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アスタナ、侵攻(ダンジョンマスターモノです)  作者: サムライソード
第一章
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第一話

知り合いが連れてきた占い師だか、風水師だか、催眠術師だか、良く分からない存在になんて関わるんじゃなかった。俺こと、築地慎吾は心の底からそう思った。そいつは俺に言った。


「あなたは魂が穢れています。この世界よりもよっぽどあなたに合う世界がありますよ」


俺はその時珍しくカチンときた。自分で言うのもなんだが俺はこの世界で成功している。おそらくそこらのサラリーマンの大半よりも多く収入を得ているし、そうなるための努力もしてきた。開口一番で魂がけがれてるみたいな、スピッた話はともかく、自分のこれまでを否定されたような、後半の文言に俺は珍しく怒った。


「じゃあ、俺をその世界に連れてってみろよ」


そいつはどうせもっともらしいことを言ってその挑発を受け流すだろうと俺は予想していたが、逆に乗り気になった。


「えぇ、いいでしょう。目を閉じてください」


「やれるもんならやってみな」


と吐き捨てるように煽りを入れると向こうも本気になったらしい。


「では、目を閉じてください…。1、2、3!」


強烈に後ろへ引っ張られ、浮遊感。俺はその後、意識を失った。目覚めたときには俺は信じがたいことに異世界に転移していた。


3カウントを経て、意識を取り戻した。なんだか、長い間眠っていたかのような心地だった。目を開けると、そこには少女がいた。俺は若干朧げな意識でそれを認識すると、それを夢だと思った。なぜなら、その少女は腹と足を露出させる丈の短いTシャツとショートパンツを履き、背中からは小さな黒い翼が生えていたからだ。


見間違いかと思ったその黒い翼をまじまじと見つめていると、それは確かに少女の背中から生えて、正面から見てもわかるくらいには大きな翼であることが分かった。


少女と目が合うと、少女は俺と同じように、俺の様相をじっくりと眺めて、最後に俺の目を見たようだった。少女は一瞬固まり、最悪の事実を確認するかのように、俺に尋ねた。


「…君、人間?」


「あ、あぁ。もちろんそうだが」


それを聞いた少女は、ヒュッという絶命の瞬間を感じさせる息の吸い方をすると、一息に言い切った。


「おわったああああああああああああああああ!」


少女はそう言うと、地面に座り込み、コテンと後ろに倒れた。


「はっ。ははっ。詰んだ…」


少女はうわ言を言うと、ぶつぶつと言い始めた。


「そもそも、こんなの間違ってるんだ。きっと何かの間違いか、悪い夢だ。そうだきっとそうに違いない

…」


俺は尋常じゃない様子の少女に、たまらず声をかける。


「お、おい。嬢ちゃん、大丈夫か?」


少女がそれを聞いてピクリと反応する。


「嬢ちゃん…?この僕をそう呼んだのかい?」


「あんた以外嬢ちゃんは居ないだろう」


それを聞いて少女は大声を張り上げた。


「ひかえおろう!この僕をなんと心得る!」


「いやだから、嬢ちゃんじゃん」


少女は青筋を立てる。


「一度ならず二度までもその言葉を口にするか。よかろうその狼藉は死で償え!」


「えぇ!」


少女は手を銃の様に構え、言い放つ。


「ゼロ・サイス!」


バンッ!少女はそう言うと沈黙が場を支配した。少女はもう一度バンッ!と言うが何も起こらない。俺はその微妙な雰囲気に、なぜか少女に申し訳ない気持ちがした。そういえば、関西にこういう風習があったことを思い出した。こういう時の正解は…。


「うぅ!やられたぁ!」


「馬鹿にしているのか?」


少女の顔は俺を見て、怒りを通り越した真顔になっている。彼女の唇はわなないた。


「魔力が足りない…!なぜだ!」


俺は次第に彼女についていけなくなった。周囲の状況を確認する。するとその異常性に気が付いた。この部屋は一面、白く染められており、部屋を出入りするための扉がなかった。俺は一番に酸欠の恐れを抱いた。しかし、息苦しさは一向に感じないし、少女も無事だ。


「なんだこれは…」


出口のない部屋に、翼の生えた痛い少女と二人きり。どういう罰ゲームだろうか。俺はとりあえず少女に声をかける。


「なぁ、あんたここはどこだ?」


少女はきっと俺を睨む。


「あんたではない!」


「じゃあ、名前は?」


少女は一瞬躊躇したが、にっちもさっちもいかない状況を考慮し、名乗った。


「僕の名は魔神クロノス…。混乱と恐怖の支配者だ」


「そうか、俺は築地慎吾だ」


「ツキジシンゴ?言いづらい名前だな」


厨二臭い少女はいきなり俺にディスをかました。子供のやることだと思って大目に見る。


「ここはなんだ?」


少女、クロノスは答えた。


「…ここはダンジョンマスターの部屋だ」


「ダンジョンマスター?」


クロノスは理解が追い付かない俺を見て、絶望に打ちひしがれる。


「まさか、サルはサルでも異世界のサルか!?」


「異世界?」


クロノスは思考を停止すると、白目を剥いたまま、一冊の冊子を無から生み出し、俺に投げ出した。俺はその手品に少し感動しながらも、渡された冊子を読む。そこに書かれた文字は見たことのないものだったが、なぜかスラスラ読めた。



【チュートリアル】


≪初めに≫


新しいダンジョンマスター様、こんにちは。私はキューブと申します。以後お見知りおきを。皆様の中には突然ダンジョンマスターになり、戸惑っている方もいるでしょう。そのために、私の方から簡単なチュートリアルをご用意させていただきました。ご活用いただけると幸いです。


まずはこの世界についてご説明させていただきます。この世界の名は人界アスタナ。人間が90%を支配する世界です。あなた達の目標は、この世界を滅ぼし、魔界クロノスに屈服させることです。


その方法とは、一人一人に配られたキューブを用いて行います。キューブにおいては、魔界からモンスターの召喚ーーー


≪ーーー≫



「おいおい、ちょっと待て」


俺はいったん読むのをやめる。人界アスタナ?ここが?


「地球じゃないのか」


俺の脳裏には一つのキーワードが浮かんでいた。


「異世界転移ってやつか…」


口に出すと嫌にしっくりきた。背中に翼が生えた少女も、出口がない部屋も、全部ハイファンタジーにありがちだ。


脳内会議は次の問題に移る。その問題とは帰れるかという問題だ。俺には妻も子供もいないが、それより大切な資産が地球に残されている。その資産がむざむざ国庫に吸収されるのは、流石の俺も我慢できない。パラパラと冊子をめくっていると、あるページが目に留まった。



≪溜まったポイントの使い方について≫


さて、チュートリアルも終盤に差し掛かりましたが、皆様の中には既に大量のDPを得て、持て余している方もいらっしゃるのではないでしょうか。その方のためにDPと特典を交換するシステムがございます。その名は10000DP報酬です。10000DPと引き換えに三つの報酬のうちどれかを交換することができます。その三つとは、


権限を拡張する

新しいダンジョンを作る

元の世界に戻る


と、なっております。奮ってご利用ください。


≪ーーー≫


そこには確かに元の世界に戻ると書いてあった。


「10000DP?」


そのためにはどうやらDPとやらが必要なようだ。俺は冊子の最初の方からもう一度ページをめくっていく。案の定、DPに関する説明があった。



DPダンジョンポイントの入手方法について≫

ダンジョンポイント(以下DP)の入手方法は以下の3つです。


人間を撃退・殺害する

他ダンジョンマスターからの略奪か譲渡

新規ダンジョンマスターへのキューブから1000DP付与


≪ーーー≫


人間の撃退・殺害。その一行をしっかり読み込んで、俺は深く息を吐く。最初の文から嫌な予感はしていたが、この異世界転移はいわゆる勇者召喚とかいう、甘っちょろいものではないらしい。


人間を殺すということは完全に人類の敵になるということだ。俺はぞわっとした悪寒に襲われる。そこまで読んで意識をクロノスに移した。


クロノスは相変わらず白目を剥いて、思考停止している。目の前で手を振ったり、声をかけたりしても、反応がなかったから、猫だましをすると意識を取り戻した。


「うひゃあ!びっくりした!お前!何をする!」


「お前じゃない、慎吾だ」


「サルの名前なんか覚えてないわ!」


このガキの生意気な態度は置いといて、事実確認をする。


「ここは異世界であってる?」


「お前にとってはな」


「そして10000DPを取ったら俺は解放されるんだな」


クロノスはそれを聞いて嘲笑する。


「ハハッ!10000DPだと…?笑わせてくれる」


俺は嫌な予感がして、尋ねる。


「10000DPはそんなに難しいのか?」


「難しいもなにも僕が持っているポイントはあと7DPだ」


今度は俺がヒュッと息を吸う番だった。


「待て。チュートリアルには最初に1000DPももらえるって書いてあったぞ」


クロノスが鼻で笑う。


「はっ!そんなの洞窟の拡張にモンスター召喚、そしてガチャに使ったらすぐに消えたわ!」


「マジかよ…」


クロノスの言っていることが本当なら、これから7DPを使って10000DPを稼がなくてはならない。そして俺は猛烈に嫌な予感がして、チュートリアルをめくった。俺は目当てのページを見つけると読み込む。



≪ダンジョンマスターの敗北条件について≫


ダンジョンマスターはダンジョンマスターが指定したボスを倒されると、消滅します。コンティニューはありません。


≪ーーー≫



嫌な予感は的中したが、一縷の望みをかけて尋ねる。


「クロノス、召喚したモンスターってーーー」


「全員死んださ」


俺は立ち眩みがした。それが意味することはつまり…。


「だから、かき集めた500DPで最後の希望にかけたガチャをしたんだ。そしたらまさかの大外れ!異世界のサル、お前がこのダンジョンのボスだよ!」


俺は言葉を絞り出す。


「前任のボスはどうした?」


「このジェニファーだ。子供に遊びで殺されるレベルのスライムだ。枕代わりに使ってる」


クロノスは自分で自分の言っていることを確かめるように、ペラペラと喋った。


「状況は?」


「初日に、子供が二人来て、殺害。二日目、村の名手がきて、スライムたちを皆殺しにした後、唯一残ったジェニファーに滑って頭撃って死んだ。後、二、三日で村人たちがダンジョンに押しかけてきて、このダンジョンのボス、つまりはお前を殺すだろうよ」


俺は今の状況を指折り数えて整理した。


「ガチャで得た戦力は?」


「サル1匹」


「つまり状況をまとめると、1つ、7DPしかない。2つ、敵は二、三日のうちに来る、3つ、戦力は俺とスライムとクロノスしかいない」


クロノスは情緒不安定になっていきりたった。


「お前がスライムと呼ぶな!ジェニファーだ!そしてダンジョンマスターの僕は戦えない!」


「なんで500DPで別のモンスターを呼ばなかったんだ!?」


「他のモンスターは事情があって呼ばなかったんだ!それにスライム召喚しても瞬殺されるだけだし、ガチャしかなかったんだよ!」


「うん、詰んだ!」

俺は格闘技の経験どころか、殴り合いの喧嘩もしたことがない。俺が矢面に立ったら、ボコボコに殴られて殺されるだろう。命乞いをするしかないが、子供を殺された親たちがそれを許すとは思えない。俺はもはや死ぬ運命にあるということに気が付いた。


このクロノスとかいうガキに召喚されたばっかりに俺はこんなよくわからんところで死ぬのか。クロノスはジェニファーを天井まで投げて、それをキャッチする遊びをしている。


「あはは。ジェニファーたのしいねぇ」


こいつはもうだめだ。そう判断して、死に物狂いで俺はチュートリアルを読み込んだ。極限まで集中力を発揮して、タウンページぐらいありそうなチュートリアルを読破した。


読んでくださりありがとうございます。


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