第十一話
しばしの休養を取った後、私は番紅花様から呼ばれた。
「宵闇、薙刀を見せてみろ」
私はその指示通りに薙刀を取り出し、番紅花様に手渡すと、番紅花様は薙刀の刃をじっと見つめた後、告げた。
「これでは悪しきものを葬ることは出来ないな。やはり修行が必要だ。それと山査子のところへ行って武器を研いで貰うんだ」
「分かりました」
私達が使う武器や防具は生まれた時から持っている物で、自分自身の成長と共に武器や防具も成長していくのだが、ごくまれに武器や防具が悪しきものとの戦いで欠けたり、折れたりする場合がある。そんな時には細工所へ行き、修理をしてもらう。修理をしてもらっている間は仮の装備品を貸し出される。
先ほど番紅花様が言っていた山査子様というのは武器を強化する能力を持っている。悪しきものを討伐する武官達は山査子様に武器を強化してもらい、討伐に出ているのだ。
私は衛門府から少し離れた場所にある細工所へと足を運んだ。ここは鍛治や道具、器具などの職人がいる場所になっている。職人達は一人ひとり工房を持ち、各部署からの依頼を受けている。
「山査子様、いらっしゃいますか?」
「お主が宵闇かの。番紅花様から連絡があった。どれ、早速薙刀を見せておくれ」
「は、はい」
山査子様は体が大きく、武官にも引けをとらないほどだろう。刀一振りで消し去られそうなほどの威圧感もあるが、話し方はとても柔和で職人気質のような気難しさは見られない。
「宵闇は封印の玉を一人で作れるのじゃったな。これから名無し様達も大忙しじゃろう」
「まだ自分ではよくわからなくて……。それに私一人では悪しきものを弱らせることも出来ないんです」
「ふむ。だからここへ呼ばれたのじゃな」
私は薙刀を取り出すと、山査子様は刀身の部分を眺めた後、砥石を出し、研ぎ始めた。
刀身をお神酒と祝詞をあげながら研いでいくと刀身はみるみるうちに淡い光が宿った。
「す、凄いっ。自分の薙刀ではないみたい」
「これはこの薙刀が持つ本来の強さじゃ。ある程度の瘴気なら跳ね返すじゃろう。お前さんももっと成長できるんじゃろう。またここに研ぎにくるんじゃぞ?」
「は、はいっ!」
嬉しい。自分の薙刀がここまで成長している。私もこの薙刀に似合うほどの実力を付けていかないと折角研いでもらったのに申し訳ない。
私は興奮しながら衛門府の訓練場に向かった。
「宵闇、待っていたぞ」
「火影様、遅くなりました」
「薙刀の訓練はあっちだ。急げ」
「はい!」
訓練場には沢山の武官が訓練を始めていた。私も急いでその中に入り、薙刀を振り始める。
「宵闇、もっと腰を下ろせ! 動きが遅いぞ!」
「はいっ」
指導者達の檄が飛ぶ。先に訓練を始めていた武官たちは既に汗を掻いている。
私は他の武官に付いていくだけでも精一杯な状態ですぐに息が上がる。
「宵闇! 遅い」
「はい!」
今までは一人で黙々と練習してきたけれど、やはり武官達と行う訓練は違った。
私の他にも神祇官の人達が数名いることに気づく。
後で聞いた話だが、神祇官の人達も時間が合えば武官と一緒に訓練を行うことになっているようだ。
悪しきものの封印時に反撃に合うかもしれないし、武官達だけでは攻撃を防げないほどの強敵ということも考えられるからだ。悪しきものと対峙するのに何があるかわからない。最低限、自分の身は自分で守らなければならないためこうして訓練に参加する。
訓練を終え、神祇官の官衙(かんが・今でいう官庁)へ戻ると、先ほど一緒に訓練をしていた人達も既に戻っていた。
「宵闇、遅かったわね。はい、これ。玄帝様から現世の風読みよ。太政官へ持っていってちょうだい」
「わかりました」
私は書類を受け取り、太政官へと向かった。




