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神々の遠い記憶を継ぐ者  作者: まるねこ
第一章 神祇官へ
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第五話

「大丈夫か?」

「……番紅花ばんこうか様、申し訳ありません」

「ふむ。瘴気しょうきを取り込むことは問題なさそうだが、封印ふういんをすることが難しいのか。宵闇よいやみ、取り込む量は問題なさそうだがどうだ?」


番紅花ばんこうか様は心配するように聞いてきた。


「そうですね。ある程度、取り込む分に問題はないと思いますが、瘴気しょうきが身体の中に入ると、意識や身体の感覚がゆっくりと蝕まれていくような感じがしました。先日、封印ふういんの玉を作った時は身体が熱くなるのを感じ、気付けば出来ていたんです。今回は上手く出来ませんでした」


もっと別の方法があるのだろうか? 


あの時、悪しきものと戦うように熱が身体を巡る感覚があった。今回は浸食しんしょくされていく感覚だけだった。その違いはなんなのだろうか。


番紅花ばんこうか様、もう一度やってみます」


私はそう言って瘴気しょうきを取り込み始めた。先ほどと少し意識を変えてただ吸うのではなく瘴気しょうきをコントロールしようと試してみる。が、上手くいかない。また跪いた時に番紅花ばんこうか様が瘴気しょうきを取り出した。


「もう一度、やります」

「もう一度」

「もう一度」


私は何度も繰り返していく間に瘴気しょうきを操る手がかりを感じた。番紅花ばんこうか様は何も言わずに付き合ってくれている。そうして何度も繰り返していくうちにようやく瘴気しょうきを少しだが操ることが出来るようになってきた。


一定量の瘴気しょうきなら操ることができるけれど、何も考えず取り込み続けると、身体を蝕んでいくようだ。何度となく試しているうちに徐々にだが操ることが出来るようになってきた。


体内の瘴気しょうきを自在にあやつるようになってくると、今度は封印ふういんをするための練習に入る。これも一筋縄ではいかないみたい。


宵闇よいやみ、取り込んだ瘴気しょうきを排出する練習をさきにしたほうがいい」


番紅花ばんこうか様は気づいたことを口にする。


「はい!」


確かにそうだ。これが出来れば自分一人で訓練が可能になる。

右手から取り込んだから左手から出す。このまま瘴気しょうきを動かすようにするといいのだろうか。瘴気しょうきからの浸食しんしょくを防ぐにはどうしたらいいのだろうかと考えながら瘴気しょうき循環じゅんかんさせてみる。


右手から取り込んだ瘴気しょうきを右手から出そうと試みる。右手からわずかに瘴気しょうきが出てきた。抵抗があってうまく出せない。今度は左手まで瘴気しょうきを持っていくと先ほどよりも簡単に瘴気しょうきは手のひらから出てきた。

番紅花ばんこうか様、出来ました!」

「その調子で続けるぞ。上手くいくようになれば封印ふういんの玉が出来るかもしれん」

「はい!」


私はその後も何度も瘴気しょうきを取り込み、体内で浸食しんしょくされないように上手く循環させ、左手から吐き出す練習をする。その間に周辺の瘴気しょうきは散らされて薄くなってきた。気づけば古ぼけたやしろがあるだけになっていた。


「今回の練習はここまでのようだな。宵闇よいやみ、よく頑張ったな」

番紅花ばんこうか様のおかげです」


私たちは国へ戻った。


番紅花ばんこうか様、おかえりなさい。宵闇よいやみもおかえり」


神祇官じんぎかんやしろの中に入ると、神祇官じんぎかん見習いの人達は優しく声を掛けてくれる。


「ただいま戻りました」

番紅花ばんこうか様との訓練はどうだった?」

封印ふういんの玉はもう作れたの?」


彼らは屈託のない笑顔で声を掛けてくれるが、その期待されているのが分かる分、心苦しく感じてしまう。


「まだ、瘴気しょうきを取り込むことしかできないんです」

「そうだよね!訓練を始めたばかりだもの。大丈夫、大丈夫! 宵闇よいやみ、頑張ってね」

「はい。頑張ります」


私は笑顔で返す。部屋の中に入り、報告を終えた私に番紅花ばんこうか様は口を開いた。


宵闇よいやみ瘴気しょうきを沢山浴びて身体は多く傷ついているから神のいやいけに向かえ」

「私が神のいやいけに入ってもいいのですか?」

「もちろんだ。瘴気しょうきを体内に取り込んだんだ。身体の回復に務めるように」

「承知致しました」


番紅花ばんこうか様はそう言うと、そのまま仕事に戻っていった。私は緊張していたようで疲れや瘴気しょうきに当てられた感覚はなかったけれど、番紅花ばんこうか様が去った後に安堵感あんどかんが生まれ、途端とたんに疲労に襲われ、気が付けばひざを突いていた。


宵闇よいやみ、大丈夫? 一人で神のいやいけに行ける?」

「心配をおかけして申し訳ありません。飛んで行けるので大丈夫です」

「そう。無理しないようにね」

「はい。では行ってまいります」


私は羽根を広げてふわりと神のいやいけに向かった。



この『神のいやいけ』という場所は神の力により、私たち天上人てんじょうじんが生まれる場所であり、死を迎える場所でもある。普段は怪我や瘴気しょうき当たりを癒す場所でもある。天上人てんじょうじんは怪我や病気に強く、ある程度は自分で回復してしまうので滅多めったに訪れることはない。


「思っていたより瘴気しょうきで身体が痛んでいたみたい」

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