第ニ話 物語のはじまり
(旧タイトル)神々の理を少しでも読みやすくなるよう見直し、カテゴリ変更も行いました!
私達が住む世界は人間たちが『天上人が住む世界』と言われているところだ。宵闇は天上人と言われているが、神様方とは違う。
天上界は四つの国に別れていて、蒼帝が治める春の国。炎帝が治める夏の国。白帝が治める秋の国。玄帝が治める冬の国がある。
秋の国で生まれた私はこの日も一人訓練に励んでいた。
「おい、宵闇! お前は『能力無し』なんだからあっちに行けよ!」
「やーい能力なし」
「烏羽根のお前は悪しきものなんじゃないのか?」
いつものように同じ年に生まれた人達から私を揶揄う言葉が飛んでくる。私たち天上人は必ず何かの能力を持って生まれてくる。能力に格差はあれど、皆何か一つ持っているのだ。
風を起こしたり、雨を降らせたり、花を咲かせたりと様々な能力があるのだが、宵闇にはそうした能力がなく、周りからは『能力なし』と呼ばれている。
だが、宵闇は馬鹿にされてもめげることなく能力を身につけようと努力し続けていた。
私は神の癒し池から生まれて数年経つが、天上人として生まれたのにも拘わらず、今だ花を咲かせることも風一つ起こすこともできないけれど、見つかっていないだけで私だって何かできるかもしれない。
そう思って毎日勉強や武術の鍛錬も頑張っている。
だけど私の努力は報われない日が続いていたそんなある日のこと。
「なあ、今度人間たちが神事を行うんだってさ。白帝様が俺たちも見に行っていいって言ってくれたんだ。いいだろう?」
珍しくいつも私を馬鹿にしている人達のうちの一人が私に話し掛けてきた。
「わ、たしも行っていいの……?」
「お前は一人留守番だ。能力無しだからな!」
……そうよ、ね。
私は肩を落として訓練場に戻った。みんなは人間界に行けると嬉しそうにはしゃぎ、次々に人間界へと転移していく。
あれだけ騒がしかった社は一気に静まり返っているが、私は薙刀を一心に振り、先ほどの話を聞かなかったかのように練習を始めた。
遠くから玉砂利を踏み鳴る音が聞こえ、その音はだんだんと近づいてくる。振り返ると、そこには白帝様と神祇官の番紅花様がいた。私は慌てて薙刀を下ろし、礼をする。
「宵闇よ、お前は人間たちの行う神事を見に行かぬのか?」
番紅花様が表情を変えることなく私に問う。
「えっと、私は、能力無しだから人間の神事に参加してはいけないと言われて……」
私は能力なしの自分が恥ずかしくなり、俯いて最後まで言えずに黙ってしまった。
それを見た二人は目を合わせた後、こちらを向いて番紅花様が私に告げた。
「私たちはみな神の癒し池から生まれた。神は必ず能力を与えている。心配せずとも宵闇には能力がある。神事に参加しても問題ない」
私はその言葉に嬉しくなったけれど、思い出してまた肩を落とした。先ほど人間界へ行く門が閉じられたため、私一人では人間界にいけないのだ。
「でも、人間界に行くための転移門は既に閉じられていて向かうことができません」
私だって行きたかった。
でも、もう行けない。
すると、白帝様は微笑みながら告げた。
「では私たちと共に向かいましょう。私と番紅花は最後だからね。宵闇、覚えておきなさい。きっと宵闇はこの国の要になる。私はそう信じていますよ」
優しい言葉に涙が出そうになるのを堪えた。
「宵闇、こちらへ」
番紅花様の声で私は二人の元へ駆け寄る。番紅花様が持っていた背丈ほどの長い錫杖で地面を突くと人間界へ行く門が現れた。私は白帝様と番紅花様の後に付いて転移門に入った。
門を潜ると、そこは神社の入口だった。晴天の元で神事が行われており、巫女が舞い、感謝を伝える舞を舞っていた。
初めての人間世界。みんなが言っていたとおりだ。神殿は神気に溢れ、心地よく、光が射している。
今日は天気がいいこともあり、社殿の外に舞台が儲けられ神事は外で行われているようだ。
「うわぁ。凄い」
天上人は人間よりも小さく、普段は姿を消しているため人間たちには私たちの姿は見えない。先に来ていた天上人たちは楽しそうに舞台を囲むようにして座っており、舞いを舞う巫女を眺めている。
巫女の舞が終わると、笙の音が響き、笙に合わせて笛や鼓も奏で始める。次は獅子神楽を舞っている。
白帝様は舞台が一番見える場所に座り、舞台を見はじめた。番紅花様はさっと傘を差し、白帝様に影を作っている。私は二人の後ろに立つことにした。
白帝様も番紅花様も武術に優れた方なので護衛のように立っていても私では何の役にも立たないが。
「宵闇、ここに座って酌をしなさい」
「はいっ」
私は白帝様の横に移動し、お酒の入っている瓶子を白帝様から受け取り、盃に酒を注ぐ。
そのうちに衛門府の長である曼殊沙華様がそっと私たちの後ろに立った。白帝様の護衛に就いているのだろう。
私は緊張しながら白帝様にお酒を注ぎ、神楽にも目を配る。人間たちが神への祈りを込めて舞う神楽は私たちにとってとても心地よい。その感謝の念が神に届いたり、神楽で場が清められたりすることで、神が降臨する場合もある。悪しきものも清められた場所を汚そうと現れることもあるのだという。
白帝様は心地よい祈りの力で上機嫌になり、曼殊沙華様を座らせて酒を酌み交わし始めた。
神楽がちょうど佳境に入ろうというところで神社の入り口から大きな音と共に扉が開かれると、悪しきものが粘度の高い瘴気を引き摺り入ってきた。