第五十二話
社には数人の名無し様と葵様、山吹様がその場に居た。名無し様が結界の維持を補助し、山吹様と葵様が話をしているようだった。
「葵様。宵闇、ただいま戻りました」
「宵闇、戻ってこれて良かった」
「……はい。私は白帝様の足手まといになるばかりで自分の弱さを痛感しました。白帝様を助けることができず申し訳ありませんでした」
「宵闇、後悔することはない。白帝様は宵闇が来たことで最後に力を振るうことが出来た。むしろそのおかげで現在は四季殿に出た悪しきものの動きを止めることができている」
「悪しきものの動きを止めている、のですか?」
山吹様の言葉に疑問が浮かんだ。白帝様は悪しきものを封印したのではないの?
「封印ではなく動きを止めたのですか?」
「ああ。封印が失敗すれば悪しきものはそのまま動き始めるが、白帝様が使ったのは消滅させるものだろう。あれは消滅させられなくても相応のダメージは悪しきものに与えることが出来る」
「きっと宵闇の作った念玉のおかげで白帝は全力を出し切れたんだ」
「私の念玉、ですか」
「そうだね。これも宵闇の能力だ。我々は作ることができない。念玉は我々の能力を向上させ、力を底上げしてくれている」
私だけが持つ能力?
体内で封印する能力だけだと思っていた。神様は私の能力を理解し、念玉をくださったのだろうか。
「今は白帝様のおかげで悪しきものは動けずにいるのですか?」
「瘴気が消えていないということはまだそこに悪しきものが存在しているのだろう。実際見てみなければなんとも言えないが、力の大部分が消滅し、動ける状態ではないだろうな」
「動けない間に行って消滅させ、封印すれば四季殿は悪しきものから解放されるのですよね!? すぐに動かないと」
私がそう言うと山吹様が止めに入った。
「宵闇、まだだ。葵はまだ白帝ではないから四季殿に入ることを許されていない。
それに宵闇も怪我をしているだろう? 宵闇の作る念玉が我々には必要だ。群青が相手を瀕死まで追い込んだんだ。
力を取り戻すにはそれ相応の時間や瘴気が必要になる。群青が最後の力を使うほどの瘴気を集めるには数年程度では足りないだろう。落ち着いて今、我々が出来ることをしっかりとやるんだ」
「はい」
山吹様の言葉に私は急ぎたい気持ちで周りが見えていなかったことを自覚する。白帝様は白帝になる前は群青という名だった。
山吹様はその頃から白帝様と仲が良かったと聞いている。悔しいし、やるせない気持ちは私以上だろう。
それでも周りをよく見て優先順位をしっかりと付けている。私が感情に流されやすいのは欠点だ。もっとよく考えないといけない。
「宵闇、焦る気持ちは我々も同じだから。宵闇だけじゃない。僕だって白帝様の無念を晴らしたい。
八年前のあの出来事が再び起こることがないように僕も山吹も祠に入った。けれど、事態は白帝様の死という最悪な状況を生んでしまっている。
白帝様のためにも僕たちは全力で悪しきものに挑まなければならない。それには宵闇、君の力が必要だ。悪しきものを消滅させるために、今はやるべきことをやろう」
「はい!」
「我々は葵が白帝になるために本殿で準備をする。その間に宵闇は癒し池に入り、回復を行うんだ。
その後、宵闇は神々への報告を行ってほしい。報告が終わったら本殿の一室にみんなを集めて話をする」
「分かりました」
短い話だったけれど、漠然と急ぎたいという気持ちだったものが明確にしなければいけないことを理解し、私は癒し池に向かった。
池に向かう最中は厳戒の警備態勢で色々な人達とすれ違ったけれど、癒し池に入っている人はいないようだ。四季殿の周辺に涌いた悪しきもので怪我人が出ていないのだろう。
だけど、時間の問題かもしれない。
池に浸かるとすぐに光の玉がいくつも浮かび上がってきた。やはり自国の癒し池だと治りが早いのだと実感する。春
の国の癒し池で体内に残っている瘴気が取れたように思っていたけれど、まだまだ残っていた。
怖いのは体内に残った瘴気のせいで精神に影響が出てしまうことだと思う。
自分では全く気づかないけれど、こうして瘴気を取り除くとなぜあんなことを考えていたのだろうと感じてしまう。
もしかして闇に堕ちる時はこうして気づかない間に浸食されて気付いたらすでに悪しきものになっていたということもあるのだろうか。悪しきものになっていることにも気づいていないのか。そうだとすればとても悲しいと思う。
ほわり、ほわりと浮かんでくる光の玉を感じながら裏切者を考える。
木札を持つ誰か。
私ではない。
誰だろう?




