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いいえ、私じゃございません



 自分でできるのに、なぜか髪やら背中やら丁寧に洗われながら軽くディスられまくってる私。いい加減うざいしイライラするけど、なんだかんだ憎めなさもあってもう無の境地状態。


「あっ、自己紹介がまだだったね! わたしはジェシー! ジェシー・マニャーニ。ジェシーでいいよ~! 貴女は?」

「えー、私は、私は……」


 あれ? あれれ? 付けられた名前が思い出せない。 えっと、あのクソ妖精なんて言ってたっけ。れ、れでぃあ、てるうぃんてる……? いや、絶対違うだろこれ。うーんと、えっとぉ。


「ああ! レディア・ウィンテルシアだ!」

「へえ、可愛い名前~! じゃあレディアね!」


 ジェシーは私に対して敵意とか全くないし、フレンドリーすぎて逆に怖いな。ていうか、男女問わず獣耳コスプレしてる民族とか色んな意味で怖いし、ほんっと変な人達に捕まっちゃったな。あんのクソ妖精、余計なもの譲渡した挙げ句にこんなコスプレマニアの集う巣窟に落としやがって、まじでふざけんなっつーの。


 まぁ何を言ったってあのクソ妖精には二度と会えないけどね、死んじゃってるし。


「ねぇねぇ、レディアって何者なの~? あのガノルド様が人族にここまでするなんて信じらんないんだけど~。生きてるだけでも奇跡なのに、湯浴みまでさせるなんて驚き~」

「は、はあ……そんなの知らない。だいたい理不尽に殺させれる理由が私には無いしね。そもそも何もしてないし、ただの""迷子""ね? 迷子。ていうかさ、ずっと思ってたんだけどその耳なんなの? みんな付けてるよね。そういう民族なの?」

「ええ~? なに言ってるの~? あはははっ! レディアおもしろ~い!」

「ああ、はあ……もういいわ、なんでも」


 そういえば全く気にしてなかったけど、ちゃんと言葉が分かるし通じてる。これ""だけ""はあのクソ妖精に感謝。


 それから湯浴みとやらを済ませて戻ると── あの、私の下着が無いんですけど? さっき脱いだ場所に下着も借りたマントも何も無いんですが……え、どうしろと? 『みすぼらしい女は真っ裸で十分でしょう。そのままでいなさい』とかあのユノって男なら言いかねなくて笑えない、まじで最悪。


「こっちよ~」

「あ、うん……って、ちょっ!?」


 ジェシーがあれよこれよという間にドレスっぽい洋服を着付けてくれて、ヘアセットからメイクまで全部やってくれた。


 ・・・自分で言うのもなんだけど、これはさすがに美人すぎるわ……と鏡を見ながら心の中で呟く私。


「ジェシー、ありがとっ」

「帝城内にある一番ちっさい下着とドレスだったけどピッタリね~。何もしないよりかはマシになったかな~?」

「……あぁそう。そりゃどうも」


 ガノルド、ユノ、ジェシー、たしかにここの人達は綺麗な顔立ちをしてる。容姿端麗とはまさにって感じで。でも私だってそこそこ悪くない(ツラ)してんでしょうが。『綺麗だね』『美人だね』って言われまくってきた人生(タイプ)なんですけど? そりゃ家族も恋人も友人もいなかったけど、それなりに人とは関わってきたし、この容姿で得もしてきたし……ってまあ、ジェシーのボンッ! キュッ! ボンッ! を目の当たりにしたらねえ……自信喪失するけども。


 この国の人ってみんなこんな感じなの? 男は2メートル超え、女は180センチそこそこが当たり前みたいな? 巨人族……? ガノルドなんて余裕で2メートル超えてるもんね、あれは。そりゃあ165センチあるかないかの私がちんちくりんに見えても不思議ではない。普通に考えたら私も高めではあるのに、ここじゃ子供レベル。


 あんたら何を食べて生きてんのよ。何をどうしたらそこまでの成長を遂げられるのか……いや、知りたくもないな。無駄な詮索はやめよーっと。


「ユノ様が多分待ってるよ。いってらっしゃ~い」

「え、ジェシーは?」

「わたしはここまで~。じゃ、もう会うこともないだろうけど頑張ってね!」

「え? ちょ、それってどういう意味!?」


 グイグイ押し出されて最終的にドンッ! 背中を押された私はよろけながら転けそうになりつつ廊下へ出ると、大きなため息が聞こえてきた。


 ゆっくり顔を上げながら見上げてみると、目を細めて私を見下ろしているユノとばっちり目が合って、とりあえずニコッと微笑んでみたら鼻で笑われた。しかも、すんごく小馬鹿にした感じで。


「な、なによ」

「まあ……幾分マシになったのでは?」

「はあ、そりゃどうもー」

「私について来なさい」

「はいはい」

「はぁぁ。どのような育ち方をすればそんな……やはり人族は品性に欠けますね」


 ・・・ねえ、ひとつ聞いてもいい? あなた達も人族(ヒューマン)なのでは? さっきから何を言ってるんだろう、意味不明すぎる。


 で、ここはどこ? まじで何? そこらじゅう高級感溢れる内装でピカピカだし、全ての造りがいちいち大きいっていうか無駄に広いし高いし。とんでもなく場違いなところにいない? 私。きっと場違いだよね、そんな気がしてならないよ。


 さっきジェシーが“帝城”ってたしか言ってたよね? てことはお城ってことだよね? 控えめに言ってヤバくない?


「ここです。入りなさい」


 拒否権は……? ええ、もちろん無さそうで。大きな扉がキィィと音を立てながら開いて、私の視界に飛び込んできたのは── えーっと、どう説明したらいいかな。豪華な広場? みたいな、社交ダンスとかやっちゃえそうな会場で、とりあえず真ん中に赤い絨毯みたいなのが敷いてあって、その先に大層ご立派な椅子があって……はは、とりあえず語彙力皆無すぎて泣くわ。


 あ、たしか『謁見の間に連れてこい』とかガノルドって男が言ってたな。多分ここ、謁見の間だわ。みなさん、謁見の間ですってよ、ここ。


 そして、玉座(ご立派な椅子)に偉そうに座っているのは当然の如くガノルドだった。やっぱあの男大きすぎない? 図体でかすぎて人間離れしすぎてる。


 で、赤い絨毯の両脇にズラリと並んでる多種多様なコスプレマニア達。もれなく全員獣耳付けてるわ、やっぱり。そんな人々は私を見てひそひそ話の最中。


「相変わらず貧相な体ね、人族(ヒューマン)は」

「うーん、容貌は悪くないなぁ」

「何を悪趣味なこと言っているんだ、君は」

「まぁまぁ美しいではないか。ペットにでもするおつもりか? 陛下は」

「私は人族(ペット)の世話役なんて御免だわ」

「すぐ殺してしまえばいいものの、陛下も酷なことをする」


 えーっと、てなわけでハイごめんなさい。どうやら私、『異世界? なにそれおしいの? 異世界だのなんだの、そんな現実離れした架空の話なんて知らんがな』と小馬鹿にしてた世界へどうやら転移させられたっぽい。信じたくはなかったけど、これはもう異世界転移だって認めるしかなさそうな……。


 早々に前言撤回するわ。異世界はある、おそらくきっと。


 あのぉ、誰かぁ、異世界有権者とかいない? まじで助けて、異世界とかほんっと無理なんだけどぉ! なーんて言ってられないくらい多種多様なコスプレをした連中に囲まれて、物々しい雰囲気。全く歓迎されてないってことだけは、はっきりと分かる。こんなの絶対に殺させるじゃん、極刑じゃん、死刑じゃん。


『異世界の知識が無いようじゃ無理かぁ。知識はねぇ、入れとかないと 』の言葉が脳裏を過ってイラッしたのは言うまでもない。


「止まれ!」


『これ以上は進ませんぞ!』と言わんばかりに衛兵達が剣を振り下ろしてきた。ピタリと止まって王座を見上げると、もちろん目が合うよね? 偉そうに座ってるガノルド(やつ)と。ていうか、こんな見世物(みせもの)にされながら殺させるくらいなら、さっき殺されたほうが幾分マシだったな。


「名はなんという」


 大柄でガタイの良い眉目秀麗な男。高圧的で堂々とした様は、今まで自分の思い通りにならなかったことはないと言っているようで、それがどうも見下されてる感じがしてかなり癪に障る。ビクビクしてんのも柄じゃないし、どうせ死ぬんならありとあらゆる悪態と暴言吐き散らかしながら死んでやる。


「人に名前を尋ねる時、まず自分から名乗れって教わってません?」


 私がそう言った瞬間、謁見の間が恐ろしいほど凍り付いた……と思ったら、ざわざわと騒ぎになって衛兵達が私を取り押さえようとした時──。


「誰の許可を得てそれに触れようとしている」


 ガノルドのその一言で動きがビシッと止まり、元の配置へ戻った衛兵達。ということは、それ(・・)って私のことですかね?


「で、名はなんだ」


「知りたきゃまず名乗れば?」


 ふんっと小馬鹿にしたように鼻で笑う私見て、眉間にシワを寄せながら少し目を細めた男。こういう偉そうな奴ほど自ら名乗るってことを極端に嫌がる傾向がある。要はプライドが許さないってタイプのやつね。


「俺の名はガノルド・ラフマトスホユール。お前の名はなんという」


 いや、名乗るんかい。拍子抜けするほどあっさり名乗られてズッコケそうになるわ。『佐々木美織(ささきみおり)』なんて本名言っても『なんだそのヘンテコな名は!』ってこの場が荒れそうだし、やっぱあの名前を名乗るのが無難かな。


「えっと……れ、レディア・ウィンテルシア」

「そうか。レディア・ウィンテルシア、お前を正室(・・)として俺の傍に置く。以上だ」


 ていうか、この世界滅びました? なんっの音も聞こえませんけど? 死ぬほどシンッと静まり返った謁見の間、氷河期かってくらい場が凍りついてる。で、周りの視線がグサグサと突き刺さってとても痛い。


「陛下! お言葉ですが、側室ならまだしも……いや、側室(・・)でも人族を陛下のお傍に置くなどっ」

「この俺がレディアを選んだ、それ以外に理由など必要か? 俺が決めたことに不満があると言うのなら聞いてやってもいい、言ってみろ」


 一気に緊張感が走って、この場にいる全員が恐れ怯えているのが伝わってくる。この男、偉い人なんだろうな。


「い、いえ……申し訳ございません。度重なる無礼、お許しくだっ」

「もういい、全員下がれ。レディアと話がしたい」


 そそくさ退散するコスプレマニア達、ひっろい謁見の間に取り残された私はげんなり状態。ま、なんとか死亡フラグ回避……できたのかな? ていうか、この男とマンツーマンとか気まずぅ。


「レディア、お前か? 俺の傷を治したのは」

「……はい?」

「あの声はお前だった」

「は、はあ……?」

「匂いも覚えている」


 いや、なに言ってんだ、こいつ。こんな屈強な大男を治した記憶はございません。人違いなのでは? ドヤ顔で『匂いも覚えている』とか言ってるけど大丈夫? ただの変態野郎になってるけど。ま、ヤバい奴ってことは確定ね。関わりたくないの一点張りですわ、こんなの。


「いいえ、私じゃございません」


 ニコッと微笑みながら一応頭を下げてガノルドに背を向けた瞬間、ビュンッ! と猛ダッシュした。佐々木美織 改め レディア・ウィンテルシア。風の如く走り抜けるのよ、この帝城内を!


 死ぬほど柄でもない女の子らしいドレスを捲り上げながら、作画崩壊(顔面崩壊)しつつ全力で走ってる私に可愛らしいヒロイン的なの求めるのは諦めて(やめて)


「人族が逃げたぞ!」

「逃がすな!」

「捕らえろ!」


 いいえ、人族ではございません。私はただの人間です、ジャパニーズです。

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