表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
アスタナ、侵攻(ダンジョンマスターモノです)  作者: サムライソード
第一章
7/14

第七話

side 村の男 カイト


近くにダンジョンができてから一か月近く経った。


村の男たちは相変わらずダンジョン通いに精を出している。最初は村に蔓延していた病から村を救うため、男たちは立ち上がった。


最初の二週間は大勢のものが死んだ。でも俺たちは恐れなかった。戦って死んだ者は英霊として祭られるが、病に伏して死んだ者は家族に迷惑をかけてみじめに死んでいくだけだからだ。


戦って得られたポイントは家族を病から救った。ポイントを生きて持って帰った男は勇者扱いされ、さらにダンジョンを潜るようになった。


愛するものを救い、勇者と称えられるために俺もろくな武器なんかなかったが死に物狂いでダンジョンに潜った。それから生きて帰れたのは奇跡だと今でも思う。だが、最近になって何かが狂っていくような嫌な予感が俺の頭にこびりつくようになった。


ダンジョンで男たちを失った家は、食い扶持がないため、女子供がダンジョンに行くようになった。俺が一番やべぇと思ったのは、その女子供がダンジョンに行ったことじゃない。ポイントを持って帰ってきたことだった。


変な話、一番最初に行ったガキがそのまま死んでくれれば、みんな馬鹿なガキが死んだと思う程度だっただろう。しかし、女子供でも生きて帰ってきたことから村の人間すべてがダンジョンに通うようになった。


農作業?そんなの放置に決まってる。みんながみんな村のことをほっぽり出してダンジョンに通ってるのさ。ポイントを持って帰れば働かなくてもご馳走が手に入る。村の自警団が負けて帰ってきたときも、冒険者のパーティが泣きべそかいて帰ってきたときも、だれも街に報告しようとは言わなかった。


だって、俺らでも倒せるモンスターがいっぱいいたからだ。村に来た学者はこの現象をダンジョン好景気と呼んだ。俺はそこで不況よりも好況のほうが何倍も恐ろしいことに気づいた。


よっぽどひどい不況じゃなければ、相変わらずのひもじい生活を呪って、いつものことをすればよかった。好況っていうのは、恐ろしい。そいつは際限を知らない。物やポイントに目がくらんで、隣人がいつ死んだかも気が付かない。


今日は父親が生きて帰ってきた。ご馳走持って帰ってきた。明日は?みんな行ってるけど行かないの?それなら僕が行ってきてあげる。友達が大勢死んだけど、ポイントを持って帰ってくれば関係ない。物やポイントに溢れたら、もう働いてなんていられない。


ポイントが足りない。ポイントが足りない。ポイントが足りない。馬鹿な村長はまだ気づいてない。それどころか、この村をダンジョン観光地にしようなんてほざいている。


俺は雑巾が絞られていくようにこの村が、俺の生まれ育った村が、絞り取られていくように感じた。その大きな手の持ち主はきっとダンジョンの玉座でほくそ笑んでるだろう。


ある日を境に村人が消えていった。比喩なんかじゃない。文字通り消えていった。ぱたりと音を立てるように最初に女子供が、次に村の若者が、最後に屈強な男たちが。今じゃ冒険者なんてやくざな職業が俺の村を胸張って歩いてやがる。


冒険者たちは少しずつ増えている。村長曰く、この村が日の目を浴びる日が来たらしい。もうそんな村は無くなりかけているのに。もう、村には腰の曲がった爺さん婆さんばっかりだ。しかもほとんどは病で既に亡くなっている。


臆病者の俺だけががらんとした村に一人立っている日が多くなる。そんな骨の髄までしゃぶりつくしたこの村に奴はきた。


紫の月が満月の夜、薄い紫の月光が村に降り注いでいた。男は黒いローブを纏い仮面をして、大勢のアンデッドを引き連れて言った。アンデッドのうちのほとんどは消えた村人だった。


「村人の長よ!出てこい!」


村長は出てこない。あいつまさかこの状況で狸寝入りするつもりか。


「出てこなければ、この村を潰す!」


「待ってくれ!」


俺はたまらず躍り出た。


「俺は村長じゃないが、村で生き残ってる中で一番若いのは俺だ!」


男は品定めするようにこちらを見る。


「まだ生き残っている男がいるとはな。俺たちは話し合いに来た」


話し合い。思わず鼻で笑う。


「はっ!命令の間違いだろ?」


男は笑って言う。意外と年は近いのかもしれない。


「どうとらえるかはお前ら次第だ。お前ら、賢しい生き残りたちには、ここでビジネスをやってもらう」


「ビジネス?」


「仕事のことだ。お前らはここで冒険者たちの世話をしてもらう」


「冒険者の…世話?」


「簡単な話だ。冒険者に寝床や食料を売り、対価として金銭を得る。得た金銭の5割を毎月ダンジョンに収めてもらう」


こいつはまだ俺たちから搾り取ると言うつもりか。許せなかった。頭に血が上り感情のまま思いの丈を男にぶつけた。


「お前らは!俺が生まれ育った村から!まだ奪うつもりか!」


「何も奪ってなどいない。すべてお前らが勝手にしたことだ」


「いいや、お前らは奪った…。命を、子供を、仲間を、未来を!」


「もう一度言う。俺たちは何も奪っていない。むしろモンスターという商品を与えたのだ。お前らはその対価に命をささげたに過ぎない」


「…商…品?」


「お前ら侵入者は顧客。モンスターは商品。キューブは工場だ」


俺たちは顧客?商品を買う顧客…。俺たちは命を賭けてモンスターと戦い、ポイントを得ていた。モンスターを商品だとしたら、俺たちは命という対価でモンスターを購入していたのか。そうか、これが…。


「これがビジネスだ。分かったら俺の言うことを大人しく聞くんだな」


村長がバタバタと冒険者を連れて出てくる。どうやら今まで村に残った冒険者を探し回っていたらしい。冒険者もモンスターの大群を見て青ざめている。冒険者の男がある魔物を凝視する。その魔物は一見すると人間に見えるが、左目が異常に膨張していた。


「アシェリー!まさか…。魔物になったのか!?」


「…どうやらその通りみたいですね」


「アシェリー!戻ってくるんだ!」


「私にはすでに身を捧げた王と神がいます」


そういうと女は堂々と男の横に立った。


村長が言った。


「君たちの要求はしかと聞き届けた。冒険者たちの村を作ればよいのだな。私が責任もってその役目を果たそう」


「…待て」


言葉が口を突いて出た。言い知れない感情があふれ出る。


「お前みたいなブタにそんな役割任せられるか…」


「なっ!何を言ってる!私は村長だぞ」


「お前はいつも財布に入る金しか見ていない。金やポイント欲しさに村人たちがダンジョンに突っ込むのを止めなかった」


「う、うるさい!今はこの男の要求を聞くしかないだろう!」


「…俺がやる。俺がこの村を冒険者の村にする。そして、おまえのダンジョンを叩き潰してやる!」


男はそれを聞くと口を大きく開けて笑った。


「ハハッ!面白い。俺のダンジョンを潰すと言うのか。じゃあ、まずはそこの村長を殺してその座を奪え」


冒険者たちが構える。男は俺に粗末な長剣を投げ渡した。男の後ろから一体のモンスター、デスナイトが現れ、二人の冒険者を始末する。村長は腰が抜けたのか、地面に這いつくばっている。


俺は迷いなく村長の首を跳ね飛ばした。


「お前…なんだその顔…」


「え?」


「いや、なんでもない。お見事。上納金は月1で、お前自身が持ってこい。経営の相談なら乗ってやる」


その言葉に驚き、男の顔を見ると男は本気でそう言っているようだった。


「村人、名前は?」


「カイトだ。あんたは?」


男は仮面を外した。驚くべきことに出てきたのは人間だった。


「俺は魔王だ。【魔王】築地慎吾」


その夜、俺は魔王と契約を交わした。




side 築地慎吾


サル処刑スタイルにダンジョン構成を変えて、村人を殺し尽くしたら、その村をダンジョンのベッドタウンにする。そういう計画だった。途中面白い人材、カイトって言ったけな、を見つけ、ご機嫌にブナ村から帰還する。


次は病の進行が早くてスカスカになったシラカバ村を同じように制圧。ミズナラ村までは距離があったので、まだ制圧できていない。日をまたいだ移動ができないのはアンデッドの明確な弱みだな。メモメモ。


しかしDPで言うなら村にはまだまだ余力があると思っていたんだが、やはり病で弱体化していたのだろう。それでも全面戦争になるとうちは余裕で負けるので、顔の分かるアンデッドを前にしたり、仲間割れを誘発させたりしてかなり工夫した。そもそも村の男を殺しつくされて士気も低かったしな。作戦勝ちといったところか。


さて、冒険者の受け入れ態勢を整える。ダンジョンに来る女子供、そして村人は一掃したので実質一階層と二階層はすべていらなくなった。三階層と四階層を上に押し上げる。コンセプトは変わらず、三階層はソロの冒険者を、四階層は4~5人の冒険者パーティーを想定して作り上げる。


さて、デスドクロ(100DP)とスパルタン(400DP)、ゾンビ(500DP)はここでお役御免になるのか。ところがどっこい。彼らもインフレについてきている。


スパルタンは深紅のスパルタン(1100DP)に、ゾンビはゾンビエリート(1500DP)になった。どちらも死体の質が村人から冒険者に代わり自然とそうなった。ちなみにゾンビの進化は一旦ここで終わりだ。


ウィル・オ・ウィスプ(100DP)が【裏チュートリアル2】でボス・ウィプス(1000DP)となり召喚可能になったがネタとなるボス・ウィスプ(1000DP)の限界がゾンビエリート(1500DP)までなのでゾンビの進化は頭打ちになった。次の進化ではドラゴン・ウィスプ(5000DP)となる。


しかしそれでも、死体1つから1600DPを錬金できる。



そして問題なのが、デスドクロだ。こいつは一体50DPと1000体召喚して進化させるには50000DPが必要となる。ちなみに当然だが、召喚とリターンを繰り返してもカウントされるのは1体だけだ。


コツコツとデスドクロを召喚し7500DPほどデスドクロに費やした。デスドクロ200体は雑に相手されて散っていった。そして今手元には50000DPがある。1週間のサル処刑スタイルで獲得したDPは20000DP。三日間で冒険者から稼いだ30000DPだ。合計で50000DPある。


クロノスの興奮が伝わってくる。俺も正直なところ1DPから始めたドクロ研究の大いなる成果に今立ち会えていることに興奮を禁じ得ない。


「い、いくぞ。クロノス」


「い、いけ。ボノボ」


「俺はデスドクロ(50DP)を800体召喚する!」



デスドクロ(50DP)を800体召喚します


10321DP


≪【裏チュートリアル3】デスドクロ召喚数が累計1000体を超えました。デッドスカル(1000DP)を500DPで召喚できます≫


「「キタァァァァァァァァァァァ!」」


俺とクロノスの言葉が一致する。1000DPが500DPで召喚可能だなんて…。


「ボノボ...。僕は夢を見ているのかい?」


「夢みたいな景色だが、現実だ。見ろ次は500DP×1000体=500000DPだ」


「500000DPはできっこないな。愛しのドクロ道よ!ありがとう!そして永遠なれ!」


「いや、案外そうじゃないかもしれないぞ…」


とにかく俺とクロノスは一階層に向かって敬礼した。


「あ、ちょっとデスドクロさん回収しますねー」


清掃のおばちゃんが来たようだ。デスドクロ40000DPを回収する。



デスドクロ(50DP)を800体リターンします


50321DP


クロノスが手をわきわきしながら、舌なめずりをする。


「さてさて。この50000DPを一体どうする?」


「50000DP全部戦力に突っ込んだら100000DPになるよ!これが一番効率が良くない!?あ、待てよ!将来のことも考えないといけないから、一概にそうは言えないのか…!」


クロノスの成長を見て思わず後方腕組みおじさんになる。厨二臭いだけの変なガキが立派になったな。いや、もともと地頭は良かったか。


「久しぶりに総戦力の確認をしようか。キューブ!戦力図だ!」


スカルフライ          (350DP)2体

ハイゾンビ           (700DP)10体

デッドスカル          (1000DP)0体

深紅のスパルタン        (1100DP)14体

サムライゾンビ         (1200DP)2体

グール             (1300DP)5体

ゾンビエリート         (1500DP)8体

ヴィイ             (1500DP)2体

黒霊騎士            (1600DP)3体

スカルアヴェンジャー      (1700DP)2体

デスナイト           (5000DP)1体

百骸              (5000DP)1体


総戦力              65200DP


サル処刑スタイルで得たゾンビ46体、スケルトン10体、最後まで生き残ったゾンビ10体、スケルトン20体などハイゾンビ未満のモンスターはスカルフライ2体を除いてリリースした。


リリースされたモンスターはダンジョンの周りを彷徨う。モンスターが倒した人間はちゃんとDPとして反映されるから、1階層が夜だけ地上になったようなものだ。総戦力はちなみにリリースされたモンスターまでは計上されない。キューブの力不足なのだろう。自由に動き回るすべてのモンスターを捕捉するまではできまい。


「ボノボ!リリースしなかったら、せめてリターンでも総戦力100000DPいってたんじゃないのか?」


「リリースの時にも行ったが、負け犬は早期撤退が基本だ。スケルトンなんて、冒険者にとっては見向きもされないモンスターだ。何度でもいうがニーズに合わせたダンジョン造りだ。街の男も森のモンスターを狩るだけで満足できるだろう」


スペースと言えば、ダンジョンはかなりがらんとした様子になった。三階層と四階層はモンスターがいないし、一階層と二階層は無駄に広い。もうダンジョンの拡張はしなくてもいいだろう2400×4=9600DP。大体10000DPで拡張は終了だ。


「でも、でも、これまで頑張ってきた奴らが可哀そうだよ」


「なに、リリースされたからもう仲間じゃないというわけじゃない。これからはうち知名度に貢献してもらう」


「知名度?」


「ズアイから手に入れた情報だが、東へ、ブナ村の奥の方に行くと半日程度で街にたどり着く。逆に西の方に二日ほど歩くとまた街があるらしい。このダンジョンは街と街の間の主要な交易路になるわけだ」


「それが?」


「まあ聞け。このダンジョンは鬱蒼としたオホ森に囲まれている。交易路はこのオホ森を避けるとかなりの遠回りとなる。そのオホ森にモンスターを放つとどうなるか。当然交易路の安全性は脅かされる」


「サルどもが困るわけだね!やった!」


「交易路を利用するのは主に商人たちだろう。商人にとって情報すらも商品だ。ここにダンジョンがあるかもしれないという噂は全国中に広まるだろう」


「えぇ!それって良いの?兵隊が来るかもよ!」


「クロノス。今の俺たちは兵隊なんか怖くない…とはまだ言えないが、ある程度のリスクを取って冒険者を呼び込まないといけない。たらたらしているとそれこそ兵隊が来た時にDPがない!ってことになる」


「でも…」


「一か月前まで俺たちは村の男たちにビビってたんだぜ。それが今はどうだ。一日に12人の冒険者が来て、その半分が死んでいく。一日10000DP以上稼ぐダンジョンをお前は経営してるんだ」


「いつのまに、そんなに…」


クロノスがジェニファー二世をぎゅっと抱きしめる。クロノスの肩を叩く。


「俺たちは良いモンスターに恵まれてるんだ。後はそいつらを信じて、侵入者を呼び込むだけだ」


「…うん。そうだね。モンスターを信じてあげないとだね」


「サル処刑スタイルにしたらダメな理由はわかるか?それはーーー」


「分かるよ。侵入者は生かさず殺さず搾り取るんでしょ?」


「…まあそうとも言えるな。あとはセンスだ。どうやって侵入者を殺すのか。どうすれば殺害率が上がるのかは常に考えないといけない」


「ボノボ、いい加減50000DP使おう?僕なんだか疲れてきたよ」


「それもそうだな。まずはデススカルの顔を拝もう」


「僕もうすっかりドクロに夢中だよ!」


「キューブ!デススカル(500DP)を20体召喚!」


デススカル(500DP)を20体召喚します


40521DP


頭蓋骨に文様が書かれたドクロが宙を漂う。目の奥は緑色に怪しく光る。


「「か、かっこいい!」」


俺たちが当分デススカルを撫でまわしていると、デススカルはうっとうしそうに転移していった。


「キューブ!10000DP特典を見せてくれ!」



10000DP特典


権限を拡張する

新しいダンジョンを作る

元の世界に戻る



クロノスと俺は目を見合わせる。元の世界に戻るのは論外として、新しいダンジョンを作るのも今はパス、一択だ。


「いいな?」


「う、うん」


「キューブ!10000DPで権限の拡張だ!」



≪【裏チュートリアル11】権限が拡張されました。10000DPまで召喚可能モンスターが増えます≫

≪【裏チュートリアル12】権限が拡張されました。10000DP以上のダンジョン拡張オプションが追加されます≫

≪【裏チュートリアル13】権限が拡張されました。ダンジョン情報交換掲示板に参加することができます≫


30521DP



キューブが怒涛の通知をしてくる。俺たちは一個ずつ見て言った。


「10000DP以下までのモンスター召喚可能…。ダンジョン拡張オプション…。情報交換掲示板か…」


クロノスは早速、情報交換掲示板を覗いている


「うわぁ。なんかよく分からない会話ばっかりだよこれ。先にモンスターとオプション見よ!どれどれ、モンスターは…」


クロノスは俺にキューブのリストを表示させる。俺はクロノスのスピードに置いて行かれる。


「ボノボ!次々!オプションは?」


「あ、あぁ」


クロノスの言われるがままにオプションを見ていくと一つめぼしいものがあった。


フィールド変化(夜)100000DP


その説明をクロノスが読み上げる。


「実質支配地を夜にする、また実質支配地で殺した人間はDPとして加算される…。ボノボ!10000DPだって!これがあればミズナラ村も制圧できるんじゃない?」


「馬鹿、100000DPだ。桁が一つ違うぞ」


「えぇ!100000DPとか無理だよぅ!」


「クロノス。次は20000DPでボスを作ろう。兵隊が来た時に備えて戦力を温存させるんだ」


「20000DPも使うの?10000DPで良くない?」


「俺に考えがあるんだ。キューブ!今まで召喚したアンデッドのDPの合計を教えてくれ」


累計召喚DPアンデッド80650DP(リターン召喚分除く)


案の定その数字はもう少しで100000の大台に乗るところだった。


クロノスが80650の表示を覗き見る。


「たしかに、凄いけどこれがどうかしたの?」


「いや、前にアンデッド以外のモンスターを召喚するか迷った時があっただろ」


「うーん。そんなのあったっけ?」


「その時に俺は強引にアンデッドを使うことにしたんだ。その理由というのが100000DPに関係してくるんだ」


クロノスは興味無さげに相槌を打つ。


「ふーん。それで?」


「まあ聞け。俺はカイトにキューブは工場だといった。今の俺たちの工場は言ってしまえば、アンデッド専門工場だ。そこにスライムを生産させるとどうなると思う?」


「別にどうもしないんじゃない?」


「俺の見立てだと違う。こいつが工場だとして、アンデッドをウリにやってきたのが急にスライムに代わると、どうなるだろうか。工場はラインを変えるための段取り換え、つまりはラインの交換が必要なのではなかろうか」


「アンデッドに特化すればするほど、段取り換えには時間がかかる。そうなるとスライムを生産するのが割高になる。相対的にアンデッドは割安で生産できる。」


「ここで疑問が生じる。これってドクロの時と同じで、今まで俺たちは知らず知らずのうちに規模の経済の恩恵を受けてきたってことなのでは?ってな」


「例えば実際は105DPのモンスターを100DPで生産していたとか。今まで他の属と強さを同じにして比べたことがなかったから気づかなかっただけで、実はキューブは黙って値引きしていたんじゃないだろうか」


「これは戦力としてのDPに表れない数字の差なんじゃないか?というか仕入れのDPと戦力としてのDPに差が生まれることになる。今までの総戦力は間違っていた…のかも」


「とにかく、100000DPを達成したら、何かある気がするんだ。10000DPも20000DPも変わらんだろう。おすすめのモンスターを教えてくれ」


「そうだね!どれどれ、おすすめは圧倒的にリッチ(10000DP)だね。基本攻撃は通じないし、上級魔術が使えるよ。他にはドラゴンゾンビ(10000DP)もいるけど空飛べないから微妙だね。あとはヴァンパイアロード(10000DP)。こいつはやめといたほうがいい。前も言ったけど吸血鬼は扱いづらい。ちなみに10000DP以上のモンスターは作れないから、気を付けてね」


「よし、じゃあリッチ(10000DP)を召喚だ!しかも2体!」


リッチ(10000DP)を2体召喚します


10521DP


リッチは身が震えるほどの冷気を纏ったモンスターだった。ローブを被ったその姿はまさに死神そのもの。ボスに指定して三階層に放つ。


≪【裏チュートリアル9】アンデッド属ボーナス!総戦力に5%加算されます。他属性を召喚した場合、加算は消えます≫


予想が当たった!


「うんん?どういうことだ」


「俺も完全には理解していないが…。キューブ、もう一度あれを表示してくれ」



使用DPアンデッド100650DP(リターン召喚分は除く)



「100000DPで5%ということは、1DPあたり0.00005%ずつ減少したのか。それは計算が煩雑になるな。まあ、結果だけ見よう。ある属の累計使用DPが100000DPを超えたら5%分モンスターが強くなる、ということらしい」


「ジェニファー二世はどうなるんだ?」


「ダンジョンマスター部屋のモンスターは戦力にカウントされない」


「じゃあさ、デスナイト(5000DP)っていうのは召喚時のDPで実際の戦力は5250DPあるっていうこと?」


「そういうことになるな」


「じゃあ、戦力アップじゃん!」


「そうだ。実際には戦力アップしてたのに気づいた、なのかもな」


(本当はモンスターを召喚するたびに割引しないといけないんだけど、それをしちゃうとDPの計算が大変だから、5%割引になるまでは、割引なしで、5%割引になったら、総戦力に5%追加する形で計算させてね。ズレは当然あるけど黙ってるよりはいいでしょ)


唐突に頭に入ってきた思考は脳裏をよぎるとすぐに消えていった。なんだろう、今一瞬なにかの声が聞こえたようなーーー


「なんか納得いかないな。すまんが、確認させてくれ」


「なになに?」


「デッドスカルのみの総戦力DPを表示!」


デッドスカル           (1000DP)20体


アンデッド属召喚ボーナス(5%)   +1000DP 

総戦力DP             21000DP   


たった10000DPで少し前の総戦力DP18000DPを簡単に超えたことに戦慄しつつもリターンする。


「デッドスカル(500DP)を20体リターンだ」


デッドスカル(500DP)を20体リターンします


20721DP


俺はそれを見て不満に思う。


「おいおいキューブさんよぉ。それはぁ、話が違いますぜぇ!」


「…急になんだ?」


クロノスが不審がる。


「戦力上のデッドスカルは1100DPなんだからリターンで550DP返却しないとおかしいだろ。規模の経済で召喚コスト減少によるボーナスなら、削減した分リターンで返してもらわないと」


「でもそれじゃあ500DPが550DPになって帰ってくるはずじゃん」


「俺はそう言ってるんだ。キューブさんよぉ。どう説明するつもりだぁ」


俺はペシペシと物言わぬ立方体を叩く。


(戦力上のDPと召喚時のDPは別だから。5%ボーナスは実際に1体ずつ割引した場合の計算とはズレがあるから計算上コストカットないものとしてボーナスとしてそれを反映させたって言ってるよね。君は何も考えず5%戦力が増えたって喜んでたらいいんだよ。それ以上ごちゃごちゃ言ってるとぶち殺すぞ!)


また一瞬何かの考えが脳裏によぎった。なにかすごいことを言われた気がする。これ以上このことを考えると、いろいろと良くない気がする。


「まぁいいか。クロノス!まだもう1個あてがあるぜ!」


「わーい!わーい!」


世の中馬鹿になった方が楽に生きれることもあるんだ。このことに関しては目を瞑ろう。次だ次!


「俺の考えだとアンデッドと暗闇という環境にはシナジーがある。アンデッドは夜しか活動できないから暗闇はなれているからな。実はこれも他の環境にはない戦力上のDPの差、なんじゃないか?」


そうだとしたら今唯一この洞窟でアンデッド族とアナジーがあるモンスターがいる。それは…。


「キューブ!サラマンダーをリターンだ」


「ちょっと!急にどうしたの」


「いいからいいから」



サラマンダー(400DP)を1体リターンします


20721DP



予想はまた的中していた。ピコンとキューブが通知する。俺はそれを満面の笑みで受け取った。


≪【裏チュートリアル10】環境ボーナス!現在保持戦力50000DPを超え、属に適している環境を選ぶと総戦力に5%加算されます。環境を変えると、加算は消えます≫


「すごい!すごいよボノボ!何もしてないのに10%戦力アップだよ!」


「そうだな。10%の戦力アップはでかい。どんどん行くぞ、次を見よう!」


読んでくださりありがとうございます。


「面白い!」と少しでも思ってくれたら↓の★★★★★を押して応援してくれると嬉しいです!

ブックマークもお願いします!

よろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ