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神々の遠い記憶を継ぐ者  作者: まるねこ
第二章 神祇官の長として

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第三十一話

そうして月日は巡り、とうとう私達秋の国の年になった。


宵闇よいやみ、これから私は四季殿しきでんに入ります。初めてのことで大変だとは思いますが、神祇官じんぎかんの長としての役割、お願いします」


白帝はくてい様……。私、少しでも白帝はくてい様の支えとなるように頑張ります。まだまだ未熟者ですがこちらの方こそよろしくお願い致します」

「では行きましょう」

「はい」


白帝はくてい様は錫杖しゃくじょうを持ち、転移門てんいもんへとゆっくりと歩き出した。この日ばかりは秋の国の天上人てんじょうじんはみな白帝はくてい様をお見送りするため転移門てんいもんの前で立っている。


私は白帝はくてい様の後をついて歩いていく。


白帝はくてい様、いってらっしゃい!」

白帝はくてい様、無理をなさらないようにお願いします」


沢山の人達から声が掛かり、白帝はくてい様は笑顔で返している。

そして転移門てんいもんの前にはあおい様と山吹やまぶき様が立っていた。二人とも頭を下げていた。


あおい山吹やまぶき。あとのことはお願いしますよ」

「「承知いたしました」」


そうして錫杖しゃくじょうをトンッと地面に突き、転移門てんいもんを開けると白帝はくてい様と私は四季殿しきでんへと向かった。


「……ここが、四季殿しきでんなんですね」


転移門てんいもん四季殿しきでんの前に開いた。宙に浮かんでいる小島に建てられたやしろで橋が一つ架けられているだけだ。


やしろの周りには季節の樹木が植えられており、季節をやしろの中で感じることができるようになっている。そしてここは神の領域でもあるため限られた者のみ入ることが許されている。


宵闇よいやみ木札きふだはちゃんと持っていますか?」

「もちろんです。ここに下げています」


私は白帝はくてい様に首に掛けた木札きふだを見せると白帝はくてい様はフッと笑顔になった。


「この中には木札きふだを持つ者しか入れません。木札きふだを持つものは各国の帝と神祇官じんぎかんの長の八人のみ。もし、ここに何かあれば彼らを頼りなさい」

「はい」


白帝はくてい様はそう言うと、橋を渡り始め、私は後を付いていく。橋を渡り始めるとまるで別世界へ踏み込んだような感覚になる。


どこからか心地よい風が吹き、花弁が舞い始めた。それはとても幻想的で立ち止まり、うっとりと眺めていたいほどだった。


「……幻想的でとても素敵ですね」

「ここに来る僅かな喜びです」


ゆっくりと幻想的な風景を眺めながら橋を渡り切ると花弁は止み、また元の景色に戻った。

白帝はくてい様は気にする様子はなく、そのままやしろの中へと向かった。やしろの前では夏の国の神祇官じんぎかんの長である炎陽えんよう様が御辞儀をしている。


炎陽えんよう様は明るくやや赤い髪に烏帽子えぼしを被り、精悍な顔つきの人だ。


「秋の国の白帝はくてい様、お待ちしておりました」

炎帝えんていは無事ですか?」

「ええ」


炎陽えんよう様はそう短く答えた。五年もの間、やしろから出ることが叶わない。風を読み続けなければいけないため、相当な疲労をしているのだろう。


「中へどうぞ」

炎陽えんよう様はそう言うと、白帝はくてい様はやしろの中へと入っていく。


宵闇よいやみは入口にいてください」

「わかりました」


私は白帝はくてい様の言いつけ通りに入口で待つことにした。白帝はくてい様はこれから炎帝えんてい様と風読かぜよみを交代するのだ。この交代の儀式は帝だけが行うため神祇官じんぎかんはこうして入口で待つことになっている。


炎陽えんよう様、五年間お疲れ様でした」

「ああ、宵闇よいやみ神祇官じんぎかんの長としてここへ来るのは初めてだったな」

「はい。あの橋を渡るときにとても綺麗で感動しました」


「そうだな。あれは我々神祇官じんぎかんが入ってきたことを帝に知らせるものだと知っていたか?」

「知らなかったです」


私は炎陽えんよう様と立ち話を始めた。


「帝様方が入られた時は変わらないのですか?」

「そうだ。ずっとここに居られるため知らせても意味はないだろう?俺は聞いただけだが、神が降りる場合は白や金の花弁が舞うらしい」

「凄いですね。過去に神がここに降り立たれたのですね」


「一度だけあったと口伝えで残っているくらいだな」

「神様が降り立つ時ってどんな時なのでしょうか」

「さあな。ただ、各国を守護している四神は天上界てんじょうかいを支えているのは知っているな?」

「はい」


神界しんかいから天上界てんじょうかいに神が降りればそのエネルギーで国全体が不安定になるから余程のことがない限り神は天上界てんじょうかいに降りてこない。


降りられる場合があるとすれば、天上界てんじょうかいの消滅させるほどの何かがあった場合だろうな」


炎陽えんよう様は言い淀む。各国を繋ぐこの場に力を持つ神が降り立つとなればバランスを崩し、天上界てんじょうかいは不安定となり、消えてしまいかねない。


意図を持って降り立つとすれば余程の事態なのかもしれない。


「まあ、そんなことが起こるなんて思いたくはないが」


「そうですね。でも、ここには悪しきものが来ることはないのですか?」

「悪しきものが天上界てんじょうかいに来ることはないだろうな。


人間界に発生した時点で風読かぜよみで位置を特定し、我々や衛門府えもんふの武官達が封印ふういんや散らしているからな。何千年と風読かぜよみがあるが、一度も悪しきものは天上界てんじょうかいまで来たことがない。そうならないためにも我々がしっかりと帝を支えなければな」

「はい!」


私はそう言ったものの少し不安が残っていた。数年前には蒼帝そうてい様や春陽しゅんよう様が降りられることになった事態が起こった。

蒼帝そうてい様や春陽しゅんよう様だって長として長く過ごされていたはずで、蒼帝そうてい様が悪しきものを見落とすだろうか?


あの時は人間が呪術じゅじゅつを行うために悪しきものに落ちた神を国中にばら撒いたのだ。蒼帝そうてい様は何故、悪しきものに気づかなかったのか。今後は起きないとは思いたい。

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