第二十三話
「そんなに驚くことはない。むしろそれだけで済んだのは良かったのだ。四つの国全ての帝と神祇官の長の能力剥奪もありえた」
「そんなっ」
「なに、問題ない。私はもう年だ。今回の事がなくてもあと数年で神祇官の長を降りていた。数年早まっただけだ。だが、これから忙しくなる。宵闇、お前は私の跡を継いで長となるようにこれから手習いを始める」
「私が神祇官の長ですか……? 他の方の方が長くいるし、実力もあると思いますが」
「宵闇、我々神祇官は封印の玉を作ることが出来る者が集められているが、そう簡単に作ることは出来ない。神へ祈り、術式を描き、祝詞を唱えてようやく一つ出来るかどうかだ。
それも個人の技量で封印が失敗することもよくある。宵闇は違うだろう? 神に祈りを捧げることなく封印することが出来る。
きっとお前が祈りを捧げながら作成する封印の玉は誰よりも強力なものになる。実力というのであれば既に私よりも宵闇の方が上だ。それにお前が長となるのは神祇官に務めるの者総意だ」
「……」
番紅花様の話を聞いてぎゅっと握りしめていた手は震える。ずっと能力なしと笑われていた苦い過去を思い出し、疑いたくなる自分がいる。
でも、神祇官に来て様々な人達と話をするようになり、私を信頼してくれる衛門府の武官や神祇官の人達のことを思い浮かべ嬉しさが全身を振るわせる。
まだ神祇官になったばかりの私が長という重責に耐えられるのだろうか。
様々《さまざま》な思いが頭の中を駆け巡っていたけれど、白帝様に仕えたい。その思いが自分の中で一番強いことを感じる。
「……番紅花様、私、頑張ります。番紅花様や神祇官の人達に任せて良かったと思ってもらえるように頑張ります」
「ああ、その意気だ」
番紅花様はふっと笑顔を向けた。
「では早速ですまないが、白帝様に引き継ぐことの挨拶、神々へ神祇官の長の交代を報告しにいく」
「わかりました」
番紅花様の後をついて歩く形で部屋を出て白帝様のいる社へと向かった。
部屋を出るとみんなの視線が飛んでくる。どうやら他の人達には既に私が長になることを知っているようだ。小さく手を振ってくれた草の実さんに私も小さく振り返した。
白帝様のいる社の入口にはいつもは居ない名無し様の姿があり、何かあったのではないかと心配になった。
「白帝様、宵闇を連れて参りました」
社に到着すると、番紅花様がその場で正座をし、頭を下げている。私も同じようにしようとすると、白帝様がくすりと笑い、口を開いた。
「よく来ましたね。番紅花から話は聞きましたか?」
「はい」
「宵闇、社の中へ。番紅花、無理はしないように」
「有難きお言葉」
どうやら番紅花様はそのままの姿勢で待機するようだ。私は番紅花様の姿を見て急激に変わった状況に不安を覚えながら草履を脱ぎ、社の中に入っていく。社の中に入った途端に不思議な感覚を覚えた。
「おや、宵闇は感じるのですね」
「白帝様、ここの社は……?」
「ここの社で秋の国全体に結界を張っています。番紅花の力も落ちましたが、私も随分と落したのでこうして隠の社から手伝いに来てもらっているんです」
その言葉に目を見開いた。
普段私は神祇官でも下っ端なため白帝様の社の中には入ったことがなかったため気づいていなかった。
番紅花様の能力は神様との折衝や封印する能力だったはずだ。番紅花様は能力の剥奪と言っていたことを思い出す。
白帝様は『力が落ちた』と言っていたということはどちらかの能力が使えなくなったのかもしれない。
番紅花様はそのことで神祇官の長を降りられると言っていた。まさか、白帝様も……?
「その顔、残念ながら私は隠居することはないですから安心して下さい。私の力が落ちるのは一時的なもの。数年待てばまた元に戻ります。ああ、番紅花もいずれは力が戻るだろうと思いますが、彼はもう高齢でいつ隠居しようかと考えていたようですからこの機会に隠居をすると言っていたようです」
「よかったっ! 能力を剥奪され、戻るとは聞いていなかったんで安心しました」
私は番紅花様の力が戻ると聞いてほっと胸をなでおろした。
「ですが今、彼の能力はほぼ使うことのできない状況であるため、あまりよいことではない。早急に後を継げるよう宵闇には頑張って貰わねばなりません」
「私、白帝様にも番紅花様にも神様にも一日でも早く認めてもらえるように頑張ります」
私は笑顔で答えたが、白帝様は表情を崩すことはなかった。




