第五話
現在の戦力を確認する。
ドクロ (1DP)300体
死臭のドクロ (5DP)120体
餓鬼 (50DP)0体
ゴーストソード (100DP)1体
ウィル・オ・ウィスプ (100DP)0体
スケルトン (200DP)13体
サラマンダー (400DP)1体
ゾンビ (500DP)8体
ハイゾンビ (700DP)1体
グール (1300DP)1体
ヴィイ (1500DP)1体
総戦力 11500DP
総戦力はついに10000DPを超えた。3957DPを一階層と三階層に充てる。ここからはクロノスの時間だ。どんなモンスターが欲しいかクロノスに伝える。
「グール並みの強さで、できれば武器を使えるアンデッドが欲しい。侵入者の落とした武器も有効活用したい」
「なるほどねー。武器を使うアンデッドとなるとサムライゾンビ(1200DP)、黒霊騎士(1600DP)、デュラハン(3000DP)かな。でもそれよりスケルトンを二階層に降ろしてスパルトイ(400DP)にした方がいい」
スパルトイは武器を持ったスケルトンのようなモンスターだ。二階層にスケルトンを移すと、次々と武器を持ち始めた。クロノス曰く、ゾンビの頃の肉体を失い、スケルトンは武器に頼るようになったそうだ。
スケルトンー13
スパルトイ+13
クロノスの言うとおりにキューブでサムライゾンビ(1200DP)、黒霊騎士(1600DP)、デュラハン(3000DP)を検索する。クロノスが補足した。
「デュラハンは頭のない死霊馬に乗った戦士だ。狭いところではあまり有利に戦えないかもな」
俺は決断する。
「なら、まずはこの黒霊騎士にしよう」
黒霊騎士は鎧を着た血まみれの騎士だ。黒い血痕が鎧の至る所についている。
黒霊騎士(1600DP)1体を召喚します
1957DP
「なんでグールにしないんだ?」
「三階層のテーマは個別生産にしようと思ってな」
「どういうことだ?」
「ゾンビもドクロも大量生産だろ?大量生産にはデメリットもあるのさ」
「デメリット?」
「細やかなニーズに対応できないのが、デメリットだ。例えばターゲットをソロの冒険者にする。集団の村人はもう嫌というほどいるからな。ソロの冒険者ほど扱いきれない量のゾンビの大群より、自分が得意な強いモンスター一匹のほうを好むかもしれない。そんな冒険者に提供するのが1500DP前後の種類によっては倒せるかもしれないモンスターたちだ」
「普通に考えたら簡単に勝てるゾンビの軍団で雑魚狩りをしたほうがリスクが低くて、簡単にポイントを稼げるんじゃないか?」
「彼ら人間には欲深いという習性がある。欲、それすなわち現状で満足できないという気持ち。彼らは成長したい、より多くのDPを得たいと思うようになる。ダンジョンに潜れば潜るほど、その魔力に取り憑かれて、その思いは抑えられなくなり、経験値を得るため、より強いモンスターを選ぶようになる、とチュートリアルに書いてあった。しかしもちろん自身より多いDPのモンスターに突っ込んだら死ぬため、自身と同じ強さの弱い集団より強いモンスター1体にこだわるんだ」
特に冒険者以上はリスク愛好者が多い。確かに雑魚狩りをしてポイントを稼ごうとする奴もいるだろうが、そういう奴ほどダンジョンの魔力に取り憑かれて死んでいく…らしい。
「モンスターの種類に関してだけどグール3匹じゃだめなのか?」
「グールは近距離でゴリゴリ戦うタイプだろ?遠距離の相手には一方的にやられるかもしれない。リスクヘッジの意味も込めて、落ちてる盾を使えそうな黒霊騎士にしたんだ」
「はぇー」
馬鹿みたいに口を開けているクロノスを横目に、黒霊騎士をボスにして残りのDPで一階層を強化する。目標は女・子供といい勝負をするくらいの強さ加減だ。今現在死臭のドクロは160体召喚している。俺の見立てが正しければ…。
「キューブ!死臭のドクロ(2.5DP)を840体召喚だ!」
死臭のドクロ(2.5DP)840体を召喚します
ー143DP
DPが足りません。
前はこれでも自然に進化するのを待てたが、前の通知によると1000体召喚が【裏チュートリアル3】の条件だ。無駄な時間は使いたくない。なので…。
俺はチュートリアルを思い出す。
≪リターンについて≫
召喚したモンスターは本来のDPの2分の1のDPにリターンすることができます。シナジーで生まれたモンスターは対象になりません。大幅に損をする可能性があるので、使用にはお気を付けください
≪ーーー≫
「ドクロ(0.5DP)を300体リターンだ!」
クロノスが戸惑う。
「リターンってもったいないよ!だって半分しか返ってこないんだよ!」
俺はクロノスに説く。
「落ち着いて考えてみろ。俺たちはリターンで半分の0.5DP手に入る。でも、もともと俺らは何DPで
こいつらを召喚できる?」
「0.5DP…。ていうことは無料でリターンできるのか!?」
ドクロ(0.5DP)を300体リターンします
2107DP
死臭のドクロ(2.5DP)840体を召喚します
7DP
≪【裏チュートリアル3】死臭のドクロ召喚数が累計1000体を超えました。デスドクロ(100DP)を50DPで召喚できます≫
クロノスがはしゃぐ。
「やった!デスドクロだって!闇のオーラを纏ったドクロは最高にクールだ!しかも100DPを50DPで
召喚できるなんて!」
俺はさらに宣言する。
「キューブ!リターンだ!」
「えぇ!さらにするの!?」
死臭のドクロ(2.5DP)を1000体リターンします
2507DP
「デスドクロ(50DP)を50体召喚だ」
デスドクロ(50DP)を50体召喚します
7DP
俺は予想以上の収穫に思わずにやつく。確認するために戦力図を開いた。
ドクロ (1DP)0体
死臭のドクロ (5DP)0体
餓鬼 (50DP)0体
デスドクロ (100DP)50体
ゴーストソード (100DP)1体
ウィル・オ・ウィスプ (100DP)0体
スパルトイ (400DP)13体
サラマンダー (400DP)1体
ゾンビ (500DP)8体
ハイゾンビ (700DP)1体
グール (1300DP)1体
ヴィイ (1500DP)1体
総戦力 18200DP
ドクロー300DP、死臭のドクロー600DP、そしてデスドクロ+5000DP。合計で4100DPの錬金だ。クロノスが瞬く間に爆増した戦力を見て詐欺を疑う。
「ねぇ、僕ら何か騙されてるんじゃない…?だって何もしてないのに急に4100DPも増えたよ?」
俺は思わずそれを聞いて笑う。
「ははっ!確かにこれはチートだな!でもこんだけ頑張ったんだ。少しくらいのずるは神様も目をつぶってくれるだろうよ」
「神様は僕なんだけど…。でもこれで召喚するたびに50DPもお得になっちゃうよ?いいのこれ」
「ゾンビ(500DP)は一つの死体からウィル・オ・ウィスプ(100DP)をつかって無料で生まれるから400DPのお得だ。それに比べたらたった50DPのお得だし、実際には100DPだから、一匹で、子供一人分の戦力しかない。それでも、だ。これは…」
クロノスは呟く。
「金のなる木…!」
「とまではいかないかもしれないが収支の改善にはなりそうだ」
DPも尽きたので、ここで各階層ごとのDPを確認しておく。
地上 ヴィイ (1500DP)
一階層 デスドクロ・ゴーストソード (5100DP)平均100DP
二階層 スパルトイ・ゾンビ (9200DP)平均438DP
三階層 サラマンダー・ハイゾンビ・グール・黒霊騎士(3900DP)平均975DP
俺は感嘆の声を漏らした。
「一応狙ってはいたが、ここまで綺麗に階層分けできるとは…」
クロノスが言った。
「やっぱりさ、やっぱりさ。これ見てると、全部一階層にして、強い順から入り口に置くサル処刑スタイルのほうがいい気もするな」
サル処刑スタイル、オッパーカンナムスタイル。訳も分からない言葉が頭に浮かぶ。クロノスに答えた。
「供給は需要に応えるものでないとならない。サル処刑スタイルだと完全に供給過多だ。そして、需要に応えるというのを忠実にしたのがこの形だ。より多くのニーズに応えることができるようになっている」
「一階層は女・子供でもと倒せるモンスターを配置。分かりやすい導線と広々とした空間でのびのびと楽しめます。二階層は屈強な村の男たちが汗を流すのにぴったり!ゾンビのうららかな唸り声を楽しみながら洞窟の深淵に触れることができます。そして三階層はいわばVIPルーム。熟練したソロの冒険者が強敵を前にスリルある冒険を楽しむことができます」
両手を広げて高らかに宣言する
「今ここに!わくわく・デスダンジョン・パークを開園します!」
クロノスはドン引きしている。
「わくわく・デスダンジョン・パークとかダサ…」
わくわく・デスダンジョン・パークを開園してから一週間が経過した。相変わらずの村人ラッシュは続いた。村人たちは命がけの戦いに挑み、あるものは生き残り、あるものは死んでいく。
メインターゲットは村の男たちだったが、次第に女・子供も見かけるようになった。多い日は一日12人がそれぞれの村から現れ、どれも大体50パーセントの確率で死んでいく。1日の獲得DPは大体3500DP、そのうち約1000DPでモンスターの補充をする。
他にも、サムライゾンビ(1200DP)やスカルアヴェンジャー(1700DP)を追加した。ヴィイ(1500DP)も2体追加し北と西の村を監視させた。そんな日々を繰り返していたらある時、ついに保有DPが10000DPを超えた。俺はガッツポーズをする。これで地球に帰ることができる。
「やったな!クロノス!10000DPまで来たぞ!…クロノス?」
いつもならもんどりうって喜びそうなクロノスだが、今日はやけにおとなしい。ジェニファー二世を抱えて下を向いている。
「お前。それをどうするつもりだ?」
「どうって…。もちろん地球に帰るために使うが」
「…」
クロノスは黙り込む。
「どうした?クロノス、憎いサルからダンジョン権限を取り返せるんだぜ?」
チュートリアルに離脱した場合の選択も書いてあった。クロノスにそのまま権限を渡すことはできるらしい。クロノスは調子が良くないようだ。
「…認めてやる」
「え?」
「認めてやるといったんだ!」
クロノスは顔を真っ赤にして言う。
「お前は二週間で10000DPを得られるダンジョンを造った」
そういえば、クロノスはいつからか俺のことをサルと呼ばなくなった。
「それは簡単にできることじゃない。最初はまぐれかと思っていたが、お前には知識がある」
クロノスは声を震わせて言った。
「はっきり言おう。僕はお前がいなくなると不安だ」
クロノスは続ける。
「これから村人のラッシュも落ち着き、お前の言う冒険者がやってくるころだろう。そしてそれも落ち着いたら、次は街から兵隊がやってくる。僕には…」
クロノスがまっすぐに俺を見た。
「僕にはお前が必要だ」
クロノスの嘘偽りのない声。それを聞いてなぜか心を揺さぶられるものがあった。俺は地球に帰りたい。そう思っているのは確かだ。だが、それと同じくらいここに残りたい、そう思っているのかもしれない。
俺は地球にいたころを思い出す。独立して会社を立ち上げた初めのころは楽しかった。すべてが手探りで、これまでの自分の知識を最大限活用して、会社を大きくすることができた。一日のメシ代すら稼げなかったころから、何もしなくても金がどんどん入ってくるようになって、俺は興奮した。
でも、それは長く続かなかった。どこまでも会社を大きくしようと思っても今の日本では立ち塞がるものが多すぎた。そして何より、失敗したら生きていけないというあのピリつきが次第に消えていた。それがここにきてからどうだ。
毎日が生死をかけたやり取りで選択に失敗したものから死んでいく。それは俺かもしれないし、顔も知らない誰かかもしれない。現代日本では到底考えられない命を懸けた経営ができる。
今帰ったところで得られるものはなんだ?くだらない地位と使わない金、ゴマをすることしか能のない人間たち。あの占い師の言葉が脳裏によぎる。地球よりも俺に適しているのはここなんじゃないか?
「クロノス、俺は…」
クロノスが緊張でつばを飲み込む音が聞こえる。
「俺はここに残りたい。ここに残って、俺のできることをやってみたい」
それはありふれた自己実現欲求だった。今一番したいことは、できることはダンジョンを経営し、DPを稼ぐこと。稼いだDPでまたダンジョンを経営すること。それだけだった。クロノスが言う。
「僕は魔神だ。僕の目標はアスタナの制圧。お前の目標はなんだ」
俺の目標…。会社を作った時に自分が言っていたことを思い出す。
「俺は世界一の経営者になりたい」
この世界で、このやり方なら、俺はいけるかもしれない。クロノスは目を瞑って考える。
「そうか、じゃあお前は魔王になれ。世界一のダンジョンを造るということは、魔を統べるということと同じだ」
クロノスは続ける。
「僕が魔神で、お前が魔王。僕たちの物語はここから始まるんだ」
密室なのに一陣の風が吹いた気がした。にやりと笑う。
「【魔王】築地慎吾。悪くない響きだ」
クロノスも邪悪に笑う。
「お前はこれから僕の一番の配下になるんだ。サルと呼ぶのも失礼な話だ」
クロノスの言葉に沸き立つ。ついにこいつは俺のことを名前で呼んでくれるのか…。
「そうだ、俺の名前は慎---」
「ボノボだ。お前は」
「…え?」
「お前は考え事をしている時、いつもいやらしい顔をしている。サルから一個昇格してボノボだ」
10000DPを消費して、地球に帰った。