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神々の遠い記憶を継ぐ者  作者: まるねこ
第一章 神祇官へ

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第十二話

神祇官じんぎかんは各省のやしろの中でも南側に位置しているが、太政官だじょうかんは中央の本殿ほんでんに近い場所にある。


太政官だじょうかん現在竜田姫たつたひめが長をしており、その下に数名の部下がいて季節が巡る時の準備を忙しくこなしている。


神祇官じんぎかんから来ました。宵闇よいやみです。書類を届けにきました」

「ああ、書類かい。こっちの棚に置いておいて。ついでに番紅花ばんこうかにこれを持っていっておくれ」

「分かりました」


竜田姫たつたひめは部下に指示を出し、一枚の手紙を宵闇よいやみに渡す。審議内容の書類のようだ。


「ああ、宵闇よいやみ。審議内容ではないのだが、先日こちらに報告書を上げにきた武官の一人から西の方で農作業をしている人間たちから葉の生育不良が目立ちはじめていて不安が出ていると聞いたわ。もしかしたら悪しきものが生まれるかもしれないわねぇ」

番紅花ばんこうか様に報告しておきます」

「頼んだわ」


悪しきものが影響を及ぼしているのなら早めに対処しなくてはいけなくなるだろう。私は書類を抱え、すぐに神祇官じんぎかんへと戻っていった。


宵闇よいやみ、おかえり。どうしたんだ?」


神祇官じんぎかんに戻ると、番紅花ばんこうか様がちょうど本殿ほんでんから戻ってきたところだった。番紅花ばんこうか様は私を見るなり何か気づいたようだ。


「先ほど太政官だじょうかんへ書類を渡しにいったのですが、竜田姫たつたひめ様から西の方で植物の生育不良が目立ち始めており、人間たちは不安がっていると聞いたそうです」


「そうか。まだ春隣はるとなりからは何もきていないが、そのうちこちらにも詳しいことがくるだろう。知らせがくればすぐに対応できるようにしておく」

「はい」

宵闇よいやみ、明日は少しやってもらうことがあるから今日はもう帰っていいぞ」

「わかりました。明日も宜しくお願いします。ではお先に失礼します」

宵闇よいやみ、また明日」


番紅花ばんこうか様の言葉で私は荷物を持ち、他の人たちと挨拶をしてから神祇官じんぎかんを後にする。


いつも夜遅くまで訓練と勉強をして寝に帰るだけの家に今日は少し早い時間に心がおどる。


私の家は小さな木造の家だ。天上人てんじょうじんは酒も食事も趣味として摂取するが、食事を摂らなくてもなんら問題ない。


折角早く帰ってきたんだからたまには羽織紐はおりひも《はおりひも》でも作ろうかな。


私は思い立ち、いくつもの引き出しが付いた小物入れから一つの翡翠みどり《ひすい》を取り出し、削り始める。


人間界に降りた時に拾ってくる石を集めてこうして少しずつ時間を掛けて玉にし、穴を開け、装飾品を一から作っていく。滑らかな手触りにうっとりと笑みが浮かんでしまう。


誰かにあげるものでもないため、自分の納得のいくものを作りたい。集中していくつかの翡翠みどり《ひすい》の玉ができた。


「今日はここまでかな……」


集中している間に外はすっかりとばりが降りたようだ。私は布団へ入り眠りについた。



翌日もいつもと変わらず神祇官じんぎかんへと向かった。


宵闇よいやみ、待っていたわ!」

「そんなに慌ててどうしたのですか?」


私を見つけると、すぐに受付の人が声を掛けてきた。


「悪しきものが各地でき始めたの。番紅花ばんこうか様や名無ななし様をはじめ、各国の衛門府えもんふ神祇官じんぎかんからも人が出て対応中なの。


私はここで各所の連絡と取っているんだけど、人が足りないみたい。場合によっては白帝はくてい様と番紅花ばんこうか様が神降かみおろしの儀式を行うことになっているの」

「えっ。大丈夫なのですか?」


「残念ながら状況は良くないのかもしれない。本来なら新人の宵闇よいやみはここで待機していなきゃだめだけど、そうも言っていられないみたい。番紅花ばんこうか様からの指示で宵闇よいやみ衛門府えもんふの誰かと組んで東の朝生あそうの森に向かって」

「わかりました」


私は詳しい話を聞く前に急いで衛門府えもんふに向かった。


一体どうなっているんだろう?


名無ななし様が駆り出されるほどの悪しきものが各地にいているなんて。何かが起ころうとしているのかな。


宵闇よいやみ衛門府えもんふの方の力を借りにきました」


衛門府えもんふでも殆どの者が出ていて残っている人達も慌ただしく動いている。


「ああ、宵闇よいやみか。封印ふういんが出来る者が来てくれて助かる」

火影ほかげ様、番紅花ばんこうか様から『衛門府えもんふの方と東の朝生あそうの森に向かうように』と言われてきました」


「……朝生あそうの森か。あそこに向かえる者は限られる。俺が出るとする」

火影ほかげ様、ありがとうございます」

「準備は出来ているか?」

「はい。いつでも行けます」

「では行こう」


私は火影ほかげ様の後ろに付いていく形で歩いていく。火影ほかげ様はいつもよりも増して厳しい表情をしている。転移門てんいもんまでの道すがら火影ほかげ様に気になることを聞いてみた。


火影ほかげ様、昨日までは何も起きていなかったのに今朝、神祇官じんぎかんに出てみれば各地で悪しきものがいていると報告がありました。何か悪いことが起ころうとしているのでしょうか」


「わからん。報告に上がってきただけでも数百はくだらない。各国も慌ただしく動いていて今は何も言えんが、そのうち分かるのかもな。俺達がやることはただ一つだ」


そう言ったところで転移門てんいもんをくぐり、私達は東の朝生あそうの森に転移した。


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