第四十四話
必死で浮島の橋まで辿り着くと、瘴気は更に広がり、悪しきものの形を取ろうとしている。
私は薙刀を振りながら叫び橋を渡っていく。
浮島を渡るとそこには見たこともない大きさの悪しきものが四季殿を囲っている。
薙刀を振り、瘴気が一瞬晴れた隙に歩みを進めようやく宵闇はなりふり構わず白帝の元に駆けつけた。
「白帝様っ!!」
「宵闇、来るな!」
宵闇はなりふり構わず白帝の元に駆けつけた。
「馬鹿者、なぜ来たのです」
「私は、白帝様を、お守りするとあの時から決めているんです」
春の日に柔らかく吹く風があの時のことを思い出し、私は薙刀を握りなおす。
「宵闇……」
虚空と呼ばれる間で立つことが許されていない白帝様は敵からの攻撃で血まみれになりながらも必死に戦っていた。
私も愛用の薙刀を振るい、薙刀で瘴気を吸いながら白帝様の前に立ち、敵と対峙する。
「オ、マエ、ラ、コロ、ス、……くは……たい、だ…」
ぬらりと人型を取っている悪しきものは声を発するまでに成長している。
そして今にも全てを飲み込んでしまいそうなほどの濃い瘴気を纏っていた。黒く濃い霧のような瘴気は私達を取り囲むようにじわりと迫る。
時折り、その瘴気は凝縮し形を変え、細く鋭い形となり、矢のように飛んできては私達を貫こうとしている。
私も応戦するため瘴気に右手を翳し、より多くの瘴気を取り込みはじめた。
「宵闇、止めなさい。それ以上取り込むと動けなくなります」
「例え私が倒れても、白帝様を守れるのであれば構いません」
私は必死になって白帝様の盾になりながら瘴気を取り込むが、瘴気はあまりに濃く、気を抜くと浸食してくる闇に心を持っていかれそうだ。
悪しきものは瘴気を取り込む私に苛立ったようで、纏っている瘴気を棘に変え、私を攻撃し始め、瘴気の棘は私の羽根を傷つけ、顔や身体を切り裂いていく。
必死に瘴気を吸い封印の玉を作っていくが、悪しきものから漏れ出る量を吸いきれない。
が、やるしかない。
ころり、またころりと封印の玉が床へと転がっていく。
「宵闇、よく聞きなさい。私は今から道を作ります。お前は外へ向かい、他の国に知らせなさい。悪しきものを迎え入れた者がいる、と」
私は白帝様の言葉を必死に拒否する。
「嫌です! 白帝様を置いてはいけません。私も最後まで白帝様の側で戦います」
「……今から道を開けます。宵闇しかいないのです。頼みました」
白帝様はそう言うと、聖なる力を乗せた言の葉を口ずさみ、悪しきものに向かって一閃を放った。
すると、悪しきものは右へ避け直撃を免れたが私達を取り囲んでいた黒い瘴気は霧散し、一筋の道が作られた。
「行きなさい。宵闇、頼みましたよ」
白帝様は嫌がる私の身体を包み込むような風が吹いた。「嫌です! 白帝さまぁぁぁ」抵抗むなしく私は風の勢いに乗せられたまま社殿を追い出される。
私が社から出た後すぐに四季殿は光と共に轟音が鳴り響いた。
……ああ、私は無力だ。白帝様をお守りすることができなかった。涙が世界を霞ませる。風が止み、支えてくれた意思が消えていく。
もう、何にも守られていない。
身体が、空に置き去りにされるように落ちていく。
羽根を開こうにも先ほど負った怪我で上手く動かせず、私はそのまま人間界に落ちていった。




