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トロッコ問題から抜け出せ!

目を開けると、そこには錆びたレバーがあった。そのまま視線を左にずらすと、2つに別れたレールを見つける。どうやらこのレバーは、線路を切り替えるためのレバーのようだ。


なんとなく視線をレールの先へ配ると、目を疑う光景が広がっていた。

一方のレールには5人、もう一方のレールには1人が横たわっていたのだ。


「おーい!!そんな所にいたら轢かれて、体が真っ二つになっちゃうぞ!!」


すると何とも間の悪いタイミングで、後ろから車輪の音が聞こえてきた。


「おーーーーい!!!聞こえてるかー!!」


男は焦った。


そして横たわっている人達のもとへと駆け寄る。


車輪の音がどんどん大きくなる。まるで意地悪するかのように、物凄い音を立てて迫ってくる。頬を叩いてもまるで返事がない。1人なら助けられると、力を込めて持ち上げようとするが、不思議なことに動かなかった。そしてとうとう間に合わなかった。せめて1人のレールの方へと思ってしまった自分に、一抹の罪悪感を覚えながら、レールの外へと飛び込んだ。




目を開けると、そこには錆びたレバーがあった。そのまま視線を左にずらすと、2つに別れたレールを見つける。

デジャブ?いや、確かにさっきここで大きなトロッコが迫ってきた。そして運悪く、人数の多い方へと列車は進んで行った。


視線をレールの先へ配ると、目を疑う光景が広がっていた。


さっきと同じように、そこには人が横たわっていた。


男は気付いた。


「これ、トロッコ問題だ…。」


こういう時、功利主義的に考えるなら、レバーを引いて、より沢山の命を助けるのが正しいと聞いたことがある。


またまた車輪の音が聞こえてくる。


「いや無理だろ。」


本音が漏れ出る。こんな時、尊敬してる親友ならどんな行動をとるだろうか。2回目だからか、少し落ち着いて次の策を練る。あいつはなんやかんや、やる時はやる男だからな。きっと漢気を見せてレバーを引くだろう。自分だけじゃない、他の人もそうするのだから悪くないだろうと、そう自分に言い聞かせるように、男はレバーに手をかけた。


さっきより、地面に飛び散った血の量は少なかった。




目を開けると、そこには錆びたレバーがあった。

手が震えている。気丈に振舞ったが、体はごまかせない。つい、ため息が漏れる。レバーを引いたらこの世界から抜け出せると思ったが、まだ続くらしい。一回目はレバーを引かなかった。2回目はレバーを引いた。


「これ詰んでないか…」


トロッコ問題なんて、少し考えて賢くなった気がして、そして1日経ったら忘れてしまう、そんなものだろう。

というか、トロッコ問題に正解ってあるのか。あれって、どっちが正しいか考えることに意味がある問題じゃないのか。もう少し他の人の考え方を調べておけばよかったと後悔した。後悔してから、自分はなんて理不尽な状況に置かれているんだろうと、腹立たしくなってきた。身震いするような鈍い金属音が聞こえ、血の気が失せた。色んな感情がぐちゃぐちゃになって、思考がまとまらなかった。









目を開けると、そこには錆びたレバーがあった。


何回目だろうか、何日経っただろうか。もう100人は死んだ。いや、同じ人だから0人か。周りを探索したり、もう一度人を動かそうとしたり、レールの上に石を置いてみたり、色々試してみたものの全て上手くいかなかった。まともに物理法則が働いていないみたいに、トロッコは確実にレールの上を通り、人を轢く。まるで誰かの思考実験に付き合わされているようだ。


男は気付いた。四次元の世界に生きる人間は、五次元の存在を認識できない。おもむろに歩き出し、そしてレールに横たわった。







目を開けると、そこには錆びたレバーがあった。

息ができない。身体中から汗が吹き出して、顔から涙か鼻水が分からない物が溢れ出る。気持ち悪い。力が抜けてぺたんと座り込む。何も考えられない。何も考えたくない。恐怖に包まれて、小さく体を丸めた。


男は2度と地球へは戻れなかった。誰かの思考実験の中で永遠とさまようのだ。

そして、死にたいと思っても死ねないので──そのうち、男は考えるのをやめた。




#ジョジョの奇妙な冒険

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