第十五話
さてと、こっちも手際よく進めていかないとな。整理しよう。タイムスケジュール的にはこうだ。
アーン街
↓
雨蜘蛛戦
↓
ング街戦
↓
カエサル帝国戦
↓
プルル王国戦
↓
ミリス神聖国戦
一か月後に街は堕とす。雨蜘蛛戦はすぐ終わるだろうが、カエサル帝国を陥落させるには少なく見積もって半年はかかるだろう。プルル王国も半年かけてじっくり落とすと考えると、ミリス神聖国に本格的に挑むのは一年後という計算になる。24日で累計使用DP、100000DPを超えたダンジョンを生み出した俺の手腕をもってしても、ダンジョンコアなしでのダンジョン造りは非常に困難だ。
一年あるとはいえミリス神聖国という巨大な組織の対抗勢力を作るためには一秒たりとも無駄にすることはできない。雨蜘蛛戦への一抹の不安はあるが、俺なしで勝てるだけの土壌はある。魔王になるためにはより優秀で信頼できる配下がいる。俺はあいつらのポテンシャルを信じることに決めた。
ダンジョンコアなしでダンジョンを作るこのプランを思いついたとき、俺は素直に俺ならできる、そう思い込むことができた。あとは実行するだけだ。
俺は黒い外套を羽織り、ヘパイストスと共に、ミリス神聖国に一番近いダンジョンへと転移する。ダンジョンの外に出ると、燦燦と輝く太陽がお出迎えだ。昼よりも夜の方を好むようになったのはいつからだろうか。ヘパイストスに抱えられながら、猛スピードで地を駆けていくとミリス神聖国にはあっという間についた。
ミリス神聖国は五大国の中で、一番の領土を持ち、人口も文明も他の国とはレベルが違う。5個の街と1つの首都で構成されているが、訪れた街の勢いは、プルル王国の首都並みの賑わいだった。
留まることのない人の波。話し声、腰に下げられた未知の道具。ヘパイストスが屋台の串焼きを物欲しそうに見ている。
「店主、串焼き10本」
「はいよ!」
ヘパイストスは感激する。
「マスター!ありがとう!」
「いいってことよ」
お前にはその串焼きで馬場車の如く働いてもらうことになるからな。
人の多い表街道を抜けて、ズアイが示す住所を目指す。
街の中心部にかなり近い所についたが、かなり立派な建物と敷地面積だ。これ取りついでもらえるのか?
門のそばにいた衛兵に声をかけるが、案の定取り合ってくれない。当たり前だな。こんな黒い外套着た二人が来ても普通は門前払いだ。
俺とヘパイストスは聞く耳を持たない衛兵を諦めて、直接その人物が居そうな場所を訪れることにした。裏門のすぐ近くの通りにある奴隷市場だ。
表街道にはなかった淀んだ空気。いやらしい笑い声があちこちから聞こえる。店頭に並べられるのは生身の人々だ。
「マスター。こいつらは元々他国の人間で、いわゆる聖戦でミリス神聖国に降った捕虜たちだ」
「なるほどな、道理で生傷が多いのか。その調子でどんどん案内してくれ」
ヘパイストスにもズアイからの資料をしっかり読み込ませている。ヘパイストスも根は真面目なようで暗記するまで読み込んできたようだ。俺は時間がないから細かいところはヘパイストスに任せてる。
「ここの奴隷通りに奴は足繁く通っているらしい。特にお気に入りなのがオークションで気前よく奴隷を買っているそうだぞ」
地下に降りよう。そう言ってヘパイストスが地下への階段に足を踏み入れようとした時、強面の黒服がそれを制した。
「おい、兄ちゃんたち。そこはな、迷子の子供でも行かない場所だ。痛い目見る前にとっとと失せな」
ここでも門前払いか。しょうがない。郷に入っては郷に従えだ。表には表のルールがあって、裏には裏のルールがある。
「ヘパイストス」
「おう!」
ヘパイストスは黒服に目を合わせる。黒服は素直に目を見たが、それだけで十分だった。自分はこいつの咳払い一つで簡単に死ねる。
そんな確かな死のイメージで黒服は屈服させられた。
「いいな?」
「あ、あぁ」
黒服は小刻みに震えながら道を譲った。俺は黒服の肩を叩く。
「お仕事ご苦労様。ところで一つ聞きたいことがあるんだが、良いか?」
俺は黒服のポケットに金を入れながら尋ねる。黒服は声を震わせながらも答えた。
「俺は下っ端だ。商品のことは何も聞かされてない」
「いやいや、もっと簡単な質問だ。革細工士は今日居るか?」
黒服は少し迷ってから答える。
「革細工士なら、今日も堂々と会場に入って行ったぞ。多くの人がそれを見てるはずだ」
「そうか、ありがとう」
俺は追加の金を黒服に握らして、ヘパイストスと共に地下に降りていった。地下は熱狂の渦に入り込んだようだった。ステージには次から次に奴隷が送り出されて、参加者たちは大声でそれを競り落としている。
「はい!それではこちらのカエサル帝国の元軍人!10000から!」
「ゾロ!」
「11000!」
「ピンゴ!」
「15000!」
「イライ!」
「22000!いない!?はい、22000!」
どうやら値段が決まったらしい。なにやってんだこれ?ヘパイストスが解説する。
「マスター、競りのときはこういう用語が使われるんだ。まぁちょっと見ててくれ。マスターが欲しい人材があったら俺が競り落とすから」
なぜか自信満々なヘパイストスに頷き、奴隷を吟味する。目的の人物への手土産として一人くらい買っても良いか。
人物を探しながら、奴隷が次から次へと買われていくのを見ると、今日の目玉商品が現れた。
「はい、こちらは先日の聖戦で潰された亡国の姫でございます!年齢は14才。記憶が飛んでいますが、血統は保証されています!100000からのスタートです!」
その奴隷はこの世界では珍しい黒髪で腰の辺りまで伸ばしていた。しかしそれも過酷な奴隷生活で本来の艶やかさを失っていた。
確かに記憶は失っていても、王族らしい気品が細やかな所作から伝わってきた。参加者の多くはその格段に見目麗しい容姿に今日一番の盛り上がりを見せた。ヘパイストスに命令する。
「あれなら手土産に相応しいだろ。買うぞ」
ヘパイストスは待ってましたと言わんばかりに声を張り上げた。
「アラシ!」
「111000!」
値段はどんどん釣り上がっていく。歴戦の参加者もうちの資金力には敵わない。気づけば、オークションは一対一にもつれ込んでいた。
「サンニー!」
「320000!」
「サナ!サナ!」
「370000!」
「サンキュー!」
競り用語が全く分からない俺にはヘパイストスが急にパンサー尾形の真似をしたように見えて驚いた。
サンキューって39のことか。ヘパイストスはパンサー尾形のことなんか知らないしな。競りは続いていく。相手の姿は見えないが、どこか中性的な感じの声だ。しかし、お互い譲らない。俺はヘパイストスに指示する。
「ヘパイストス、大金賭けていいから終わらせろ」
「え!?マスターなんて?」
どうやら興奮しすぎてこちらの支持もまともに聞こえていないようだ。ヘパイストスの肩を掴んで大声を出す。
「ドンっと賭けていいから終わらせろ!」
一瞬、俺の言葉に会場が静まり返る。競売人だけがいつも通りの顔で数字を返した。
「1000000!出ました!1000000!いませんね!はい!1000000!」
競売人は興奮した様子で机の上の鐘を叩いた。相手が1000000を受けて一瞬の迷いを見せた時に、勝負は決していた。俺としてはいきなり1000000の大金で決まって、現状がまだ読み込めていない。ヘパイストスが不甲斐ないといった様子で俺に何が起きたのかを説明した。
「マスター。申し訳ない。俺がもっと上手くやれてたら…。マスターがドン出してくれなかったら多分獲れなかった。さすがマスターだ」
やはり、ドンと言ったのがまずかったらしい。しかし1000000の大金、ズアイから貰った金の大半を占めるぞ。やっちまったなと内心冷や汗をかく。俺とヘパイストスは競売人に誘われて地下のさらに奥へと案内された。鎖に繋がれている少女を前にして、その美貌に場の雰囲気を飲まれかける。金に関しては既にミリス神聖国のキャッシュレス決済に乗り換え済みだ。
ピッという軽い音と共に大金が一瞬で移動する。ズアイの血と汗の結晶がこんな簡単に渡されるなんて。ありがとうズアイ。この金でもっと金を稼ぐからな。競売側の人間が、奴隷契約の紋章を彼女の背中と、俺の手の甲に刻み込む。俺はこれで彼女に関する全ての権利を手に入れたことになる。生きるも死ぬも俺次第ってことだ。
鎖が外されフラフラとこちらに歩み寄ろうとする。しかし糸が切れたように地面に倒れこんだ。
「ヘパイストス」
「応」
ヘパイストスが少女に肩を貸す。奴隷生活が長くて筋力が衰えているのだろう。ヘパイストスが俺の前に彼女を強引に連れてくる。地面を見つめていたその目が俺の目を見つめ返す時、黒いダイヤモンドみたいな美しい瞳が見えた。数秒、視線が交差する。俺はなぜか違和感を抱えていた。
「お前、名前は?」
俺は喉元からせり出す焦燥をそのまま吐き出すように尋ねた。
「...?」
「名は?」
「...ナハ...?」
少女の目に理性の灯火は僅かにしか残されていなかった。ヘパイストスと俺は瞬時に悟った。
「呆けてるのか」
一つ一つの所作は身体が覚えているのだろう。遠目で見たら確かにまともな人間に見える。だが、生活に必要な一つ一つの動作ができてない。ヘパイストスが競売人に詰め寄る。
「おいおい、これは記憶がないどころの話じゃなさそうだぞ」
「へへっ。血統は保証されてるので問題はないでしょう?それに一から教え込むことができるっていうのはメリットだと思いますがね。…もちろんあっちの方も」
「ヘパイストス」
ヘパイストスは競売人の顔面スレスレで拳を止めた。ヘパイストスは不満げな様子だ。
「マスター。こいつ舐めてるぞ」
「良い。いくらでも舐めさせとけ。こんなちっぽけな商会、後で潰せばいい話だ」
「へ、へへっ。取引は成立ということで」
そういうと男は奴隷をヘパイストスに押し付けて、次の客の対応に向かった。さて、自分の名前も分からないようなこの姫様はどう扱うべきか。とりあえず競売も終わったことだし、お目当ての人物をお伺いするか。
暗く重苦しい空気の地下から出ると、既に日は傾きかけていた。ヘパイストスが奴隷を担ぎ、視線を集めながらも、昼に来た屋敷にたどり着いた。昼と全く同じ衛兵に全く同じ理由で止められて、強行突破を考え出したその時、そいつは計ったかのようなタイミングで俺たちの前に現れた。黒を基調とした貴族服に白い手袋。年齢は15歳くらいだろうか。あどけない顔立ちに三日月のような不気味な笑みを浮かべている。
「ちょっと君。その人は僕の客人だよ。もしや無礼を働いていないだろうね?」
アメジストの大きな瞳がぐるりと回って衛兵を睨みつける。
「め、滅相もございません!坊ちゃま!」
そいつはくるりと衛兵に背を向けてこちらに向かって挨拶した。
「魔神教の皆さま、昼間は僕が不在だったということもあり、大変ご無礼をおかけしました。お手紙はジェニーズアイ殿から頂いております。どうぞ屋敷の方へお上がり下さい」
大げさなほどのお辞儀をして俺たちを招き入れた。屋敷は全体的に薄暗く、冷気が漂っていた。青白い火の玉が浮かんでいても気がつかないほど、不気味な雰囲気だった。ヘパイストスが身を竦める。
「さみぃ…」
そいつは応接間に俺たちを案内し、座って向かい合うと、にこやかに自己紹介をした。
「僕の名前はジル・レイス。皆様遠路はるばるよくぞ来られました」
「俺の名前は【魔王】築地慎吾だ。丁重なお招き感謝する」
「側近のヘパイストスだ」
ジルは俺たちをみてほぉと息を漏らす。そして、そのまま視線を横にずらして奴隷の姿を見た。
「その奴隷の姿を見るに、昼の競売で私と勝負していたのはあなた方だったようですね」
「おや、そうだったのか。こちらはお近づきの印にご用意したものだったのだが…」
「ふふっ。どうやらタイミングが悪かったようですね」
「まあいい。ジル・レイス殿受け取ってくれるか?」
「残念ながら、奴隷に関しては僕なりの流儀がありましてね。今回は断らせていただきます」
首を振るジルの意思はどうやら固いようだ。え?受け取らないの?
「さて、本日はどのようなご用件でしょうか」
ジルは雑談もそこそこに本題へと切り出した。
「単刀直入に言う。ジル・レイス。お前の黒魔術の知見が欲しい。魔王軍にその力を貸してもらえないだろうか」
ジルは待ってましたと言わんばかりの笑みを浮かべた。
「嫌です」
「えぇ!」
ヘパイストスが大げさに驚く。俺は予想外の返事に驚きながらも理由を尋ねる。
「うちの傘下に入れば、莫大な資金に、材料、身の安全まで確保されるが、それを断る理由とはなんだ?」
ジルは満面の笑みを崩さないまま答えた。
「当たり前でしょう。僕は人間である前に貴族です。レイス家としてこの小さな町を守る責務があります。不運なことに今、当主は危篤状態にあり、家の中も蜂の巣をつついたような騒ぎです。こんな状況で趣味に勤しむ時間はありません」
「嘘だな。お前に貴族としての矜持は存在しない」
「…僕はこれまで確かに人には表立って言えないようなことをしてきました。そしてそれが許されてきたのはレイス家の嫡男であるという地位があったからです。いよいよ僕がその責務を果たさないといけない時に逃げていれば、父や母、ひいてはご先祖様に顔向けができません」
「なるほどな。そういう建前できたか…」
ヘパイストスが耳打ちする。
「こいつ、想定よりも貴族らしいぜ。これは無理なんじゃないか?」
いや、こいつの腐った本性は既にズアイによって看破されている。それでもこいつが引かない理由は…。頭の中でパズルを組み立てる。こいつが最も求めるシチュエーションはなんだ。俺はこのままレイス家との話し合いが平行線を辿った時に起こることを考えてみた。一つ、最悪な想定が頭に浮かぶ。それに気づいた瞬間、ジル・レイスが悍ましい笑みを浮かべていることに気がついた。
ジル・レイスの求めるものが脳裏をかすめた。それを手繰り寄せながらジルの反応を引き出す。ズアイから貰った目を無理やり小さくして虫に埋め込んだものがばれないように展開する。
「実力を示せといったところか」
ジルは首を大きく縦に振りながら否定の言葉を口にする。
「はて?良くわかりませんが一月もすれば、神聖騎士団がうちを訪れるでしょう」
虫と視界をリンクさせてお目当てのものが見つかった。やはり盗聴器か。つまり期間は一か月。それまでにこの街を叩きのめせるほどの兵力を用意しろと言うわけだな。ヘパイストスがじれったく言った。
「ふたりして何の話してるんだよ!」
「話し合いは終わった。一月後同じ時間帯にまた来る。その時は色よい返事を待っている」
ジルは窓辺に立ちながら言った。
「その際は死体に躓かぬようご注意を」
帰り道、会話から置いていかれたヘパイストスに解説する。
「今、現在ジル・レイスは自由に動けない状況にある。会話も監視されている。それは当主が危篤になってジル・レイス反対派がジル・レイスを引きずり降ろそうとしているからだ。そしてジル・レイスは今の地位を保ちたいと考えている。その為に喉から手が出るほど欲しい奴隷も断り、魔王軍と公な関係になることを避けている」
ヘパイストスが言った。
「そんなのズアイからの報告になかったぜ」
「俺がズアイの目を持ってるのは知ってるだろ?それで屋敷を調べてみたら、あらびっくり。盗聴器が出るわ出るわ。ジル・レイスは今揺れてるんだよ。今の地位を保ったまま好き勝手するか。それか一気に身分を捨てて魔王軍で好き勝手するか」
「見極めてるんだな。うちは一体どうすればジル・レイスを確保できる?というかそもそもなんでジル・レイスが欲しいんだ?」
「簡単だ。うちはいつも通りのことをすればいい。ダンジョンを造って街を襲い、奴を地位から引きずり下ろす。しかし奴も神聖騎士団から目をつけられているからリミットもある。一カ月だ。それで勝負を決める。奴が欲しい理由については今後のダンジョン製作に大きくかかわる話になる。ゆっくり説明する」
俺とヘパイストスは暗闇に包まれた街を抜け、かつてこの街で栄えていた金鉱がある場所へと向かう。道中ヘパイストスにダンジョンコアなしでダンジョンを作る具体的なプロセスを説明する。
「この世界が瘴気に侵されているのはヘパイストスも知っての通りのことだと思うが、瘴気があることで我々はどんなメリットを得られる?」
うーんとヘパイストスは唸る。
「まずは人間が侵入できなくなるだろ?次に魔物たちが自由に繁殖できるようになる。こんくらいか」
「そうだこれは我が魔神クロノスの最終計画にもかかわる話だが、俺らがしたいことは畢竟、この瘴気を増やすことなんだ。そうすることでこの世界を実質的に支配することが魔神クロノスの狙いだ」
「そうなのか!マスターの方針的に人間とは共存していくと思ってたんだが、違うのか」
「違う。俺にとって世界一のダンジョンを作ることは目的だが、クロノスにとっては手段に過ぎない。俺は所詮利用される駒に過ぎないのさ。さて、当面の課題であるダンジョンをどうやって作るかだが、この瘴気を使う」
「なるほどな!瘴気のある場所にダンジョンを作って、魔物を繁殖させまくるっていうわけか」
「その通りだ。瘴気を増やして、戦力を蓄え、街を一気に攻め落とす」
「分かりやすくなってきたぜ!それでジル・レイスはどう関係してくるんだ?」
「ジル・レイスは巷では革細工師という忌み名で呼ばれている。奴は死体を素材に悪魔を召喚しているんだ。死体を生贄にし、肉と骨が無くなり皮だけが残されることからそう呼ばれているらしい」
「そっか!ダンジョン作ってたら死体なんかいくらでも手に入るからな」
「そうだ。だから簡単にこっちに寝返ってくれると思ったんだけどな。やはり信用がないらしい」
「でも、戦力増やすためのその瘴気はどうやって増やすんだ?」
「これも今まで通り人を増やす。人を撃退したり、殺害することによって瘴気は増えていく」
「いやいや、それは無理があるんじゃないか。マスター。だって人は瘴気を吸ってしまえばすぐに死んでしまうだろ?なら、そんなところに人は来ないだろ」
「ちっちっちっ。そんな問題はとっくの昔に解決済みさ。こいつを見てくれ」
俺はズアイの目が搭載された、というよりはズアイの目の術式が搭載された小さい虫をヘパイストスに見せる。
「こちらはマイカ魔法大国の技術の粋を集めて作らしたモンスターだ。こいつはズアイの目と同じ働きをそこらの蚊と同じサイズですることができる」
「ふーん。確かにすごいがそれが瘴気と何の関係があるんだ?」
「モンスターを合成して新しいモンスターを作れるようになったってことだ。俺はクロノスに尋ねた。瘴気を移動できる魔物はいないか。クロノスは答えた。いっぱいいるよーってな」
例えばグレムリン。こいつは普段、人間に害を与えない魔物だが、ある特異な性質がある。それは瘴気を吸い集め、一部に集めるという性質だ。マイカ魔法大国ではそれは吸収の術式として体系化されていた。
俺にはあるアイデアがあった。ここにマナクリスタルという瘴気を蓄積するだけの魔物にこの術式を加えるとどうなるのか。
「どうなるんだ…?」
「正解はボンッ!グレムリンの性質を持った全く新しいモンスターの誕生だ」
俺はこのモンスターを魔晶石と名付けた。
「この魔晶石は人が来るときに瘴気を吸収する。マナクリスタルの貯蓄する性質も備えついているぞ」
「それってつまり…?」
「ああ、人がどしどし集まりながら、瘴気も貯めれるハッピーダンジョンの始まりだ!」
「おお!ていうかそんな技術があったら、魔晶石以外のモンスターも作れるんじゃないのか」
「そうだ、この技術をそのままモンスター合成と呼ぶ。今はまだ手作業で増やすほかないが、いずれは合成したモンスター同士で繁殖もするようになるだろう」
この技術を確立するまでマイカ魔法大国には大きな借りを作ってしまった。あの女のことを考えると、なぜか悪寒が走る。だが、モンスター合成には大きな借り以上のロマンがある。今までは状況に適しているモンスターを探していたが、これからは作ることができる。魔神図鑑で知識の方のアップデートは既に完了済みだ。
あとは素材となる魔物だが、これは金鉱にたどり着くまでにしっかりと集める。ミリス神聖国はダンジョンコアが弾かれてるだけで、少し村や街から外れると瘴気だまりがあり、そして魔物はいくらでもいる。
俺は首から下げていた紫にぼんやり光る魔晶石を手で掴み、ヘパイストスに見せた。
「これは特別製の魔晶石だ。こいつが巨石ぐらいの大きさになったらひとまずは良いだろう」
ヘパイストスは猫を掴むみたいに買い上げた奴隷を持ち上げた。
「こいつ完全に要らない買い物だったな…」
俺は欠伸をしながら適当に答える。
「俺は無駄な買い物などしない。こいつが役に立つ日はいつか来るさ。それまではヘパイストスが相手してやれ」
ヘパイストスが肩を落とす。
「まじかよ…」
「名前を決めよう。何か案はあるか?」
その時、少女が小さく呟いた。
「…ナハ」
「だってよ」
「じゃあ、お前の名前はナハだ。よろしくな、ナハ。俺の名前は【魔王】築地慎吾。こいつはお前の兄貴分ヘパイストスだ」
「…」
「よろしくも言えねぇのか」
少女の目に僅かに理性が戻る。
「マオー。ヘパ」
指さしながら名前を復唱する。どうやら人物の識別はできるらしい。いや、できるようになったのか。
ヘパイストスが乱雑に少女の頭を撫でる。
読んでくださりありがとうございます。
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