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アスタナ、侵攻(ダンジョンマスターモノです)  作者: サムライソード
第一章
12/14

第十二話

それを見た瞬間血相変えて全員に言った。


「全員!今日はこれで解散だ!クロノスと俺をダンジョンマスター部屋に転移!」


全員のホログラムが消え、俺とクロノスが転移する。クロノスの両肩を掴み、告げた。


「超越者(10000DP)がやってきた。このダンジョンが潰されるかもしれない。クロノスは俺がいいっていうまで粘性の気球にいてくれ。元ダンジョンマスターはダンジョンが攻略されても無事なはずだ」


「超越者(10000DP)て世界に100人しかいないあの!?ちょっと待って慎吾は大丈夫なの?」


「大丈夫だ。俺は世界一のダンジョンマスターになるまでは死なない」


「でもーーー」


「キューブ!クロノスを粘性の気球に転移!」


クロノスは安全な場所に避難できた。


「現在の総戦力を表示!」


135300DP


これならいけるかもしれない。超越者は表記上10000DPだが、それはキューブが測ることができる限界の強さが10000DPというだけで本当のDPは10000以上だ。それに…。


ダンジョン内の映像を見ると既に1階層の4分の1が氷漬けにされている。やはり1000DP程度のモンスターじゃ話にならない。最低でもリッチ(10000DP)じゃないと話にならないだろう。どうする。プールしたDPも使ってありったけのリッチ(10000DP)を呼ぶべきか。


悩んでいる間に超越者(10000DP)が1階層を氷の世界に変えた。超越者は胸元を大きくあけた水色のドレスを着ている女だった


「キューブ!リッチをーーー」


「ダンジョンマスター!見てるんでしょ?出てきなさい!さもないとボスまで凍らせるわよ!」


女と映像越しに目が合う。すべての可能性を考えた結果、俺は仮面とローブを身に着け、1階層に転移した。そこはいつもの不気味な冷気ではなく凍てつくような寒さがダンジョンを支配していた。


「あなたがダンジョンマスターね」


「ああ、そうだ」


「警戒しないで、といっても無理があるわね」


努めて淡々とした口調で質問する。


「超越者サマが、こんな小さいダンジョンに何の用だ」


女は意味深に笑う。


「カイト君からの情報を頼りにって言えば分かるかしら」


カイト…。情報…?俺は1つの考えにたどり着く。


「まさか!?カイトの奴、超越者をインフルエンサーにするつもりか!?」


あいつ、まじかよ。どうやって超越者までこぎつけたんだ。うちのズアイでも呼べて高位冒険者の下位だぞ。俺は思わず笑ってしまう。


「ははっ!面白い!どうやらカイトのことを見くびっていたようだな、あいつは本気でうちのダンジョンを潰しに来るらしい」


「そうみたいね。私は氷帝フロストよ。まずは、ここじゃない場所に案内してちょうだい。私、寒いの苦手なの」


女は両手で腕をさすりながら、まるでこちらが無礼をしたかのような態度で言った。いや、お前が凍らしたんだろ。しかたないので4階層に案内する。


「キューブ!ダンジョンマスター部屋にある机と椅子を!」


俺はフロストの対面に座った。フロストは足を組んで優雅にしている。


「ちょっと、紅茶もないの?」


「…キューブ、クロノスの紅茶セット(1DP)を」


俺は慣れた手つきでフロストに紅茶を入れてやる。クロノスにあごで使われた経験がここで生きるとは。フロストの紅茶を飲む様は気品に溢れていた。


「美味しい」


端的に聞く。


「それで、目的はなんだ」


「私の直近の目的はダンジョンマスターになること。つまりはあなたからその玉座を奪いに来たのよ」


それを聞いて背筋が凍る。俺からダンジョンマスター権限を奪うということは俺にとって死より重いことだ。


「それは…できない」


そう言った瞬間フロストは机を蹴り上げた。クロノスの紅茶セットが割れて破片になる。


「死んでもいや?」


「あぁ」


「そ。じゃあ死になさい」


ここからでも入れる保険があるんだろうか。死ぬ間際に頭に浮かんだのはくだらない考えだった。やっぱりリッチを召喚しまくるのが正解だったのだろうか。だが、ここでポイントを失えば傘下に融資できなくて詰む。


走馬灯が脳内を駆け巡った。そもそもこいつはなんでダンジョンマスターになりたいんだ?人類のため?未来のため?それとも俺らのため?それを聞かないと死んでも死にきれん。


「待て、なんでダンジョンマスターになりたいんだ?冥途の土産に教えてくれ」


「…まぁいいわ。美味しい紅茶のお礼に教えてあげましょう。私の最大の目的は魔神クロノスの討伐よ」


内心の動揺が外に出ないようにする。魔神クロノスの討伐。考えられる限り最悪の答えだった。


「超越者とよばれる私でも魔神クロノスの討伐は難しいわ。だから私には仲間がいるの。超越者の中でも上澄みを集めて魔神クロノスを討伐しに行くのよ」


「なぜ、そんなことをする?」


「なぜって魔神よ。あんな性格の悪い奴殺す以外ないでしょ」


クロノスは確かに初期は性格が悪かったが、今は普通にいい子なんだが。


「それとダンジョンマスターになることに何の関係がある?」


「私がダンジョンマスターになって超越者を鍛えるためのダンジョンを造るのよ。モンスターの平均ポイントが100点のダンジョンをね」


それを聞いて驚いてしまった。目的は違えど、手段は俺とフロストで全く同じだった。その時光明が見えた。


「フロスト、まず自己紹介させてくれ。俺は【魔王】築地慎吾だ」


「慎吾君ね。すでにカイト君から情報は聞いているわ。人間なんですってね」


カイトは人間のダンジョンマスターがいるということを武器にフロストをつり出したのか。俺は仮面を外す。


「私にも教えてちょーだい。どうやったら人間がダンジョンマスターになれるの?」


「その方法は1つしかない。今みたいに権限を強奪することだ」


フロストはため息を吐いた


「その方法じゃダメなのよ。みんな人間ごときにダンジョンマスターは渡せないというの。だからこそ人間のあなたに譲ってもらいたかったんだけど、それもダメなんでしょう?どうしたものかしら」


「俺に良い案がある」


「案?時間に余裕はあるから聞いてあげる。好きに命乞いしなさい」


存分に命乞いさせてもらおう。


「まず俺の目的から。俺は世界一の超高難易度ダンジョン魔の国を造ることが目的だ」


「へぇー。口から出まかせにしては良いのが出たわね」


フロストは信じていないようだ。


「カイトから聞いている通り、俺は24日で付近の村を2つ制圧した。そして月間総獲得戦力では全ダンジョン中トップ10に入った」


「まぁ、2つの村が制圧されているのはカイトから聞いているわ」


「そして俺は今、あるグループをまとめて魔の国を造ろうとしている」


「どういう意味かしら」


「俺をリーダーにして10の傘下達がダンジョンを経営しているという意味だ。カエサル帝国に現れた10のダンジョンすべてが俺の支配下にある」


「…にわかには信じがたいわ。どれも証明する方法がないじゃない」


「指定するダンジョンの前に氷帝と書かれた看板を置くのはどうだろうか。カエサル帝国に仲間がいるなら確認してもらえばいい」


「そんなの私が今から行って見てあげるわ」


よしっ!蜘蛛の糸を掴んだ!


「キューブ!今すぐ全ダンジョンの入り口に氷帝と書かれた看板を設置するよう命じてくれ」


「余命が10分伸びたことに感謝しなさい」


そういうとフロストはスタスタと去っていった。



≪氷帝(20000DP)を撃退しました≫


35720DP



フロストはきっかり10分後に帰ってきた。2回目のアラートは鳴らなかった。


「驚いたわ。指定された10ダンジョンすべてにちゃんと看板が立っていたわ。どうやらあなたはその魔王軍とやらに属しているようね」


「キューブ!さっきの命令を解除!これで分かっただろ?自分で1から作るよりも、今10ダンジョンと協力関係にあり、しかも急成長中のダンジョンを経営する俺に任せた方が良くないか?」


「あなたのダンジョンが本当に魔の国を造るかは分からないわ」


「不合理な動きをしたら即刻潰してもらって構わない。それに俺の予定では近々3つのダンジョンに空きが出る予定だ。1か月だけ待ってみないか?そしたらフロストにもダンジョンを分け与えることができる」


「それはあまりにも都合がよすぎて、信じがたいけど、確かに私が経営する手間を省けるのはメリットとして大きいわ。私は転移門を使って仲間を集めるだけで良いってことよね」


「転移門って言うのは?」


「超越者だけが利用できるゲートよ。どこの国にもあるわ」


それは都合がいい。魔の国の唯一の欠点は移動できないことだった。竜眠の箱舟は移動することで大量のDPを稼いでいる。転移門があれば、人界すべての超越者を移動せずとも集められる。それにフロストが仲介役になってくれたら、うちにとってもメリットになる。


「フロスト、俺たちの超高難易度ダンジョンを造るという目的自体は一致している。俺がダンジョンを経営して、フロストが人を集める。役割ははっきりしている。どうだ?騙されたとしても1か月待つだけだ。俺と条件付きだが契約しないか?」


「え?条件?」


フロストは鳩が豆鉄砲を食ったような顔をしている。


「当然だ。取引をする以上対等な立場として、こちらも条件を出す。超越者を1人、拉致しろ。そしてある簡単なお願いを聞いてくれ」


「あのねぇ。私は今ここであなたを殺せるのよ。分かってる?」


「分かっている。殺したければ殺せばいい。損をするのはそちらだ」


強気な態度は崩さない。すると氷帝は苦々しそうに言った。


「あなた、これが全部出まかせだったら、八つ当たりに11個のダンジョンすべて潰すからね」


「構わない」


「分かった。ただし正式な契約は1か月後ね。それで?条件も呑んであげる。ある簡単なお願いって何?」


「反復横跳びだ」


「え?」


「だから反復横跳びだ」


氷帝は渋々といった様子で反復横跳びをしようとする。


「いや、ここでじゃないだろ。ダンジョンの入り口でだ。俺たちは撃退でもDPを稼げるの知っているだろ?」


フロストはそれに気づいて顔を真っ赤にした。


「1か月後にあなたを殺した方がすっきりするような気がするわ」


「ちなみに全ダンジョンでやってもらいたいんだが」


フロストはピシャリと遮断する。


「いやよ!」


「そこをなんとか!」


「私はこれでも有名人なのよ!それが急にカエサル帝国の10ダンジョンで反復横跳びしだしたら、他の超越者から警戒されるだけ!分かった!?」


子供を叱るようにフロストは言った。


「ふんっ!このダンジョンだけだからね!」


そう言ってプンスカ怒りながら、1階層にあがり反復横跳びを始めた。他の冒険者もいる前で無様な真似をするのはさぞ恥ずかしいだろう。俺は申し訳なく感じながらも、DPを獲得した。氷漬けにされたモンスターも解凍されたようだ。



≪氷帝(10000DP)を撃退しました≫

≪氷帝(5000DP)を撃退しました≫

≪氷帝(2500DP)を撃退しました≫


55720DP



死にかけたが、奇跡的に生還した。カイトめ、ダンジョンを潰すのではなく、俺を殺しに来るとは。確かに超越者とはいえダンジョン経営に関しては素人だし、頭をすげ替えれば組織も大幅に変わる。どうやってカイトと出会ったのだろうか。まあ詳しいいきさつはどうでもいい。


精々高位冒険者なら蹴散らせると思って言ったことがカイトにとっては別の発想につながったようだ。しかしこれで狂霊の死体袋の名はプルル王国に轟くだろう。なんてったって氷帝を撃退したうえに反復横跳びまでさせたのだ。


後、カイトができることはうちのダンジョンの殺害率を下げるための細やかな工夫と街の兵隊を1日でも早く呼ぶことだ。これは俺とカイトの殺害率バトルでもある。


俺のダンジョンもどれだけ人が来ても殺害率下がっていくと確実に赤字になる。そのことを知っていても知らなくても、撃退数が増えればダンジョンにダメージがいくことは想像がつくだろう。


そして、殺害率を下げてダンジョンにダメージを与え、通常なら2か月かかる街の兵隊をなんとかして早く呼び出しダンジョンを潰してもらう。それがカイトにできる全てだ。俺も殺害率を増やす方法を考えないと、カイトに潰されてしまう。あいつらのお手本として知恵を振り絞らなければ。


最悪伝家の宝刀を抜くことも考えなければ。だが、安易にこれを抜くと身を滅ぼすことは確かだ。


しかしフロストの目的がクロノスだということは、フロストにクロノスのことは絶対に隠さないといけない。クロノスにもこのことは共有しておこう。


「キューブ!クロノスにつないでくれ!」


クロノスがスラ子と議論している様子が映し出される。


「クロノス!お前の命が狙われてるぞ!」


「わっ!慎吾か!いきなりなんだよ!」


「すまん!でも超越者がお前を狙っているらしい!」


「えぇ!」


俺はさっきあったことを話した。


「まあ、僕は魔神だからな。命を狙われるなんて今更だよ。ずっとダンジョンマスター部屋にいたらばれないでしょ?今忙しいから、また今度ね。じゃ」


クロノスがそう言うと映像がきれた。クロノス、本当に大丈夫なのか?心配だが、ぐずぐずしている時間はない。やれることをやるだけだ。


そして1か月が過ぎた。







そして現在。約束通りフロストが来たようだ。


俺は狂霊の死体袋4階層でフロストを迎え入れる。


「ちゃんと来たわよ。手荷物をぶら下げてね」


そういってフロストは赤いローブを着た男をこちらに投げ渡す。


「おっと!殺してないよな?」


「あたりまえじゃない。そいつにも反復横跳びさせる?」


「…さすがに怖いからこのままで」


「意気地なし」


「何とでもいえ。お茶でも飲んでちょっと待ててくれ。すぐに戻る」


「わかったわ」


ダンジョンマスター部屋に転移する。


「ということでですね。早速現地で調理を開始したいと思うのですが、レポーターのクロノスさーん。そちらの様子は如何ですか?」


灼熱の坩堝のダンジョンマスター部屋の映像が映し出される。


「はーい!こちら現地のクロノスですー!こちらの方は大変暑くなっておりまして、食材の方も大変いきがいいですよー!どれ少し煽ってみましょう。ざーこ、ざーこ」


「…」


「先ほどまでは大変元気だったのですが、どうやら暑さで参ってしまっているようです。さっさと調理しましょう。そちらにお返ししまーす!」


はいっということで融合開始だ。最上級の素材である超越者(10000DP)に、かけあわせるのはこちらも最上級のドラゴンドレイク(10000DP)だ。


さっさと二体を選択して、融合をぽちっとな。


キューブから黒い煙が黙々と出る。キューブのこれ見よがしな演出に期待が上がる。俺はこの時一瞬思った。あぁ!ここでハードゲイが生まれてきたら面白いのに!


その邪念が混ざったのか黒い煙が晴れて出てきたのはハードゲイだった。


ハードゲイ「フォーーーーーーーー!ハードゲイで、ごめんねー!」


ハードゲイ(腰をくいっ!くいっ!)


ハードゲイ「どーもー!ハードゲイでーす!今回は異世界転移してみましたー!世も末、フォーーー!」


ハードゲイ(腰をくいっ!くいっ!)


俺「ハードゲイさん!銃を撃つことをなんていいますか?」


ハードゲイ「はっポーーーーーー!(発砲)」


俺「ハードゲイさん!未確認飛行物体のことをアルファベットで?」


ハードゲイ「Uフォーーーーーー!(UFO)」


俺「ハードゲイさん!俺の職業は?」


ハードゲイ「ダンジョンマス、いや魔フォーーーーー!(魔王)」


俺「ハードゲイさん!ありがとうございました!」


ハードゲイ「右折!フォーーーーーー!」


ハードゲイ(スタスタと去っていく)





「ハッ!俺は今何を?」


黒い煙が晴れると、燃える頭を持ったガタイの良い人型のモンスターが出てきた。


「よう!あんたがダンジョンマスターかい?よろしくな!」


そういって燃える頭の男はさわやかに手を差し伸べてきた。体育会系ってやつなのだろうか。フランクな感じは新鮮だな。握手をすると、クロノスが帰ってきて、クロノスとも握手した。


「慎吾!名前どうする?」


「ヘパイストス。確か火の神だったはずだ」


パズドラで覚えた。


「良い名前だな!感謝するぜ!」


「俺は【魔王】築地慎吾、こっちは魔神クロノス。クロノスいつものやったげて!」


「おう!聞きたいか僕の武勇伝!」


「いやそっちじゃなくて、あの序列何位みたいなやつ…」


「あ~、そっちね」


クロノスは少し物足りなさそうにしている。後で付き合ってあげよう。


「ヘパイストス!君は序列2位だ」


ヘパイストスは慇懃な姿勢でそれを受け取った。


「ハハッ!」


「お前の役割はこれから造る魔の国のボスだ。研鑽に励むように」


「ハハッ!」


「じゃあ一旦フロストと話すからクロノスは狂霊の死体袋のダンジョンマスター部屋にいてくれ」


「はいはーい!」


俺はフロストと共に灼熱の坩堝に転移した。


「なにここ?暑いわね」


「寒いの苦手なんだろ?ここがお前に与えるダンジョンだ」


「いやよ」


「えぇ!?」


「あたし、暑いのも苦手なの」


なんだこのわがまま超越者は。このキューブを使って、ドラゴンドレイク(10000DP)を召喚してダンジョンマスターにしてもいいが、どうしよう。カザン君に任せた方がよかったのかな。でも流石に2回も負けてるやつに預けられないからな。


「3つあるって言ってたじゃない。あと2つは?」


「1つはお前が来たダンジョン、狂霊の死体袋だろ?これはとある方に任せるから、もう1つはカエサル帝国にある悪魔の眼窩っていうダンジョンだ」


とある方はクロノスのことだ。悪魔の眼窩は20000DP持ち逃げしたダンジョンだが、気づいたら潰れかけていたため慌ててキューブを回収した。悪魔の眼窩はデーモン(1300DP)をメインにしているからサタン(10000DP)で召喚して任せようと思っているが、別にフロストでもいいかな。


「悪魔とかそういうのもなしで。あたしこれでも信心深いの」


「えぇ!?じゃあもうないぞ」


フロストがため息を吐く。


「はー。もともとそういう裏方の仕事は私向いてないの。ダンジョンマスターはあなたに任せるわ」


「…いいのか?人間は返せないぞ?」


「あんな男は別にいいのよ。私、帰るわ。魔の国ができたらまた連絡してちょうだい」


そういってフロストは本当に去っていった。どこまで気分屋なんだあいつ。


さて、これでようやく祝勝会ができるな。俺はみんなをダンジョンの4階層いつもの場所に呼び出した。今回はホログラムではなく皆実体だ。


みんなはぞろぞろと集まり、その場に座りだしたので、机と椅子とお酒を用意した。クロノスがねぎらいの言葉をかけながら、みんなにお酒を注いでいく。


最後に俺に酒が注がれると、クロノスにも次いでやった。今回のMVPはクロノスだろう。種族が違うモンスター同士の間を円滑に取り持ち、この日まで対立なくまとめ上げた。そういえば、あとでと言った話ができていない。


まあお互い忙しいから隙を見てでいいか。俺はがやがやとうるさいモンスター達を静め、今回の戦果を発表した。


「お前たち!乾杯の前に、今回の戦果を発表する!今回のダンジョンバトルで得たDPは…」


おぉぉぉ!みんなノリがいい。盛り上げてくれている。


「DPはぁぁぁ!?」


DPはぁぁぁ!


「なんとぉぉぉぉ!?」


なんとぉぉぉ!


「出ませんでした!」


ブーーーーー!


「うそうそ、1219000DPでした」


ぬるっというとみんなはうまく盛り上がれなかった。ふんっ!場を盛り上げようなんて百年早いわ!ちなみに敵が倒したモンスターはそっくりそのまま復活させた。ここでちょっとだけ錬金術が起こることを期待したが、倒れたモンスターを復活させた場合【裏チュートリアル】の適用はないらしい。


(ダンジョンバトルでDP稼ぎます?ダメー!)


「この内、400000DPは森賢人と幻獣に返して、モンスターを貰おうと思う。借金の利息として260000DPは返す。19000DPは新しい仲間の召喚に使う。残りのDPは次の戦いに充てる。新しい仲間はメインディッシュに置いといて、次の戦いについて話そうと思う」


「1つ目の戦いでは狂霊の死体袋の近辺の街を潰す」


街を潰すと聞いてモンスター達は沸き立つ。


「この程度で喜んでたら、最後まで持たないぞ」


どっ!みんなが笑う。いやホントにもたないからな…。


「2つ目の戦いでは雨蜘蛛の巣窟一派を潰す!」


うぉぉぉぉ!とか言いながらもみんなの頭にはてなが浮かんでいる。


「なんで雨蜘蛛の巣窟かと言うと、雨蜘蛛には今4つの傘下がいる。蜜牢の花弁、草原とグラスホッパー、百足と毒壺、胡蝶の夢跡、どれもランキング上位に食い込む強ダンジョンだ」


「お前たちの中には雨蜘蛛にキューブを担保にDPを融資してもらっていたダンジョンもあるだろう。雨蜘蛛の目的は他でもないお前らのキューブだった。だが、そこを俺が拾い上げた」


「向こうからすれば、弱らせておいた獲物を横から掻っ攫われた気分だろう。実際、雨蜘蛛の手に落ちるならと俺の手を取った者もいるはずだ」


「雨蜘蛛には大義名分がある。おそらくダンジョンバトルが禁止されているこの1か月が過ぎれば躊躇なくダンジョンバトルを仕掛けてくるだろう。俺はこれを迷わず受ける!」


「なぜなら、俺たちなら雨蜘蛛にでも勝てると判断したからだ!今日でお前たちは知っただろう?ダンジョンバトルは勝者が総どり。負ければなにも残されない!」


「そして、その戦いを潜り抜けた先にあるのが3つ目の戦い。カエサル帝国の帝都を堕とす!」


俺がそう言い切ると全員声にならない悲鳴を上げていた。…いやだから持たないって言ったじゃん。


「俺の、いや、俺たちの夢はもうすぐそこにある!カエサル帝国を跡地としてそこに魔の国を建てる!」


魔の国を建てたら、どうするのか。俺の夢の先の話はまた今度だ。


「今日は束の間の休息を楽しんでくれ!勝利は我らの手に!乾杯!」


「「「乾杯!」」」


全員が飲み物に口をつけた。これから本当に忙しくなる。が、今日くらいは喜ばないと罰が当たるってもんだ。俺もぐびりと酒を飲む。全員、和やかな雰囲気で会は進んでいった。途中、余興として各ダンジョンから出し物があった。こいつらダンジョンバトル前にこんな準備してたのか。


俺が言えた口ではないので黙っておく。サイクロンだけホログラムだが向こうで自分で酒を次いで晩酌をしている。サイクロンは立派なホログラム芸だった。


クロノスに用意させた色々な壁をホログラムで通り抜けられるかアンケートをとり、実際に通り抜けられるのか、やってみるというものだったが、絶対に通り抜けられるのでつい笑ってしまう。きんにくんの絶対に来るとわかっていても笑ってしまうあれに良く似ていた。


フェアリークイーンのフィリピン(37歳)は良く喋った。


「あたしのネ、おばぁちゃんネ、歩道ハ、歩行者ユーセンいうて、自転車よけないのネ。轢かれたネ」


フィリピンの話は滋味に富んでいた。戦場で敵のリロード音かと思ったらおばあちゃんの咳だった話が印象に残った。あとはメデューサのキュートなお目目のボディタッチがすごくて、俺がクロノスに頬っぺた引っ張られた。


段々宴会は混迷を深めていってケルベロスのポチ3代目がことあるごとに名乗るという謎のノリが生まれた。


「吾輩は犬である!吾輩は犬である!吾輩は犬である!」


「ピーハー!」


「「「ピーハー!」」」


ハーピークイーンのピーハーがピーハーするたび俺たちもピーハーした。盛り上がりになじめない騎士王のアルと大狼のガルルが隅っこでカードゲームを始めたとき、俺は潮時だと思って会をまとめた。


「みんな!十分楽しんでくれたな!最後に新しい仲間を召喚する!新しいほうのキューブ!サタン(10000DP)とドラゴンドレイク(10000DP)だ!」



サタン(10000DP)とドラゴンドレイク(10000DP)を召喚しました。


1200370DP


「キューブ!悪魔の眼窩のダンジョンマスターにサタンを指名!灼熱の坩堝のダンジョンマスターにドラゴンドレイクを指名!」


ドラゴンドレイクはカザン君にそっくりで怪獣みたいな尻尾と羽が生えていた。サタンはTHE悪魔と言った風貌で2本の角が額から生えている。


2人はぱちくりと目を開けると周囲を見回した。そして俺の存在に気が付くと、片膝をついて頭を垂れた。


「俺が【魔王】築地慎吾だ。二人の名は?」


「僕は魔神クロノスでーす!」


クロノスは完全に出来上がっている。まったく飲みすぎだ。


「漆黒なる闇からいでしマイロード。我が名はサタンのハッピーターン。ダンジョンマスターに尽力します」


ふむ、厨二臭いけど悪魔ってそういうもんなのかね。とりあえず頑張ってくれそうだ。


「俺の名前はファイ。俺馬鹿だからわかんねえけどその反応から見るに2代目のドラゴンドレイクなんだろ?その反応は当たりか!」


こいつ馬鹿なふりして頭いいタイプだな。主の反応を見て遊ぶな。ちなみにモンスターは融合されるか、ダンジョンマスターになることで共通語を喋れるようになる。みんな拍手で迎え入れている。内輪ノリ全開の宴会にこの2人を混ぜないでよかった。


「ハッピーターンとファイには後日、DPとマニュアルを与えるからまた明日来てくれ!それじゃあ今日は解散!明日からも気合い入れていくぞ!」


おー!と最後に声を合わせて三々五々に散っていく。俺はこの後、やらなくてはならなくてはならないことがある。


読んでくださりありがとうございます。


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