第十四話
現在の総戦力を確認する。
冒険者約300人、村に残っていた冒険者110人、街の兵隊あわせて約150人。合計で660人の死体を戦力に換算すると1056000DP。
グールもおなかいっぱいで幸せだろうな。まあそんなのんきなこと言ってないでグール(1300DP)をとりあえず30体用意すると仮定する。39000DPの戦力が追加される。
こいつらは街の兵隊と戦っても仕方ないから、オホ森の実質支配地拡大に努めてもらう。現在街では400人の冒険者と10人の高位冒険者が消え、その上、街の兵隊の半数、150人が死んでいる。街は非常事態宣言を出し、人々を避難させているようだ。
シラカバ村もほとんど機能していなかったが、もう既に村はもぬけの殻だった。この調子だとミズナラ村もそうだろう。次にダンジョンに来るのは少数精鋭の高位冒険者(5000DP)と街の兵隊(3000DP)の混合部隊だ。
勇者(8000DP)や超越者(10000DP)は基本的に王都で暮らしているが、要請があれば重い腰を上げてダンジョンを潰しに来る。というか今要請中らしい。我らが序列1位のジェニーズアイはなにやら爵位を貰ったらしく、情報の質がぐんと上がった。
もちろん、カイトが村で儲けた金とポイントをズアイに預けたからなのだが、さらに内部に入り込むためか次は選挙に出るらしい。魔神教というクロノスも知らない謎の宗教立ち上げ、頭のおかしい人たちを束ねている。
昨今の血生臭い情勢もあり、魔神教は勢力を広めているようだ。なんだろう。ズアイがどんどん遠い人になってしまう。最近は少しの間未来が見えるようになったらしい。ズアイが預けてくれる目の数も増えてきて、ぶっちゃけズアイがいるといないでは大違いだ。ちなみに今のズアイの目は一人で空を飛べるし、視界もリンクできる。簡単に操れるから、これ一つで偵察は完璧だ。ネームドモンスターは成長するといっても、そこまでいくとはだれも予想してなかったな。
最近の未来は無事、街が地獄絵図になっている様子を見たらしい。化け物じみた未来視だが、失敗する未来が見えていたら、どうすればよかったのだろうか。まあ、取り越し苦労だし、良い未来が見えたのならこっちとしては助かるからいいんだが。
街の総戦力を計算する。この1月で人々がスムーズに避難できたとしても、半分は街に取り残されるだろう。人口10000人の街に大体4000人が街に残される。そのうちの半数以上が戦えない女子供だとして、戦える街の男は1500人だとしよう。1人当たり400DPなので600000DPが街の男だけの保持戦力になる。
冒険者(1300DP)が400人。街の兵隊(3000DP)が150人。勇者(8000DP)が5人。超越者(10000DP)が1人。高位冒険者(5000DP)を半分まで削って50人だとすると、街の戦力は合計で1870000DP。これに他の街から応援が来るとして、大体2000000DPを用意すれば勝てるはずだ。
「2000000DPか…」
あまりゾンビ錬金術にDPを割いてばかりいられない。ゾンビエリート(1500DP)は街の兵隊(3000DP)、高位冒険者(5000DP)にとっては雑魚。まとめて一気に狩られてしまうと、敵にポイントを渡してしまうことになる。
ポイントによって人間が強化されてしまうと、割を食うのは百骸(5000DP)やリッチ(10000DP)だ。ぶっちゃけ言うと、ゾンビエリート(1500DP)、深紅のスパルタン(1100DP)は冒険者(1300DP)400人と、街の男(400DP)1500人を相手できればいいので1120000DPもあれば十分だ。
そのため死体はダンジョンの一室に安置してある。どこかのカイトみたいなことをしているが、街の兵隊(3000DP)はほとんど百骸(5000DP)で退治したので、死体には手を付けていないのだ。
ウォシュレット兄さんから200000DP分の戦力を借りて、うちからも200000DPの戦力を出すとする。合計で約1500000DP。500000DPをどこかから引っ張ってこないといけないのだが、アンデッドは嫌われている。
【裏チュートリアル9】、【裏チュートリアル14】を適用しても75000DP増えるだけ。残り425000DP。さっき召喚した百骸(5000DP)は45体残っているから225000DPで、残り200000DP。
「多少しんどくなるが、あの手を使うしかないか…」
あの手を使えば200000DPは節約できる。禁じ手だが、背に腹は代えられぬ。それに今後の魔の国計画にも役立つはずだ。ゾンビーズがじわりじわりと前線を上げてくれているから、1か月後には街の手前まで侵攻できているはずだ。後はカイトの経営手腕に任せるとして、12ダンジョンに命令することがあるが、まあ酒が抜けた頃に伝えるとしよう。
酒が抜けるまでうつらうつらと今後の計画をあーでもないこーでもないと練っていたら朝になった。酔いは完全に覚めた。カエサル帝国、スパイダーマンと戦う前に小さな町の一つや二つは簡単に潰せないと今後に支障をきたすだろう。狂霊の死体袋周りの首脳陣をダンジョンマスター部屋に集める。二日酔いのクロノス、新しいマスターのカイト、リモート参加のズアイ、新参者のヘパイストス、薔薇と血棺のヴェルフィア兄さん改めウォシュレット兄さん、そして俺こと築地慎吾。
今回ウォシュレット兄さんはホログラムではなく実体だ。信頼の証らしいが、兄さんの威圧感的に今の俺たちでは束になっても叶いそうになかった。長机に椅子を五脚だし、座らせる。
「さて、今回はKPI、つまりうちの中間目標であるオホ森に一番近いアーン街を堕とすという具体的なプランを説明するために集まってもらった。改めて説明するが、俺の最終目的は超高難易度ダンジョン魔の国の建設。その為にはDPが必要だ。手っ取り早くDPを稼ぐためにはどうしたらいい?カイト、分かるか?」
カイトは突然の名指しにも動じず、冷静に俺の求めている答えを返した。
「たくさん呼び込んで、たくさん殺す、だろ?」
「その通りだ。その為に街を潰す。現在、狂霊の死体袋が巣食うオホ森は人類の生存圏を蝕み続け、ア-ン街とその隣街のング街に大きな打撃を与えている。ズアイ、おさらいも含めてこの周辺の地理を説明してくれ」
ズアイが立ち上がる。
「承知しました。皆さま投影されている地図をご覧ください」
テーブルの上の目玉が目から光を放つ。壁に投影された地図には真ん中にオホ森と書かれた緑のエリアがあり、その東と西にアーン街とング街があった。上から見るとオホ森はかなり巨大であることが分かる。
「オホ森はスコッティ連合国とプルル王国の国境であり、アーン街とング街をつなぐ主要な交易路でもあります。そこに狂霊の死体袋が現れ、二つの街は甚大な被害を食らっています。
それぞれの国は多数の村、5つの街、1つの首都から構成されており、街を落とすという行為はその国戦力を大きく削ることにつながります。
特にプルル王国最西端である、アーン街は国からの支援で何とか食いつないでいる状態です。ング街はスコッティ連合国との繋がりが強いため、そこまでダンジョンを脅威に感じている様子はありませんが、商人が減り以前のような活況はありません」
カイトがダンジョン外のスカルフライを操作し情報を得る。
「フィールド夜が適応されているのはオホ森の10%くらいだな。交易路を中心に制圧しているが、遠回りをする商人たちには手が届いていない」
クロノスが頭を押さえながら発言する。
「いてて…。オホ森を完全に制圧する必要はないだろ?要所だけモンスターに抑えてもらって、うちのモンスター達が日をまたいでも移動できるフィールドを作って貰えれば十分だ。リリースしたモンスターは指揮範囲外だしね」
「冴えてるじゃないか。二日酔いのクロノス。その通り。リリースするモンスターにはこれまで通り自由に振舞ってもらう。魔物の本能で交易路を潰してもらうことにしよう」
ヴェルフィアが手を挙げて話し出す。
「ちょっといいかい。交易路を潰す以前に街を潰すことに僕はまだいまいち納得していないんだが。そこの人間の言う通り、ダンジョンの基本はたくさん呼び込んで、たくさん殺すだ。街を潰してしまえば、ダンジョンに来る人間は激減するか、激増するかのどっちかじゃないか。そして、このオホ森が国境だというなら二つの軍がダンジョンを潰しに来てもおかしくない。どうするつもりだい?」
「そう。だからプルル王国とは協定を結ぶ」
ヴェルフィアが片眉を上げる。
「協定?たかが一ダンジョンと国が取引なんてしないと思うけど」
「なに。そんなに難しいことじゃない。街を一つ滅ぼした後、街を返す代わりにング街への進行を黙認してもらう」
「そんな協定すぐに反故にされて終いだよ。両軍が息を合わせてダンジョンを攻撃するまで一か月もかからない」
「同じ協定をスコッティ連合国ともする。アーン街を滅ぼし、ング街を滅ぼした後、プルル王国への進行を黙認してもらう。俺もこれにはあまり期待していないが、二つの国の足並みが乱れればそれでいい」
「ふーん。まあそう上手くはいかないだろうけど、戦力は十分なのかい?まさか侵略先のDPは当てにしてないだろうね」
「DPに関して計算は合う。しかし問題は超越者の存在だ。協力者からあらかじめ出陣する可能性のある超越者をピックアップしてもらったが、どいつもこいつも化け物ばかりだ」
「街を相手にするなら当然超越者は出張ってくるだろう。そいつをどうするかが今回の鍵になるだろうね」
「オホ森の交易路を潰して、アーン街をつぶして、ング街を潰す。そしてそのままプルル王国軍とスコッティ連合国軍との連戦だ。しかし我々は一か月後に雨蜘蛛戦も控えている。ここから一か月で二つの街を落とすプラン自体は簡単だ。DPを貯めて放出する。それだけだ」
「ズアイは超越者について情報を得たら逐一報告してくれ。カイトは今まで通りダンジョンを大きくすることを考えればいい。クロノスは顧問役として全ダンジョンの相談に乗ってやってくれ。ヴェルフィアは新しいダンジョンができて忙しいだろうから、貸してくれる戦力だけ確保しておいてくれたらいい」
俺は一気にそう言い切ると頷く面々を見た。全員精悍な顔つきだ。いや、一人だけ不安そうなやつがいる。ヘパイストスだ。
「マ、マスター。俺は?」
「お前は俺の護衛だ」
クロノスがつっこむ。
「いや、慎吾の護衛なんて無職同然じゃん」
「えぇ!」
「んなわけあるか。いいか、俺はこの一か月間、ミリス神聖国にヘパイストスと潜入する。つまり街をせめる直前までお前らに狂霊の死体袋、並びに12のダンジョンを一任する」
全員が驚愕する。
「ねぇ慎吾!本気で言ってるの?今慎吾がいなくなってどうするんだよ!」
「落ち着け。クロノス。なにも俺は遊びに行くわけじゃない。ミリス神聖国を崩すための布石を打ちに行くんだ」
「待ってよ!カエサル帝国を滅ぼしてそこを魔の国にするんじゃないの?」
「俺はその後の話をしている。地理的にカエサル帝国はミリス神聖国とプルル王国に近い。魔の国を作ったとしても二つの国に挟まれて終わる可能性がある。だからプルル王国の街を潰すし、ミリス神聖国も堕としに行く」
「12のダンジョンはどうするんだよ!」
「それは後で説明する」
ヴェルフィアが咳払いをする。
「ンッウン!君が困ったことをいうのは今に始まった事じゃないが、君たち二人だけでミリス神聖国を堕とせるとは思えない。何か策があるんだろう?」
「あぁ。ミリス神聖国にダンジョンを作る」
クロノスが大きく口を開けた。
「ああ!その手があったか!でもでも、灼熱の坩堝と戦った時に新しいダンジョン作ってなかった?…やっぱり!次新しく作るのに100000DPもかかるよ!いや、ダンジョンを移転するだけなら20000DPで済むのか!」
ヴェルフィアが両手を広げた。
「残念ながら、それはできない。なぜならミリス神聖国にはダンジョンコアを阻む結界が張り巡らされているからだ。君がカエサル帝国を最初に堕とすと決めた理由はミリス神聖国のこれが厄介だったからじゃないのかい?」
「そうだ。ミリス神聖国にダンジョンが作れないというのは我々にとって致命的な弱点であり、何とかして対処しないといけない大きな壁だ。だから隣国から直接支配できるようにカエサル帝国を狙ったが、カエサル帝国を支配したとして万全のミリス神聖国に挑むのはかなりリスキーだ」
おずおずとヘパイストスが尋ねる。
「で、マスターはどうしたいんだ?」
「ダンジョンコアなしでダンジョンを作る」
クロノスが椅子からひっくり返り、絶叫した。
「はぁぁぁ!?」
ヴェルフィアが困った顔をする。
「君は本当に突飛なことを考えるね」
ズアイは粛々と用意するように言われていた資料を表示させる。
「こちら、ミリス神聖国における買収可能な土地のリストです。瘴気が溜まっていそうな鉱山の中で、めぼしいものもいくつか挙げておきました」
資料にざっと目を通す。一つ廃坑になっていて、大きさもそれなりのダンジョンがあったので、覚えておく。
「それと、金に汚く、黒い噂が絶えない権力者たちと、ミリス神聖国内の魔神教信者を載せたリストも転送しておきます」
俺はズアイの目を取り出し、データを受信させた。リストにはかなりの人数が並んでおり、相変わらずのズアイの有能っぷりに満足する。
「というわけ傘下達に挨拶したら、ミリス神聖国に行ってくる」
泡を吹いて倒れているクロノスをぺしぺしと起こす。
「クロノスが書き溜めた魔神図鑑のデータはしっかり活用するからなー」
「うん…うん…」
これは大丈夫なのか?まあ、クロノスなら何とかなるだろ。
俺はまだ昨日の酒が抜けているのか怪しい傘下達を魔王権限で叩きおこし、通信を開始した。
「そう言う理由で俺はしばらくお前らの面倒見れないからよろしくな」
「「「えぇぇぇ!!!」」」
傘下達は俺の一言で酒気を飛ばしたようだった。
「なんだ、全員さっきまで反応悪かったのに急に元気になったな」
スラ子が元々の巨体をさらに膨らませて詰問した。
「ちょっと待ってください、魔王様。いきなりそんなことを言われても…」
ピクっとスラ子の発言に身体が反応した。
「いきなりそんなこと言われても…?」
「え、えぇ。我々のこれからはどうなるんですか?」
俺が12個のスクリーンを睥睨すると、揃いも揃って間抜け面が並んでいた。俺はスラ子の発言が12ダンジョンの総意であることを悟って、深くため息を吐く。
「はぁ。お前ら、どうやら一度勝ったくらいで完全に腑抜けちまったようだな。なにがいきなりだ。お前らはいきなり変化する状況が当たり前の世界に暮らしていたはずだ。明日は強い冒険者が自分の命を狙いに来るかもしれない。これからのことなんて恐ろしくて考えられない。それが今はどうだ?たまたま甘い汁を吸い、もう既に勝ち馬に乗ったつもりか?勘弁してくれ。これは命の奪い合いだ。そうだろ」
「…」
全てのスクリーンを見たが、俺と目を合わせようとする者はいない。どうやら事態はかなり深刻らしい。俺は一つ非情な決断をした。
「断言する。このままでは一か月後の雨蜘蛛戦まで生き残っているダンジョンはほとんどいない。よってお前らには切磋琢磨してもらうことにする。具体的には一か月後の月間累計獲得DPの上位六名を正式な傘下と認め、下位六名にはダンジョンマスターの地位を俺に返してもらう」
傘下達の間で動揺が伝播する。
「部活動じゃないんだ。これはビジネスだ。隣の奴の食い扶持を奪わないと生き残れないなんて、旧石器時代からの習わしだろ?お前らにはカエサル帝国のシェアを奪い合って、骨の髄までしゃぶりつくしてもらう。奸計、強請り、外法。なんだって使え。結果を出した奴だけが正義だ」
「わ、私はただ…」
スラ子が何かを言いよどむがそれを遮るようにサイクロンが今までにない大声でかき消す。
「おい!フィリピン!おいらのモンスターを一体4000DPでレンタルしてやる!」
「ピー!それは搾取であると考えます!」
「ピ、ピーハー!」
「うるさい!嫌なら断ればいいじゃないか!」
全員が今の状況を認識し、自分のダンジョンに必要なものを仕入れていく。話し合いは混沌と化し怒号が飛び交い、一人また一人と通信から出ていった。残された俺はほくそえむ。
「フフッ。やっと魔王軍らしくなってきたな」
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