表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
神々の遠い記憶を継ぐ者  作者: まるねこ
第三章 覚悟の先にあるものは

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

45/63

第四十六話

自力で戻りなさいと言われるかもしれないし、許されない場合は力を剥奪はくだつされ、生涯人間の世界で過ごすということも考えられる。


「怪我は数日休めばある程度は塞がりますが、羽根は折れているので飛べるまでに時間がかかるかもしれません。自力で戻れるとすればかなりの月日が経ってしまう。


なるべく早く帰りたいので大きな神社で祝詞のりとをあげる時に一緒に戻れたら戻ります。幸い、この近くには出雲いずも大社おおやしろがありますから、そこへ向かいます


。傷口が塞がるまでしばらくの間ここへ置いてもらえますか?」

「もちろんです。いつまでとは言わず、ずっと滞在されても問題ありません」

「ありがとう」


「まだ傷口から血が滲んでいるようですし、少し休んだ方がいいですね」

「お気遣い感謝します」


神主かんぬしはそう言って年長者の人と本殿ほんでんを後にした。


「神様は何を食べなさるんじゃろうか。麦飯でもよかろうか?」

「いつもお供えしている食事で構わないのではないでしょうか」


二人は会話をしている声が遠くから聞こえてきた。


夜も更け始め、一人になった私は否応なく白帝はくてい様のことを思い出す。


白帝はくてい様はあの時、裏切者がいると言っていた。何故分かったのだろう?


浮島うきしまには木札きふだを持っていないと入ることは出来ない。も、もしかして木札きふだを持つ誰かが悪しきものを呼び出し、四季殿しきでんに送り込んだ?


信じられない、いや、信じたくない。まさか同じ天上人てんじょうじんが裏切っているだなんて思いたくない。


“裏切リ者ハシネバイイノニ”


心がそうささやいた。その瞬間、私は気づいた。私は多くの瘴気しょうきを取り込み、人間界に落ちてきた。少しずつ瘴気しょうきが身体から抜けているとはいえ、瘴気しょうきによって心が浸食しんしょくされはじめているのかもしれない。


……駄目だ。


早く、いやいけに戻らなければ。

浸食しんしょくされていく感覚に恐怖を覚える。どうしよう。悪しきものに堕ちたくない。


私は必死に考えた末、届かないかもしれない。そんな考えが頭を過ったけれど、この神社で神への祈りをあげはじめた。


神への報告と、どうか浮島うきしまのあしきものが封印ふういんされていますように、白帝はくてい様が無事でありますように、と祈りも込める。そうしていなければ不安に押しつぶされそうになるからだ。


すると、ふわりと風が頬を掠めた。


『宵…、出雲いずもの…大社おおやしろ……かいな…』


途切れ途切れで神様からの声が聞こえてきた。


出雲いずも大社おおやしろ(いずものおおやしろ)に向かいなさいということだろう。先ほどまでの不安が神様からの一言で打ち消されていく。きっと私の祝詞のりとも途切れ途切れで送られていたのかもしれない。


けれど、酷く荒れた心がいでいく。良かった。明日、朝一番にここを発っていけば数時間で着くと思う。今はじっくりと傷を塞ぐことに専念しよう。そう思い、私は目を閉じた。


翌朝、早朝に神主かんぬし朝餉あさげを運んできた。


宵闇よいやみ様、お怪我の具合はいかがですか?」

「おかげさまで傷口は大分、塞がってきています。あの、神主かんぬしさん。ここから大社おおやしろまでは遠いですか?」


大社おおやしろまでですか? ここから歩いて一時間程度だと思います。ここの神社から右に一筋隣の道を歩いていけば、大社おおやしろの通りがあるのでそこからは迷わず一本道なのですぐ分かりますよ。もしかしてそのお怪我で歩いて向かわれるつもりですか?」


「ええ、そのつもりです」

「もう少し傷が癒えてからの方がよろしいのではないですか?」

「私もそのつもりだったのですが、神様から出雲いずも大社おおやしろへ向かうように言われているのです」


「……そうなのですね。では、村の者から牛を借りてきますのでお送りします」

「いえ、お気遣いいただかなくても」

「私達は神様や天上人てんじょうじん様達とお会いする機会は殆どなく、天上界てんじょうかいのお話を少しでも聞きたいのです。どうか牛車ぎっしゃの中でお話を聞かせてもらえませんでしょうか?」


「そうでしたか。確かに我々は普段姿をかくししていますからね」


私は悩んだけれど、神主かんぬしさんの言葉を聞いて牛車ぎっしゃで送ってもらうことにした。


神主かんぬしは村人に話をしに行きしばらくすると、牛とその飼い主を連れてやってきた。牛車ぎっしゃと言っても貴族が乗るような立派な車が付いているわけではなく、牛に荷車を付けて歩かせるものだ。


「お待たせしました。では行きましょうか」

「良いのですか?」

「もちろん。彼は今から大社おおやしろの方へ荷物を取りに行く用事があるので私達はそこに乗せてもらので問題はありません」


私は神主かんぬしさんと牛車ぎっしゃに乗ると、ゆっくりと牛は歩き始めた。そして天上界てんじょうかいの事や神界しんかいのことについて聞かれ、人間達が知ってもいいような一般的なことを話す。


普段の祭りにも私達が参加していたり、時折神様が降りられたりすることなどを話すと神主かんぬしさんは『なるほど』と頷いている。流石に荷車は揺れるので筆を執ることは出来ないため、真剣に内容を理解しようとしていた。


話が終わるか、終わらないかというところで私はふと空を見上げた。何気なく見上げただけだったけれど……。


全身に緊張が走った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ