第三話
侵入者は翌日にやってきた。それは如何にも村の若い衆といった様子でスライムの大群程度なら簡単に薙ぎ倒しそうな活力があった。そいつらは緊張を隠しているのか少しぎこちない動作で、ダンジョンに侵入した。俺は手を擦り合わせてその様子を見ていた。
このダンジョンマスター部屋からはキューブを通して映像で侵入者を監視できる。
ダンジョンマスター部屋は地中深くに埋まっており、ダンジョンとは繋がっていない。その代わり、キューブの転移で外に出ることはできる。昨日は既に夜も更けていて、野生の動物で危険だったので外を見る程度に留めた。
空に浮かぶ二つの月を見て、ここが異世界だと実感したのは、まぁ、別の話だ。逃げ出すなんて馬鹿な真似は考えなかった。
チュートリアルをしっかり読んでないやつは逃げ出したかもな。意識を侵入者の方に向ける。クロノスは見たいのか見たくないのか手で眼を覆い、指の隙間から映像を見ている。
侵入者たちは一階層の半分を踏破すると勢いづいた。彼らの持つ松明の火がゆらりと揺れる。この世界にはやはり一酸化炭素中毒の概念はないようだ。
それについて、クロノスに尋ねたがまともに取り合ってくれなかった。サルに勉強は不要らしい。憂さ晴らしにジェニファー二世を踏んでやった。
侵入者たちは二階層に続く梯子を見ると、行くかどうか悩む。村の名手も耄碌した。次の世代を担うのは俺たちだ。やんややんや騒いだ結果中途半端に二階層の入り口だけ調べることを決めると、体格の良い男が先陣を切って降りて行った。
松明を床に投げ捨て、おざなりに安全を確保するとそろそろと地面に降りた。ハイゾンビはただのゾンビとは動きが違う。素早い動きで獲物の首筋に噛みつくと、それを噛みちぎった。
「おごっ!お、ごご」
男は噴水のように溢れる自分の血に塗れて死んでいった。侵入者たちは騒つく。地面に落ちた松明に照らされたハイゾンビが侵入者たちを見上げる。
侵入者たちは我先にと逃げ出した。侵入者たちにとっては幸いにも、洞窟で迷うことはなかった。逃げる男の肩に死者の顔がぬらりと浮かびあがる。
「うわぁぁぁぁ!」
男はパニックになって手に持ったナタを振り回した。振り回した先には仲間の頭があった。音を立てて頭を殴られた男は崩れ落ちる。狂乱に包まれた男たちは救いを求めて出口に走った。
《村人(400DP)を殺害しました》
《村人(350DP)を殺害しました》
《村人(150DP)を撃退しました》
《村人(175DP)を撃退しました》
《村人(160DP)を撃退しました》
《村人(150DP)を撃退しました》
俺はその様子を見てガッツポーズをした。まさか、演出程度のゴースト(10DP)があんなにクリティカルな活躍をするとは…!クロノスと俺は興奮して獲得したDPを見る。
1394DP(+1385)
クロノスが叫ぶ。
「フォーー!」
俺もつられてはしゃぐ。
「よっしゃぁ!」
クロノスと俺は興奮のままに踊り出す。
「カバディ!カバディ!カバディ!カバディ!」
興奮した俺はクロノスとカバディを始めようとするが、クロノスはうざったそうに、俺から遠ざかった。
クロノスが膝をついて天井を仰ぐ。
「あぁ…!エクスタシーを感じる…!これは奇跡だ。ジェニファー、見てるかい?」
「いや…。まぁ、そうだな」
実際、ハイゾンビがいないとかなり怪しかっただろう。一番DPが高かった男で400DP。これをそのまま強さに変えて考えると500DPのゾンビでは400DPの男に苦戦していた可能性がある。
一人に手こずっていたら、男たちの誰かが助太刀に来たかもしれない、そうなっていたらゾンビは死亡。連鎖的に俺たちも死んでいたわけだ。ジェニファーがおそらく500DP相当の村の名手を持って逝ってくれたおかげだ。
村の名手も案外1000匹もスライムを倒して人生にうんざりしていたのかもしれない。とにかく、今は喜びをかみしめて次に備えよう。次の襲撃を考えれば、悠長なことはしてられない。
「くっそぉ!4人も逃がしちゃったなぁ」
クロノスはちらりとこちらを見る。
「サルのダンジョン造りが下手だったんじゃないか?」
「いや、これでいい。あえて、一階層は逃げやすくしたんだ」
「なんだ?言い訳か?殺した方がDP稼げるじゃん」
クロノスがこてんと首をかしげる。
「村側に配慮しての考えだ。もし、村人たちがだれも帰ってこなかったら、あいつらはどうする?得体のしれない未知のダンジョンが現れたと思って、急いで国や街に報告するだろう。そうすれば、過剰な戦力でダンジョンを潰しにかかるかもしれない」
クロノスが胡乱げな目を向ける。
「別に一人死のうが、全員死のうが、国や街に報告するんじゃないか?」
「生き残りがいることが大事なんだ。そいつらはダンジョンの一階層を理解し、こう思ったはずだ。意外といけるかも、てな。まぁ、二階層でその予想は裏切られるんだがな」
クロノスはじれったくなって尋ねる。
「結局、サルは何がしたいんだ?」
「あいつらが、こっちを舐めて管理できるかもって思わせるんだ。どうやら、人間はモンスターを倒してポイントを集めるらしい。そのポイントを餌にちらつかせるんだ。このダンジョンは国や街に潰させたらもったいないぞってな」
「うーん」
クロノスは納得のいかない顔をしている。
「わざと逃げやすいダンジョンを造ったっていうのが気持ち悪いなぁ」
「もちろん、二階層以降はガチで作りこむ。一階層は誰でも入れて帰れるようにする。無理に殺さなくても、撃退で半分のDPはもらえるんだ。いっぱい殺すより、いっぱい人を呼ぶことの方が大事なんだよ」
クロノスはまだ気持ちの悪そうな顔をしている。クロノスはその原因を閃いた。
「分かった!サルがもっともらしいこと言ってるから気持ち悪いんだ!」
俺はジェニファー二世を蹴り飛ばした。
村人たちを殺害・撃退してから、すぐに次のダンジョン造りを開始する。次はいつ襲撃が来るかは正直読めないが、ゆっくりはしていられないだろう。まずは死体の処理だ。
「ウィル・オ・ウィスプ2体を召喚する!」
ウィル・オ・ウィスプ(100DP)を2体召喚します
1194DP
2体のウィル・オ・ウィスプはダンジョンを彷徨い、その宿主を探す。二つのウィル・オ・ウィスプは無事、それぞれの死体を見つけゾンビとなる。
「ウ…アァ…」
「グゥ…」
春のうららかな風の吹く音のようなうめき声が聞こえる。クロノスが目を輝かせる。
「ゾンビだぁ!ハイゾンビもいいけど、ノーマルゾンビもかわいいなぁ」
「うむ、同意見だ」
俺たちはゾンビの名前をつけるかつけないかで議論を交わしたが、一匹ずつ名前を付けるのはややこしいし大変ということでつけないことになった。ていうかそんなことをしている場合じゃなかった。残り約1190DPの配分を考える。
設備に使うか、知名度向上に回すか。設備は言わずもがな、ダンジョンの増築、身を守るモンスターの追加などだ。そして知名度向上とは、あえて弱いモンスターを出して侵入者のインセンティブにすること。
簡単に言えば、侵入者の餌にDPを使うことだ。この塩梅は完全に俺のセンスに任されている。悩みに悩んだが、自分のアニマル・スピリッツを信じる。
大胆に790DPを知名度向上に回すことにした。浮かれているクロノスにバレない様に小声でキューブに宣言する。
「キューブ、490DPでドクロを、300DPで餓鬼を召喚する」
ドクロ(1DP)を490体召喚します
餓鬼(50DP)を6体召喚します
404DP
餓鬼はやせぎすの青白い顔をした小さな子供のようなモンスターだ。ドクロはその名の通り、宙に浮かぶドクロである。合計496体のモンスターを召喚すると、ダンジョン内は一気に活気を帯びて活き活きとしだした。…全員死んでいるんだが。
まぁ、とにかく手狭になった。ここで拡張は我慢する。俺の予想だと、まだする必要がない。それよりも密度を上げて弱いモンスターがたくさんいるように見せることが肝要だ。クロノスが俺の様子に気が付く。
「サル、何をゴソゴソしてるんだ、ってわわわ!モンスターがいっぱい増えてるよ!なに勝手なことしてるんだ!」
俺はできるだけ親切に分かりやすく自分の意図を説明する。
「こいつらは侵入者を呼ぶための餌なんだ」
クロノスは憤慨した。
「僕はそんなことを聞いてない!なんで勝手にやってるんだって聞いてるんだ!」
「だって、お前1000DPでスライム生産するつもりだったろ」
「当たり前だ!次こそスライム地獄を作るんだい!」
「それじゃあダメだろ。1DP1000体のスライムが1000DP1人の人間を倒せるわけじゃない。チュートリアルに書いてあるだろ?」
チュートリアルではこう説明している。街の兵隊(3000DP)とゾンビエリート(1500DP)2体は対等じゃない。大体の場合で街の兵隊(3000DP)が勝つ。
その理由は魔法とかいうファンタジーなモノが理由だ。この世界の人間は大抵、魔法が使える。400DPの人間は下級魔法、1300DPの冒険者は中級魔法、3000DPの街の兵隊は上級魔法といった具合に集団に対して有利な魔法が使える。
その魔法の効果は広範囲で、敵1体が弱ければ弱いほど効果は高い。よって、弱いモンスターは集団で戦っても弱いのだ。
上級以上の魔法には聖級、王級、超級の魔法がある。人間の質が高ければ高いほど、強いモンスター1体で戦うことが重要になる。
クロノスは顔を真っ赤にしていった。
「サルだって、DPの半分を1DPに使ってるじゃないか!それだったらスライムでいいじゃないか」
俺は理路整然と反論する。
「俺が1DPのドクロを大量生産する理由はさっき言ったように、侵入者をおびき寄せるため。殺すためじゃない。それなら、スライムで良いと思うのはもっともな主張だ。だが俺にはもう一つ狙いがある」
クロノスが復唱する。
「もう一つの狙い?」
「それはシナジーだ。死体、ゾンビ、ハイゾンビ、ゴースト、ウィル・オ・ウィスプは全部アンデッドだ。ウィル・オ・ウィスプが死体を借りてゾンビになったようにそこにはシナジーがある」
「シナジー?」
「相乗効果が生まれるってことだ。ドクロも餓鬼もアンデッド。言ってしまえばそこにはシナジーの種がある。それに対してスライムは自然系の魔物だ。シナジーが起こる可能性は低いだろう」
「ぐぬぬぬぬ」
「それにある程度召喚するモンスターをアンデッド属で纏めていたら、キューブがアンデッド属を得意になってくれるかもしれないだろ」
クロノスが唸る。一応理解はしてくれたらしい。クロノスがすねるように言った。
「…それでも僕の意見無しで進めるのは無しだ」
俺はその様子を見て、流石にやりすぎたと反省する。こいつとは運命を共にしてるだけじゃなく、共同経営者でもあるのだ。基本的に役立たずだが…。
「悪かった。次からは相談する」
素直に謝った。
「…ならいい。餓鬼もドクロもかわいいからな」
俺はクロノスへの認識を改めつつ、残り400DPの使い方をクロノスに伝える。
「残りの400DPはこのサラマンダーを召喚するのに使う」
クロノスが言った。
「おいおい、サラマンダーはトカゲの形をした火の妖精だぞ。アンデッドは火に弱いから逆シナジーじゃないか」
クロノスが正確に言葉の意味を理解し応用して見せたことに驚く。こいつちゃんと勉強できるタイプなんだな。
「お前の言う通りだ。それをアナジーと呼ぶ。しかし、別のところにもシナジーは隠れている」
「隠れてる?どこにだ?」
「それは環境だ。この洞窟の中という環境には暗闇という要素がある。実際にあるシナジーの例を言うと、アンデッドと暗闇。アンデッドは本来太陽の下では活動できないが、暗い洞窟の中なら日中でも活動できる」
「…確かに!」
「サラマンダーには火を食べるという性質がある。侵入者の大半はこの洞窟に光源として松明をもってくるだろ?サラマンダーがそれを食べたらどうなる?」
クロノスはその様子を思い浮かべて醜悪に笑った。俺の考えはどうやら伝わったらしい。
「サルはサルでもお前は邪悪なサルだ」
クロノスは褒めているのか、褒めていないのか分からないことを言った。
サラマンダー(400DP)を1体召喚します
4DP
俺の考え通り、次の侵入者は翌日、丸一日経ったか経ってないかくらいの時に来た。その男、いや、少年はどうやら一人でこのダンジョンに来たらしい。
ダンジョンの入り口を見て一瞬尻込みをしたものの、勇ましくダンジョン内に入っていった。そこには大量のアンデッドがいた。少年は悲鳴を漏らす。
「ひっ…」
しかし、少年は気がつく。見渡すアンデッドのそのどれもが一匹一匹は大したことがないことに。少年は持っていたナイフで宙に浮かぶドクロを刺した。すると、ドクロはあっけなく死んだ。少年は喜び、どんどん奥へと進んでいく。そして餓鬼の集団を見つけて、賢く自分の力量を判断すると村に帰っていった。
≪村の少年(100DP)を撃退しました≫
104DP
俺は支出と収入を比べる。殺されたドクロは104匹、得たDPは100DP。収支が赤字になっているのを確認して、検討する。餓鬼を増やすべきか、ドクロを増やすべきか。
サラマンダーを召喚したので、残りのDPは104DP。いやここは我慢だ。足りなくなったら補充すればいい。
数時間後、二人目の侵入者がやってきた。またもや一人、村の若者といったところだろうか。その若者もドクロを100匹蹴散らし、餓鬼に怯えて去っていく。
≪村の若者(170DP)を撃退しました≫
274DP
ドクロ(1DP)を100体召喚します
174DP
≪村の若者(165DP)を撃退しました≫
≪村の若者(185DP)を撃退しました≫
524DP
追加で二人来て、ドクロを約200匹、餓鬼を一匹倒したので50DPでまた補充。
ドクロ(1DP)を200体召喚します
餓鬼(50DP)を1体召喚します
274DP
地道にDPをやりくりしていると、ついに本命がやってきた。その侵入者たちは総勢15名。予想よりも多い量に、心臓がはねた。
侵入者たちの半数、7人がぞろぞろと入っていく。残りの半分、8人は外で待機するようだ。慌ててキューブに宣言する。
「ウィル・オ・ウィスプを2体召喚!」
ウィル・オ・ウィスプ(100DP)を2体召喚します
74DP
侵入者たちは第一階層を隅々まで探索すると、危なげなくドクロと餓鬼を殲滅した。今までの損失も併せて合計で約1000DPの損失。
痛いが、これは必要経費だ。しっかり知名度向上に回ってくれることを祈る。侵入者は順々に二階層に降りていく。そこをゾンビががぶりと腕にかみつく。悲鳴を上げる男に仲間たちが続々と二階層に降りる。最初の男をゾンビ二人がかりで殺しきる。
≪村人(420DP)を殺害しました≫
494DP
すると、ウィル・オ・ウィスプが待ってましたと言わんばかりに死体に宿りゾンビになる。ロングソードを持った男が松明の火を嫌がったゾンビを一匹倒した。
それに勢いづいて、男たちが二階層に集結した。今、ここだ!俺がそう思う瞬間、サラマンダーは素晴らしいとしか言えないほどの活躍をした。サラマンダーは天井で息を潜め、先頭の男が地面に投げた松明と一番後ろの男が持っていた松明の火を食べた。音もなく火が消える。
暗転。そう表現するのが一番適していた。洞窟の奥底、唯一の光源だったサラマンダーは侵入者に悟られないよう逃げる。男たちは恐怖のどん底に堕とされた。
「うわあああああ!」
誰かがそう叫ぶとその声は洞窟中に響き渡った。混乱が始まる。逃げ出そうとするもの、パニックになって動けないもの、勇猛にも戦おうとするもの。6人では決して広いとは言えない空間で各々が勝手な行動をする。ゾンビたちにとって絶好のチャンスだった。
≪村人(390DP)を殺害しました≫
884DP
「ウィル・オ・ウィスプを3体召喚!」
ウィル・オ・ウィスプ(100DP)を3体召喚します
584DP
ゾンビたちは着実に増殖していき、侵入者を囲いこんだ。血肉が裂ける音。仲間の悲鳴。増えていくゾンビの唸り声。
≪村人(380DP)を殺害しました≫
≪村人(400DP)を殺害しました≫
≪村人(390DP)を殺害しました≫
≪村人(185DP)を撃退しました≫
≪村人(190DP)を撃退しました≫
2129DP
ゾンビは侵入者を二人残して屠り去った。外に飛び出した二人は地上に残った半数に惨状を伝えると、集団はその二人を村に帰し、新しくダンジョンに潜りに来た。
今度は8人。俺はバランスを考える。こいつらは威力偵察といったところか。先ほどの集団と違って、一人一人がしっかりと武装している。中々やりそうだ。村のヴィジランテ、自警団といったところか。ダンジョンにはハイゾンビが1体、ゾンビが6体。
サラマンダーは気まぐれだ。さっき火を食べて眠くなってるころだろう。助力は期待できない。何人かは生きて帰さないと、危険性が高すぎると判断され、即刻、街の兵隊がこのダンジョンを潰しに来るだろう。しかし、手を抜いていると、ボスであるハイゾンビがやられてしまう。ここは…。
「キューブ!1000DP以上のモンスターを見せてくれ!」
キューブがモンスターを表示する。このリスト、実際のところ非常に不便だ。属、種族、DP関係なく、アイウエオ順みたいに名前別でソートしてあるので、どれがアンデッドなのかが分かりづらい。1000DP以下のモンスターは説明がついてあった。
1000DP以上のモンスターにも簡単な説明は書いてあるが、チュートリアルのような丁寧な説明ではなく、必要最低限の情報しかない。検索機能はあるが、モンスターの名前に詳しくない俺にとって、実質的に死んでいる機能だ。
おそらくキューブは意図的にそうしているのだろう。実際に召喚しないと詳しい仕様は分からない。モンスターの知識量もダンジョンマスターの資質として問われている。
俺はあらかじめ名前だけでピックアップしていたアンデッドっぽいモンスターを抽出する。
ブラッドスライム(1500DP)
剣士の影(1050DP)
ナイトメア(1200DP)
くそっ!この3匹から選ぶしかないのか…。俺はこの中から…。
「キューブ!剣士の影をーーー」
「待て!サル、お前また確認せずに勝手なことしようとしてるだろ」
逸る気持ちを抑えて、クロノスの相手をする。
「分かるだろ、緊急事態なんだ」
「それでも、僕に確認しろ」
めんどくせぇ!早口で説明する。
「1000~1500のレンジでモンスターを選ぶことで、あいつら
を生かさず殺さず扱えるんだ」
「レンジ?」
「範囲のことだ!」
ついイライラし怒鳴ってしまう。クロノスはそんな様子の俺に対して、淡々と続きを促す。
「それで?」
「ピックアップできたのはブラッドスライム、剣士の影、ナイトメアの3体だけ。俺は今から剣士の影を召喚する。いいな?」
「なんで剣士の影なんだ?」
「知るか!勘だ!」
もう一度召喚しようとすると、それを遮るようにクロノスが言った。
「…剣士の影は文字通り、剣士の影で戦うモンスターだ。剣士になるモンスターがいないと何もできない」
クロノスの声を聞いて一瞬フリーズする。クロノスは続けた。
「ナイトメアは寝ている人間にとりついて殺すモンスターだから、剣を振り回す人間に対しては戦えない」
こいつのスライムへの、いや、モンスターへの異常な愛を思い出す。
「ブラッドスライムはスライムだしアンデッドじゃない。シナジーを考えるならもっと良いモンスターがいる」
俺は初めてしっかりクロノスの目を見た気がした。
「グール(1300DP)を召喚しろ。そいつなら強いし、死んだゾンビを食べてスケルトンに変えてくれる」
グール…。完全に見落としていた。言われるがままにグールを召喚する。
グール(1300DP)を1体召喚します
829DP
侵入者は強かった。暗い洞窟でも連携を崩さず、ゾンビの集団に着実なダメージを与えた。ゾンビが一匹、また一匹と倒れていく。ハイゾンビが倒された。そこに筋骨隆々なぼろきれを纏った男、グールが飛び込み、侵入者の頭を捻じり取った。
≪自警団(500DP)を殺害しました≫
1329DP
「ウォォォォォ!」
グールの咆哮に侵入者たちが固まる。その好機を見逃さず二人目を殺す。
≪自警団(510DP)を殺害しました≫
1839DP
集団のリーダーは冷静だった。大盾を構える男二人を殿に、一人ずつ脱出していく。グールは大盾を持つ男たちをなぎ倒し、縊り殺した。
≪自警団(510DP)を殺害しました≫
≪自警団(500DP)を殺害しました≫
2849DP
≪自警団(250DP)を撃退しました≫
≪自警団(255DP)を撃退しました≫
≪自警団(255DP)を撃退しました≫
≪自警団(205DP)を撃退しました≫
3814DP
自警団はダンジョンを出ると、まっすぐ村に帰った。安堵の息を吐く。結果としては、満点といってもいいだろう。侵入者を適切な数、村に帰しつつ、DPもしっかりゲット。理想的な結果だ。そしてなによりもでかいのは…。
「見直したぞ。クロノス、まさかモンスターの知識をそんなに蓄えているとは思わなかった」
クロノスがモンスターの知識を持っているということだ。クロノスは不機嫌そうに言う。
「なにが見直した、だ。その前に言うことがあるだろ」
「言うこと?」
「ありがとうとごめんなさいだ!」
俺はそのことをうっかり忘れていた。今回の結果はクロノスのおかげだ。今まで、見くびっていたことを謝罪しなければ。
「その知識で窮地を救ってくれたことに感謝する。ありがとう、そして悪かった。お前のことを見くびっていた」
「ふんっ、まあいいだろーーー」
「今まで頭のおかしい中二病の声だけがでかい役立たずのガキだと思っていてすまない」
「…そ、そんな風に思ってたのか」
クロノスの顔が引きつる。
「ふ、ふんっ。僕も少しお前のことを考え直さないといけない」
思いもよらないクロノスの言葉に驚いた。
「お前もサルなりに生き残るため、必死にいろいろ考えていることが分かった。お前を僕の配下の一人に加えてやる。光栄に思え」
俺は絶句する。まだ仲間とすら思われてなかったのか。
「おまえが謝罪したんだ。主として僕も謝るべきところは謝ろう」
謝る?クロノスが?クロノスが自分の非を認めるだって?にわかに信じがたいが、こいつもちゃんと俺のこと考えてくれてたということだろう。俺はようやく発展したクロノスとの関係を喜ぶ。
「今まで自分勝手で怒ったらジェニファー二世に八つ当たりするもうすぐで禿げそうなきもいサルだと思っていて悪かった」
「…そ、そんな風に思ってたのか」
頬が引きつるのを感じる。禿げそうなのはしょうがないだろう。経営者はストレスが多いんだ。なにはともあれ、紆余曲折あったが俺たちはようやく協力関係を結ぶことができた。
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