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アスタナ、侵攻(ダンジョンマスターモノです)  作者: サムライソード
第一章
8/14

第八話

「さて、掲示板だけど、ボノボ!なんか適当に打ってみてよ」


俺は掲示板に目を落とす。


396: ダンジョンマスター(灼熱の坩堝)

だから、俺に出資しろって言ってるわけ。わかる?頭沸いてんのか?


397:ダンジョンマスター(薔薇と血棺)

話にならない。百年棺桶で熟成してから、出直してこい。


398:ダンジョンマスター(森賢人の猪口)

ワシからもナッシングじゃ。もともと相性悪い。


399:ダンジョンマスター(灼熱の坩堝)

は?リターンが気に食わないなら最初から手ェ挙げんな。


400:ダンジョンマスター(覇高の水瓶)

おいおい、カザン君。こんなとこでなにをしてるんだい?僕が融資したDP、早く返しなさいよ。


401:ダンジョンマスター(灼熱の坩堝)

嫌だから待ってくれって、言ってるだろ!今、追加融資もらってDPまた稼ぐから。


402:ダンジョンマスター(雨蜘蛛の巣窟)

美味しそうな匂いがする(ペロリ)。カザン君、あっしとダンジョンバトル…しない?


403:ダンジョンマスター(覇高の水瓶)

させないよ。


404:ダンジョンマスター(雨蜘蛛の巣窟)

ひぃー!怖い怖い。蜘蛛の子散らしてスタコラサッサ。


405:ダンジョンマスター(竜眠の箱舟)

まとめまーす!ダンジョンマスター(灼熱の坩堝)への融資を行うかどうか!私からはナッシング。0DPです。


406:ダンジョンマスター(薔薇と血棺)

0DP。


407:ダンジョンマスター(森賢人の猪口)

ワシも0DP。


408:ダンジョンマスター(幻獣の玄園)

リターンが少なすぎや。0DP。


409:ダンジョンマスター(灼熱の坩堝)

お前ら、新参者いじめて楽しいか?



「ボノボ!早く何か打ち込んでみてよ!」


「いや、なんか今すごい空気だぞ」


「よろしくお願いしますでいいんだよ!ほらほら!」



410:ダンジョンマスター(わくわく・デスダンジョン・パーク)

よろしくお願いします。


411:ダンジョンマスター(竜眠の箱舟)

…なんか凄いのきたね。



「恥ずかしい!名前の設定ってどうやるんだ?」


「ちょっと!ボノボが変なこと言ってるからキューブが勘違いしたんだよ」



412:ダンジョンマスター(灼熱の坩堝)

このふざけた名前は確か…。こいつホントに月ランキングトップ10までいきやがった!


413:ダンジョンマスター(薔薇と血棺)

これはこれは、待っていたぞ。わくわく・デスダンジョン・パークのダンジョンマスター…でいいのか

?ちなみに名前はキューブに命じたら変えられるぞ。


「キューブ!名前の変更だ!名前はえーっと…」


「狂霊の死体袋!」


「そ、それだ!」



狂霊の死体袋にダンジョン名を変更しました。



413:ダンジョンマスター(狂霊の死体袋)

名前変えた。よろしく頼む。


414:ダンジョンマスター(幻獣の玄園)

…。


415:ダンジョンマスター(森賢人の猪口)

…。


416:ダンジョンマスター(雨蜘蛛の巣窟)

…。



「なんかすごい静まり返っちゃった!」


「ボノボ!こいつら人見知りなのかな?」



417:ダンジョンマスター(竜眠の箱舟)

皆静まり返ってどうしたの?


418:ダンジョンマスター(森賢人の猪口)

相変わらずお主は…。ランキング見てこい…。



「ランキングがあるみたいだぞ!」


「キューブ!よくわからんがランキングだ!」


月間召喚DPランキングを表示します。


1位 竜眠の箱舟 1138900DP


2位 薔薇と血棺 405000DP


3位 幻獣の玄園 379732DP


4位 覇高の水瓶 325900DP


5位 森賢人の猪口 293080DP


6位 雨蜘蛛の巣窟 252010DP


7位 灼熱の坩堝  219000DP


8位 蜜牢の花弁 180453DP


9位 草原とグラスホッパー 139021DP


10位 狂霊の死体袋 100850DP




「クロノス!なんか10位になってる!」


「よくわかんないけどやったぁ!」



419:ダンジョンマスター(竜眠の箱舟)

これは…。


420:ダンジョンマスター(薔薇と血棺)

君たち、挨拶を無視するのは失礼だろう。狂霊の死体袋だな。よろしく頼むよ。


421:ダンジョンマスター(狂霊の死体袋)

よろしくお願いします。ちなみに皆さん好きな食べ物ってなんですか?


422:ダンジョンマスター(覇高の水瓶)

…。


スレッドの勢いが止まる。


「やっちゃった!」


「おい、ボノボ!下手くそか!」


「しょうがないだろ!こういうのやったことないんだから!」



423:ダンジョンマスター(薔薇と血棺)

好きな食べ物は弱いころから熟成させた強い人間だ。さて、期待のルーキーには少々教えてもらいたいことがあるのだが、いいかな?



ランキング2位の薔薇と血棺が話しかけてくれている。


「この人良い人だな!」


「おいおい、顔も見たことないんだぞボノボ」



424:ダンジョンマスター(狂霊の死体袋)

何でしょう?お答えできる範囲でしたらお答えします。


425:ダンジョンマスター(薔薇と血棺)

君の異常な戦力の増加からみて君のダンジョンの属はアンデッドか竜のどちらかだと予想してみたんだが、アンデッド、で間違いないかな?



顔も見たことのないダンジョンマスターはいきなり俺たちのダンジョンの情報を言い当てた。クロノスが警戒する。


「おい、こいつらにあんまり情報あたえないほうがいいんじゃないか?」


「俺もそう思うがこれ名前的にバレてないか?」


「しまった!」



426:ダンジョンマスター(薔薇と血棺)

おっと、警戒しないでくれ。属くらいは皆打ち明けてる。属すら知らないと何かと不便だからね。ちなみに僕のダンジョンはアンデッド。他は、竜、魔獣、水、森、火、虫といったところかな。


427:ダンジョンマスター(狂霊の死体袋)

アンデッドです。ちなみに少し空気が悪い気がするのは気のせいでしょうか。


428:ダンジョンマスター(森賢人の猪口)

気のせいではなかろう。皆、お主を見定めておるのじゃ。天才か大馬鹿ものかをな。その様子だと薔薇と血棺の子分ダンジョンでもなさそうじゃし。



やはり、雰囲気が悪いらしい。天才か大馬鹿かを見定めている。俺はその言葉を聞いてピンとくるものがあった。


「サル処刑スタイルだ…」


「え?なんで急に僕の発明品が出てくるんだ?」


「いきなり100000DPも戦力を持っているのを怪しまれているんだ。前に言っただろ?人間皆殺しにすれば、さらに強い人間が出てくる。それを続ければダンジョンは成長するけどすぐに潰れるって。こいつらは俺たちがそのタイプのダンジョンかを見てるんだ」



428:ダンジョンマスター(森賢人の猪口)

一か月というと、村人を4週間かけて殺しつくした頃合いか。


近くに村が三つあるとすると480人の村人。360人を女子供老人だとすると120×400DP=48000DP。360×200DP=72000DP。しめて120000DP。



戦力に100000DP割いて、ダンジョンの拡張に10000DP、権限の拡張に10000DPといったところか。ほれ図星じゃろ。480人がお前が殺した数じゃ。



「なんかこいつ知ったかぶってるよ!」


俺は悩む。大馬鹿なふりをしてこいつらに侮らせるのか。正直に言って舐められないようにするのか。こういう時は…。



429:ダンジョンマスター(狂霊の死体袋)

あまり内情をペラペラ喋りたくないから、今まで殺した人間の数だけ言う。140人だ。ただし、その内訳は村人120人、冒険者20人だ。



合計で70000DPは多分殺した。撃退も含めると獲得したDPは90000DP位になるんじゃないだろうか。足りない30000DPは、ゾンビやデッドスカルなどなど企業秘密だ。



430:ダンジョンマスター(森賢人の猪口)

冒険者とは…。まさかたった一か月で冒険者を呼べるほどのダンジョンを造ったというのか?それに計算が合わん。殺した人間のDPは合計で74000DPしかない。


ということは侵入者をすべて殺さず、ある程度は逃がしていたということ。それでも明らかにDPは足らん。嘘をついておるか、真実だとすれば異常な何かが起こっておるな。


431:ダンジョンマスター(灼熱の坩堝)

いや、あり得ないだろ。一日に何人ダンジョンに来てるんだ。侵入者を半分逃がすとして、月に280人だぞ。誕生して一月でそんなに人を集めるなんて物理的に不可能だ。村の男は想定でも120人しかいないんだぞ!この男は必ず来たやつを殺しまくってる。


432:ダンジョンマスター(森賢人の猪口)

村の男が二回以上来れば可能じゃな。後は女子供も通えるダンジョンを作れば理論上は可能じゃ。



まぁ、実際に月の三週目からサル処刑スタイルになって村人は女子供も来た奴全員ぶっ殺したんだがな。


多分ブナ村の男は全員がダンジョンに潜っている。カイトも来てたんだろうか。


冒険者はここ最近三日間で一日約12人で18人殺してる。アシェリーはポイントになってないので無効だ。


つまりだ。ダンジョンマスター(灼熱の坩堝)を訂正するならこういうことになる。


村人はダンジョンができて一週間ほどでピークになり、あとは減少していった。月平均の侵入者数は280ではなく、220人くらいの侵入者。村の男は約120人来て50人近くがリピーター、女子供少々、36人が冒険者だ。それも24日でな。別に1月の死者数とは言ってないからセーフだ。


280人もの村の男が来たわけではなく、男は複数回来て、ついでに言うなら女子供と冒険者も少し来た。これが答えだ。そして当然のようにジェノサイドは行われている。ジェノサイドは決して悪い戦術ではない。むしろ必要だと俺は考える。問題なのはタイミングを間違えられないということだ。


しかし森賢人さんは女子供の存在まで見抜くとはなかなか鋭そうだ。俺の中で森賢人というと、オランウータンが思い浮かぶんだが、まさかな。



433:ダンジョンマスター(灼熱の坩堝)

一度、ダンジョンに来たやつがそんな大勢リピーターになってたまるか!ましてや、女子供がくるなんて論外だ!こいつは、120人来た村の男をそのまま全員殺している。取り逃がした奴もいただろうが、村まで制圧しにいったんだろう!そのままの勢いで運よく冒険者たちも殺したんだろうな。74000DPしかないのは、こいつが過少に死者数を言っただけのことだ。本当はもっと大勢殺している。いや、今殺してる最中なのかもな。



434:ダンジョンマスター(森賢人の猪口)

それでお主はどうするんじゃ。


435:ダンジョンマスター(覇高の水瓶)

おい、バカなことは考えるなよ。カザン。


436:ダンジョンマスター(灼熱の坩堝)

俺はこいつ、狂霊の死体袋にダンジョンバトルを申し込む!



キューブがピコンと通知する。


ダンジョンマスター(灼熱の坩堝)より、ダンジョンバトルの申し出を受けました。申し出を受けますか?


YES/NO


クロノスが慌てる。


「わわわ!チュートリアル、チュートリアル。ええっと?」


「ダンジョンマスターは他のダンジョンマスターにダンジョンバトルを挑むことができる。ダンジョンバトルを宣言した一月後、お互いのダンジョンの入り口をつなげてモンスターを侵攻させ合う。相手のボスモンスターを倒したダンジョンマスターは相手ダンジョンマスターからそのすべてを奪う」


「って、ボノボ。よくそんなに覚えてるね」


「死に物狂いで読んだからな。それにこれは俺が魔王となるために必要だと前々から頭の隅に置いていたんだ」


「っていうことは?」


「この勝負、もちろん受ける!いいよな?」


「当たり前だ!魔神と魔王を舐めたダンジョンマスターには分からせてあげないとね…!」


「キューブ!イエスだ!」


≪ダンジョンバトルの申し出が受け入れられました。【狂霊の死体袋】対【灼熱の坩堝】のバトルは一か月後に行われます。全ダンジョンは当該ダンジョンに二か月間、ダンジョンバトルを申し込むことはできません≫


437:ダンジョンマスター(覇高の水瓶)

僕の許可なしによくもやってくれたな。


438:ダンジョンマスター(薔薇と血棺)

まさか本当に受けてしまうとは…。これはぜひとも話したくなった。あとでDMを送るからそこで直接話し合おう。では。


439:ダンジョンマスター(灼熱の坩堝)

馬鹿が!本当に受けやがった!俺には覇高の水瓶から得た【裏チュートリアル】がある!さらにお前の属はアンデッド!その弱点が俺様のダンジョンの火属性だ!一か月後を楽しみにしてるぞ。精々街の兵隊に潰されるなよな!



なんかこいつからジャイアニズムを感じるな。映画だけ良い奴だったりしないかな。


俺は適当に書き込む。


440:ダンジョンマスター(狂霊の死体袋)

爪に火を灯したお馬鹿さんへ、そのケツに火をつけてやるから覚悟しとけ。


441:ダンジョンマスター(雨蜘蛛の巣窟)

wwww


442:ダンジョンマスター(灼熱の坩堝)

てめーーー


薔薇と血棺からダイレクトメッセージの申し出を受け取りました。申し出を受けますか?


YES/NO


「イエスだ!」


ブンと音を立てて映像が投射された。


いきなり、目の前に黒い肌の男が現れる。DMってホログラムなんだ。


「うわっ!」「うお!」


クロノスと俺がひっくり返る。


男はまじまじとクロノスを見るといった。


「リリスがダンジョンを造ったのか。それはアンデッドで統一するよな。驚かせてすまない。僕は薔薇と血棺の主のヴェルフィアだ。見ての通りヴァンパイアロードだ」


見ての通りと言われても、上品なスーツを着たサングラスをかけた坊主の黒人にしか見えない。フェードが決まっていて見た目は完全にマフィアだ。


クロノスが慄く。


「ヴァンパイアロード(10000DP)!」


「そんなに驚かなくても大抵のダンジョンマスターはキング、クイーン、ロードだよ。自力で10000DP集めてダンジョンを造ったんだから強いに決まってる」


さらっと新事実だが本当なのか?クロノスをちらりと見るが心当たりはないようだ。間抜けづらをしている。


「フン!僕の名前は魔神クロノス!」


「そっちのサルはペットかな」


「ペットじゃない。俺がダンジョンマスターの【魔王】築地慎吾だ」


「は?」


「だから、俺がダンジョンマスターだ」


ヴェルフィアは信じられないものを見るような目で俺を見ると、クロノスに言った。


「おたくのペット、頭大丈夫か?自分のことをダンジョンマスターとか言ってるぞ?」


「ペットじゃない!こいつは僕の一番の配下、ボノボの慎吾だ!」


よかった。ペットとは思われてなかったようだ。それにしても、一番の配下と言われると少し嬉しいな。


「ボノボ...?確かサルの仲間だったよな。なぜボノボがダンジョンマスターだと言ってるんだ?」


「それはなーーー」


クロノスが今までの経緯を話した。


「はっはっはっ!これは面白い。確かに500DPでも引けるガチャがあったな。そこでサルを引き、さらにダンジョンマスターを乗っ取られるとは...」


ヴェルフィアはひとしきり笑うと俺の顔を見た。


「異世界のサル、いや失礼。異世界の人間が特別な力を持っていたり、何かに特化した知識を持って国を作ったりするのは見たことがある」


ヴェルフィアはちらりとリリスを見た。


「リリス(5500DP)が、しかも500DPから始めて、一月で100000DPの戦力を獲得したというわけか」


まじか、リリスってそんなに強いのか。そういえば、こいつ初対面の時いきなり殺しに来てたよな。下手したらあの時死んでたんじゃないか?


「だーかーら、僕は魔神クロノスだ」


「…鏡見たことあるか?どっからどうみても、君はリリスだぞ」


クロノスが俺に依頼する。


「ボノボ!鏡だせ!鏡!」


「…別にいいけど。いまさら何言ってるんだ?」


鏡(1DP)を召喚します


20720DP


クロノスは俺から鏡をひったくると、鏡の中の自分を見て、固まって動かなかった。早くヴェルフィアとの話し合いを進めたいんだが…。俺はこういう時にどうすればいいか知っていた。猫だましだ。


「ほら、クロノス。お客さんの前だぞ。起きろ!」


パチッと強めに叩くとクロノスの意識が戻った。クロノスの唇がわななく。


「お、おっお」


「おっお?」


「女の子になってるぅぅぅぅぅぅぅぅ!」


そういうと、クロノスは慌てふためいた。一人であーでもないこーでもないと言っているクロノスを宥めて、話を聞くように促す。


「クロノス、すまんが、それは後回しにしよう」


クロノスは萎びて素直に従う。


「う、うん」


ヴェルフィアはこちらの様子を伺いながら、話を続けようとする。


「…もういいか?」


「すまない、続けてくれ」


「ありがとう。えっと、君たちのことをもっと教えて欲しい。君たちはどんな手を使って最大手ダンジョンである僕たちに並ぶ月間召喚DPを得たんだ?」


「俺たちのは今まで獲得した全ての戦力が月間の獲得DPとして表示されている。あんたらはモンスターの補充をしているだけだろ」


「それでも十分誇れることだ。もう100年近くダンジョンマスターをしているが、こんなダンジョンは見たことがない」


「俺たちがどうやってダンジョンをここまで大きくしたかはアンデッドのあんたなら分かると思うが、死体の有効活用をして、村の住人を生かさず殺さずにしただけだ」


「へぇ…やっぱりね。その様子だとむやみやたらに人を殺したわけではないようだな。生かさず殺さずか。簡単に言うけど、それは僕が80年かけて気づいたことだ。恥ずかしながら、僕は最初の半年で周囲の村を全滅させてね。僕のダンジョンの周りに誰も住みつかなくなったんだ。そこから人が戻るまで50年近くかかったよ」


「ということは本腰入れてやったのは50年近くか?」


「一気に大きくなったのは1年前くらいかな。それまでは50位くらいを低迷してた。ランキングは100年間しっかりみてるよ。竜眠の箱舟は僕がダンジョン作ってた頃から1位だったね。他にどんな手を使ったんだい?」


「俺が今、出せる情報はここまでだ。少なくとも俺たちはジェノサイドを繰り返して強くなったダンジョンじゃない。一度ジェノサイドはしたが、計算の内だ」


「おいおい、1か月で1回村人を殺戮してるのか、そうなると上手くやっても2か月以内には町の兵隊が来るよ」


「言っただろ。計算の内だ。俺の見立てでは1か月後、ダンジョンバトルの直前に兵隊が来る」


「その見立てが正しいとして、君は街の兵隊を舐め過ぎだ。街の兵隊は1人3000DP。人口1万人の街に300人の兵隊がいるとして、その半分の150人が来るとする。最低でも450000DPの戦力が必要だ。1か月で4.5倍に戦力を増やせるあてはあるのかな?」


街の戦力は序列一位ことズアイガニちゃんが調査済みだ


「街の人口1万人に800人の冒険者(1300DP)、4000人(400DP)の街の男がいる。街の周りにダンジョンは3つ。本来なら人口比からいって侵入者の80%が街の男で、20%が冒険者だが、1度ジェノサイドをしたことにより、今やダンジョンに訪れる100%の侵入者が冒険者になっている。さらに1日12人だった冒険者を1日20人まで増やすプランもある。1日20000DP稼げるとしたら、30日で600000DPだ」


「モンスターの補充は?撃退した冒険者が1人1300DPを持って帰るとすると大体400000DPの支出があるはずだ」


どうする。どこまで話すべきか。


「とある方法で戦力を倍にすることができる。今ダンジョンには100000DPの戦力があるから、得た利益200000DPを倍にして、それで500000DPだ」


「ゾンビ錬金術かな。僕も使っていたよ。方向性が違うからやめたけどね。しかし、1日20人も偏狭な村のはずれにやってくるとは思えない。君のダンジョンが街のすぐそばにあるとしたら、話は別だが」


ゾンビ錬金術は敢えて含めていない。そして、ここはこいつから一定の信用をとっておきたい。このカードも切る。


「ダンジョンから東に1日歩いたところに街がある。その街とダンジョンの間にある村を冒険者の村に改造中だ」


「へぇー…。冒険者の村か…街の兵隊は?」


「町の兵隊は見立てが外れる可能性もあるから来たらラッキーとして考えよう」


ヴェルフィアは考え込む。ヴェルフィアが顔を上げた。


「街の兵隊を来たらラッキーと捉えるか。面白い。それに、ここまで状況をコントロールしているダンジョンマスターは初めて見た。1日に20人も来るとはにわかに考え難いが、君には融資をする価値がある。特に村を冒険者の中継地点にするとは考えたね」


よっし!内心ガッツポーズをする。クロノスが今まで聞いていたのか聞いていなかったのか分からない顔で言う。


「融資?それって借金だよね?別に要らないよ!」


「待て待て待て!」


「え?何?話聞いてる限り要らないでしょ?」


「…このリリスはどうやらわかっていないようだね」


俺はクロノスに伝える。


「いいか?俺たちにはダンジョンバトルっていうでかいイベントがある。それに負けたらすべてを奪われるんだぞ」


「でも、500000DPも戦力を得られるんだろ?さらに町の兵隊倒したらDPも追加で貰えるからいらないんじゃない?」


「確かに500000DP得られるかもしれない。でも俺たちのダンジョンはまだ出来て1か月だけだ。向こうはほぼ確実に俺たちよりもDPを稼いでいる。それに俺たちには貯蓄がない」 


「そっか!向こうはDPを貯めてる可能性があるし、冒険者じゃなくて街の兵隊とかをターゲットにしていっぱいDPを稼いでるかもしれないのか。ってなると融資でその差を埋めないといけないってことか!」


「いいのかい?そこまで言っちゃって」


「いい。融資するってことは、俺たちがダンジョンバトルに負けたら困るっていうことだ。となるとそっちも情報をくれる、はずだよな?」


「…いいだろう。こっちも貯蓄がないことくらいは予想してるよ。相手のダンジョンはカエサル帝国の帝都のすぐ近くにある。軍人たちの修練場としての利用が多いね」


カエサル帝国、ズアイが手に入れた地図によると国二つ分離れている。


「大体半年前くらいに掲示板に現れたんだけど、不運なことにすぐ覇高の水瓶に目をつけられて、ダンジョンバトルでコテンパンにされてたよ。その結果覇高の水瓶の子分になった」


「なるほどな。つまりこれは薔薇と血棺と覇高の水瓶の代理戦争っていうわけだ」


ヴェルフィアは満足げにうなずく。


「そういうことだ。覇高の水瓶は同時期にランキング上位になった存在で、僕のダンジョンと近いんだ。ずっと目の上のたんこぶのような存在だったから、これはチャンスなんだよ」


ということは覇高の水瓶は最低1年ほど貯蓄してるわけか。これは悩むな。おっと、ここでキューブからズアイの情報が送られてきた。ふむふむ、そんな感じか。


「おっと、何を読んでいるんだ?灼熱の坩堝の情報ならまだあるが…」


「すまない、続けてくれ」


「灼熱の坩堝は中堅ダンジョンで1日3人来ればいいほうだ。メインターゲットは街の兵隊だけど、完全に訓練場扱いされてるね。来た兵隊の3割くらいしか殺せてないようだ」


「あんたのダンジョンとはメインターゲットが違うようだな。あんたのところは高位冒険者か」


「…その情報をどこで?」


「優秀なズアイガニからだ」


ヴェルフィアは一瞬固まるが、鼻で笑った。


「フンッ!何か言いたいようだね。ちなみに今君たちに提示できる融資は100000DPだ。それを踏まえて発言したまえ」


「あんたのダンジョンはプルル王国のすぐ近く。覇高の水瓶は漁港にあるようだな」


「それがどうした?」


「俺たちの一番近くの王国もプルル王国だ。俺たちのうわさもあらかじめ知ってたんじゃないか?」


「ああ。知っていたよ」


「本当は俺たちにダンジョンバトルを仕掛けたかったのはあんたじゃないのか?灼熱の坩堝に先を越されただけで。俺たちアンデッドはシナジーがある。ダンジョンバトルで得られるメリットは少なくないはずだ」


「ほう」


ヴェルフィアは否定も肯定もしない。


「それか、あんたの考えだと、灼熱の坩堝を俺たちに倒された後、そのまま覇高の水瓶にダンジョンバトルを仕掛けるつもりだろうが、その次は俺たちにダンジョンバトルを仕掛けるつもりなんじゃないのか?覇高の水瓶が目障りなら、同じ属の近くにあるダンジョンはもっと目障りなはずだ」


「それを言ってどうするんだい?僕が機嫌を損ねて融資をやめるとは考えなかったのかい?君たちは言ってしまえば崖っぷちだよ。新興ダンジョンに融資するダンジョンは僕くらいだ。他のダンジョンから融資を受けるには信用が足りなさすぎる」


「逆だ。融資額を上げろと言ってるんだ。あんたの懐事情は大体計算できる。500000DP。それで俺たちに証明しろ。あんたのうちと仲良くやっていくという意思を」


ヴェルフィアはフーとため息を吐いた。やれやれといった様子で告げる。


「共存か、対立か。僕らにはそのどちらかしかない。まったく僕は元々平和主義者なんだ。確かに目障りになる前に潰そうと思ったことはあるが、融資してあげる一番の理由は同じアンデッドのよしみだよ。僕たちは共存できる。アンデッドモンスターの派遣は同じ死属性じゃないとあまり好まれない。逆に言えば、協力し合えるのは僕たちだけなんだよ」


「それで?」


ここで強気の態度を崩さない。クロノスが若干ぐらついているのを手で押さえる。


「…分かった。ただし僕からも条件がある」


「なんだ?」


「500000DPの3割をダンジョンバトル終了時に利息として払うこと。ダンジョンバトル終了後、500000DPは12分割して月ごとに返すこと。月々約42000DPだね。そして最後に、僕からの追加融資はもうないと思ってくれ。モンスターの派遣も含めてね。実際僕もギリギリだし、覇高の水瓶とDPの吊り上げ勝負とかはしたくない。500000DP。これで灼熱の坩堝に勝ってくれ」


「分かった。取引成立だ」


握手をしようとしたが、お互いにすかる。そういえばホログラムだったな。


「ちなみに、DPを返さないとか馬鹿なことはしないようにね。竜眠の箱舟が不届き者には制裁を下すから。あと、【裏チュートリアル】だけど、知ってるかな?」


「1、2、3、4、9、10なら知っている」


「さすが、ボノボの慎吾君は優秀だね」


俺の頭の中でおさるのジョージ君は優秀だね、と変換された。おそらく悪意はないのだろう。


「13以降の情報はさすがに教えられないから5、6、7、8を教えよう」


「いいのか?」


「まあ僕からDPを借りた特典だと思ってくれ。いくよ」


俺はそれをメモしていった。


【裏チュートリアル5】モンスターが突然変異する。突然変異の可能回数が3回に増える

【裏チュートリアル6】2属の突然変異を成功させる。突然変異の可能回数が5回に増える

【裏チュートリアル7】突然変異を3回する。突然変異率が10%増加する

【裏チュートリアル8】突然変異を5回する。突然変異率が10%増加する



「突然変異はうちでは扱えないな。別のダンジョンを経営するときに参考にしようかボノボ」


「…いや、これって…」


俺はもしかしたら新しいチートを見つけたかも知れない。クロノスに尋ねる。


「なあ、クロノス。突然変異ってどうやってやるんだ?」


「なんだいボノボ?モンスターを特定の環境で大量に召喚するんだよ。うちのダンジョンは闇属性だけど、アンデッド属のモンスターは基本死属性で固定だから突然変異しなかったんだよ」

「いや、ちょっと待て、闇属性って初耳なんだが…」


いや、しょうがない。林先生が驚く初耳学は置いといて、後でクロノスから聞こう。今はとりあえず500000DPだ。



狂霊の死体袋に500000DPを譲渡しますか?


YES/NO



「イエスだ」



薔薇と血棺から500000DPの譲渡を受けますか?


YES/NO


「イエス」


520270DP


「さて、これで君は500000DPを手に入れたわけだけど、どうやって使うつもりだい?」


「なにって自明だろ」


「…?」


「…そうか。ヴェルフィアのダンジョンはヴァンパイア(5000DP)が主力だから、【裏チュートリアル3】を利用してないのか。ゾンビ錬金術よりチートなのに」


「…確かに僕のダンジョンは【裏チュートリアル3】を利用していない。【裏チュートリアル3】は雨蜘蛛の巣窟から50000DPで教えてもらった」


うお。裏チュートリアルは1個50000DPもするのか。ていうことは200000DPただでくれたようなもんか。あながち共存したいというのは嘘じゃないかも。しかも聞いたところによると雨蜘蛛の巣窟に詐欺られてるし。じゃあうちの最大のチートを教えてやるか。知ったところで対策できないからなこれは。


「実はな、ドクロ道っていうのがあってだな…」


俺はヴェルフィアにドクロ道の真髄を伝えた。


「ちょっと待ってくれ。それだと500000DPがあればどんな1DPのモンスターでも5000DPに早変わりじゃないか!だから500000DPにこだわっていたんだな」


「まあ実際にはキューブ一つにつき1DPのモンスター1種族までだけどな。じゃないと工場がパンクしてしまう。ヴェルフィアは1DPのモンスターを召喚するっていう発想がなかったんだな。ヴェルフィアも500000DP残ってるならやってみたらどうだ」


「生憎だけど遠慮しておくよ。まだまだ君の知らない【裏チュートリアル】があるからね。君がドクロ道を教えてくれたことだし、一つヒントをあげよう。50000DP。それがヒントだ。君がダンジョンを根本から見直す時に役立つだろう」


どうやらまだ俺たちが知らないチートを上位勢は持っているらしい。俺はそのヒントとズアイの情報だけでヴェルフィアが何を言いたいのかは大体わかった。


「さて、じゃあ500000DPリターンしてそれはどうやって使うんだい?」


「100000DPは権限の拡張レベル2に使う」

「いいね。レベル2によって得られるものはキューブにある通り、【裏チュートリアル】の解放と傘下システムの解放、等々だ」


ヴェルフィアは満足そうにうなずく。


「残り400000DPはーーー」


俺は400000DPの使い道を言った。ヴェルフィアはそれを聞いて青筋をたてた。クロノスがそれを見てビビっている。


「君、ふざけてるのかい?」


「ボノボ…。僕もそれ初めて聞いたよ。今はふざける時じゃないよ」


「俺は大真面目だ。俺は世界一のダンジョンマスターになるために動いている。そこにふざける要素なんて1ミリもない」


「君さぁ、今までの話なんだったの?」


「俺は自分にできることを話しただけだ。融資の使い道については話していない」


ヴェルフィアは深くため息を吐いた。


「話を聞いている限り貸したDPはまともにダンジョンバトルに使ってくれると思ったんだけどね。どうやらとんでもない男にDPを貸してしまったようだ」


「まあ見とけって。ここから一年で俺は魔王にのし上がる」


ヴェルフィアはその後俺に対するいやみをぶつぶつと吐いて去って行った。クロノスは何かを考えこんでいるようだった。


「ボノボ、僕は甘い考えをしていた。僕は存在するだけで偉いんだから、何もしなくても魔神クロノスでいられると思っていた」


俺は驚きのあまり開いた口を抑える。こいつそんな甘い考えでいたのか。


「でも、ボノボのさっきの話を聞いて僕は心を改めた。魔神クロノスでいるためには努力しないといけない」


俺はクロノスが真剣に何かを伝えたがっていることを察知すると、静かに話を聞いた。


「リリスだからなんだ。女の子だからなんだ。僕は僕だ。僕は僕で居るためにこれから最大限の努力をする!ボノボ!いや!慎吾!ついてきてくれるかい?」


俺はその時、初めてクロノスの一番の配下としてこいつを支えたいと思った。


「もちろんだ!これからさらにこき使っていくから覚悟しろよ?」


「うん!頑張る!」


ジェニファー二世がちょこんと揺れる。その後俺たちはラッスンゴレライをして、お互いの絆を確かめ合った。


クロノス「ラッスンゴレライ!ラッスンゴレライ!」フォー!×2


クロノス「ラッスンゴレライ説明してね」


俺「いや、ちょと待ってちょと待ってお兄さん。ラッスンゴレライってなんですの?説明しろと言われても意味わからんからできませ~ん」


クロノス「ラッスンゴレライ!ラッスンゴレライ!」フォー!×2


クロノス「楽しい南国、ラッスンゴレライ」


俺「いや、ちょと待ってちょと待ってお兄さん。ラッスンゴレライってリゾートなん?でも南国言うてもいろいろあるよ、バリ、グアム、ハワイどれですの?」


クロノス「ラッスンゴレライ!ラッスンゴレライ!」フォー!


クロノス「キャビア、フォアグラ、トリュフ、スパイダーフラッシュローリングサンダー!」


俺「いや、ちょちょちょちょっとまて!お兄さん!ちょーと、おにーさん。そこはラッスンゴレライゆーてーなー。意味わからんからやめて言うたけど、もうラッスンを待ってまっせー!」


クロノス「スパイダーフラッシュローリングサンダー!スパイダーフラ、痛って」


クロノスがスパイダーフラッシュローリングサンダー!を詠唱中に舌を噛んだようだ。


「おい、クロノス、大丈夫か?」


クロノスが舌をべっと出す。


「ひがええあいあなー(血が出てないかなー)」


俺はクロノスのあごに手をやり、赤い舌をじっくり見る。


「血は出てないみたいだぞ」


「そうか、ならよかった。でもなんで急にスパイダーフラッシュローリングサンダーになるんだ?」


「分からん。でもそこが面白いんじゃないか」


「そっかー。サルのお笑いって難しいね」


ねー。とクロノスと言っているとラッスンゴレライの練習に熱中してしまっていたことに気づいた。いけない、いけない、やるべきことは山のようにあるのに。


「クロノス、こき使うといったが、これから月の半分は一人でこの狂霊の死体袋を経営してもらうことになる。キューブの権限も権限拡張して共同経営者を正式に指定可能になったからよろしくな」


「ええ!いきなり?僕できるかなぁ?」


「お前は既に俺の知識を受け継いでいる。大丈夫だ。しかもそれだけじゃない。これから魔物の知識をフル活用しないといけない。ありったけの知識を紙に書いてまとめてくれ」


「モンスター全部なんて一か月じゃとても書ききれないよ!」


「俺が指定した種族や属を中心にまとめてくれ。最悪ジャンル分け出来たら良い。それにこれからやることによってその負担は変わってくる」


「これからやることって?」


「追加融資を募る」


「それってまた借金が増えるってこと?やだなー」


「まぁ、借金自体は増えないさ。早速融資を募ろう」


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