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え、コスプレだよね?コスプレだと言って



 超絶美少女レディア・ウィンテルシアの前に颯爽と現れたのは、ユノ率いる衛兵達だった──。


 さて、どうする。


 1、逃げる 2、逃げる 3、逃げる


 うん、“逃げる”一択!


「貴女は一体何をしているのですか」

「分かんない? 逃げてんの」

「馬鹿ですか?」

「馬鹿じゃないし。逃げる選択こそ正常な判断でしょ」

「馬鹿馬鹿しいですね、捕らえなさい」

「「「「「ハッ!」」」」」

「ああーー! あんな所にガノルド様がぁっ! きゃあっ、危ないっ!!」

「「「「「「何!?」」」」」」


 私が指差す方へ一斉に向いた連中、何もないのに物の見事に騙されてくれて何より。くくっ、馬鹿共め! この一瞬の隙をみて再び猛ダッシュ。ガンダもいいとこだわ、まじで。ていうか私、逃げるセンス抜群じゃない? 案外チョロいもんなのね。


「私ってなーんて罪な女っ!? うぎゃあぁんんっ!」


 腕をグッと引っ張られて、口を押さえつけられながら引き寄せられる。私を後ろから包み込むように覆ったのは……誰? 逃げ出そうにもビクともしない。さては私、岩に抱きしめられてるな? そうに違いない。固いもん、カッチカチだもん。


「何をしている。遊んでいるのか? 鬼遊びならレディアの負けだぞ、俺が鬼ならばな」


 ちげーよ、鬼ごっこなんてしてねーよ。


 何が嬉しくてあんたらと鬼ごっこしなきゃなんないのよ。ていうか、無駄にノリノリなのやめてくんないかな。あんた王子か何かなんでしょ? 部下が泣くぞ、鬼ごっこにノリノリな姿なんて見たら。


「フッ。鬼遊びとはまだまだ子供だな、お前は」


 だから、ちっっがうわぁぁー!!


「まだやるつもりか? もう満足しただろ。戻るぞ」


 ・・・ああもう、めんっっどくさぁぁ。


 あの、いいかげん私の口を塞いでる巨大な手を退けてくんないかしら。


「ん、んん、んんんっ!!」

「ああ、悪い」


 いや、手だけじゃなくて体もついでに離してくんない? いつまで抱きしめてんの? ねえ、距離感バグなの?


「あの、離してくれません?」

「鬼遊びがしたいのか?」

「それいつまで言ってんのよ! 違うわ!」

「そうか」


 ようやく解放された私は振り向いてガノルドを見上げた……ら、思ったより近くにガノルドの綺麗なご尊顔があって、距離を取るべく慌てて後ろへ下がるとドレスの裾を踏んづけて倒れそうになった。


「ひっ!?」

「慌ただしいな」


 結局また抱き寄せられる始末。


「……す、すみません。ありがとうございます」

「かまわん。ところでレディア、歳はいくつだ」


 いや、その前に離してくれませんか、もしかしなくても距離感はかれない系男子ですか? いや、男子って年齢でもなさそうな? 若くも見えるし、結構年上にも見えるし、年齢不詳すぎる。というか、ほんっと綺麗な顔立ちしてるし身長高すぎだって。見上げるの大変、首疲れるわ。


「18ですけど……!」


 ガノルドの分厚い腹筋をグイグイ押して何とか離れることができたけど、ものすんごく不満そうな顔をしながら屈んで私を覗き込んできた。


「なぜ離れる」

「なぜくっつく」

「普通だろ」

「普通とは?」

「……まあいい。18か、十分だな」


 何が十分なのかさっぱり分からんないけど、なんかもう聞き返すのもめんどいしやめとこ。


「で、あなたは?」

「『あなた』じゃない。ガノルドだ」

「はぁー。ガノルド“様”はおいくつなんですのー?」

「30だ」


 ひょえー。30ねえ、12歳上ってことは一回りも違うじゃん。ジェネレーションギャップやばそ。会話が『あ、え、へぇ、ははは~」みたいな感じで気まずくなるパターンのやつね。いや、そもそも異世界でジェネレーションギャップもクソもないか。根本的に話が噛み合うはずもない。


「ハハハ、サンジュッサイデスカ」

「なぜ急に片言なんだ」


 もうキャパオーバーなのよ、色々と。


「察して、お願いだから」

「そうか」


 この男、本当にあの変態野郎の首をぶった斬った人と同一人物ですか? あの時の冷酷冷徹で身の毛がよだつような雰囲気がまるでない。まぁ威厳さは常にあるけど……ってそんなことよりも聞きたいことがある。


「あ、あの……」

「なんだ」

「不躾なことをお聞きしますが、ヒト(・・)ですよね?」

「? 何を言っている」


 そんなキョトンとした顔で見ないでくださる? こんな簡単な質問の意味を理解できないほど低能ではないはずでしょ。


「あの、それってコスプレですよね……?」


 耳と尻尾を指差して、ひきつった笑みを浮かべる私。


「だから、何を言っている」


 ・・・え、コスプレだよね? コスプレだと言って。


「えっと、コスプレの意味は分かります?」

「コスプレ……扮装のことか?」

「ええ、まあ、ええ、そうですね、はい。あなた達コスプレ(扮装)してるんですよね? お国柄ですか? そういう民族なんですよね? いや、流行りですか? 今のトレンド~みたいなものですよね?」

「……?」

「その耳と尻尾は一体何なの!? ねえ、コスプレだよね!?」

「落ち着け、レディア」


 落ち着いてられるかぁぁい! なんっでそんなに焦らすわけ!? 『ヒトだ』って言うだけじゃん、たったの3文字じゃん! はよ言えや!


「ははっ。いやぁ、みなさん多種多様なコスプレ(扮装)をしてらっしゃるなーって感心してましたの~。オホホ~」

「扮装ではない。我々は狼人族(ウェアウルフ)だ、何を言っている。鬼遊びの最中に頭でも打ったのか?」

「……うぇあうるふ……?」


 ウェア……ウルフ……? ウェアウルフって、なに。ウルフって、狼? は? ヒトじゃない……? ん? その耳と尻尾って本物ってこと? え、コスプレじゃないの? いやいやいや、獣人とか聞いてないんですけど!? なにそれ、そんなことありえ……ないとは言い切れないよねぇ。だってここ、異世界ですし!


 いやまぁ、異世界だからそういう種族とかいてもおかしくないんだろうけど、異世界初心者の私は驚きを隠せないのよ。本当にいるんだ、獣人なんて。


 ていうか、尻尾と耳があるってだけで他はまんま人間じゃん。こんなの区別つかないって、ただのコスプレマニアだって思うじゃん普通は! なーんてね、現実逃避をしたかっただけ。体の造りが違いすぎるな~とか、さすがに全員が全員が獣耳付けてるのはおかしくない? とか色々思ってたし、何となく人間じゃなくね? とか思ったりもしてたよ! それでもヒトだって、人間だって信じたかったの!


「どうした」


 どうしたもこうしたもない、この一言に尽きる。


「え、あ、いや、なんでも……」


 いや、ちょっと待ってよ。この男がヒトかどうか確認したかったのもあるけど、もう一つ確認しなきゃなんない重要なことがあるでしょ── “正室”ってなに、何なの? これ、めっちゃ重要じゃない? 私の異世界人生が左右されると言っても過言ではなさそうな。


「あ、あのぉ……正室(・・)ってなんなんですか? みなさん驚かれてましたけど」

「お前、そんなことも知らないのか」


 鳩が豆鉄砲を食らったような顔をして私を見てるガノルド。ええ、知りませんよ、知らんわそんなの! 誰でもそんな知識があると思ったら大間違いよ、失礼しちゃうわ。


「は、はあ……知りませんけど何か? まぁ傍に置くって言ってましたし、位の高い奴隷的なの想像してますけど?」

「……ククッ、クククッ……ハハハッ! ああ悪い、レディア。馬鹿にしているわけではない」


 いや、してんだろ。思う存分馬鹿にしてたでしょ、絶対に。


「ははっ。ガノルド様に笑っていただけるのであれば、もう何でもいいですわ~」

「そう拗ねるな。18とはいえまだまだ子供だな」


 そう言って私の頭を撫でたガノルドのせいでジェシーがセットしてくれた髪がぐしゃぐしゃに……いや、私がガンダした時点でぐしゃぐしゃになってるか。ごめんね、ジェシー。


「で、正室(・・)ってなんですか?」


 私の頭を撫でてるガノルドの大きな手をしれっと退けて少し距離を取る。“獣人だから”、“人間じゃないから”とかそんな理由じゃなくて、シンプルに信用ならない。あのクソジジイの一件で、大人を簡単に信用してはいけないってことを学んだ。まだユノみたいに『ガノルド様の指示だから従っているだけで、貴女みたいな下劣な女など認めていません』みたいな奴のほうがまだよっぽど信用できる。


 ガノルド(このひと)は何を考えているのか全く読めない、だから危険。というか、敵意もなければ好意もないのに私を生かしておく意味がよく分かんないのよね。何がしたいんだろう、このひとは。


「正室とは正妃になるということだな」

「せいひ……?」

「正妻のことだ」

「?」

「妻と言えば分かるか?」

「誰の」

「俺の」

「え?」

「ん?」

「妻?」

「ああ。側妃ではなく正妃だ」


 ・・・なんてこったい。


 正妃って正式な(きさき)ってことだよね? ということは、側妃ってのは要するに正妃も公認の愛人みたいな? 一夫多妻制的なやつ……? うわぁ、今の日本じゃありえないわ。ムリムリ、そういうのダルいしめんどい。そもそも好きでもない男と結婚とか嫌。


「無理ゲーすぎる」

「? 無理ゲーとは何だ」

「あ、ああ……ガノルド様の正室はお断りします~という意味ですね」


 日本(あっちの世界)では間違えてばかりだった。愛されたくて、愛したくて、言い寄ってきた男の中から選んでみたものの、なんか違った挙げ句に人様の彼氏(もの)だったりして。だから、どうせなら異世界(こっちの世界)では間違えたくない、間違えるわけにはいかない。ちゃんと恋をして、愛されたい、愛したいの、心の底から。


「正妃が気に入らないのであれば側妃でもいいだろう」


 は? なによそれ。そんなの正妃が私じゃなくてもいいってことじゃん。ただ自分の傍に置ければ何だっていいってこと? そんな男、尚更願い下げなんだけど。


「いらない」

「何がだ」

「私だけを愛してくれない男なんて要らないの」


 ここまではっきり言っても顔色一つ変えず、ただただ私の瞳をジッと見つめてくるガノルド。何を考えているのか分からないその綺麗な瞳に吸い込まれそうで、私は思わず目を逸らした。


「嫉妬か?」


 ・・・はい? いや、は? まじで""は""?


「今、なんと?」

「妬いているのか?」

「違いますけど」


 ばっさり否定しながらジト目でガノルドを見る私。


 このひと『女なら俺に惚れて当然』『お前も俺のことが好きなんだろ?』感が否めない。まぁこの容姿だし? 地位や何やらに寄ってくる女は数知れずでしょうね、腐るほどいるわな。だからきっと勘違いしてんのよ、自惚れんな。生憎、王族のお戯れに喜んで付き合ってられる質じゃないんでね。正室(・・)だの側室(・・)だのに全く興味がないわ。


 私が異世界(この世界)で平和に暮らすには、人族側へ行くこと……だと思うんですけど、異世界有識者の方々はどう思われます? こういう時、どうしたらいいの?

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