第二十一話
「救援に入る。翠、お前はもう一つの組を手伝い、消滅作業をすぐに終わらせてくれ」
「はい!」
「宵闇、申し訳ないが、瘴気を吸えるか?」
「やります!」
「残りは悪しきものの討伐だ。ではいくぞ」
私達は山吹様の指示で動き始める。何処から瘴気を吸っていけばいいだろうか。
私は手を翳し、名無し様達の邪魔にならない場所から瘴気を吸い始めた。瘴気を吸い始めるところり、また一つころりと封印の玉が反対の手のひらから落ちていく。
この速さで封印の玉が出来るのは瘴気が濃いのだろう。
私が吸っている間にも名無し様達が悪しきものに攻撃をしている。糸瓜さんも水を出し、悪しきものに水鉄砲のように掛けている。
糸瓜さんは浄化の水が出して弱らせているようだ。そうしている間に草の実さんがいた組の封印玉の消滅作業が終わり、糸瓜さんの組に合流した。
葵様は長い錫杖を出し、トンッと床を突き、シャランと音を鳴らすと、一瞬にして空気が変わった。片手で印を取り、呪文を唱え始めると悪しきものの動きが止まった。
「今だ、このまま消滅させるぞ」
山吹様はそう言うと雷撃を打ち、他の人たちもそれに習った。やっぱり葵様は白帝様に継ぐ実力の持ち主だと改めて感動する。
悪しきものの体は千切れ動けずにいるところを糸瓜さんの浄化の水でみるみる縮んでいく。
間髪入れずに他の名無し様も消滅の呪文を唱え始めた。悪しきものを文字が取り囲み、そのまま小さな光の珠になった後、パチンと消え去った。
「無事に消滅させることが出来て良かった」
「葵様、山吹様ありがとうございます。神祇官のお三方もありがとうございました」
「あ、あのっ。私は全然お役にたてなかったし、封印の玉を三つも作って手間を増やしてしまったし……ごめんなさい」
私は素直に封印の玉を拾い上げて謝った。
「宵闇、ありがとう。君が瘴気を吸ってくれたおかげで悪しきものが強くならずに済んだ。封印の玉が一つ、二つ増えたところで何の問題もない」
葵様が優しい笑顔で声を掛けてくれた。
「さあ、まだ玉は残っている。各々自分の持ち場に戻れ」
「「「はい」」」
山吹様の号令でみんな気を引き締めたように先ほどいた場所へと戻った。
「宵闇、先ほどと同じように封印の玉が割れたとき、我々がその場で抑えることが出来ない場合もある。瘴気が漏れ出した時は躊躇わずに吸ってほしい」
「わかりました」
私は先ほどと同じ場所に戻り封印の玉の消滅作業を静かに見守った。いつまた破られるのかと心配になりながら筆を執っていたけれど、問題なく玉の処理は済んでいった。
「……終わったな」
「ご苦労様でした」
私達のいた組が一番はじめに終わり、他の組を待つことになった。
「山吹様、あとの二人のものを一緒に纏めた後、報告書を神祇官へ提出しておきますね」
「感謝する。宵闇、面倒だとは思うが、体内に瘴気を残さぬようこの後神の癒し池に入っておくように」「わかりました」
「……あとの組も終わったようだな」
私達三人は社にこれたことにお礼を言って頭を下げて修練場を後にしようとした。
そうだ。
思い出したように私は糸瓜さん達に声を掛けた。
「糸瓜さん、草の実さん、少し待っていてください」
「ん? いいよ」
名無しさま達は各々片づけに入っている中、私は葵様の元に駆け寄った。
「葵様!」
「宵闇、どうしたんだい?」
「あのっ、これ」
私は葵様の無事を祈りながら組んだ羽織紐を懐から出し、差し出した。
「これを受け取ってください」
「素敵な羽織紐だね。これを僕にくれるの?」
「はい。祠に入れば生きて帰ってこられるかも分からないと聞いています。心配で私に何か出来ることはないかなって考えたんですが、私はお役に立てないので。せめて葵様に身につけられる物を作りました」
葵様は羽織紐を見つめた後、きゅっと握りしめて微笑んだ。
「ありがとう。これを着けて修行に向かうよ。僕も頑張るからその間、宵闇も頑張って白帝を支えて欲しい」「わかりました!頑張ります」
私は葵様に羽織紐をちゃんと渡せたことで安堵し、軽く頭を下げた後、皆の元に戻り隠の社を後にした。




