第十八話
「これからも頑張ります!」
「いいぞ、いいぞ!」
「白帝様は討伐が落ち着いたとおっしゃった。今宵は酒盛りだ!」
「おお! 早く治さねばな」
「先日陸奥の方で酒が奉納された分が残っているはずだ。あれを開けようではないか」
「先に酒盛りを始めているかもしれん。我々も急がねばな」
武官達の表情は明るくなり、治療が終わった者から次々と池を出て行った。私は思いのほか重傷だったようで未だ池から出ることができない。
「宵闇、白帝様に声を掛けてもらって良かったね」
「はい。これからも白帝様や葵様達の役に立てるように頑張ります。葵様は治療が終わったら他の名無し様達と酒盛りをするのですか?」
「いや、それはしないだろう。神祇官達が作った封印玉の封印を解いて消滅させる仕事が残っているからね」
「そうなんですね」
名無し様達は休む暇などないのだろう。名無し様達のおかげで人間や私達の世界が安定しているのだと思えば本当に感謝しかない。
「そういえば葵様、今回の討伐で神降ろしをされたのですか?」
「いや、神降ろしをしたのは白帝だけだよ。残念ながら僕達はまだ力不足だから呼ぶことは出来ないんだ」
「力、不足、ですか? 毎日悪しきものと対峙している葵様でも神降ろしは難しだなんて」
「今回の討伐でも感じたけれど、まだまだ僕も修行が足りない。封印玉の処理が終わったら天津の祠へ行こうと思っているんだ」
天津の祠!?
私は驚きのあまり目を見開いた。天津の祠は神が宿る山々の奥深くに存在し、神々も修行場として訪れることがあるほどの場所だと聞いている。
とても厳しい修行場で命を落すこともあるらしい。生きて戻る保障などない。そして一度入れば祠から出てくるのは数年後なのだ。
修行を終えた誰もが満身創痍の状態で出てくる。並大抵の覚悟では天津の祠に入ることは出来ないと言われているのだ。
「天津の祠は大変危険な修行場ではないのですか。なぜ?」
「今回の討伐で痛感したんだ。僕はまだまだ力が足りない。白帝になるために必要なことだと思っている」
「ですが、今の白帝様も天津の祠では修行をしていないはずです。葵様、危険すぎます。心配です」
「ありがとう。僕を心配してくれるのは宵闇だけだ。それに嫌な予感がするんだ。今よりも強敵が現れるかもしれない。強力な悪しきものが現れたら我々は全滅してしまう。そうならないためにも、だよ」
「ですが、なにも葵様が行かなくても……」
「もし、白帝が何かあった時、跡を継げるのは山吹か僕しかいない。山吹も修行に入ると言っていた。僕も負けていられないからね」
心配する私を優しく宥めるように葵様は話をする。
「葵様が修行に入られている間、私も、頑張ります!」
「無理しないんだよ」
「はい!」
私はちょうど治療も終わり、葵様に挨拶をして神の癒し池を後にする。葵様は封印の玉の処理が終わればすぐに修行に入られるのだろう。
私が葵様に何か出来ることがあるかな。そんなことを考えながら神祇官へと戻った。
「宵闇、おかえり」
「番紅花様! ただいま戻りました」
番紅花様は少し疲れている感じがする。
「番紅花様、顔色が優れないようですが大丈夫ですか?」
「問題ない」
番紅花様はそれ以上追及されるのをよしとしない雰囲気で短く返事をした。
「宵闇、戻ってきてすぐのところ申し訳ないが、会議に入る」
「はい」
私はすぐに奥の部屋に向かうと、既に七人の職員が座っていた。私は口を開くことなく一番下座に座り、番紅花様がゆっくりと上座に座ると番紅花様の補佐である千日紅様が進行役として口を開いた。
「さて、皆さん集まりましたね。この度の悪しきものの討伐はお疲れ様でした。春の国の蒼帝様から『この度の救援に応じて下さり感謝します』と言の葉が来ておりました。
そして神祇官の方から詳細が送られてきました。今回の同時多発的に涌いた悪しきものについては一部の人間が関与していたようです」
「どういうことだ!? 何故人間たちは自分で自分の首を絞めていたのか」
千日紅様の言葉にどよめきが起こったが「静粛に」と言われ、一旦口を噤む。




