終
宇宙からの帰還、タンサはツクョエにある我が家に戻ってきた。
宇宙船を置くために庭は広いが、家自体は決して大きくない。白くカマクラのように半円の家である。扉の前に立つと、タンサの顔を認証し、自動で開かれた。
「おかえり。よしよし、無事に帰ってきて偉いぞ~」
出迎えてきたのは姉であるシレイ。
「ただいま」
「あ! 服の背中のへんがちょっと破けてる! 無理しないように言ったでしょ⁉」
「う……これは仕方なかったんだよ……」
「まったくもう、ちゃんと帰ってきたから許す。それでお土産は?」
「もうちょっと労わってくれてもいいと思うんだけど……」
「心配はもう終わり。ほらお土産」
「わかったよもう。準備するからちょっと待ってて」
荷物を持って台所にこもり、湯が沸くのを待つ。
待ちながらタンサは今回降り立った惑星での出来事をかいつまんで説明した。
「それにしても『美の女神シレイ』はすごいね。本当に顔が変わっちゃったんだもの」
その言葉により、自らの発明品が悩める少女を救い、褒められたことに対して姉は胸を張り誇る。
そんな反応を想像していたが、返ってきた最初の言葉は意外なものだった。
「そんなわけないでしょ」
否定である。
しかしタンサは間違いなくその奇跡を目の当たりにした。
そのため姉の言葉が理解できなかった。
「え? でも本当に別人みたいになったよ? 奇跡みたいだって」
「あのね『美の女神シレイ』はただの美顔器だよ」
「美顔器?」
そして惑星に降り立つ前に誇らしげに語ろうとしていた美の女神シレイの原理について説明を始めた。
「無理やり顔を変えるわけじゃないの。整形じゃないんだから。ちょっと対象の遺伝子情報を読み取って、有害なウイルスを死滅させて、必要な栄養素を注ぎ込んで、ターンオーバーを急速に起こして再生させてるだけ」
「……? えぇっと、わかんないや。つまりどういうこと?」
「変わったんじゃないの。戻ったの」
「……そうだったんだ」
沸いた湯に茶葉を入れる。鮮やかに色が付き始める。
「はい。どうぞ」
カップに花の蕾入れて、その中にお茶を注いだ。カップの中はキレイに満たされていく。
「向こうで飲んだお茶でね。綺麗なだけじゃなくて美味しいんだよ」
「……美味しくない。渋い」
シレイは空になったカップを不満げに置いた。
「あっ! ちょっと姉さん!」
「うえ、え……な、何?」
「飲むのが早すぎるよ! 花が開ききってないじゃないか!」
「え〜、そんなに待たなきゃダメなの?」
タンサはため息を吐いた。
「やれやれ、コレだから風情がわからない人は……家にこもって発明ばっかりしてるから、そんなふうになっちゃうんだよ」
「ほう? 私の発明にどれだけ助けられてるか忘れたのか〜?」
シレイは生意気ぶった弟を捕まえると、そのまま押さえつけ、脇の下や腹回りをくすぐった。
タンサの笑い声が家中に響く。
「わっ、や、止めて……参った、ぼ、僕の負けだから!」
ピタリとシレイの手が止まる。笑い疲れたタンサの息は上がっている。
「素直に負けを認めるその心意気はよろしい」
「よ、よかった。じゃあ、どいて」
「でも……」
「……?」
「私はまだ勝ちを認めてな~い!」
「ええ、そんなぁ!」
しばらくの間、その家は笑い声が溢れていた。
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