様を利用して悪しきものが神界に行こうとしているようにも思えてくる。
神界に行ったとしても消されるだけなのに。何か目的があるのだろうか。
本殿に進むと瘴気が多く涌き出ている。白帝様が浄化した場所も浸食をはじめている。
本殿の中は瘴気で見づらいが銅鏡の前に血を流し瘴気に縫い留められている状態の玄帝様の姿と身体から瘴気を出している春隣様の姿を確認した。
「気を付けろ」
火影様が声をあげた。
「宵闇、瘴気を」
「はい」
武官達は武器を構え、いつでも斬りかかれるような態勢になっている。
私は火影様の横に立ち、玄帝様に向かって手を翳し、瘴気を吸い始める。
白帝様は長い錫杖を手錫杖《しゃくじょう》に形を変え、詠い始めている。
春隣様は私達の動きを確認した後、ゆっくりと錫杖を鳴らし瘴気が勢いよく吹き出し始めた。
……あと少し。
コロリ、またコロリと瘴気は封印の玉に変化し、玄帝様は床に倒れ込んだ。




