五
獣道を抜け、教えられた道を突き進むと、木で作られた扉を見つけた。
「ここか、お城に続く秘密の抜け道は」
タンサは扉を開けて潜り、狭い通路を通った。光の差さない暗闇でも恒星シレイがあれば安心である。
恒星シレイの明かりは目に優しい。そのうえでしっかり周りを照らしてくれる。
通路を抜けると城に着いた。それは外壁の内側、中庭であった。
「うわぁ、ここもすごいなぁ」
見渡す限りに花や木が飾られている。
広大でありながらもすべてが丁寧に管理されていた。
物陰にひっそりと隠れ、辺りを見回すと、巡回している衛兵たちの話し声が聞こえてきた。
「姫様、早く良くなるといいんだが……」
「あの魔女、本当に信じて大丈夫なんだろうな」
「あの不気味なやつに姫様を任せなきゃいけないなんて」
「ああ、あの顔……思い出しただけでも鳥肌が立つ」
「俺がもしあんな顔だったら、人前なんて出られないぜ」
「まったく、本当におぞましいもんだよ」
「最近は姫様の近くをチョロチョロしてたから顔を合わせることも多くて参ったよ」
「まぁその分姫様の美しさが際立ったのだけは良かったがな」
「今は地下室にこもって、ほとんど外に出ないからその点は助かるな」
兵士たちはそのようなことを言って笑いあっていた。
(…………)
兵士たちにとっては、スピルは現在、姫の看病をしている存在のはずである。タンサはそんな大切な人間に対しての扱いに少々、複雑な気持ちを覚えた。
(でも、ここで下手なことをしてバレるわけにはいかないし……取り敢えず地下室を探そう)
そして話題が落ち着いて全員が静かに庭を見渡すようになって、改めて一人が口を開いた。
「それにしても最近中庭が以前に比べてさらに整備されてるように見えないか?」
「ああ、庭師たちが気合を入れてるからな」
「何かあったのか?」
「バーバラ様にお叱りを受けたんだとさ」
「あのお優しい姫様が? そんなバカな。庭師がさぼって昼寝をしてたら一緒になってお休みになられる御方だぞ」
「俺も驚いたが事実らしい。正確には懇願に近かったって聞いたがな。庭師の奴らは『姫様は魔女に操られてるんだ』なんて愚痴ってたぞ」
「そもそもさぼってる方が悪いんだ。むしろ何の罰則も受けてないことが不思議なくらいだ」
「でも一生懸命に叱ろうとする姫様ってのは、さぞお可愛らしいだろうな」
「ああ、その一部始終をぜひ見てみたかったものだ」
話に夢中になる兵士たちの視界を避けながらタンサは少しずつ城に距離を縮めていく。
美しく整えられた植木の陰を利用して、兵士たちの視界を避けて城内へと侵入した。
城の内部も街並みや庭園に決して劣らない美しさであった。ただその美しさは決してひけらかすようなものではなく、自然との融合を意識しているようで、簡素とも感じられるが品性にあふれていた。
「姫様、本当に大丈夫かな」
「魔女が看病をするなんて」
「でも私たちには呪いをどうにかできる知識はないし……」
「余計にお体を悪くしないか心配だわ」
「あの魔女。姫様が優しいからっていつもそばにいて。なんて図々しいのかしら」
「まともな神経があったらあんな顔で姫様の隣なんていられないはずよね」
「外見は一番よく見える内面と言うもの。姫様のお傍にいるのにいつも薄汚れた薄暗い服を着てるし、見てのとおりよ」
「ねぇ知ってる? 魔女が怪しげな植物を地下室に運んでいるんですって。なんだかとんでもなく輝いてる花らしいわよ」
「そんな……後でこっそりでも姫様を見に行った方がいいんじゃない?」
「心配なのはわかるけど、何されるか分かったものじゃないからやめておきましょう」
中では姿を見せない姫を心配してか、憂いてか、どこか元気のない使用人たちが自らの仕事をこなしている。
(人がたくさんいる。これは慎重に動かないと……)
タンサは壁や棚、自らの体を隠せるものを確認しながら足を進める。
綺麗に飾られたそれらも、今のタンサにとっては身を隠すための遮蔽物に過ぎなかった。




