第四話
「宵闇、我々、神祇官の仕事は何か分かるか?」
「神祇官の仕事、ですか?」
私はそう聞かれ、神祇官の仕事を漠然としか理解出来ていないことに気づいた。
「人間界の季節が自分たちの季節になると、風を吹かせたり、雪を降らせたりと人間界へ直接力を行使することができるのは知っているな?」
「はい。私達の能力ですよね」
私は番紅花様の言葉に頷く。
「そうだ。そして神祇官の主な仕事は神への祈りや報告、風読みを担当部署や他国に知らせることや、指示をする役割を担っている」
「他にも衛門府の武官達に付いていき悪しきものの封印を行うこともある。乞ふ四季殿に今入っているのは春の国だ。次に我々が四季殿に入るのは八年後だ。今の時期は私も手が空いているから宵闇を直接指導できる」
「番紅花様、ありがとうございます」
神祇官の長から直接教えてもらえるのは滅多にない。私は感謝し、深々と礼をする。
「いいか宵闇、お前の能力は悪しきものを封印することができるとはいえ、どれくらいのことが出来るのか分からない。それでは白帝様をお守りすることは叶わぬ。悪しきものたちは常に白帝様や世界を混沌の闇へ陥れようと狙っている。宵闇は自分の限界を知り、どう立ちまわれば良いか最善を考えなければならぬ」
「はい」
そうして私は番紅花様に連れてこられた場所は人間たちの住む場所にある山奥のポツンと森の中に建てられた一つの社だった。
人々の記憶から消えていったのだろう。古ぼけて見えるのだが、問題はそこではない。長年忘れ去られた社は瘴気を帯びて見るからに危ない。瘴気が濃くなれば悪しきものが生まれ、住処になる。そうなればこの山は神の祝福と呼ばれる私たちの力が及ばなくなる。
木々は枯れ果て、動物もいない、最後には山も死んでしまう。そうならないためにこうして瘴気が溜まっている場所を探し、定期的に瘴気を散らしているのだ。
この仕事は本来、曼殊沙華様が率いる衛門府の者たちだ。彼らの手に負えないほどの強いものは番紅花様や白帝様が神の力を借りて封印を行う。
白帝様でも力が及ばないほどの悪しきものが極稀にいるのだが、その場合は神自らが赴き悪しきものを消滅させるのだ。余程のことがない限り、神は天上界にも人間界にも姿を現すことはない。
私の能力であれば衛門府でも働けると思うのだけれど、能力に限りのあるもの、少しだけ取り込む程度であればいても邪魔になるだけなのかもしれない。
その点、神祇官は神の力を借り、あしきものを封印する能力がある者が採用される。
私は神の力を借りることができるかどうかも分からないが、封印の能力があるため神祇官見習いとしての採用となった。
「宵闇、この瘴気を吸うことが出来るかやってみてくれ」
「はい」
私はどうすればいいのか分からないけれど、なんとなく瘴気に向かって右手を翳してみた。
すると手のひらの中心が熱くなり、徐々に瘴気を取り込みはじめた。
取り込んだ瘴気は身体を浸食しはじめていく。べたりと纏わり付くような感覚があり、気を抜けば自分が瘴気に飲まれてしまうのではないかと思うほどだった。
どうやったら封印の玉が出来るのだろう?
この間は左手が熱くなり、出てきたと思った。瘴気を取り込むことはできたのに思ったような感覚にならない。
不思議に思いながら何度も瘴気を吸っている間にも瘴気は身体をじわじわと蝕んでいく。苦しくなり、跪いた時、番紅花様が鈴を鳴らし、私の身体から瘴気を取り出していった。