表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
神々の遠い記憶を継ぐ者  作者: まるねこ
第三章 覚悟の先にあるものは

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

53/63

第五十四話

神祇官じんぎかんとして会場にいた番紅花ばんこうか様も心配して話しかけてきた。


「心配しなくても千日紅せんにちこうもいる。四季殿しきでんの周辺にいた悪しきものも討伐し、四季殿しきでんの中にいる悪しきものも動きはない」


番紅花ばんこうか様の言葉で少しホッとした。私が人間界に落ちている間、番紅花ばんこうか様は武官と一緒に悪しきものを討伐していた。


そこには名無ななし様もいて封印ふういんするのではなく消滅させたと報告書に書いてあった。


移動するのも時間が惜しいということでこのままここ各部門の長達と話し合いがされることになった。


「改めて白帝はくてい様、おめでとうございます」

「ありがとう」

「みなさま、宵闇よいやみ様の報告書はもう読んだかしら?」


竜田姫たつたひめ様がそう言うと、呼んでいない人達に報告書を回していく。


「ふむ。裏切者が出たというのか……」

「誰か心当たりはありますか?」


各部門の長にもなれば他国とも関わりがあるためある程度の情報は入ってきそうなものだが、一様に知らないという。そして裏切者によって白帝はくてい様が殺されたことで誰もが憤りを感じているようだ。


「春の国で助けてもらい、各国へ連絡すると蒼帝そうてい様が話をしていました」

「確かに春の国から一報が届きました」


白帝はくてい様は春の国からの文を受け取ったようだ。


春光はるひかり様は何か引っ掛かるようで調べておくといっていましたが……」


私がそう言った時、曼殊沙華まんじゅしゃげ様が口を開いた。


「可能性があるとすれば冬の国の春隣はるとなりだろうな」


その言葉に頷く者やまさかと口を濁す者など様々な反応が返ってきた。


春隣はるとなり様、ですか?」

「ああ」

うずらの話か」


曼殊沙華まんじゅしゃげ様はそう返すと、山吹やまぶき様も口に出した。うずらという人の名。依然、いやいけで武官の一人から聞いた話ではうずらという人が悪しきものに変化し、神が降りたと言っていた。


うずらという人の話は聞きましたが、それがどうして春隣はるとなり様と関係があるのですか?」

宵闇よいやみはまだ生まれていなかったから知らないのも当然だ。当時はまだ春隣はるとなり神祇官じんぎかんの一人に過ぎなかった。


冬の国の玄帝げんていは厳しい人でな。自分にも厳しいが部下にも厳しかった。悪しきものの討伐に最低限の人数で向かわせ、常に衛門府えもんふの人間は疲弊していたようだ。


春隣はるとなりはもう少し余裕のある人数で討伐しないと衛門府えもんふの人間が倒れてしまうと訴えていた」


山吹やまぶき様が話を始めた内容では春隣はるとなり様はとても優しい人のように思える。


「だが、当時の神祇官じんぎかんの長も玄帝げんていも許可しなかった。冬は悪しきものが出やすい時期でもある。


そして運が悪いことにその時期は特に悪しきものが多く出ていて、他の国からも度々応援要請が出ていた。そのこともあり、玄帝げんていはすぐに対応できるようにと衛門府えもんふの武官を人間界の至る所へ警備させていたことも分からなくもない。


そうして武官は悪しきものを討伐した後、傷もそこそこに現場へ復帰することを繰り返していた。そして瘴気しょうきが取り切れずうずらは悪しきものになった。春隣はるとなりはな、うずらとずっと組んで悪しきものと戦っていたのだ」


「やるせなかったのかもしれないわねぇ。ずっと支え合ってきた仲間が目の前で悪しきものになってしまったんだもの」

「そうだな。うずらはまだ心が残っているからいやいけ瘴気しょうきを取り除けば問題ないと。だから殺さないで欲しいと春隣はるとなりは神に訴えていたそうだ」


前に聞いた時はただ悪しきものになってしまったということだけだったけれど、詳しい話を聞いてしまうと春隣はるとなり様に同情してしまう気持ちもある。


だからと言って玄帝げんていのやり方が間違っているかと言えばそうでもない。


悪しきものに堕ちてしまえば払うしかなくなる。目の前で支え合ってきた仲間が消滅する様を見て私ならどう感じるだろうか。


だが、そのことで春隣はるとなり様が今回の犯人になるとは思えない。時間が経ちすぎているのではないだろうか。


「その当時の玄帝げんてい様と神祇官じんぎかんの長はどうなったのですか?」

「能力を剥奪はくだつされ、人間界に降りたのよ。悪しきものを生ませたからねぇ」


竜田姫たつたひめ様はそう話をする。私はその話を聞いて心が痛んだ。


玄帝げんてい様はきっと風読かぜよみに長けていたのだと思う。


人間達に被害が及ぶ前に悪しきものを退治しなければならない。職務を全うしようとしていた。だから神祇官じんぎかんの方も反対しなかったのだろう。


「けれど、春隣はるとなり様の気持ちも分からなくはないですね」


私は素直な気持ちを口にする。


宵闇よいやみ、それは違う。本来なら一緒に組んでいる春隣はるとなりうずらに厳しく言うべきだったのだ。


十分にいやいけで休むようにと。他の者は誰一人悪しきものになっていない。しっかりと休息を取らずにいたうずらが一番悪いが、春隣はるとなりももっとうずらに休むように言うべきだった」


山吹やまぶき様の言葉に思わず心臓が跳ねた。

確かにそうだ。


うずらという人はしっかりといやいけで浄化をさせなかったことが一番の原因だ。


私自身も耳が痛い。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ