予期せぬ発情、互いの正体が明らかに(2)
助けにきてくれたケヤンとジェシーにお礼も言えなかったけど、今優先しなきゃいけないのは、この自暴自棄になりかねない男のフォローなのよ。
「お前はなぜ逃げない、どうして立ち向かってくる」
「そういう女を選んだのはあんたでしょ」
歩み寄り、ガノルドの隣に立って見上げると、ちらりと私を見下ろしたガノルドの瞳はまだ緋色で、一度発情すると発散できるまでどうやら落ち着かないらしい。
「もう苦しくない? 大丈夫?」
「……はぁ、お前は危機管理能力がまるでないな。また襲われたらどうする」
「まぁ、なんとかなるじゃん? 最悪使いものにならなくなる勢いできん○ま蹴っ飛ばして逃げるわ」
「下品な女だな」
「なにを今さら」
ベッドに腰かけたガノルド、私もちょこんと隣に腰かけようとした……ら、ガノルドに抱えられた。
「悪かった、痛むか?」
大きな手が私の下腹部に触れ、尻尾は噛まれた傷が治りかけている首を撫でる。
「私もともと自己治癒力が高いの、見てのとおり。それから……その、治癒魔法が……使える、ようになったと言いますか……」
私の下腹部を撫でていた手がぴたりと止まって、尻尾はぱたりと下がった。
「レディア、お前はいったい何者なんだ」
遅かれ早かれガノルドにはいずれ伝えなきゃって思ってた、ずっと隠しておくなんて無理。
「治癒魔法を譲渡されたの、もともと自己治癒力が高い私なら“器”になるって」
こんな話、信じてもらえないのが当然。けれどこのひとはきっと私のことを信じるって、なぞの自信もあったりする。
「なぜあの時俺を助けた、なぜ俺にこのことを打ち明ける……俺に利用されるとは思わなかったのか? そんな力、誰もが欲する……悪用されかねないぞ」
「この先もあなたと一緒にいる以上、隠しきれる自信がなかったのが本音。それとまあ、あんたは私の力をむやみやたらに利用したりしないって、なんとなくそう思えたから」
「……つくづく馬鹿な女だな」
「そんな女を選んだあんたはクソ馬鹿ね」
「ああ、そうだな」
顔を近づけてきたガノルドの鼻がこつんと私の鼻に当たって、鼻先から熱が伝わってくる。体も熱い、息も少し苦しそうで鼓動が激しいって振動でわかる。
「発情ってどうすれば治まるの?」
「お前が考えることではない」
「私はあなたを拒んでばかりじゃいられない」
「お前は好きでもない狼人族に襲われてもかまわんということか」
「なによその言い方」
「そういうことだろ」
私はただ、ガノルドの発情を治したいだけ。こんなにも苦しそうなのに、知らん顔なんてできないでしょ。そもそも私に発情したっぽいし、私にも責任がある。
「なに、正妻になる私を差し置いて他の女でも抱きに行くつもり?」
「なんだと?」
互いに険しい顔をして、さっきまでのちょっとした甘い展開はどこへやら状態。
「他の女抱いてくるっていうんだったら、もう二度私に触れてこないでね」
「他の女を抱きに行くとは一言も言っていないだろ」
「だったらどうすんのよ、これ」
「っ!?」
私はいまだに主張しつづけている逞しいガノルドJr.を握った。
「で、どうすんのよ」
「はぁ、お前ってやつは……」
呆れた表情で私を見下ろすガノルドをムッとして睨みつけると、尻尾で顔をベシベシと適当に撫でてきた。
「ちょっ! もふもふすんな!」
「先っぽしか挿入できていない」
「……はい? なによ唐突に」
「狭い、お前のナカは。時間をかけて拡げる必要がある、いきなり俺のを咥えるのは無理だ。一刻も早く繋がりたいが、傷つけたいわけではない。だからそう急かすな」
なんでこのひとって私に甘い、というか優しいんだろう。べつに恋仲ってわけでもないし、そもそもガノルドのタイプじゃないっぽいしね、私。
本当に変なひと、本能には抗えないってこういうことなのかな? 好きでもない女に優しくて、大切にして……意味わかんない。ま、私としては好都合でありがたいけど。
「さっき話したこと忘れたのですか」
「なにがだ」
「私は自己治癒力が高いんですよ」
「だからなんだ」
「痛かろうが裂けようが死なないかぎりは治りますのでご心配っ!?」
私の頬を強く掴んだガノルドの見下ろすその瞳は、ひどく冷たかった。
「今までの男はそうだったのか? 無理やり犯されてもすぐ治るからと? 俺をそんな下衆どもと一緒にするな、俺はそんなことをしてまでお前を抱きたいとは思わん。いいか、わかったか」
だったらどうすんのよ、ほっとけば治まるわけ? 予期せぬ発情だったんでしょ? 治めるには私とするか他の女とするしかないんじゃないの?
頬を掴んでいるガノルドの手を払うと、少し眉間にシワを寄せている。
「ひとりで抜いて治まるわけ?」
「ひとりで抜くなどしたことがない」
「でしょうね、だったらどうすんのよ」
「鎮静剤をっ」
「あんたに効くわけがないでしょ」
「……」
あ、そうだ。私が抜いてあげればいいんじゃないの? 手とか口とか使って……いま本番をするよりはマシなのでは?
「ガノルド様、私が抜いて差し上げましょう」
「お前は何を言っている」
「いつまでも獣化されてると私だって困るの」
「やはり怖いのか」
「違う、なんかこう……いけないことしてるみたいで落ち着かないの!」
人間と獣人、禁断の── みたいな感じがしてモゾモゾすんのよ!
「? いけないこととはっ」
「あぁもうっ! なんでもいいから!」
「っ!? 待てレディア、お前っ!!」
この後、全身がガノルドの欲でどろどろにされたのは言うまでもない。
これでもかってくらい欲を吐き出したガノルドは、元の姿に戻り一安心。
そしてなぜか流れで一緒に湯浴みをするはめに。
「遠いな」
大きな浴室、大きな湯船、私はガノルドと少しでも離れたくて端っこで背を向けている。
なんかもう、すべてが恥ずかしすぎて無理。下手くそだったのかちょいちょい鼻で笑われてたし! だいたいあんたのがおっきすぎて咥えれないんだっつーの!
「拗ねているのか?」
「違いますけど」
「悪くなかったぞ」
「っ、ああそうですか! 自分から仕掛けたくせに下手くそですみませんでしたね! だいたいっ……」
やけくそになってバッと後ろへ振り向くと、穏やかな表情をして優しい瞳で私を見つめていたガノルドと視線が絡み、言葉が詰まった。
「下手とは言ってないだろう」
「……だいたいあんたのがおっきすぎて上手にできるもんもできないのよ」
「悪くなかったと伝えたはずだが」
「だって笑ってたじゃん!」
「そうだったか?」
「笑ってたし!」
「……まあ、あれだ……悪くなかった」
「はあ!? 馬鹿にしてんの!?」
「良くなければあんにも出さんだろ、それが答えだ」
ぷいっとそっぽを向きながらそう言ったガノルドに思わず表情筋が緩む私……っていかんいかん、完全にガノルドのペースに呑まれてるわ。
予期せぬ発情で互いの正体が明らかになって、ガノルドとの関係性に少し進展があったのはまあ、悪いことではないからいいとして、ケヤン怒ってるかなぁ……あんのガキんちょなかなか手ごわいのよね。
「俺といる時に他の男のことを考えるとはいい度胸だな」
「え? いやいや男って、ケヤンのことだし」
「本当に他の男のことを考えていたとは……お前は誰のものなのか、自覚が足りないようだな」
「あ、あのっ! もうえっちなことは禁止ですよ!?」
「なぜだ」
迫ってくるガノルドから逃げる私、とはいえ浴槽内で逃げるっていってもたかが知れてる……逃げられるわけがない。
「なぜって、また発情したらどうするおつもりで?」
端っこに追いやられた私、そんな私を真顔で見つめてくるガノルド。
「……他の男のことは考えるな、不愉快だ」
「独占欲の塊ですかあなたは」
「この世の全ては俺のものだ」
「ジャイ○ンですかあなたは」
「また他の男か」
男だけどもそうじゃない! 国民的アニメネタが通じないのは非常に困ります!
「あの、本気でやめてくださいね」
「やめてほしいとお願いする奴の態度ではないな」
「なんでそうも上から目線なわけ、あんたは」
「そんなつもりはないが」
「あぁそうですか…………っていや、なんで?」
不意に唇を奪われた、軽く触れるだけの口づけ。
「ふとしたくなった……なぜだ?」
「私に聞くな、己に聞け」




