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 星のように。

 宇宙船『麗しのシレイ様号』が黒い空を流れていく。

 ただ一人の船員を乗せて。

 船員の名前はタンサ。

 『惑星探索型人間』だ。

 産声を上げたその日から、惑星探索型人間として立派な調整をされ、無事に惑星探索の許可を得ることができた。

 そして試験運用の日がやってきたといったところだ。

 かつて人類は宇宙を股に掛けた。

 そうして様々な惑星に根を付けた。

 だが、どこにどんな人間がいるか、どんな星でどんな生活を送っているのか、今となっては分かったものではない。

 そのための惑星探索なのだ。


 つまり惑星探索型人間とは惑星を探索するために生まれてきた人間ということである。


 そんな彼は生まれて十二年になる。

 ふんわりとしたキャスケット帽子がお気に入りだ。これは惑星探索とは全く関係ない。ただの好みだ。ふんわりしている部分が特に。

「さてと、そろそろ降りる準備をしておくかな」

 宇宙船で退屈しないように暇つぶしの道具を沢山持ってきているが、それももうしまい時だ。

 そこへ電子音のベルが鳴り響く。

「電話? 姉さんからだ」

 応答ボタンを押すと、立体ホログラムされた手乗りほどの大きさの青白い少女が映し出される。

〈シレイだけど、そっちの様子はどう?〉

 電話の相手はタンサの姉。名前はシレイ。

 『惑星探索補佐型人間』であり、惑星探索型人間の使命を手助けするための調整をしっかりと受けている。

 シレイが行う補佐は主にタンサを助ける道具作りだ。

 その技術は惑星探索に注ぎ込まれ、麗しのシレイ様号も彼女が製作した。

「問題ないよ。もうすぐ到着する」

〈そう、それはなにより〉

 通話をしながらタンサの耳は些細な違和を感じ取った。

 シレイの声に混じってガサゴソと物音が聞こえてくる。

「何してるの?」

〈うん、ちょっとね。ねぇ『美の女神シレイ』どこ行ったか知らない?〉

「……え? 何? 何がどこ行ったって?」

 シレイが探している名前はあまりにも突拍子がなく、聞き間違いだと思った。

〈だから美の女神シレイだって〉

 しかし間違っていなかった。シレイからの返答に変化はない。

「何それ?」

〈私の作ったものなんだけど〉

「姉さんさぁ、発明品に自分の名前を、しかもそんな自惚れた名前付けて恥ずかしくないの?」

〈全然! 私の素晴らしさを全宇宙に知らしめたいくらい!〉

「えぇ……」

〈それで見たの? 見てないの?〉

「見てないけど」

〈ちょっとカバンの中を調べてくれない? 紛れ込んじゃったのかも〉

「一体何をしたら……」

 タンサはカバンを大きく開き、中をかき分ける。

「もしかして、コレ?」

 取り出したのは片手で持てるほどの小さな機械だ。ピンクと白のファンシーな色合いで、横にスライド式の電源スイッチが付いている。

 試しに電源を入れると身の毛もよだつようなスパーク音が走った。

 機械の先端では、電気が警告するように点滅しながら光を放っている。

〈ああ、それそれ。やっぱりそこにあったんだ〉

「何これ? スタンガン?」

〈違う! 私の美しさに磨きをかけるための道具だから〉

「こんなおぞましい物で美しさを……? それに姉さんって僕とふたつしか変わらないでしょ。作る意味ある?」

〈綺麗になるのに年齢は関係なし! 私は綺麗な私が好きなの!〉

「それで効果あるの?」

〈当然! 誰が作ったと思ってるの? もうお肌ツルンツルンなんだから! ……想定どおりなら〉

「……すごく不安になるような言葉が聞こえたけど」

〈私は元が綺麗だからちょっと効果の有無がわからなくてね〉

「そもそもどう使うのこれ……?」

「使い方はとっても簡単! 電気を顔に当てるだけ! ほらやってみなさい」

「……本当に大丈夫なんだよね?」

 タンサは恐る恐る、顔に当ててみた。

「いたいッ!」

 顔につねるような痛みが一瞬走り、慌てて引き離す。

「いたた……ん? なんか焦げ臭いんだけど……」

〈それは産毛が焼けた匂いだよ。それよりほらどう?〉

 促されて美の女神シレイを当てたところを触ってみる。

「おお、確かにツルツルしてる……いや元からこれくらいだったような気もするけど……」

〈あ~やっぱりタンサが使ってもわかんないかな? でもすごいのは事実だから〉

「本当かなぁ」

〈出力を最大にすれば肌はもうツルツルどころじゃ済まないよ。顔が変わると言っても過言じゃない〉

「怖いよっ! 大丈夫なの?」

〈もちろん。私は自分で作ったものは、まず自分で安全確認をしてるもの〉

「それでどうだったの?」

〈いや〜顔に当てたところまでは覚えてるんだけど、知らないうちに気絶してたんだよね〉

「それ本当に確認できてる?」

〈少なくとも悪化はしてないし問題はないでしょ。まぁ使わなくても私は宇宙で一番可愛いけどね〉

「……そっか」

「二番目はタンサだから。光栄に思いなさい」

「いや可愛いって言われても……」

〈ところで美の女神シレイの原理を知りたくない? それはね───〉

「別に聞いてないよ」

〈聞かれなくても言いたいの〉

「う~ん、聞きたいのはやまやまなんだけど……あ、そろそろ到着するから、また後でね、じゃあ切るよ」

〈ああ、そう残念。じゃあ最後にひとつだけ。私が指示できないからって無茶はしないように!〉

「なんでできないんだっけ?」

〈……小型通信機作るのが間に合わなかったの!〉

「こんなの作ってるから……」

〈…………ごめん〉

「……じゃあ今度こそ着くから」

〈うん。気をつけてね〉


 通信を終了するとともにシレイのホログラムも姿を消した。

「よし、それじゃあ頑張るぞ」

 タンサは惑星に向けて船を操作した。

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