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築地慎吾による邪悪なダンジョン経営  作者: サムライソード
第一章
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第十六話

さて、一つ目の瘴気のたまり場にたどり着いた。オホ森の10分の1程度の大きさしかない小さな森だ。鬱蒼とした夜の森を抜けるのはうんざりするが、ここは丁寧に行かないとな。


魔晶石は奥に行けば行くほど着実に瘴気を吸い大きくなる。


「マスター」


ヘパイストスが短い警句を放つ。どうやらお目当てのものにたどり着いたらしい。木々のざわめきに紛れて何か大きなものが前後左右を取り囲む。


「出てこい」


茂みから一匹のハウンドが現れた。フォレストハウンドだ。その目には迷いが浮かんでいる。足手まといを抱えた赤い髪の強者が一匹。


「(何の用だ?)」


フォレストハウンドが睨みを利かす。


なんか喋ってるっぽいな。ヘパイストスは全く気にせずぼーっとしてる。


「ヘパイストス。通訳、通訳」


「あ、ああ。忘れてたぜ。何の用だ、とさ」


「俺は【魔王】築地慎吾。お前たちには今日から俺の眷属になってもらう」


ヘパイストスが通訳すると、フォレストハウンドは笑った。


「(け、け、け、眷属ぅぅ!?おもろ!これはおもろい!おもろすぎてオモロー山脈登頂してもうてますやん!)」


イラッ。なんだこの面白くない関西人風のフォレストハウンドは。取り囲むフォレストハウンドもこちらを嘲笑しているようだ。


「面白がろうが、面白くなかろうが、どうでもいいが、お前らには既に選択の余地はない。魔晶石、全部吸い出せ」


魔晶石を中心に瘴気が渦巻く。見る見るうちに毒々しい煙が晴れていった。


「(は?なにしてんの?)」


これで魔晶石はこぶし大にまで膨らんだ。まだまだ夜は長いが、ペースアップしないとな。


「ここから北にダンジョンを作る。ダンジョン付近の瘴気は全て一掃するため、お前らが種の繁栄を望むのなら、ダンジョンに向かえ。以上だ」


「(おい、お前らぁぁぁ!なめとんちゃうぞぉ!)」


フォレストハウンドが地を蹴り、肉薄してくる。


「ヘパイストス、一匹だけだ」


「りょーかい」


森の中央で一瞬巨大な火柱が立ち、それはすぐに消えた。森の生き物たちは深い闇を切り裂く光に一瞬身をすくめた。フォレストハウンドだったものは風に乗って消える。


フォレストハウンドの群れは、一番端に居たものから彼我の差を感じ取り、一目散に逃げていった。


よし。こんな感じでミリス神聖国の瘴気と魔物を集めていくぞ。道中はヘパイストスに荷台を持たせそれに乗り、時間短縮した。一週間を使ってじわりじわりと侵攻していく。


ついでにナハへの教育も進めたが、彼女は想像以上に知識に貪欲で、わずか一週間の間で簡単な意思疎通は取れるようになった。


俺たちが廃坑に辿り着いた頃には、魔物は失われた瘴気を求めて、どんどん廃坑に吸い込まれていた。


三人で顔を見合わせる。ナハもヘパイストスも目を輝かせている。俺たち三人は魔物たちが巣食う廃坑に堂々と足を踏み入れた。俺たちに牙を剥けるような馬鹿な真似をする奴はいない。最深部に向かう途中、この廃坑を取り仕切ってる魔物の首根っこを掴み、連れてきた。


そいつはセイレーンだった。本来、水辺でしか生活できないはずだが、魅了を使って付近の魔物に水を運ばせていた。ダンジョン造りに丁度良い素材だ。こいつの術式は魅了。これを従順な魔物と合成させて、ダンジョン拡張に利用しよう。


俺は魔神図鑑を取り出し、適当なモンスターをピックアップする。ダンジョンコアがあれば、適当な人間と合成させればいいからこんな手間はかからないんだが、生憎ダンジョンコアは使えない。


ペラペラと図鑑を捲っていると、その手をナハが抑えた。ナハはこちらの目をじっと見てくる。


「どうした?ナハ、今は構ってやれないぞ」


「…ナハ。役立たず。ナハ。要らない」


ナハの表情は真剣そのものだった。俺の頭にある考えが過る。もしモンスター合成を人間でやれるならどうなるだろうか。もしナハとセイレーンを合成出来たら、魅了の力を持った配下が生まれる。さらにナハとは奴隷契約で結ばれているから裏切られる心配もないだろう。ヘパイストスが割り込んでくる。


「おいおい。マスター。あんだけの金使ったのに雑に合成なんてもったいなくないか?わざわざ、こんな虚弱なナハを使わなくても、こいつにかかった100分の1の金があれば屈強な男を奴隷にできるぜ」


「そうだな、ヘパイストス。そして屈強な奴隷が100人いたとしても、人間に魔物の術式を刻み込むなんてできやしないだろう」


ナハが下を向く。


「しかし、だ。何も俺やジル・レイスが高値を張ってでもナハを欲しがったのには理由がある」


「理由?このナハに?」


「ああ、このナハは元々小国の姫だった。ヘパイストス、なんで人界において姫やら王子やらが尊ばれているか知ってるか?」


「そんなの人が馬鹿みたいに権力を誇示するためだろ。言ってしまえば洗脳だ」


「洗脳か。確かにその側面もあるだろうがしかし、それよりももっと実利的なわけがある。それは運命という概念だ」


ナハがこてんと首を傾げた。


「…運命?」


「そうだ。人の集団が繁栄し拡大していくには運命が必要になる。それは神から力を預かった者、はたまたそのもの自身が神になることなどで運命は生じる」


「なんか嘘臭い話になってきたな」


「ヘパイストスが納得するように言うなら、逆なのかもな。昔、集団をまとめるために自分を神の使いだと言い張るペテン師がいた。だが不思議とそのペテン師のいる集団は発展していった。それが何百年と続いたことで結果として運命という概念が生まれた」


「もとの問いに戻ろう。なぜナハが尊ばれるのか。それは強固な運命にその身が守られているからだ。王族の血をひくものはそれだけで死ににくくなる。今までナハが奴隷に身を窶してまで生き残れたのはまぎれもなく運命の力だろう」


「…ナハ。ますたーの役に立てる?」


「試して見る価値はある」


合成魔方陣を懐から取り出す。それをズアイの目で読み込み、地面に映し出してセイレーンとナハをその上に乗せる。もはや巨石くらいの大きさの魔晶石から瘴気を引き出し、魔法陣に注入する。ナハが苦し気に呻く声が聞こえる。


「う、うぐっ」


それでも瘴気を注入し続けると、バタンとナハが倒れる音がした。ヘパイストスが焦る。


「マスター!これ大丈夫なのか!?」


「分からん!」


「えぇ!」


すると次の瞬間注入していた瘴気が一気に噴き出し、辺りが黒い煙で包まれる。魔晶石に無理やり黒い煙を吸収させると、合成魔方陣の上にはうずくまるナハがいた。


ヘパイストスがナハの肩を掴み揺さぶる。ナハはゆっくりと目を開けた。その目は瞳孔が縦に開いていて、ターコイズを連想させるような美しいブルーだった。両腕には鱗がびっしりと生えており、服も背中の奴隷契約紋がしっかりと見えるような黒いドレスを身に纏っていた。黒髪も光の加減で艶やかに見え、その年齢以上の妖しさをナハは持ち合わせていた。


ナハは立ち上がると、俺に跪いて言った。


「…ますたーに忠誠を」


「その忠誠しかと受け取った」


俺はナハに早速、仕事を頼んだ。


「亜人種、中でも手先が器用なやつをここに集めてくれ」


ナハは頷くと、廃坑全体に向かって歌いだした。セイレーンらしいモンスターの操り方だ。俺には奴隷契約のおかげで影響はなかった。ヘパイストスにも影響はない。格の違いってやつだろう。


ナハの歌声に反応して人型の犬、コボルトがやってきた。後はゴブリンレンジャーやドルイドがきた。


「全員!今から投影する魔法陣を地面に刻み込んでくれ!」


ナハが命令すると亜人たちは一心不乱に魔法陣を書き込んでいった。本来ならこの作業はヘパイストスに脅させてやるつもりだったが、魅了にかけた魔物の方がすぐに終わりそうだ。ヘパイストスが聞いてくる。


「これは精霊魔法陣だよな。何を呼び出すんだ?」


「まずは土の精ノームを呼び出す。そして廃坑をダンジョンにする、極端に狭い通路や無駄な行き止まりをなくし、各階層には中くらいの魔晶石を埋め込む。ダンジョンを階層分けし、モンスターの棲み分けを図る」


「うへぇ。やることいっぱいだ」


「ヘパイストスはナハの魅了に耐えるモンスターをまとめて地下に押し込んでくれ」


俺は何するかと言うと、まずは全体の把握だ。この廃坑をダンジョンとしてとらえると、まず一階層はコボルトやゴブリンなどが闊歩するエリア。二階層はシャドー、サキュバス、ガーゴイルが支配する。三階層はオーガのテリトリーだ。


この三階層のダンジョンだが全体的にレベルが低い。三階層のオーガでもDP換算で2500DPしかない。これでは到底街を堕とすなど無理だし、二週間で潰れる可能性の方が高い。ダンジョンの拡張や罠づくりはノームに任せて、高位冒険者以上が探索できるレベルに仕上げないといけない。


ミリス神聖国は優れた教育と豊富な魔道具で普通の村人も低位冒険者レベルの力がある。その分侵入者を殺すことで得られる瘴気は多くなる。瘴気はうちの生命線だ。瘴気が無くなれば素材となるモンスターは消えていき、ダンジョンは弱体化していく。ちなみに先ほど行ったように合成でも瘴気を使用するし、素体が強力であればあるほど瘴気はかかる。


DP=瘴気。そう考えてもらってもいいだろう。今、せっせとゴブリンレンジャー達に精霊魔法陣を彫ってもらっている。こいつらには合成魔方陣を扱う権限を渡していないから、当分の間俺は黙々とモンスターを合成し続けることになるだろう。


モンスター合成を成功させて、レアなモンスターを生み出せばそれ目当ての人間が増える。ちなみにモンスターを倒すことでポイントを増やすことはこのダンジョンではできない。あくまでDPを使って呼び出したモンスターがポイントになる。


ミリス神聖国の人間は魔物から取れた素材を加工する技術にも優れている。わざわざDPを介さなくともダンジョンは宝の山だという認識は出来上がっている。ここら一帯の瘴気もすべて吸いつくした。二週間もあれば押し寄せるように人が来るだろう。


召喚された土の精は現場監督だ。土の弱いところを示し補強させ。ダンジョンを拡張させるための道しるべになってくれる。そうだな。まずは土木作業用のモンスターを作らないとな。


「パワーが欲しい。オーガの”膂力”は必須か。あとは持久力に優れた個体が良い。…ミノタウロス。フォレストウルフの森にいた奴だな」


ぶつぶつと唱えながら、ナハにオーガとミノタウロスを呼び出させて合成する。魔晶石からかなりの量の瘴気が取られた。黒い煙が晴れるとそこには牛の頭をした筋骨隆々の見上げるほどの大きさの魔物が立っていた。


「牛頭。お前の種族名は牛頭だ」


牛頭は一瞬、目の前の俺に殺意を漏らしたが、それを察知したヘパイストスが殺意を当て返した。俺は牛頭に命じた。


「お前はノームの指示に従え。分かったら一階層まで上がれ」


牛頭は震えながら一階層へと上がっていった。フロア全体はズアイから追加の目を貰って監視中だ。牛頭は無尽蔵の体力と恵まれた膂力で穴を掘り続けている。しかし、砂が牛頭の足元に溜まり始めている。


次は砂を排除できるモンスターか。うーむ。難しい。こういうアイデアだしならクロノスが一番得意なんだけどな。今、クロノスは忙しいだろうし、そうだ!あいつに頼ろう。マイカ魔法大国産の電話機を荷物から引っ張り出して電話をかけた。あて先はもちろんジル・レイスの個人携帯番号だ。


プルルルル…ガチャ


『ジル・レイスだ』


「こちらは築地慎吾だ。今話せるか?」


『…』


「音声が返ってこない。故障か?」


『…故障じゃないよ。びっくりしてるだけだよ』


「そうか、ならよかった」


『…君がどうやって僕の携帯番号を知ったのかはひとまず置いといて、君は今の僕の状況を知っててのこの愚行かい?』


言葉端から怒気を感じる。どうやら俺がジル・レイスの今の状況を汲めなかったとみて失望しているらしい。


「いやなに。今回は取引の電話じゃない。友人としての電話だ。なら問題ないだろう」


『問題はないが僕も暇じゃないんだ。用件によっては切るよ』


「観光地の話だよ。レイス卿ならきっと興味を持つと思ってな」


『観光地?』


「ああ、依然栄えていた貴殿の街の北側にある廃坑で今観光地を作っているんだが、知見を貸してくれないだろうか」


『…言ってみなさい』


「普通に答えられてもつまらないからここは趣向を凝らして魔物を労働者として使えたらの話をしよう。まぁ、もちろんこのミリス神聖国で魔物を扱える人間などいないがね」


『…切るよ?』


「待て待て、ここで面白いのはその労働者が合成できるとしたらという話だ」


ジル・レイスの声が微かに震える。


『もし、その労働者が僕の愛してやまないものだとするのならば、それは信じられないことだ。モン…労働者を合成するなんて』


さすが、ミリス神聖国の切れ者。理解が早い。


「今ちょうどオーガとミノタウロスで牛頭を作ったばっかりだ。今は砂を運べるモンスターを探している」


ジル・レイスが少し考えこむ。


『にわかに信じがたいが、その場合ならデスワームとオルトロスあるいはケルベロスを合成するのが良いだろう。砂を運びたいのなら口はたくさんあった方がよろしいかと』


「なるほどな、確かデスワームは砂を食べて排泄するモンスターだったな」


俺はオルトロスにデスワームとメモしておいた。


「あとは地下にも森や湖を設置したい」


『森の場合はトレントと何か血を吸う生き物、例えばジャイアントヒルとかを合成すれば、日光がなくても作れそうだ。湖は水スライムとアシッドクラウドを組み合わせたら出来るんじゃないかな…。いや、実際に外の水源と繋げた方が長期的にはメリットがあるのか。となると水の精ウェンディを呼んだ方が良い』


「そうかそうか」


『というか、貯蓄ができるマナクリスタルを精霊たちと合成させれば、そんなことせずに一発で砂も水も移動できるんじゃないか?』


「残念ながらそれは非効率的だった。砂も土も貯蓄はするが圧縮まではしないから結局袋に詰めて移動するのと変わらなかった」


『じゃあ、火や風の精霊は?質量のない彼らならいくらでも貯蓄できるはずだ』


「それもそうだな。今度試して見る」


『いやいや、そんな悠長なこと言ってないでさっさとやりなよ。下手したら産業革命を起こす以上の発明だよそれ』


「それが発明だとしても既に特許はマイカ魔法大国に取られている。今頃マイカ魔法大国ではエネルギー革命が起きてるだろうな」


『冗談だろう。君はマイカ魔法大国の回し者だったというわけか?』


「まさか、向こうとはビジネスの関係だよ」


『…君は一体何がしたいんだい?』


「俺の目的はシンプルだ。世界一の経営者になりたい。それだけだ。たとえ向こうが魔物合成技術を手に入れたとしても、魔物を扱う時点でこちらの優位は変わらない。戦ったとしても必ず勝つさ。まっ、すべて空想上の話だけどな」


『…』


ジル・レイスの心がグラグラと揺れているのが手に取るようにわかる。だが、先ほども言ったようにこれは空想の話。向こうには何の物証も与えていない。


「貴重な意見、助かったよ。やっぱりお前はこういう話の方が生き生きしている。また電話するぞ」


『…分かった』


通話を切ると早速砂を運ぶためのモンスターを作る。モンスター合成の細かい話だが、モンスター合成には素体と術式がいる。例えばオルトロスとデスワームだが、オルトロスを素体にデスワームから”砂食い”の術式を合成したら、それは砂を食うオルトロスになる。逆にデスワームを素体に”双頭”の術式を合成したら、お目当ての頭が二つあるデスワームになる。


まあべつにここの理解はアイデア出しの段階では気にしなくともイメージ通りのモンスターは作れる。ダブルデスワームと命名したモンスターはナハの魅了にしたがって働きに出る。弱いモンスターはナハ。強めのモンスターはヘパイストスと役割が決まったようだ。


ナハがモンスターを操れるようになったのは嬉しい誤算だ。低DPのモンスターほど知能が低く細かい話が通じない。しかし魅了ならばダイレクトで一挙一動に命令を出すことができる。すばらしい。ジル・レイスに出鼻は挫かれたが、我がダンジョン運営は軌道に乗り始めている。


どれもこれもモンスター合成というチートによるものだ。このアイデアと技術はもちろん俺が天啓を受けて発案したものではない。それは灼熱の坩堝戦の前、街の兵隊を追い返したすぐ後のことだった。突如として現れたその女は、レイラと名乗った。


「…ますたー。次連れてきたよ」


「あ、あぁ。ありがとう」


今更奴とのことを思い出してもしょうがない。モンスターを合成できるのは俺しかいないのだから手を動かさなければ。


トレントを素体にジャイアントヒルの”吸血”を合成すると血染めのトレントになった。普通のトレントとは違って葉っぱが灰色になっていて、ゆらゆらと動いている。


次はアシッドクラウドを素体に水スライムの”貯水”を合成するとメガアシッドクラウドになった。アシッドクラウドはあまり害のない灰色の雲だったが、それが巨大になったことで災害をもたらしかねないほどのポテンシャルを手にした。


火、風、雷、闇の精霊をマナクリスタルと合成し、魔晶石をそれぞれの属性でつくる。ゴブリンレンジャーに罠を仕掛けさせかなり理不尽なトラップを作らせる。何の前触れもなく、目の前の奴が丸焦げになるみたいなことも起こりうるだろう。


理不尽だが、ミリス神聖国は他の国とは格が違う。このくらいで丁度良い。


ただひたすら三日間ぶっ通しでモンスターを合成していると、早速侵入者が現れた。


侵入者はズアイの目でしっかり捕捉されてダンジョンマスタールーム(仮)に映像が届いている。こっちはひたすらにモンスターを合成しているから、正直あまり構ってやれない。侵入者は見かけ以上に巨大化しつつあるダンジョンを発見し戦慄してすぐに帰っていった。


DPで言うなら丁度400DPくらいだろうか。ダンジョンマスター部屋の魔晶石でダンジョン全体の瘴気を感知すると、増えた量は微々たるものである。誤差と同じだ。さすがにキューブほどの正確なDPコントロールは求めていないが大まかに瘴気をDPに変換できるとしたら1000000DPはあるんじゃないだろうか。


おっと、ヘパイストスから通信だ。


『マスター、現在三階層にいるトロールについての連絡だ。どうにもこいつらのいびきがうるさすぎて、周りの魔物たちが殺気立っているようだ。至急対応求む』


なんだそのヘンテコファンタジーな案件は。適当に長い横穴掘ってトロール用の寝床を作ったらいいだろ。


次はナハからの通信だ。


『…ますたー。こちら一階層。地下世界を広げてるんだけど、穴掘りすぎて配下のゴブリンの腕が消えた。至急対応求む』


ゴブリンの両腕がなくなるまで穴掘らせてるのか。えげつないな。なにか重機に変わるモンスターを合成する。あとゴブリンにスコップを使わせろ。


ピピピ。次はジル・レイスの連絡だ。


『築地慎吾殿、一つ革命的なアイデアを思いついたんだけど、忘れないうちに連絡しようと思って電話したよ。あのさ、こういうのはどうだろうか』


ジル・レイスの話を聞きながらもモンスターの合成を続ける。俺は自分に言い聞かせた。俺は機械だ。入力されたデータに適切な出力をするだけのマシン。ダンジョンマスターになってから常に頭はさえわたっている。睡眠も食事も排泄も必要ない。ただ目標のために動き続けるマシン。


しかしどこかでこれをしたことがあるかのような、デジャヴのような、奇妙な感触があった。モンスターとモンスターを並べて新しいモンスターを作る。その行為になんだかリズムが浮かんでくる。詩が口から漏れ出る。


(ズズチャチャ、ズズチャチャ、ズズチャチャ)


「...I have a pen(トレント)


トレントが身をよじらせながら魔法陣に乗る。


「I have an apple(ジャイアントヒル)


ジャイアントヒルが魔法陣に乗った。


瘴気を引き出し二体を合成!


「Oh! Apple pen!(血染めのトレント)」


アップルペンだ!


「I have a pen(オルトロス)


オルトロスが魔法陣でお座りしている。


「I have a pineappleデスワーム


デスワームがうにょうにょと乗った。


瘴気を引き出し二体を合成!


「Oh! Pineapple pen!(ダブルデスワーム)」


パイナップルペン!


「Apple pen.(血染めのトレント)

Pineapple pen.(ダブルデスワーム)」


瘴気を引き出し二体を合成!


「Pen-pineapple-Apple-pen!(キメラ)」


キター!PPAPの完成だー!このキメラは完全にキメラだ。超グロい。


「PPAP!フゥワフゥワ!PPAP!フゥワフゥワ!」


『築地慎吾殿?』


「なんだ?」


一瞬でPPAPの陶酔から目が覚める。ジャスティンビーバーを魅了した音楽も俺を完全な狂気に駆り立てることはできなかった。


『いや、なんだじゃなくてそのキメラはどうするの?』


「このPPAPは戒めとしてここに残しておく。理論上は合成したモンスター同士を合成することはできないとは知っていたが、一応試しておかないとダメだろ?」


『そ、そうだね。君が奇妙な音楽で踊ったのを見て、てっきりダメになったのかと思ったよ』


「こっちは問題ない。話を続けてくれ」


『それじゃあ続けるけど、シャドウマリオネットっていう魔物は知ってるかな。相手の影を奪い、身体の自由を奪って殺しちゃう魔物なんだけど、こいつにハンドレッドハンズっていう無数の手が生えてる魔物を合成しちゃうのはどうかな!』


「ほうほう、”操縦”の術式で多数の手を操る算段か」


『そうそう、さらにそのハンドレッドハンズを慎吾殿が操ることで合成にかかる手間を少なくできると思うんだ!』


なるほどな。良いアイデアだ。やはりジル・レイスは仲間にしたい。このアイデアが上手くいけばかなりの時間を節約できる。というか、これ本来は俺が思い浮かぶべきだろ。いずれこの役割を誰かに継承するつもりではいたが、流石にもっと効率良くして引き継ぐべきだ。


「早速やってみよう。ナハ、ハンドレッドハンズとシャドウマリオネットの捕獲を頼む」


ちなみに通信の方法はマイカ魔法大国産のトランシーバーだ。技術はどんどん盗んで活用しないとな。


『なんていう名前にしようかな~!シャドウハンドレッドとかは?』


「そうだな。百手の影とかはどうだ?」


『うーん!採用!』


採用するのは俺なんだが…。まあいい。ナハが連れてきたハンドレッドハンズとシャドウマリオネットを合成する。素体はハンドレッドハンズ、術式は”操縦”だ。”操縦”の術式が刻まれたモンスターはナハの支配やヘパイストスの命令を受けなくても俺の命令に従う。また”操縦”の術式が刻まれたズアイの目をモンスターに埋め込んでもそのモンスターを操れるようだ。それはつまりモンスターが二つの術式を得られる可能性があると言うことだが、それはまた別の機会に言及する。


”操縦”があることで実体を持った百の手の影が俺の手の動きとリンクする。ハンドレッドハンズは本来無数の手が自由気ままに動き回るモンスターだったが”操縦”の術式を手に入れることで俺によって自由に操作されるようになった。


これで手が二本から百本にアップグレードだ。


俺はせっせと精霊魔法陣を書いている亜人種たちをちょっとのけて、百手の影を動かす。問題は瘴気を魔晶石から引き出せるかどうかだったが、簡単に引き出せてそのまま合成までいけた。


「よしっ!これがあれば魔晶石も他の合成モンスターも量産できる」


ちょっとまずかったな。合成に手を取られすぎて、他に手が回らなくなるところだった。ジル・レイスに成功したことを伝え、言葉を交わし通話を切る。


読んでくださりありがとうございます。


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