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神々の遠い記憶を継ぐ者  作者: まるねこ
第一章 神祇官へ
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第三話

人間たちには悪しきものが見えていないらしく、扉が開いたことに驚いてはいたが、舞は止まることなく舞い続けている。


幸いなことにこの場に現れた悪しきものはあまり強くないようだ。


神楽かぐらを見学していた天上人てんじょうじんたちは立ち上がり、各々武器を取り出し、悪しきものへ攻撃していく。私は白帝はくてい様に一礼した後、瓶子へいじを置いて薙刀なぎなたを取り出し白帝はくてい様たちの前に立った。


宵闇よいやみ、無理はしないように」

「はい」


白帝はくてい様も曼殊沙華まんじゅしゃげ様も番紅花ばんこうか様様も涼しい顔をしている。

悪しきものはべたりとした瘴気しょうきを道筋に残しながら人間達に向かっていく。


曼殊沙華まんじゅしゃげ様が合図を送ると、観覧していた何十もの天上人てんじょうじんたちが一斉に攻撃をし、悪しきものは動くことができないようだ。


矢を射られ、太刀たちで切られ、能力で足止めを食らっている。これだけの数の攻撃を受けると悪しきものも歯が立たない。能力もない私の出番はないだろうと思った矢先、悪しきものの身体は小さな雫状しずくじょうに弾け、高く飛び上がり、白帝はくてい様にめがけて悪しきものは飛んできた。


白帝はくてい様、危ない!」


私は白帝はくてい様の盾となるように身体を敵に向け薙刀なぎなたで身構えた時、瘴気しょうきに反応するように身体が熱くなり、雫状しずくじょうになった悪しきものの一部が薙刀なぎなたを伝い右手から入っていく。


「えっ!!?」


驚いた私は立ち止まってしまった。

どういうことだろうか。


更に白帝はくてい様に向かおうとしていた悪しきものは私の薙刀なぎなたに吸い寄せられるように集まり、吸収されるように消えていく。


私の右手から入っていった悪しきものがじわりと身体を浸食しんしょくしていくような嫌な感触を感じながら右腕をゆっくりと通っていくのがわかる。


嫌な感覚は体内で徐々《じょじょ》に熱を持ち全ての悪しきものを吸った後、体内の熱は左手へと移動していく。その熱はどんどんと熱くなり、左の腕は耐えきれずに薙刀なぎなたを離した。熱くなった手のひらを見ると、コロンと手のひらから黒い模様もようの玉が落ちた。


「……あっ」


思わず声が出た。自分の身に起こったことが理解できず、動けないでいると、白帝はくてい様が笑顔で私の名を呼んだ。


しんと静まり返る天上人てんじょうじんたち。


神楽かぐらを舞う衣のれる音やしょうの音だけが変わらずに聞こえてくる。


宵闇よいやみ、こちらへ来なさい」

「はい」


私は白帝はくてい様の前に座ると、番紅花ばんこうか様は転がった玉を拾い上げ、確認した後、白帝はくてい様に渡した。


宵闇よいやみ、この玉は何かわかりますか?」

「いえ、わ、わかりません」


「これは悪しきものや瘴気しょうき封印ふういんした時にできる玉です。衛門府えもんふに属する者は力を行使する時に悪しきものを斬り、倒す。その後焼いたり、風で吹き飛ばしたりすることで瘴気しょうきや悪しきものは徐々に分解され、自然に消えていく。そこまでは理解していますね?」

「はい」


「ですが、武官達の力が及ばないほど強力な悪しきものや瘴気しょうきが溢れている場所は物を依り代にして封印ふういんを行います。主に私や番紅花ばんこうか神祇官じんぎかん達が悪しきものに対して行う封印ふういんです。宵闇よいやみは依り代を必要とせずに封印ふういんをできるようですね」


「えっと……。私は悪しきものの封印ふういんができるということなのですか?」

「しっかりと封印ふういんができている」

「これは誰も持っていない宵闇よいやみだけの能力でしょう。きっと宵闇よいやみは秋の国、ひいては天上人てんじょうじんにとって重要なものとなるかもしれませんね」

宵闇よいやみ、能力が分かって良かったな」


番紅花ばんこうか様が優しい声で話す。


「能力無しだと言われ続けていたんだろう」


曼殊沙華まんじゅしゃげ様も酒を飲みながら私に話をする。ずっと能力無しだと思われていたのに、私にも能力があった。能力が分からず、不安や焦りがいつも心にあった。でも、でも、私にも能力がちゃんとあったのだという思いと苦しかった思いが綯交ぜになり溢れだしてくる。


「うっ、うっ。うわーん」


私は曼殊沙華まんじゅしゃげ様の言葉を聞いて声をあげて泣いた。

今までずっと心に押し込めていた思いが、ようやく、ようやく報われたような気がする。


しばらく泣いた後、番紅花ばんこうか様が顔を拭きなさいと手拭てぬぐいを渡してくれた。


宵闇よいやみ、明日から番紅花ばんこうかのところで修行しなさい」


白帝はくてい様が微笑みながら私にそう告げた。


「は、はいっ。私、頑張ります。死に物狂いで、白帝はくてい様に付いていけるように、修行しますっ」


翌日から私は番紅花ばんこうか様の元を訪れることになった。

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