第五十一話
「宵闇、不安は迷いを生じさせます。そうならないためにも新しい白帝や神様にしっかりと相談しなさい。神様は宵闇の言葉に応えてくれるでしょう」
「蒼帝様、ありがとうございます。急いで国に戻ります」
「ええ、無理しないように」
私は一礼し、春光様と一緒に社を後にした。春光様の表情は優れない。過去の件から思うところがあるのだろう。
「宵闇様、裏切者が誰か分かりますか?」
「いえ、全く分からないです。春光様は誰か思い浮かぶ方がいらっしゃるのですか?」
「……全くない訳ではありませんが、本当に裏切ったのかも分からないですし、はっきりとはまだ決まったわけではないので……」
「そうなんですね」
「そちらの方は私も少し調べてみるので宵闇様は悪しきものの討伐に全力を注いで下さい」
「分かりました。春光様、お気遣いありがとうございます」
そうして私達は神祇官に到着すると、私が来るのを待っていたように二人の武官が私を見つけ礼を執っている。
「宵闇様、武官が秋の国まで護衛に付きます。どうかご無事で」
「春光様、ありがとうございます」
私はお礼を言って秋の国に向けて発った。
春の国に入る時は力技で入ってきたけれど、出る時は問題なく結界から出ることができた。やはり自分の羽根で飛ぶことが出来るのは嬉しい。
まだ少し痛みはするけれど、一刻も早く自国へと戻りたい。
結界を出て暫く飛んでいるが、まだ瘴気が増えている様子は見られない。やはり白帝様の力が悪しきものに効いているのかもしれない。
「宵闇様、我々はここまでとなります。また何かあればすぐに知らせをお送り下さい」
「ここまで送っていただき、感謝します」
「宵闇様!! 宵闇様が戻られたぞ!」
秋の国の周辺を警備していた武官達が私を見つけ駆け寄ってきた。
秋の国の入口まで送ってくれた武官にお礼を言って結界に触れる。問題なく通れることにホッとする。
……なるべくならもうあの衝撃は受けたくないよね。一人心の中で苦笑する。
「宵闇様、よくぞご無事で」
「ええ、なんとか。羽根が折れて人間界に落ちたんですがこうしてなんとか戻ることができました。すぐに葵様の元へ向かいます」
私は逸る気持ちを抑え、神祇官へと向かった。
「宵闇様、よくぞご無事で」
「宵闇様が戻られたぞ」
やはり秋の国の人達はいつでも悪しきものと対峙できるように帯剣し、歩いている。
「宵闇様、おかえりなさい」
「千日紅さん、今、どのような状況になっていますか?」
「宵闇様が番紅花殿を連れて戻られた後、番紅花殿は癒し池で回復し、今は四季殿の近くに涌いている悪しきものを武官達と討伐中です」
「葵様に動きはありましたか?」
「いえ、山吹様が社に入られたくらいです」
「分かりました」
橋に渡れなくても周辺には瘴気が濃く、悪しきものが涌きだしていた。
「悪しきものの状況や四季殿の状況は入って来ていますか?」
「はい。定期的に神祇官の者と武官達が交代しながら情報を得ています。橋の前に涌いた悪しきものは二十体ほど確認されています。
そのうち六体は秋の国方面あとは七体冬の国。四体は春の国、三体は夏の国に向かい各国の神祇官に連絡し、今は討伐している最中です」
「七体は多いですね。大丈夫でしょうか」
「苦戦しているようですが、各国の結界に阻まれているため協力することができないのです」
「悪しきものは結界をすり抜けているのですか?」
「それが……。何かに誘われるように結界をすり抜けるように移動し、結界に入るらしいのです。結界の外からは抗戦する音は聞こえてきました」
悪しきものは堕ちた天上人なのか?あの大きな悪しきものの力は堕ちた神ではなく複数の天上人のものなのだろうか。
「四季殿の中の方はどうなっているのか分かりますか?」
「橋を渡れませんが、報告によると、四季殿は壊れているものの、悪しきものの存在は確認はできていないようです。ただ、弱い瘴気が出続けているため早々に白帝を立て、四季殿の中を確認しに行くことになっておりました」
「分かりました。千日紅さんはそのまま報告の取りまとめをお願いします。私は葵様のところへ向かいます」
「わかりました」
「宵闇様、ようやく戻られたのです。あまり無理をしては……」
千日紅さんが眉を下げて心配している。その気持ちは痛いほど分かる。きっと私はまた無意識に無理をしているのだろう。
こうして心配してくれる人がいることで気づかされる。
「心配してくれてありがとう。葵様と話をして神様に報告した後、私は癒し池に向かいます」
「わかりました」
私は千日紅さんの報告を受けながら自身の報告書を書いていく。その後、葵様の元へと向かった。




