第二十話
というわけで俺が訪れたのはミリス神聖国首都の西にある海だ。
ヘパイストスは今回海までの足として働いてくれてはいるが、海とは相性が悪いため基本ダンジョンにいて呼んだら来てもらうようにしている。
二十二日目、ダンジョンでの攻防が苛烈になっていく中、ナハを連れてわざわざここまでやってきた理由は神話級の魔物を勧誘するためである。
「…ますたー!水がどこまでも広がってるよ!」
「ナハ!ちゃんと目が届く範囲で遊びなさい!」
「…はーい!」
ナハは完全にバカンス気分だ。ナハには日頃せっせと働いて貰っているからな。すこしくらいのお転婆は目を瞑ろう。ナハは小魚を操ってなにやら遊んでいる。相手は神話級の魔物だ。少しゆったりした気持ちくらいで良いのかもしれないな。
俺とナハはうちのダンジョンでは見られないレアな魔物を見つけながら、海水浴を楽しんだ。日が暮れるころ、俺とナハはイルカに乗って沖に出てみた。夜の海は砂浜の方では海風が吹いていたが、沖のとある場所につくとピタリと風が止まった。水面が凪いでいる。イルカが怯えたように震えだした。これは…。
「…!ますたー」
「分かってる…」
俺たちの真下に魔物はいる。大きな、とてつもなく大きな影が俺たちの下を泳いでいた。脳内に声が響く。
(人間、邪悪な人間。海が汚れる。なにやら邪なことを考えているようだな)
俺は生物としてのあまりのサイズに一瞬圧倒されるも、すぐに切り替える。
「魔物よ!意味もなく年月を重ね、丸々と肥えただけの魔物よ!お前に良い話を持ってきた!」
魔物がそれをきいて僅かに怒りをもらす。イルカはそれに恐れて魅了の術式を自力で解き、逃げていった。まじかよ。立ち泳ぎとか何年ぶりだ?
(ほう。貴様に私の何が分かる?貴様がうまれる1000年前から私は生きているのだぞ)
「そうか、ウプ。それは、ハァ、大変だった、ウプ、な」
(…貴様、立ち泳ぎできないのか)
見かねたナハが身体を支えてくれる。年端もいかない少女に支えられるなんて情けない姿だが、これがおっさんの身体能力のリアルだ。
「1000年も生きてきて、お前は何を成し遂げた!ゆらゆら巨体を揺らすだけで神様気分か?」
(愚かな…。生きるとは何を成し遂げたかではない。何をして、どう感じたか、それが生きるというものだ)
「それが正しいとして、今のお前はどうだ?大陸棚を降りられず、外海に帰る勇気もない。お前は死を待ち、誰かに吊り上げられるのを待つ肥えたクジラだ」
(はっはっは!貴様の言う通りだ。邪悪な人間。それで?一体私をどうしたい?)
「お前にチャンスをやる!俺の支配下に入れば、若かりし頃の自由を、こんな狭い海ではなく、アスガルド大陸すべてを泳ぐ自由を与えて見せよう」
魔物はまた笑った。
(ククッ!私が貴様ごときの人間の言うことに耳を貸すなんて本気で思っているのか?)
「ああ。藁にもすがりつきたいほどお前の絶望は深い」
(貴様の望みは人界アスタナの制圧だな)
どうやら思考は読まれているらしい。
(残念ながら、私はちまちましたものが好きでね。人の子の発展が老後の癒しとなっているんだ。人にあだなすものを暇つぶしに取り除いているくらいには、人間が好きなのさ。邪悪な人間。貴様はついてなかったね)
魔物は大きく身じろぎをする。まずい。こいつ俺たちを飲み込むつもりだ!
「ナハ、俺を置いて逃げろ!」
ナハは一目散に逃げる。俺はダンジョンマスタールームで手に汗を握る。当然派遣したのはダミーだから失っても構わない。だがナハをここで失うわけにはいかない。
(ふふっ!残念ながら私が飲み込むのは魂そのもの!人形だろうが本体の魂まで飲み込む!)
は?何を言ってるんだこいつ。ナハは全速力で魔物の範囲から逃げきった。しかし置いてけぼりにされた俺は飲み込まれる。魔物の巨体が月光にさらされる。人形から飛び出したズアイの目玉越しにその大きさを見た。10階建てのマンション。いやそれ以上の大きさか。それは生命のサイズの限界まで膨張した巨大なクジラだった。
ダンジョンマスタールームにいるはずの俺の意識が遠くなる。ヘパイストスが飛んできて俺の身体を支えた。
「おい!マスター!しっかりしろ!おい!ーーー」
意識消失。糸がプツンと切れたように身体が言うことを聞かない。なぜか海底に沈んでいくイメージが脳裏によぎり、遠くで誰かが俺の名前を呼んでる気がした。
気がつくと俺はどこまでも続く大海原に取り残されていた。身体は半透明で足の方を見るとほぼない。助けを呼ぼうとするが声も出ない。
くそっ!まさか魂だとかいうファンタジー要素がまだあるとは。
おそらく、今の俺は魂だけの姿で場所はお前の腹の中だろ?そうだよな?
「そうだ。貴様は今なにもできない。声も出せなければ、足がないから動くこともできない。精々その目をぎょろつかせてこれから起こること目に焼き付けるがいい」
目的はなんだ?
「目的?特にないな。強いて言うなら汚れたものは浄化しておきたいだろ。それに尽きる」
水面下から這い出てきたそれは人型をしていた。女の姿を形どると両手を広げて、こちらに問いかけた。
「この女に見覚えは?」
…元妻だ。
「出会ったきっかけは?」
は?一体何をするつもりだ?
「貴様は邪悪な人間だが、そうなる前になにか原因があったに違いない。異世界出身ということは異世界で何かがあったのだろう?汚れの根本を見つけないと掃除していてもきりがない」
神様気取りも極まってるな。…いいだろう。乗ってやるよ。元妻の名前は絵美里。旧姓は鈴木。出会ったきっかけは俺が審査員の一人だったビジネスピッチに彼女が登壇したことだ。
「ほうほう。こんな感じか?」
場面が切り替わり、絵美里が俺に話しかけてくる。コンテストが終わって帰るところだった。
「築地さん!あの、アドバイスありがとうございました!」
「審査員としてやるべきことをしただけだ。感謝されたくてしたわけじゃない」
彼女のピッチは俺以外からは大不評でボロカス言われていたが、俺は純粋に彼女のピッチがあの中では一番出来が良かったし成功すると思っていた。
「…。やっぱり噂通りの人ですね」
「噂…?」
「才覚があって、勤勉で、いつでも冷静な振る舞いをしていて、そして少しひねくれている…」
俺は少し笑った。
「そういうのは面と向かって本人に言うものじゃないな」
絵美里は俺が笑ったのを見て意外そうな顔をした。
「笑うと可愛い顔してますね。築地さん」
顔の筋肉を触ってみたがよく分からなかった。
「俺だって笑わないわけじゃない。えっと…」
「絵美里です。鈴木絵美里。僭越ながら築地さんはもっと笑った方が良いと思いますよ。損してる」
「損してるか…。それを言われると経営者としては弱いんだよな」
「お笑いとか観ますか?最近流行ってるのはこのダンソンッ!っていうネタなんですけど知ってます?」
「…それおもしろいのか?」
それから絵美里は俺の講演会やスピーチがある場所には必ず現れるようになった。最初は一言二言話すだけだったのが、次第にカフェで話を聞いたり、休日に遊びに誘われたりした。俺もそれをまんざらでもなく思っていた。絵美里は若いし美しい。男としてそれに惹かれるのは当然だ。自然な成り行きで俺たちは付き合った。
絵美里は良く笑う女だった。そのくせ繊細で庭の木が枯れたからとか、秋の気配を感じたからとか意味不明な理由で感傷に浸る女だった。そういえばディズニーでも泣いてたな。感情の起伏が激しいというよりは、情緒が豊かな女だった。
あとはくだらないことを常に真剣に考えてたな。自分が異世界転生したらどうする、とか。そうなったらコンタクトたりない、だとか。俺は最初、絵美里という珍獣をおもしろがっていただけのつもりだった。
でも、ある日絵美里の待つ家に帰る時、俺は自分が衝撃的なことをしていることに気がついた。鼻歌を歌っていたのだ。絵美里がよくするように、俺は鼻歌を歌っていた。鼻歌なんて非合理的な行動をした自分に俺はかなり驚いた。その時、絵美里と関わることで何かが変わり始めていた。
絵美里は俺の何を愛してくれたのだろうか。俺は絵美里にないものを持っていたのだろうか。絵美里は…
「そうか。待てよ、当ててやる。少しひねくれた貴様は絵美里によって変わり始める。が、この後強盗だかなんだかが来て、絵美里を殺すのだろう?そして、築地慎吾は人を激しく憎むようになる。その衝動は世界を超えて今何千人と殺す魔王となったのだ!…違うか?」
…珍しく感傷に浸っていたのにお前のせいで台無しだ。この後は…まあ、よくある話だ。俺たちは結婚して、絵美里が妊娠した。そして死産した。
そのことに絵美里は耐えられなかった。いや、違う。耐えられなかったのは俺の方か。絵美里は常人が気づかないような美しさに気づくことが多かった。そしてそれは悲しみも同じだった。人一倍慈しみ、人一倍悲しむ、それができる素晴らしい人間だったが、死産というのは彼女にとって重すぎる悲しみだった。
絵美里は笑顔を失い、口数を減らしていった。俺は時だけがその傷を癒すだろうと一年、二年と淡々と日々を消化した。死産から七年が経ち、彼女は先の見えない絶望に初めて取り乱した。
「おかしい…」
「え?」
「私だけこんなに苦しむのはおかしい!あなたは自分の子を失くしたのに、なんの苦しみも味わってない!あなたは人としておかしい!狂ってる!」
彼女の不満の矛先は一晩中俺に向かった。俺はそれに辛抱強く耐えた。それでもその日を境に俺たちの関係はぎくしゃくとし始めた。俺の心は次第に絵美里から離れていった。それから絵美里は離婚届を俺に突き出し、離婚は成立。なんでもない、どこにでもある話だ。
「そうか。子を失くすというのは私も体験したことがない苦しみだ。さぞつらかろう。それで?いつ貴様は人を憎むんだ?いや、理不尽な世界を憎んだのか」
それからか?それからは普通に仕事して、その一環で占い師に出会ってこの様さ。別になにも憎まなかった。今も昔も俺にできることをやり続ける。それが人生ってもんだろ?
「いやいやいや。貴様は絵美里を愛していたんだろ?それなのにどうして顔色一つ変えずに人を殺せるんだ?」
愛していた。確かに俺は絵美里を愛していた。そういったものが尊いことも知ってる。でも、なぜか俺は人を殺すという行為に何の感情も湧かない。摩耗していったわけじゃない。初めからないんだ。ぽっかりと胸に穴が開いたように、底の抜けた瓶に水を注ぐように、そこには何もないんだ。
もういいだろ?これ以上なんにもならないだろ。
「…。貴様は元々そういう人間なんだな。憐れむべきはその性質であったのか。貴様は貴様の世界ではサイコパスと呼ばれる存在、であってるか?」
知らない。別にそんな定義付けしたところで俺自体は変わらない。
「いや、貴様は確かに変われるはずだ。一度体験したはずだろう。貴様は絵美里によって一時は変わったのだ」
魔物が水の形を変える。そこには翼の生えていないクロノスにそっくりな少女がいた。
「ほら、これが築地花だ。今、貴様が目をそらし続けているクロノスは貴様が人の心を取り戻す唯一の手掛かりだ」
クロノスが、築地花が俺に笑いかける。両手を広げてこちらを待っている。
花…。俺は…。
場面が一気に切り替わる。ひび割れた石畳、遠くを見れば山のような魔物の軍勢、異形のモンスターが街人を殺して回る。血の匂いと上がる火の手がここを地獄だと示している。花が俺の手を離れて駆けだした。
「待て!花!そこは危ない!」
水がグリフォンの形になって空から現れる。グリフォンの瞳が禍々しく光る。
「よく見ておけ。築地慎吾、これが貴様のやることだ」
「やめろ!」
グリフォンの鉤爪が花の胸を貫く。血の華が咲き、花だったものが打ち捨てられる。俺は…。俺は…。
「うわああああああああああああああああああああああああ!」
絶叫はどこにも響かず、何にも届かなかった。俺は自分が立っているのかどうかも分からなくなった。
「貴様は矛盾している。その感情があれば、凶行は止められるはずだ」
俺はこんなにも、花のことをクロノスのことを大切に思っていたのか。あいつが死ぬところを想像すると胸が張り裂けそうになる。
俺は他人がいくら死んでもなんとも思わなかった。それが娘になると話は別になる。認めよう。俺は変わった。それは間違いなく絵美里と花のおかげだ。
「お前は冷血じゃない。暖かい血の通った人間だ。築地慎吾。お前はまだきっとやり直せる」
やり直す?一体何をだ?
「今までの罪を贖うんだ。ダンジョン造りを辞めてな」
ダンジョン造りをやめる?この俺が?俺はクロノスの前で世界一のダンジョンマスターになることを宣言した。それをすべて捨て去るのか?
「そうだ。身を浄化するためにはそれしかない」
…。ふざけるな。絵美里と花はもういない。
「では、クロノスに抱いている気持ちはなんだ?」
それは…。残像だ。死んだ花の面影をそこに感じているに過ぎない。そうだ、これは絵美里の足跡だ。絵美里と花が与えてくれた残滓がクロノスに覆いかぶさっているだけだ。
俺はクロノスに抱いている本当の気持ちを見出した。絵美里と花というノイズを消し去った先にある純粋な気持ち。それは忠誠心だ。
「おいおいおい。勝手に進めるな。お前にはまだ人の心がーーー」
あるかもな。だが、もう絵美里と花はいない。俺はやっとそれを受け止めることができた。絵美里も花も失った俺に役目を与えてくれたのはクロノスだ。俺は魔王になることでそれに報いることができる。
クロノスを魔神にする。魔の国を造る。街を堕とす。思考がクリアになっていくのが分かった。
「お前は自分の良心に逆らってダンジョンを造り続けるのか?」
俺は絵美里と花がくれたものを全て捨てる。絵美里と花がくれたこのぬくみは今の俺には必要ない。ただ魔神クロノスのために、自分のエゴのために、俺はダンジョンを造る。
「ちっ!面倒だが、次は幼少期にでも遡るか?お前はまだ変われる」
変わり続けることを選べてたら絵美里と暮らしていけてたかもな。だが、俺はそれを選ばない。生まれ持った使命なんていうものがあるなら、俺にとってダンジョンは使命だ。俺は捨て去ることでまた一つ強くなった。
「ダンジョン造りがお前に何を与える?人を殺す喜びか?軍勢を従えることによる愉悦か?人の尊厳を踏み躙る幸せか?」
どれも違う。俺はクロノスから魔王になることを命じられる前からダンジョン造りに喜びを感じていた。
DPが増える。モンスターを呼ぶ。侵入者を殺す。DPが増える。ダンジョンを拡張する。侵入者を殺す。
地球にはなかったこのシンプルな命の駆け引きが俺にとっては心地がいいんだ。
日本では失敗したところでよっぽどのヘマをしない限りは生き延びられる。
だが、ここでは一つのミスが死につながる。そして、俺にはそのぐらぐらな橋を渡れる能力がある。どこまで行けるか試してみたいんだ。たとえ、その橋がどこにも繋がっていなかったとしても。分からないよな。
「...私にもそういう時期があった。無鉄砲に泳ぎ回り、命が燃えるように熱くなるような、若くて恐れを知らない時が」
もうお前のターンは終わったか?次は俺の番な。魔物、お前はまだ終わっちゃいない。ここに”幽体”という術式がある。これをお前に刻印することで、老いた肉体を脱ぎ捨てて、土の上でも、外海でも、自由に泳ぐことができるようになる。
「ほう。術式を理解するものがようやく現れたか。しかもモンスターに刻印できるほど技術が発達しているとは。短き一生でよくぞそこまでたどり着いたものだ」
ああ、お前には技術がない。自分で自分の身体にこの術式を刻み込むのは不可能だろ?俺たちがやってやる。ただその対価として力を貸せ。
「何度でもいうが、人に仇なすものは潰すのみだ」
残念だ。お前に染みついた奴隷根性は洗い流せないようだな。
「奴隷?私のどこが奴隷だ?」
奴隷だよ。文献を漁らせてもらったが、お前がまだ若いころ、お前には番がいた。そうだろ?
「ああ、いたよ。だが…」
人間に殺された。それは遊び半分で番が船一つを転覆させたのが原因だった。傍にいたお前も標的にされ捕まった。そして命からがら、逃げ伸びたがそこで味わった屈服が今もお前を苦しめている。
「ふふっ!あんな小さな人間を私が恐れているとでも?」
ああ、そうだ。おかしいと思ったんだ。そんなに大きな身体を持つお前が人間の船に干渉することが一度もないなんてな。人間が傍によるたび、びくびくと逃げ回っていたんだろう。波風立てないように低く潜り込んでは、敵意のないことを示す。それを正当化するために今度は人間の守護者を気取りだした。
「…。それがなんだ?それが真実だとしてお前に何ができる!お前はこれから私の体内で消化されるだけの存在だ!」
本当にペラペラとうるさいクジラだ。お陰でようやく支配できた。
「?」
オールマイトパラサイト!俺を吐き出せ!
「なに!?うごっ!うご!うおおお!」
クソクジラは俺の合図で嘔吐した。俺が操っていたダミー人形の目には”操縦”と”発話”が刻印されていた。ダミー人形が呑み込まれ目が人形から離れた時点でオールマイトパラサイトは俺の”操縦”を受けず、自由行動を始める。
果たしてオールマイトパラサイトが俺の”操縦”を離れて、ダミー人形からクソクジラに寄生するかは完全に運次第だと思っていたが、寄生虫としての本能か。やはり宿主は大きければ大きいほどいいらしい。見事にクソクジラを支配してくれた。体内から侵入できたというのが大きかったようだ。
俺は飲み込まれず外に出たズアイの”発話”の目を操作できたから、こいつの話に調子を合わせている間にナハにオールマイトパラサイトの支配を頼んでいた。ナハはこのクソクジラは支配できなくとも、オールマイトパラサイトなら支配できる。
よって、ズアイの目→ナハ→オールマイトパラサイト→クソクジラという順番で俺はこいつに嘔吐させることができた。
魂は肉体に帰り、意識はダンジョンマスターに戻る。
「だから、できるできないじゃなくて、やるんだよ!」
「グゥ…」
何かが俺の胸元を弄っている。一度ズアイの目と共有を解くと、滝のように汗をかいたヘパイストスがエレキゴブリンに俺を電気ショックさせようとするところだった。意を決したようにエレキゴブリンが帯電したとき慌てて止めた。
「いやいや、大丈夫だから」
「マスター!」
ヘパイストスが俺の肩から手を放し、両手を上げて喜んだ。可愛い奴め。だが今いいところなんだ。ヘパイストスを押しのけ、ズアイの目と視界をリンクする。
ナハの姿が視界に移る。どうやらダミー人形の元となった人間は既に海の底に沈んだようだ。
「ナハ、聞こえるな。そのままクソクジラを陸に近づけろ」
ナハは音の発する眼玉が宙に二つ浮いてるのをみて軽くビビってるが、意思疎通はできるようだ。
「…ますたー。そのまま陸で殺すの?」
「そうするのも良いが、もっとフェティッシュなやり方で使う」
「…フェティッシュ?」
「気持ちがいいってことさ」
「…いいね」
今回は久しぶりに俺もプッツンきた。神様気取りで俺を弄びやがって。お陰で多少思考はクリアになったが、それ以上に俺をコケにしたクソクジラへの殺意が圧倒的に上回っている。
クソクジラはオールマイトパラサイトに支配され、老体の限界を超えたスピードで陸に近づく。それは大きな波を伴い、陸にある海辺の集落に向かう。ギリギリまで近づき命令した。
「ストップだ」
その波は慣性に従い、海辺の集落を飲み込んだ。津波だ。俺はズアイの目ごしに津波の音というのを初めて間近で聞いた。
”発声”の術式持ちのズアイの目をクソクジラの耳らしき場所に近づける。
「どうだ。くそったれシロナガスクジラもどきくそ野郎。自分が大事にしていたものを踏みにじる気持ちは?」
(き、貴様。なんということを…)
クソクジラは自分が潰した海辺の集落を見て、愕然としているようだ。
(許さんぞぉ!邪悪な人間!)
「だいぶ危険な目に合ったが、一件落着か」
俺はオールマイトパラサイトにクソクジラの片目を自傷で取り出させて、代わりに”操縦”の術式のついたズアイの目を取り付ける。
「オールマイトパラサイト、戻れ」
オールマイトパラサイトは海面に出てきて、海辺の集落のあった場所に直行する。次の寄生先を求めているんだろう。”操縦”のついたズアイの目をモンスターに埋め込むことでそのモンスターを直接支配できる。そしてそのモンスターは”操縦”の術式に加えて別の術式を刻印することも可能だ。
モンスター相手にはもはや遅れは取らないと思っていたが大誤算だ。俺は潰れてない方の目を覗き込み、言った。
「お前には”幽体”の術式を刻印し、一生俺がこき使ってやる。あと、俺の名前は築地慎吾な。よろしくクソナガスクジラ」
俺はズアイの目を使い海面に合成魔方陣を投影した。ゴーストを術式にして、クソクジラに刻印すると、クソクジラから巨大な青白い霊体が浮かび上がる。俺の指示通り忠実に動き、海水を飲み込んだ。すると、半透明の胎の中に魚がたまり、吐き出された。魚はぴちぴちと陸に上がり、俺はこいつがしっかりと機能することを見届けた。
こいつの仕事は二階層のモンスターの運搬だ。幽体で飲み込んだモンスターを地上で泳いで運搬する。これで湖の水とモンスターを同時に移送できるようになった。久々に冷や汗をかいたがなんとかなった。
「ナハ。帰還してくれ」
「…了解」
視界リンクを切断し、座り込むとヘパイストスとエレキゴブリンが心配そうに俺の様子を伺っていた。
「ああ、悪かった。もう大丈夫だ」
ヘパイストスが胸をなでおろす。
「そっか。ならいいけど気をつけろよ。マスター」
本当にヘパイストスの言うとおりである。慢心してはいないつもりだが、初見殺しを長い間食らってなかったため、油断しているところがあった。だが、結果としてはヒュドラ級のモンスターを手に入れることができた。クソクジラが100000DP分働くとして、1600000DPは準備できた。
ぶっちゃけ言うとかなりギリギリだ。しかし時間は待ってくれないし、ジル・レイスに延期を申し込むこともできない。やるしかないのだ。できることと言えばコスパの良い合成モンスターを探し、合成すること。うちのモンスターは強い。それを信じてその日を待つ。
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