第四話
DPの使い道を考える時間だ。この時間が一番楽しい。現在のDPは3814DP。今回も設備と知名度向上につぎ込みたいが、その前にやることがある。村の位置と規模についての情報だ。クロノスに聞いてみた。
「外の情報を偵察できるモンスターは居るか?」
クロノスは少し考えて、一体のモンスターを提案した。
「ヴィイが適任だ。普段は地下世界にいるし、目が合ったものを眠らせることができるから、戦闘にも役立つ。身体の大半を占める大きな瞳を持つモンスターでまつ毛がかわいい。外の情報を視界を共有してキューブに送ることができる。偵察には、本当はイビル・アイがいいが、ヴィイはアンデッドだ」
早速、ヴィイをキューブで調べてみる。
ヴィイ(1500DP)
ぐっ…。想像はしていたが、かなり高額だ。今のボスであるグールよりもDPが高い。クロノスに言った。
「情報は命だ。村が街と繋がっているか確認できるし、侵入者の到着を予見できる。周辺の地理も把握できるし、何よりも侵入者のニーズを知ることができる。俺たちはまだここと近くの村の距離すら知らない」
クロノスが問いかける。
「ニーズってなんだ?」
「ニーズっていうのは需要のことだ。今、侵入者が俺たちにどんなモンスターを求めているかを知らないとDPが稼げないダンジョンになる」
クロノスはまた違和感を感じているようだ。
「侵入者に合わせて、モンスターを作るってことか?変な考え方だな」
「そんなことはない。今までは相手が強いから、それに合わせていただけだ。これから段々弱い侵入者に合わせたダンジョンを造る必要がある。どれだけ弱くするのか、それとも強くするのかの指標として、村人たちの情報が必要なんだ」
クロノスは退屈そうに言う。
「サルはまどろこっしいなぁ。全部殺して回ったら済む話なのに」
ノンノンノンと指を振る。
「前も似たようなことを話したが殺したら、それより強い力で殺しに来るぞ。それをさらに殺したら、もっと強い力で殺しに来る。それには際限がない。3か月くらいでDPが無くなって兵隊に潰されて終わりだ。それをやるときには適したタイミングがある。少なくとも今はその段階ではない」
「そうなのかー」
クロノスは一応納得したようだ。
「じゃあ、ヴィイを召喚する!」
ヴィイ(1500DP)を1体召喚します
2314DP
出てきたヴィイは身体の大半が大きな目でできていて二足歩行だった。細くて長い腕もある。これならひとまずは偵察にできるな。日中は侵入者と出くわしたら危ないので、夜まで待機させる。
侵入者が一人来たので、ドクロを100匹プレゼントして帰らせた。
ドクロ(1DP)を100体召喚します
2214DP
≪村人(92DP)を撃退しました≫
2306DP
撃退時のDPが異常に少ないのは1回撃退したからだろう。2回目の撃退は半分の半分しかDPをもらえな
い。段々と味を占めた侵入者が現れ始めたようだ。
「死ねっ!死ねっ!このただ飯食らいめ!」
クロノスは物足りなさそうな顔をしている。
「これでいいんだよ」
「なんでだ?今の戦闘、赤字だろ?これが続いたら不味くないか?」
「クロノス、おまえは魔神(笑)だから分からんだろうな」
「…何か馬鹿にされた気がする」
「人間の欲深さは侮っちゃならんっていうことだ」
ヴィイを外に転移させるとキューブを通して外の景色がはっきり見える。
「おぉ、画質めっちゃいいな」
どうでもいいことに感動しながらキューブから紙とペンをもらい地図を描く。
紙とペン(1DP)を召喚しました
2313DP
洞窟の周りは森で囲まれていて、少し行くと道についた。とりあえず、道を東に進んでいく。そこから日が昇るまでヴィイを進めると村を見つけた。
途中でヴィイが転んで泣いてしまうというハプニングがあったが、俺たちは応援することしかできなかった。村は早朝から活況を呈していた。
死人が出ているはずなのに、随分とにぎわっている。ヴィイに指示して、少しでも高いところから村を見るため、木に登らせた。
ダンジョンマスターは簡単な指示ならモンスターに出すことができる。モンスターの性格や知能によって指示できる範囲は変わる。例えばサラマンダーみたいな自由気ままな火の妖精はまったくいうことを聞かない。
「あ、ヴィイ!がんばれ!」
ヴィイが木登りに苦戦している。数分格闘し、ヴィイは近くの木のだいぶ高いところまで登った。
「ヴィイ!危ないよ!」
クロノスは完全にはじめてのおつかいを見てるようだ。ヴィイの目は大きいだけあって優秀だった。暗視もできるし、こうやってズームもできる。
村の家の数は30棟。一つの家に5~7人いるとすると150~210人。そのうち戦えるものは40人くらいだろうか。さらにそのうち自警団が8人だとすると、まぁ、納得できない数字ではない。
概算も概算だから、何のあてにもならないが。村は死人が出て、お通夜状態かと予想していたが、皆、生き生きとしてる。その原因は…。やっぱり、キューブだ。
村の中央にあるキューブで昨日見た自警団がたくさんの食料を出している。中には医薬品も含まれているようだ。自警団は亡くなった仲間を悼みつつも、報酬を見て口元をほころばせている。
俺はその様子を見て満足し、ヴィイに隠れるよう命じた。あらかじめ渡しておいた迷彩加工の施された布を被るよう指示した。映像が暗くなる。
迷彩加工の施された布(10DP)を召喚しました
2302DP
クロノスは任務を遂行したヴィイを見てほろりと涙を流した。
「ヴィイ、立派になったね」
「そうだな、拍手を送ろう」
俺たち二人はヴィイに拍手を送った。パチパチパチパチ。ジェニファー二世も満足げに揺れている。良い情報が手に入った。
まず村は街と連絡を取り合ってないであろうこと。これは納屋に繋がれた馬小屋に空きがなかったことから判断した。
次に彼らは今の状況に危機感を抱いていないこと。俺たちは計14人を殺した。人口の10パーセントくらいを殺したと考えて、それでも街に報告していないということは、まだコントロール可能であると考えているということを示す…のかも。
そして最後に彼らはキューブを使った報酬を主に食料か薬に変換していることが分かった。キューブの下には肉や魚などの食料品、薬、鉄の剣などの武器、衣服、本、なんでもござれな状態だったが、その中でも特に交換で選ばれていたのが小さな丸薬だった。
その丸薬を献身的に横たわる人へと飲ましている姿が窓越しに見えた。効き目は抜群のようで、飲んだ傍から元気に歩き回っていた。そして横たわる人々は家中に散見された。まだまだ丸薬は必要なようだ。
村は病に侵されていたが、偶然できたダンジョンでポイントを得ることで病から回復しつつある、というシナリオをこの事実から思い描いた。彼らからしたら戦って死ぬか、病で死ぬかのどちらかなのかもしれない。これは侵入者のニーズはかなり高いことが予想される。
あくまでも、すべて可能性にすぎないが、それでも俺にとってはダンジョンの構想を固めるには十分な情報だった。確実な事実ではなく推論も多く織り交ぜられているが、本当に確かな情報がほしいなら村人にインタビューするしかない。
俺はヴィイが村人にインタビューしているところを想像する。
(ウ~ウヤ~ヤウォ~ウイイェ~)
所さん「さぁ、始まりました!ダーツの旅!今回のアシスタントはヴィイ君。よろしくね!」
ヴィイ「ヴィィィ!(よろしくお願いします!)」
所さん「ヴィィじゃ、分かんないよ(笑)。さて、早速だけど、行きたいところはどこかな!」
ヴィイ「ヴィヴィ!ヴィヴ!ヴィヴイ(都心のほうがいいですね!北の方は勘弁!寒そうなので(笑)!)」
所さん「そうかそうか、よし、君が行くところはここだ!…おおっとアスタナでも大分田舎の方だ!ヴィイ君どうかな!」
ヴィイ「ヴィ!(アスタナ全国どこでも頑張ります!)」
所さん「それじゃあ、ヴィイ君、いってらっしゃい!」
(ヴーン、キキィー!)
ヴィイが車を止める。何かを見つけたようだ。
ヴィイ「ヴィヴィヴィ!(第一村人発見!)」
ヴィイ「ヴィ~(こんにちわ~)」
「なにボーッとしてるの?」
ヴィイ「ヴィ?(え?)」
「だから、なにボーッとしてるの?」
「はっ!」
俺は意識を取り戻した。目の前でクロノスが手を振ってる。呆れたようにクロノスは言った。
「どうせ何かいやらしいことでも考えてたんでしょ。サルらしく」
「考えとらんわ!」
意識がはっきりとしていく。なにか狂ったことを考えてた気がするが、忘れてしまった。気を取り直してダンジョンを造ろう。
村の様子はリスクを冒してでも、ダンジョンに行きたい。ということは、だ。ここは独占市場だ。価格を吊り上げても、消費者は商品を欲しがる。かといってどこまでも吊り上げられるわけじゃないが。
俺は、2312DPを知名度向上と、設備の充実に使うことにした。なにはともあれ死体の処理から。俺は増えてきたリソースを管理するためキューブに命じた。
「キューブ!戦力図だ」
ドクロ (1DP)0体
餓鬼 (50DP)0体
ゴーストソード (100DP)1体
ウィル・オ・ウィスプ (100DP)0体
スケルトン (200DP)4体
サラマンダー (400DP)1体
ゾンビ (500DP)3体
ハイゾンビ (700DP)0体
グール (1300DP)1体
ヴィイ (1500DP)1体
総戦力 5600P
ダンジョンマスター部屋のスライムは戦力にカウントされない。ゾンビの死体はクロノスの言う通り、グールがスケルトンに処理してくれたようだ。さらにゴースト(10DP)が、ロングソードを拾ってゴーストソード(100DP)になっている。素晴らしい。
どれどれ自警団の死体はどうだ…。おっ!活きのいいのがそろってるじゃないか!…全員死んでるんだが。
「ウィル・オ・ウィスプ4体を召喚する!」
ウィル・オ・ウィスプ(100DP)を4体召喚します
1902DP
ウィル・オ・ウィスプが元自警団の死体に入る。ハイゾンビが4体生まれた。大幅な戦力アップだ。次はダンジョンの拡張だ。俺は一階層を4倍の広さに拡張する。
900DPを使って一階層を拡張します
1002DP
次はタコ部屋、二階層にまともな通路を作る。
240DPを使って二階層を拡張します
762DP
これで、モンスターがすし詰め状態にならずに済む。自警団戦では、部屋が狭すぎてお互い戦いづらかった。でも4倍の広さになれば、ハイゾンビも活躍できるはずだ。クロノスが唸る。
「うーん。もう762DPかぁ。できてハイゾンビ一体だな」
「いや、ハイゾンビよりも可能性のあるモンスターがいる」
「可能性?なんのことだ?」
「…クロノス。お前が言ったんだぞ」
「?…まさかっ!」
「キューブ!今まで召喚したドクロの総数を教えてくれ!」
ドクロ(1DP)890体
クロノスは興奮気味に言う。
「そろそろ1000体になる…!ってことは0.5DPで生産できるようになるのか!」
「キューブ!まずはドクロを110体召喚!」
ドクロ(1DP)を110体召喚します
652DP
≪【裏チュートリアル1】1DPのモンスターの召喚数が累計1000体を超えました。これから半分のDPで召喚可能になります≫
「やったー!ドクロ工場生産開始だ!」
ドクロ工場。俺はその呼び方に引っ掛かった。そうだ。これはビジネスと同じだ。侵入者は顧客、モンスターは商品、召喚は工場だ。頭の中の散らかっていたパズルのピースが繋がり始める。頭の中で新しい発想と巨大な絵が思い浮かんだ。…10000DPは案外そう遠くないかもしれない。クロノスがせがんでくる。
「サル!サル!早く召喚して」
「任せろ!キューブ!ドクロを500体召喚してくれ」
ドクロ(0.5DP)を500体召喚します
402DP
広々とした一階層にモンスターが入る。610体のドクロがガラガラとダンジョンを闊歩する。さあ、どうなる…?ピコンとキューブが反応した。きたか!
≪【裏チュートリアル4】ドクロ(1DP)10体が死臭のドクロ(5DP)に自然進化しました≫
俺とクロノスの声が重なる。
「「よしっ!」」
クロノスと目が合った。こいつの情報は正しかった!一見無駄かと思われていた狂気のスライム1000体召喚にも意味があったのだ。そして、俺の予想ではこれだけで終わらない。
≪【裏チュートリアル2】下位モンスターを召喚済みの状態で、モンスターを進化させる。進化ツリーが解放され、次の進化モンスターが召喚可能になります≫
≪【裏チュートリアル3】【裏チュートリアル2】は【裏チュートリアル1】と合体。1DPのモンスターを1000体召喚することで確定で次の進化モンスターが召喚可能になり、次の進化モンスターの召喚必要DPは半分になります。これは1キューブにつき1種族しか適応されません≫
≪【裏チュートリアル3】死臭のドクロ(5DP)は半分のDPで召喚できます≫
クロノスは突然の通知に慄いた。
「わわわ!またこれか!一体全体、なにがおこっているんだ?」
予想がピタリとあたり、俺は歓喜に震える。
「範囲の経済さ…」
「おい!サル!ちゃんと説明しろ!」
「キューブはドクロ生産工場。おまえが言ったとおりだ。工場は大量生産するほど、機械や人の効率は上がる。だがそれだけじゃない。それを他の商品にも当てはめることができるんだ!」
クロノスはまだ理解できていない。
「例えば、上着を生産する工場がある。その工場には糸や裁断機が豊富にある。そこで下着の生産を始めたらそうだろうか。なにも設備がない工場に比べて優位に下着を生産できると思わないか?」
クロノスははっと顔を上げた。
「そうか!ドクロ生産工場ではドクロを安いDPで召喚できる。そこに死臭のドクロの召喚も加えても、他より安いDPで召喚できるんだ!」
「キューブ!改めて宣言する!死臭のドクロ(2.5DP)を160体召喚だ!」
死臭のドクロ(2.5DP)を160体召喚します
2DP
あっという間にDPは無くなった。もう一度戦力図を開く。
ドクロ (1DP)600体
死臭のドクロ (5DP)170体
餓鬼 (50DP)0体
ゴーストソード (100DP)1体
ウィル・オ・ウィスプ (100DP)0体
スケルトン (200DP)4体
サラマンダー (400DP)1体
ゾンビ (500DP)3体
ハイゾンビ (700DP)4体
グール (1300DP)1体
ヴィイ (1500DP)1体
総戦力 9850DP
総戦力はさっきと比べて4740DPアップ。二倍近くの増加だ。
もちろんドクロは簡単に蹴散らせるが、死臭のドクロは本来なら5DP。20匹群がって子供一人倒せないくらいの強さだ。それでも弱い、弱すぎるが、これはこれから長く続いていくドクロ道の記念すべきスタートだと考えれば愛着も湧く。
さて、そうこうしていると侵入者がやってきたようだ。うちのダンジョンは24時間年中無休である。侵入者たちは普通の村人6人だが、どうやらこのダンジョンのことを知っているらしい。
ドクロ、死臭のドクロは一階層の奥の方に集中させておいた。彼らには研究だけではなく知名度向上の意味も含まれている。簡単に渡せないが、それでもドクロは300匹、死臭のドクロは50匹持っていかれる。
侵入者たちは早々にドクロ狩りを切り上げると、二階層に降りていった。二階層への梯子は入り口近くに作ってある。広くなった二階層ではスケルトン、ゾンビ、ハイゾンビ、グールが犇めいている。
侵入者は二階層の入り口でスケルトン、ゾンビ、ハイゾンビと交戦すると、ゾンビ三匹、スケルトン二匹を倒して、撤退した。こちらは4体の死体を手にいれる。
≪村人(400DP)を殺害しました≫
≪村人(420DP)を殺害しました≫
≪村人(380DP)を殺害しました≫
≪村人(190DP)を撃退しました≫
≪村人(100DP)を撃退しました≫
≪村人(190DP)を撃退しました≫
1682DP
ドクロ-300
死臭のドクロー50
ゾンビ-3
スケルトン-2
スケルトン+3
ウィル・オ・ウィスプ(100DP)を4体召喚します
1282DP
ゾンビ+4
今回も1人リピーターがいるようだ。そして重要なのは入り口での様子を見るにこいつらは西から来たということだ。ヴィイには誰かが村を出る気配がしたら、起きて監視するように伝えてある。これはおそらく…。
「村は複数ある」
クロノスはそれを聞いて尻込みした。
「なんとなくそんな気はしてたけど、侵入者が増えるのかぁ」
「いや、これはチャンスだ。リピーターがいることを考えると、最初の知名度向上は成功したらしい。旨みを知った奴らはこれから競うようにダンジョンに来るはずだ。他の村が気づかないうちにポイントを稼ごうってな」
クロノスが疑問を呈する。
「村同士が協力することはないのか?」
「最初に殺しまくってたら潰すために協力してたかもな。それに面白い理論がある」
クロノスは前のめりになる。
「理論?」
「それはゲーム理論だ。例えばの話だが、A村とB村があるとする。ダンジョンを見つけたA村には二つの考えがあった。一つは他の村と協力してダンジョンを安全に管理しようという考え方。もう一つは他の村には黙ってダンジョンで甘い蜜を得ようという考え方だ」
「ここでダンジョンの資源には当然限りがある。前者の考えだと50:50で資源を分け合えるが、後者だと60:10で利益を分け合うことになる。抜け駆けすると死人が出る可能性があがるから60しかもらえない。そこでA村の賢い奴は考えた」
「B村も同じことを考えてるんじゃないかってな。もし、A村がちんたら協力を呼び掛けている間に、B村の奴らに抜け駆けされたらA村は10しか資源を得ることができない」
「ところ変わってB村では全く同じことになっていた。どちらの村も選択したのは一緒。抜け駆けして60を得ようとする」
「しかしお互い抜け駆けしたことでお互いに焦り、ろくな準備もせずダンジョンに潜って10:10しかもらえなかった。出会い頭に殺し合いで、協力してたらみんなで100貰えたのに、実際のところ貰えたのはみんなで20しかないっていう話だ」
クロノスはそれを聞いてあんぐりと口を開ける。
「それってまさに今起こっている話なんじゃないか!?」
「あくまで、だったらいいなっていう話だ。現実、お互いに抜け駆けが成功し、上手く共存して60:60、つまりは骨の髄まで絞りとられる可能性もある。おっと、噂をすればなんとやら、2グループ目がきたぞ」
今度は北から来たようだ。三人組の男たちは出合い頭で生き残った三人に威嚇した。そして口論が次第に激しくなると、一人の男が剣を抜いた。
殺し合いの始まりだ。俺はそれを見ていて、喜ぶというよりは驚いていた。まさか、本当に殺し合うとは…。それだけ激しくポイントを求めているということか。病におかされた村というシナリオが一気に信ぴょう性を増す。
クロノスが口惜しそうに言う。
「ダンジョンの中で殺し合えよぉ!おら!おら!ロン毛!そこだ!」
「そう上手くはいかないさ」
決着はついた。互いに一人を殺し合い、傷を負って退散した。新鮮な死体が二つ手に入る。
「これは10:10になりそうだ」
ウィル・オ・ウィスプ(100DP)を2体召喚します
1082DP
ウィル・オ・ウィスプはこなれた雰囲気でゾンビを2体生み出すと、さっさと二階層に降りていった。
ゾンビ+2
一瞬逃げ帰った男たちを見て、村同士で戦争でも起こるんじゃないかとか考えたが、俺の病の村シナリオが正しければそんなことしてる余裕はないはずだと考え直す。
「さぁ、これで村人ラッシュが来るのが確定したぞ」
「少なくとも、三つの村が抜け駆けしてるな!」
「そうだ。整理すると東、西、北から村人が来ている。東の村にはヴィイを配置してる。一番人が来ているのは東の村からだ。大体半日の距離にある。西は二番目に人が来ていて、北は最も少ない。単純に考えて距離的には東、西、北の順で距離が近いと考えていいだろう」
「僕たちは村人ラッシュに備えてなにするんだ?」
「人が増える=死体が増える=戦力が増えるだ。ピンチになればグールを増やす余裕もある。村人はもう恐るるに足らない。戦力が問題ないとなると、求められるのは大人数を収容できるダンジョンだ。残念だが、ドクロ研究は後回し!」
クロノスが気合を入れる。
「よし!人間を殺して、殺して、殺しまくるぞぉ!」
「おぉー!」
クロノス、俺、ジェニファー二世が拳を突き上げた。
二日間はまさに村人ラッシュだった。その証拠にログを見てもらおう。
1日目。
≪村人(420DP)を殺害しました≫
≪村人(390DP)を殺害しました≫
≪村人(380DP)を殺害しました≫
≪村人(430DP)を殺害しました≫
≪村人(390DP)を殺害しました≫
≪村人(380DP)を殺害しました≫
≪村人(190DP)を撃退しました≫
≪村人(210DP)を撃退しました≫
≪村人(210DP)を撃退しました≫
4282DP
西からの威力偵察だった。9人来た。中々退かず、少し殺しすぎてしまった。
ハイゾンビー2
ゾンビー6
スケルトン+8
ウィル・オ・ウィスプ(100DP)を6体召喚します
3682DP
ゾンビ+6
960DPを使って二階層を拡張します
2722DP
1300DPを使って三階層を拡張します
1422DP
以上。これが一日目だ。全員ドクロには目もくれず潜っていたのが印象的だった。手元に残ったのは1422DP。ダンジョンを大きく拡張した。
一階層は10DPで学校の廊下50歩分。二階層は20DPで学校の廊下50歩分。三階層は100DPで学校の廊下50歩分。
今のダンジョンのサイズは一階層に1200DPを使っているから廊下を単位とするならば120廊下だ。二階層は1280DPを使っているので64廊下。三階層は1300DPで13廊下。
大体どれくらいの大きさなのか。自分の足で歩いてみた。迷うことなく歩いて一階層は45分。二階層は25分。三階層は5分。
一階層は比較的わかりやすい道にしてあるから一時間もあれば踏破できるだろう。二階層はかなり作りこんだ。下手に歩くと出られなくなるだろうな。三階層はほぼボス部屋だ。
二日目
≪村人(420DP)を殺害しました≫
≪村人(380DP)を殺害しました≫
≪村人(380DP)を殺害しました≫
≪村人(430DP)を殺害しました≫
≪村人(210DP)を撃退しました≫
≪村人(210DP)を撃退しました≫
≪村人(190DP)を撃退しました≫
≪村人(210DP)を撃退しました≫
≪村人(105DP)を撃退しました≫
3957DP
今度は北の村から。こちらも威力偵察だが、上手いこと逃げられる。よしよし。
ハイゾンビ-1
ゾンビ-2
スケルトン-2
スケルトン+2
ウィル・オ・ウィスプ(100DP)4体を召喚します
3557DP
ゾンビ+4
DPはモンスターの召喚に充てることに決めた。ダンジョンは既に広々としているし、100人乗っても大丈夫だ。
「こいつら馬鹿だなぁ。ドクロちゃんを倒していくだけでもポイントは貰えるのに、わざわざ危険な二階層に突っ込んでいくよ」
「単純に効率が悪いんだろう。100DPで1ポイントだから、ドクロ(1DP)は0.01ポイント。ゾンビ(500DP)は1匹5ポイント。暗い洞窟を1時間近く歩き回って3ポイントより、リスクを冒してでも14ポイントゲットだ。魔法にも回数制限がある。無駄撃ちは避けたいだろうし洞窟の中にいる時間が増えるほど、その分危険も増すからな」
ちなみに今の配置構成はこんな感じだ。
地上 ヴィイ
一階層 ドクロ・死臭のドクロ・ゴーストソード・スケルトン
二階層 ゾンビ・ハイゾンビ
三階層 グール・サラマンダー
今のところ一階層は低コストであまり成果は挙げられていない。二階層は低コストで高い成果。三階層は高コストで低い成果。
無理やりPPMに当てはめると、こうなるだろうか。DPの流出が少なく、DPの流入も少ない一階層は、負け犬。DPの流出が少なく、DPの流入が多い二階層は、金のなる木。DPの流出が多く、DPの流入も少ない、問題児。
負け犬、金のなる木、問題児。うーむ。こいつらの特徴を見てDPを振り分けないといけない。クロノスも似たようなことを考えていた。
「ねぇ、サル!良いこと思いついちゃったんだけどさ、二階層ってほとんどゾンビだろ?ゾンビって100DPで作れるし、人間1人は殺してくれるからコスパ高くない?絶対に二階層にDP使うべきだよ!」
「具体的にどう使うんだ?」
「ゾンビ召喚するのはもったいないから、増築するんだよ!ゾンビが戦いやすいように、通路を広くしたり、地面を掘れるようにすることもDPでできたと思う!」
俺はクロノスの意見を熟考する。そして、俺の意見を述べた。
「いや今は一階層と三階層の強化にDPをつぎ込むべきだ」
クロノスは自分の意見を曲げられて、少しすねる。しかし俺に話を促した。
「なにか理由があるんだろ。言えよ」
「確かに今、二階層はDPをつぎ込めばつぎ込むほど、DPを稼げる。言ってしまえば金のなる木だ」
クロノスがうんうんと頷く。
「ここにDPを使うのは賛成だが、使いすぎるのもよくない」
「ええ!馬鹿かよサル!ほかにDP回すなんて効率が悪いよ!」
クロノスを宥める。
「まあ聞け。この世には諸行無常というルールがある」
「ショギョームジョー?」
「すべてのものは変化していくってことだよ」
「それが何の関係があるんだ?」
「商品にはライフサイクルがある。導入期、成長期、成熟期、そして衰退期だ。今、二階層は成熟期を迎えつつある。そしてその先は?衰退あるのみだ」
クロノスは納得がいってないご様子。
「サル、そういうのを机上の空論っていうんだぜ」
手厳しい指摘だ。考えを展開する。
「意外とそうじゃないかもしれないぞ?今、侵入者はポイント的にゾンビを倒したがっていると考えよう。しかし、侵入者は次第に強くなっていく。侵入者自身の成長もそうだが、それよりこのダンジョンのことを聞きつけた腕自慢がやってくることが多いだろう」
「ほぉー」
「俺たちはそれを経験しているはずだ。最初はドクロを倒す侵入者ばかりだったのに、今は見向きもされていない。それは侵入者が子供や若者から、屈強な男たちに変わったからだ」
「つまり、ゾンビもいつか飽きられるからもっと強いモンスターを作ろうっていう話か?」
俺はクロノスの冴えた質問に指を弾く。
「まさにそうだ!今三階層はコストがかかるのに、たいしてDPを稼いでいない問題児だ。こいつが次の花形になる。たくさんのDPを稼ぐようになるんだ」
「でも、侵入者の強さ、ニーズに合わせないと意味なくないか?」
にやりと笑う。
「こればっかりはセンスだ。だがそろそろ村人たちも本腰をいれるだろう」
クロノスが尋ねる。
「人がまたいっぱい来るってことか?」
「それもあるだろうが、それよりも強い冒険者が次に来ることが予想される」
クロノスがつまらなそうにつぶやく。
「なーんだ。結局は強い奴が来そうだから、強いモンスターを召喚しようていうはなしか」
「それよりゾンビが飽きられる前に稼いだ金を次の主力に充てようって感じだな。PPM風に言うと金のなる木を使って花形を育てようって話だ。そして、PPMの話はそれだけじゃない」
クロノスが頭にはてなを浮かべる。
「一階層のことを考えてみろ。今一階層は無視されてほとんど機能していない負け犬だ。初期知名度向上という役目を終えたんだ」
「そうか、もう一階層はいらないんだ。じゃあゾンビたちを一階層にするか!」
「その考えを早期撤退とする。普通のダンジョンならそうなるのが、俺たちには他にも選択肢がある」
「負け犬にDPをつぎ込むってこと?」
「その通り!俺たちキューブによるドクロ種の召喚ボーナスがある。これを使って負け犬の収支を改善させるんだ!」
クロノスはどこか言いくるめられたような顔をしてこちらを見てくる。
「結局PPMで何が分かったんだ?」
「もしこの考えがなければ、刹那的にクロノスが最初に言っていた二階層の強化にだけDPをつぎ込んでいたかもしれない。しかしPPMで将来のことも考えて、資源を効率的に配分すると一階層と三階層の強化につぎ込むことが良いとわかった」
「ふーん、小難しいこといってたけど将来のことも考えてダンジョン造りしろってことか」
「…まあひとまずはその理解で良いだろう。でもなんとなくや頭ごなしに二階層より一階層、三階層を強化しろっていうより納得しただろ」
クロノスは当然といった様子で頷く。
「まあ、主への説明責任を果たすのは当然だ」
俺はそれを聞いてクロノスの平常運転っぷりに呆れる。
「はいはい、わかりまーーー」
「…でも納得はできた。褒めてつかわす」
クロノスの急なデレに俺は不覚にも少し心揺れた。手持無沙汰に落ちてたジェニファー二世を撫でる。
「サル」
「なんだ?」
「薄汚れた手でジェニファー二世に触るな」
前言撤回。
(ここまで読んでくださった方のために、簡単な捕捉をキューブの方からさせていただきます。全体の流れさえわかれば細かい話は良いという方は読み飛ばしていただいて結構です。
まず【裏チュートリアル1、2,3】に関しましては多くの方が首をかしげたと思いますが、順序としてはこうです。スライム1000体召喚した→0.5DPで生産できる(裏チュートリアル1)→モンスターが自然進化した(裏チュートリアル4)→4が起動したことで次の進化先のデカスライム(5DP)が召喚可能に(裏チュートリアル2)→1を起動したうえで2が起動したことで次の召喚可能な進化先であるデカスライム(5DP)が半分で召喚可能に(裏チュートリアル3)となります。
原文にのっとり工場で例えることが難しいですが強引に説明したら、布を作る工場が布を作っていたら、たまたま服ができて、その服を市場のコストの半分のコストで生産できるようになったという話になります。ご参考にしていただければ幸いです)
読んでくださりありがとうございます。
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