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十三

 元の姿を取り戻した姫。

 その姿は恐ろしい竜から打って変わって美しく、存在するだけで空間に輝く花が咲いているような錯覚を与える。

 自分の体を確認して初めにしたのは歓喜───

 ではない。

 友の元へと駆け出して俯く姿に寄り添った。

 今のバーバラにとって自らの容姿を取り戻すことなど、もはやどうでもよかったのだ。

「スピル……何故ですか? あなたの願いが叶えられたのですよ……?」

 声には力がこもっていない。その顔に浮かぶのは哀しみにも似た表情だ。

 力なく座り込む友をその美しい瞳に映した。

「いいえ……いいえバーバラ様、私は……私なぞは美しくなる資格などないのです」

 スピルは泣き顔を振り回し、涙を飛び散らせながら嗚咽混じりに嘆いた。

「どうしてそのようなことを」

「バーバラ様はお美しい……それは外見なんてものにはとらわれたりしない、内面から溢れる美しさが織りなしているのだと気づいたのです。私には……私のような醜い者には無いものです……」

「何を仰るのです……」

 姫は自らの手を、その手に優しく嗜めるように重ねた。

「おやめください!」

 しかし魔女はそれから避けるように手を逸らした。

「バーバラ様の優しさは存じております。ですが、ですがその優しさが苦しいのです……」

 涙の粒が魔女の手の甲を濡らす。

「美しいお姿、そして美しいお心。それらを兼ね備えたバーバラ様に触れると、醜い私の中に妬み、嫉みの思いが溢れて、燃えて、熱を帯び、黒く淀んでいくのです……!」

「スピル……」

「私はバーバラ様をお慕いしております……こんな私にも分け隔てなく接してくださるあなたの優しさにどれほど救われたか……ですが、いつの日からか暗い思いが湧いてきて……私の心をむしばむようになりました。私は、私は嫌いなのです! 憎いのです! このような心を向けてしまう自分が何よりも……」

 魔女は俯いていた顔を姫に向けた。

 それは自らの容姿を嫌う者にとっては決死の行いだった。

「私はもう、生きていることが辛いのです……お願いしますバーバラ様。この……姿も心も醜い女を少しでも哀れに思うならば私を……」

「っ! 何を言っているの!」

 姫の声が強く響く。

「お願いします……どうか……私の、たった一つの望みなのです……」

「やめて……やめてスピル……そのようなことを言わないで……」

 魔女の顔が力なくうなだれていく。

 姫はその壊れそうな背中に手を当てて落ち着かせることしかできなかった。

 その目にはなんとかしたい。なんとかしてあげたい、という切実な思いが宿っている。傍目に見ていてもそれは理解できる。その思いは出会ったばかりであっても心に伝わる。

 だがこればかりはどうにも……とタンサも頭を悩ませた。次の瞬間、

「あっ!」

 という声と同時にカバンを漁る。その奥深くに眠っている物を探して。

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