予期せぬ発情、互いの正体が明らかに(1)
荒々しく舌が入ってきて、私のすべてを完全に支配するような刺激的なキスは、呼吸をする間も与えてくれない。
ガノルドに抗おうとすればするほど口内を激しく犯され、頭がふわふわしてきてなにも考えられなくなってしまう。
「んっ、ガノ……ルド様っ……まって……っ!」
飢えを満たすようなむさぼる口づけを容赦なく私へ注いでくるガノルドに、私の声はもう届かない。歯茎をなぞるように舌を這わせ、『俺のだけのものだ』とマーキングするようなキス。こんな無理やりされているのにガノルドとの口づけがどうしようもなく気持ちいい。
ガノルドの手がスッと下へ伸びてきて、下着の中に指が入ってきた。
「ひゃあっ! ちょ、いきなり!? 待ってガノルド様っ!」
「キスだけでもうこんなに濡らしているのか」
「ちっ、違うし!」
「期待していたのか? 処女のくせに随分と淫乱だな」
こんなに濡れるなんて初めてだし、私って不感症だったはずでしょ!? キスだけでこんなにも気持ちよくて濡れちゃうなんて、もうなにがなんだかわかんないんだけど!
「あ、あんたがなにかしたんでしょ!? 絶対そう、口の中に媚薬とか仕込んでたんじゃっ」
「そんなもの使わん」
「っ!?」
長くてゴツゴツした指で卑猥な音を立てながら私のナカを乱していくガノルド。やめてと言ってもそれを聞いてくれるわけもなく、ただただ快感に溺れていく。
「いやっ、もう、やめて……っ」
「やめて……か、やめてほしそうには見えないが?」
「っ! やだって言ってんでしょうが!」
「意地っ張りな女だな、体は素直だというのに。それにしても狭いな、指が食いちぎられそうだ。咥えられるのか? こんな狭さで俺のモノを」
「そんなのっ、知らない……っ、や、めて……っ、これ以上はもうっ、むり……!」
「お前は誰のものだ、言え」
「はぁっはぁっ、ガノルド様のっ……ものだからぁっ!」
今まで感じたことのない快感の波が押し寄せ、体の芯がぐわっとする。この先にある絶頂というものを経験したことがない私は、快楽に怯えた。
こわい、自分の体が自分のものじゃないみたいで、このままガノルドの指でナカを責めつづけられたら、私はきっと壊れてしまう──。
「まって……っ、おねがいっ、ガノルド様……っ!」
「なんだ、まだ中指しか挿れてないぞ」
「やだっ、もうおかしくなっちゃうっ!」
「レディア、お前って奴は本当に……そう煽るな」
粘着質な音を立てて指を引き抜いたガノルド。
もっとこう乱暴にされると思ってたんだけど、私を見つめる瞳も愛撫する指先も、なぜか優しくて調子が狂う。
「怒ってたんじゃなかったの」
「なんだ、メチャクチャに抱き潰されたいのか?」
「ゴメンナサイ、ヤサシクシテネ」
「ふっ、なんだその片言は」
ただひたすらに唇を重ね合って、口内を犯されつづけた私は蕩ける寸前でようやく解放された。そして私は、ガノルドの異変に気づく。
ガノルドの乱れた呼吸は私との口づけで、とはまたべつのものに感じる。そもそも私とのキスで息を切らすようなひとではない。
息苦しそうに私を見下ろしているその瞳は、いつもの幻想的で鮮やかな美しい水色ではなく、深く綺麗に澄んでいる緋色の瞳になっている。
「はぁっはぁっはぁっ」
「……ガ、ガノルド様?」
「っ、げろ」
「なんて?」
「に、げろ……っ!」
逃げろって、いったいどういうこと?
「そんな、なによ急に……」
逃げろだなんて言われても、こんな苦しそうにしているガノルドを放ってはおけないでしょ。
「っ!?」
「グルルル」
狼人族── ガノルドが獣人だってことは知っていた。けれど、背が高くてガタイがよくて耳と尻尾が生えてるってこと以外私たち人と変わらなくて、獣人っていってもほぼ人なんだなって認識でしかなかった。
今にも私を喰らいそうな鋭い牙が生えた獣。
はじめて見るはずなのに、この既視感は──
「……あなた、もしかしてあの時の……」
洗練された銀色の毛が全身を覆っている。大きさは違えど、私があの時助けようとした大きな狼と同じ毛色……私はなぜガノルドの髪色で気づかなかったのか、まんまじゃん。
ガノルドの妙な発言もなにもかも、バラバラだったピースが揃っていく。
「あなた生きてたのね、よかっ……ぅぐっ!?」
上に跨がっているガノルドの大きな手が私の首を絞め、逞しく熱を帯びたガノルドのモノが割れ目を裂いて無理やり捩じ込まれていく。
「い"っ!? がっ、のるど……さまっ!」
冷酷な皇帝、ガノルドをそう呼ぶひともいる。だけどガノルドはそんなひとだった? 私にたいしてはいつだって寛容だったでしょ。
ガノルドが正気に返った時、私を傷つけたと知ったら……きっと後悔する。自惚れかもしれないけどあなたは後悔するでしょ、だってそういうひとだから。
「かはぁっ!! っ"!!」
首絞めから解放され、呼吸ができると安堵したのも束の間、首をがぶりと噛まれ痛みが走る。
苦しい、痛い。
噛まれている首も、無理やり捩じ込もうとしている下からも血が出て、鉄っぽい独特な匂いが充満する。
「がっ、のる……っ、ど……さまっ!」
「はぁっはぁっはぁっ、グルルル……」
「がのるどっさま……ガノルド、さまっ……ガノルド!!!!」
私の叫び声に一瞬動きが止まって、顔を上げたガノルドの頬を両手でぱちんっと包み込んで、瞳をしっかり捉えた。
「はぁっはぁっ、グルルル!」
「グルルルじゃない! しっかりしなさいよガノルド! あんたは私にこんなことしたくないでしょ、無理やりしたくないはないんでしょ?」
「はっ、はっ、はっ……」
「大丈夫、落ち着いて、ちゃんと私を見て」
おぼろげで視点があっていなかった緋色の瞳は、徐々に私の姿を捉えはじめた。
「はぁ、はぁ、はぁ……」
「私が選んだ道よ、だからどうなったってかまわないけど、あなたが後悔するでしょ? だからこんなのはダメよ。ほら、戻っといで……大丈夫だから、ね?」
深く綺麗に澄んでいる緋色の瞳は、しっかり私の瞳を捉えた。
「はぁっ……はぁっ………レディア……すまなっ」
「もう、世界を征服する冷酷な皇帝とか聞いて呆れるわ。こんな小娘相手に盛って制御もできなくなるなんてね」
「俺は……なんてことを……」
「そんなしけた顔しないでくださいよ、そもそも忠告されたのに逃げなかった私の責任ですし……あの、とりあえず抜いてくれませんか」
「……ああ、悪い」
「っ」
ガノルドのモノが引き抜かれ、無理やり拡げられていた圧迫感からようやく解放された。おそらく3分の1も入ってなかったと思うけど、こんなの全部入ります……? と血の気が引く。
「今すぐ医務室へ行くぞ」
布団に包み込んで私を抱えようとしているガノルドの大きな手は微かに震えている。柄にもなく焦っている様子で少し笑みが溢れてしまう。
「ちょっと落ち着きなさいよ」
「これが落ち着いていられるか……俺はお前を殺そうとしたんだぞ!!」
「ちょ、急に怒鳴るのやめてよ、うるさい」
私は自分の意思でこのひとのものになるって決めた。今さら逃げ出すつもりはないし、不思議と怖いって感覚がなかった。恐怖とかそんなことより、苦しんでいるガノルドをどうにかしなきゃって、そっちの感情が先行した。
「……レディア、お前はこの姿の俺を見てなぜ怯えない、こんなことをされてなぜ普通でいられる」
「だってあんた、私の夫になるんでしょ?」
「は?」
「いや、「は?」じゃなくて、夫に怯える妻ってなによ。べつに暴力振るわれてたわけでもないし、なんなら待遇良すぎるくらいだし、あんたに怯える要素が一つもないでしょ私には」
大きな尻尾で私の頬を撫でるガノルドの瞳は、ぐらぐら揺れていた。
「ガノルド、あなた知ってるんでしょ? 私があの時あなたを治癒した人だってことを」
「……だから最初からそうだと言っているだろ」
「俺、あの時のでっかい狼です! なんて言われてないんだから私にわかるわけないでしょうが」
「そうか」
「……私、あなたに隠してたことがっ」
「っ!? お前、首の傷が……」
痛みが徐々に引いてるってことは、傷も治っていってるってことで、それを目の当たりにしたガノルドは目を丸くして驚いていた……その時──
バンッ!!
部屋の扉が勢いよく開いた。
「ガノルド!」
「「レディア!!」」
獣化したガノルドに抱き抱えられている私。きっと勘違いされた、ものすごい剣幕のケヤンがガノルドを睨みつけ、あのガノルドも反応しきれないほどの速さで私を奪い取って、ジェシーは私を見て震えている。
「返せ、それは俺のものだ」
「皇帝だかなんだか知らねぇけど、コイツを傷つける奴にっ」
「フィゾー、口を慎め。ガノルド、お前は一体なにをやっているんだ」
「……ユノ、これは……こんなつもりはっ」
「あの! 普通にその、なんていうか、えっと、ちょっと✗✗してたらガノルド様が興奮しすぎて、てきな!? べつになんともないし、みんな大袈裟だって! ケヤン、私は大丈夫だから降ろして」
「断る」
「……発情、ガノルド様はとくに強い特有のフェロモンを発する。我々はその匂いを感知してここまで来た……間に合わないとさえ思った、こうなったガノルド様は暴走して制御なんて利くはずがない、なのになぜ貴女は……」
発情状態で獣化しているものの正気なガノルドと、無傷な私を見て信じられないといった表情をしているユノ。
「これはレディアの愛の力よ、ね? レディア」
それは知らん、たぶん違うよジェシー。私とガノルドの間に“愛”なんてものはないもの。
私達に背を向け立ち上がったガノルドの偉躯と大きな耳と尻尾、太い首に逞しい腕、そして広い背。しっかりした腰周りに筋肉質な脚。それをシンプルにかっこいいと思う私はどうかしてる……? 私って獣人フェチ……? っていやいや、ナイナイ。
「出ていけ、全員」
え、一応私の部屋なんですけど?
「ごめんケヤン、ガノルドと話がしたいの……みんな出てってくれる?」
「レディア、お前も出ていけ」
だからここ、私の部屋!
「ユノさん、ふたりを連れて出てって、お願いします」
「わかりました」
私を離さそうとしないケヤンから無理やり私を離したユノはふたりを連れて部屋から出ていった。




