第十四話
「宵闇、今だ」
「はい!」
二つに別れた悪しきものは体を元に戻そうと周辺の瘴気を取り込み始めだした。
私はそれを阻止するように火影様の前に出て悪しきものの体に向けて手を翳し、吸収しはじめる。
……熱い。
やはり瘴気だけ取り込むのと強い悪しきものを取り込むのとは違う。悪しきものは切られ動けなくなっていても封印玉になることを全力で拒否していて吸い込むのにいつもより集中力が必要だ。
私が頑張らないと、また悪しきものが復活してしまう。
吸引する出力を上げていく。悪しきものの抵抗は予想以上に強く、手が震えだし、片手では支えきれず、もう片方の手で支える。
悪しきものは大きな唸り声をあげ、最後の抵抗をするように残りの手で私を掴もうとした時、火影様が腕を斬り落とした。
すると悪しきものは悲鳴にも似た不快な音を立てながら吸収されていき、私の体を通ってごろりと五センチ程の黒い斑模様の封印玉が手から一つ地面へと落ちた。
過去に悪しきものと対峙することは何度かあったけれど、こんなに強い瘴気や形を取っている悪しきものに遭ったことがなかったので緊張し、不安もあった。
完全とは言えない封印玉の作成で悩んでいたこともあったけれど、ちゃんと悪しきものを封印することが出来てほっと一息をつく。
「火影様、ありがとうございます」
「終わったな。宵闇がいるおかげだ。残った瘴気を片づける」
「はい!」
私は濃い瘴気を取り込み始めた。悪しきものの周辺にある瘴気は今だ濃いため封印の玉が作れるようだ。
火影様は剣に炎を纏わせ、演舞のように立ち回り瘴気を燃やしている。
少し離れると封印の玉は出来ず、拡散するだけになってしまった。
「宵闇、この辺りはもういいだろう。封印玉をちゃんと持っているか? 一度衛門府に戻るぞ」
「はい」
封印玉を拾い、巾着に入れていく。
作られた封印の玉は以前に作られた物を思い返してもどれ一つとっても同じものはないようだ。
大きさや模様が違っている。これは強さや大きさが影響しているのかもしれない。
それにしてもやはり火影様は強い。あれほどの敵も、私達を取り巻く瘴気もほとんど一人で退治してしまった。
私達は元来た道を戻り、転移門で国に戻っていく。
「火影様、宵闇、おかえりなさい!大丈夫だった?」
「火影様のおかげで封印が出来ました!」
私は衛門府の受付に出来た封印玉を渡すと、受付の人は目を丸くし、驚いているようだった。
「こんなにも出来たの? 凄いじゃない。神祇官でも封印の玉は一個、二個しか出来ないんだから」
「宵闇、すぐに神の癒し池に向かうんだ」
「火影様、私は大丈夫です」
私はそう言ってみたが、火影様は少し怒っているようだ。
「まだ他の場所にも向かわねばならない。それだけ瘴気を体内に取り込めばお前自身にも浸食の影響が出る。体内の瘴気を全て取り除き、体力を回復させてくるんだ」
「そうだよ。宵闇は自分の中のことだから見えていないかもしれないけど、私にも宵闇が瘴気を纏っているのが見えるもん」
「瘴気を、纏っている……?」
「ああ、無理をしたのだろう。他の者より耐性があるとはいえ、我らにも見えるほどだ。さあ、行ってこい」
「はい」
自分では気づかなかったが、瘴気を纏っていることを知り、ショックを受けながら神の癒し池に向かった。癒し池に向かうと、大勢の人たちが池に使って怪我を治している。
それだけ悪しきものが涌いているのだと実感する。
私は『失礼します』とそっと池の端に足をつけ、池に入った。




