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神々の遠い記憶を継ぐ者  作者: まるねこ
第三章 覚悟の先にあるものは

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第五十三話

春の国では帝と神祇官じんぎかんの長が変わったばかりで考えづらい。前任を辞めさせた恨み? 


でもそれにしては恨みの念は浅い気がする。天上界てんじょうかいが無くなってもいいとさえ思う恨みってなんだろう。


基本的に天上人てんじょうじんは神のいやいけで生まれた時から目的を持って行動していることが多いし、神様を恨むことなど考えたこもない人が殆どだと思う。


さっぱり分からないや。実際に会って蒼帝そうてい様や春光はるひかり様は悪しきものを呼び寄せるような感じではなかったように思う。


となれば、夏の国の炎帝えんてい様か炎陽えんよう様、冬の国の玄帝げんてい様か春隣はるとなり様になる。


夏の国の炎陽えんよう様にはお会いしたことがあるけれど、春隣はるとなり様には最初に挨拶をしたきりでゆっくりと話をしたことがない。


春隣はるとなり様はどんな方なのだろう。考えている間に淡い光の玉は浮かばなくなっていた。

そろそろ儀式の準備も終わる頃だろう。


私はいやいけから出て本殿ほんでんへと向かう。


宵闇よいやみ様、お待ちしていました。こちらの祭儀服さいぎふくに御着替え下さい」

千日紅せんにちこうさん、ありがとう」


神祇官じんぎかんの長として神殿に上がるときは服装が決まっているのだが、今日は新たな白帝はくていが決まる日なので特別な祭儀服さいぎふく神事しんじを行う。


私は祭儀服さいぎふくに着替え、改めて本殿ほんでんの中に入る。


本殿ほんでんには神祇官じんぎかんの者以外にあおい様と山吹やまぶき様、そして衛門府えもんふ曼殊沙華まんじゅしゃげ様や太政官だじょうかん竜田姫たつたひめ様などの各部門の長が既に席に着いていた。


あおい様、山吹やまぶき様、お待たせしました」

「問題ない」

「始めようか」


山吹やまぶき様は厳しい表情をしていてあおい様は対照的に柔らかい表情になっている。どちらが次の白帝はくてい様になるのだろう。


私は祝詞のりとを上げ始める。神祇官じんぎかんの者達が笛を吹き、太鼓つづみを鳴らすと、空気が一瞬にして澄んだものになっていく。


その様子を静かに見守っていると、一筋の光りが射しあおい様の髪の色は一筋を残したまま白くなった。


『この者を新しい白帝はくていとする。山吹やまぶき、貴方はアキコクの補佐となりなさい』


ふわりとそう優しい声が聞こえてきた。反対に山吹やまぶき様は一筋だけ赤色を帯びた茶色の髪が入っていた。


「承知致しました」


その場にいる全ての者が頭を下げる。新たな白帝はくていを立てる儀式はすんなりと進んだ。


そのまま人間界の神社でしていた報告と私が不在だった時の千日紅せんにちこうさんがまとめた報告を行う。


このまま問題なく報告が終わろうとした時、先ほどとは違った声がする。


宵闇よいやみしばらくの間、神の寝床ねどこへ。しばらくの間番紅花ばんこうか神祇官じんぎかんの長に戻しなさい』


そう言うと、コロリと報告書の横に白帝はくてい様に渡していたものと同じ念玉ねんだまが現れた。


「承知いたしました」


私はそう答えると、神殿の空気が元に戻った。


神への報告も終え、念玉ねんだまを持ってあおい様と山吹やまぶき様に頭を下げる。


あおい様、山吹やまぶき様おめでとうございます」

宵闇よいやみ、これからよろしくね」

「俺はアキコク様の補佐か。大変だろうな」


山吹やまぶき様は苦笑する。いたずら好きなアキコク様に山吹やまぶき様は手を焼きそうだとふっと笑みが零れた。


宵闇よいやみ、神の寝床ねどこに呼ばれたのだな」

「……そうですね」


神の寝床ねどこと呼ばれる場所がある。


そこはあおい様や山吹やまぶき様が修行を行ったようなほこらとはまた違った深い山奥の中にある場所だ。人間達も入ることが許されていない神域しんいきだ。


そこは神々がよく降り立つという場所で天上人てんじょうじんである私達もその場所を知っているだけで中に入ることができないためどういった場所なのか、どういった目的でそこに存在するのかも謎の場所になっている。


ただ、神々が多く集まる場所ということだけ。少しでも早く四季殿しきでんのあしきものを倒したいと思って、新たな白帝はくてい様と一緒に神事しんじが終わり、各国へ連絡をしたあとすぐに四季殿しきでんへ向かおうとすら思っていたのに。


一体どういうことなのだろう。


宵闇よいやみ、難しいことはないわね。ちぃと神様に呼ばれただけのことさね。すぐに行って帰ってくるだけなんだから問題ないわ」


竜田姫たつたひめ様が良かったじゃないかと笑いながら話している。

確かに神様に直接呼ばれることなど滅多なことではない。


「そうですね。何のために呼ばれたのか分かりませんが、きっと何かの理由があるのだと思います」

宵闇よいやみ、そこまで気を負うことはない」

番紅花ばんこうか様」

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