第十話
癒し池には既に何人かの名無し様が入っていたようだ。
「宵闇、衛門府より許可を受け、癒し池に着ました」
「宵闇、入りなさい」
萌黄の名無し様が応えた。私はゆっくりと池の端に入る。
「宵闇、封印の玉を作ることができたと聞いたよ」
葵の名無し様が笑顔で話しかけてきた。
「はい! 葵の名無し様、今日、悪しきものが鯉柄山の祠に出現していて初めて一人で悪しきものと戦ったんです。でも、私の薙刀では全く傷つけることが出来なくて、結局、応援に来てくれた火影様が倒したんですけどね」
私は今日の出来事を葵の名無し様や他の名無し様に話をする。
「宵闇は頑張っているんだね。でも君が作る封印の玉のおかげで僕たちも頑張れる」
私の封印の玉のおかげ?
意味が理解が出来ずにいると、蓬の名無し様が話してくれた。
「宵闇、私達は常日頃、白帝になるため修行しているのは知っているな。神祇官が封印した悪しきものは隠の社に集められるのだ。そして私達が封印を解き、悪しきものを消滅させる作業を行っている」
「封印を解いて悪しきものを消滅させるのですか」
「そうだよ。今回は強かったからこうして僕達数人掛かりで完全消滅させたんだ」
……知らなかった。
衛門府の武官達では倒せない時に神祇官や白帝様が悪しきものを封印する。それを隠の社で封印を解いて悪しきものを消滅させていたようだ。
普段、衛門府の武官達は悪しきものを倒しているのだが、厳密に言えば悪しきものは瘴気と同じで消滅はしていない。様々な手法で霧散させているという感じに近いだろうか。倒して瘴気が集まらないように処理をする。だが完全な消滅ではない。極端に言えば濃い瘴気の中に倒した悪しきものを放置していれば元通りに復活してしまうのだ。
白帝様や名無し様は悪しきものを完全に消滅させることができる。封印の玉は動けなくなった悪しきものを玉に閉じ込めているが、完全な死ではないため、相手も封印が解かれた時に必死に抵抗するのだろう。
「衛門府の武官が攻撃し、散らすことしかできないのに消滅させるのは凄いとしか言いようがありません」
「そんなことはないよ。武官達が弱らせてくれているおかげで僕達は消滅させることが出来る。今回は少しばかり強くてみんなでこの池に来ることになってしまったけどね」
葵の名無し様は苦笑いをしながら話す。
「先ほど宵闇が封印した玉が衛門府より送られてきたから今頃、別の者が消滅させているでしょう。封印が出来る者は少なく、難しいのです。宵闇のおかげで私たちは沢山修練を積むことができてとても助かります」
萌黄の名無し様が優しくゆったりとした口調でそう話してくれた。
「わ、私。皆様のお役に、立てているんですね。もっと、もっとお役に立てるように、頑張ります!」
「宵闇、無理しないでね」「はい!」
私の傷は深く無かったのですぐに回復し、癒し池から出た。私よりも先に来ていた名無し様達はまだ回復ができていない。どれだけ深い傷を負っていたんだろう。少し心配になりながらも名無し様達に礼をして神祇官の部屋へと戻っていった。