第四十九話
飛んでいる最中、やはり瘴気がほんの少しだが降りてきているのが分かる。人間界のありとあらゆるところに悪しきものが涌き出てくるのも時間の問題かもしれない。
早く大元を絶たないと。
そうしているうちに天上界が見えてきた。
ようやく天上界に戻ることができる。嬉しい。そんな考えをしながら近づいてくる天上界にふと疑問が浮かんだ。
……でも、待って?
各国を守護している神様によって今は結界が張られているはずではなかった?
も、もしかしたら、私はこのまま結界とぶつかるのではないだろうか。
どうなるの!?
もしかして結界に弾かれて落ちてしまうのではないのか。
怖い! 助けてっ。
そう思った時、風がふわりと淡い光となって私を包みこみ、そのまま結界に飛び込んだ。
―パリンッ
結界を割り、風は目的を果たしたとばかりに消えていったのだが、勢いよく私は地面に叩きつけられ私は一瞬気が遠くなる。
割れた結界はすぐに修復されていく。
結界が割れた音で周囲を巡回していた武官達がすぐに駆けつけてきた。
「おい、お前!!」
私は地面に叩きつけられた衝撃で傷口が開き、痛みで声が出せないでいると、武官達は私が動けないでいるのに気づいたようで抱き起された。
「大丈夫か!? 宵闇様!?」
私を抱えたのは春の国の武官である雪代様だった。そうか、ここは春の国なのか。
「ゆ、き……様」
「おい、春光様に知らせろ。宵闇様、すぐに癒し池にお連れします」
雪代様は私を抱え上げ、そのまま春の国の癒し池に向かった。
春の国の癒し池は春の国に住む者が使える池だ。他の国の人も使用は出来るが、やはり自国の癒し池に入る方が早く回復する。そのため緊急時以外は他国の者が入ることはない。
私も春の国の癒し池にははじめて訪れたが、造りは秋の国と殆ど同じようだ。
雪代様は私を抱えたままゆっくりと池に浸かる。
「宵闇様、しばらくこのまま我慢して下さい」
「ゆき、しろ様、ごめい、わくをお掛けしてすみま、せん」
「いえ、とんでもない。宵闇様が生きていて本当に良かった」
ゆっくりと私の身体から光の玉が浮かび上がってくる。やはり自国の池とは治る速さが違うのだと実感する。
「雪代様、もう大丈夫です。自分で座ることができます」
雪代様は私の怪我の回復を確認しながらそっと手を放し、癒し池を出た。
羽根が治るまでにはもう少し時間が掛かりそうだ。周りを見ると、瘴気で怪我をした武官達が何人か池に浸かっていた。
私は遠慮がちに頭を下げてじっと回復に努める。
「宵闇様、本来なら春光様がこちらへ向かうことになっていたのですが、手が離せないので回復したら神祇官へ向かって下さい」
「わかりました。こちらこそご迷惑をお掛けして申し訳ないです。羽根が治り次第すぐに向かわせていただきます」
そうは言ってみたものの、羽根の治りよりも気になったのが体内の瘴気だ。体内からの光りが多く浮き上がっている。
やはり瘴気を取り込み過ぎたのだと思う。羽根が治ればすぐに秋の国に戻りたい。
時間は掛かったけれど、ようやく羽根が動かせるまで回復した。国に戻れそう。
私は池から上がり、雪代様の神祇官に向かう。
やはり春の国でも慌ただしく人が行き来している。神祇官に入ると、春光様が檄を飛ばしていた。
「春光様、お久しぶりです」
「!! 宵闇様、お怪我の方はもうよろしいのですか?」
「まだ完全な回復には至っていませんが、飛べる程度には回復したので国に戻らねばなりません」
「宵闇様、今の浮島の現状をお聞きしてもよろしいですか?」
「ええ、もちろん。重要な話も含みますので蒼帝様も一緒に話を聞いてもらうことができますか?」
「問題はないと思います。すぐに向かいましょう」
春光様と共に神祇官を出て急ぎ足で蒼帝様のいる社へと向かった。社の中では数名の名無し様と共に春の国を守る結界に力を使っているようだ。
「蒼帝様、宵闇様が来られました」
雪代様が春光様と蒼帝様に知らせていたのだろう。蒼帝様は小さく頷いた。そして名無し様達が代わりに詠い始める。




