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あるあるパターン発動!



 ── 披露パーティーまであと2日


 ユノのスパルタ教育にも拍車がかかって、それと反比例する私の集中力。


「あの、ユノさん。ちょっと休憩しませんか? 紅茶飲みながらケーキでも食べて」

「何を仰っているのですか? まったく貴女という人は引くほど能天気ですね。当日まで甘味は禁止だと言ったはずですが」

「別に少しくらいっ」

「“自覚”というものがまるでない。貴女はあのガノルド・ラフマトスホユールの妻になるのです。甘味を食べて吹き出物だらけになったらどうするおつもりで?」

「私、ニキビとは無縁の体質なんですけどね」


 自己治癒力が高いからなのか、ニキビとかできにくいんだよね。


「人族と私達の食事では栄養価が異なります。人族の食べ物と同じ感覚での飲食は控えたほうがよろしいかと」


 そう言われてみれば甘さも油っこさも味の濃さも日本(あっちの世界)とは違う。人族の食事はあっちの世界に近いのかな? ちょっと気になる。味噌汁とか玉子焼きとか納豆とかあるのかな? らぶ家のねぎタマタマ牛丼食べたいし、コメタ珈琲のクロノワールも食べたい……けど、さすがに異世界(こっちの世界)にあるわけがないよね。


 そう思うと、あのしょーもない日常でも当たり前じゃなかったんだなぁ。好きなものを好きなように食べれてたあの日常が。


 未練とか別にないけど、あっちの世界の食べ物が恋しくなってくるよね、特に和食。まぁここの料理もめちゃくちゃ美味しいのは大前提だけど、やっぱ日本人は和食に限るよね~! とか言いつつ、脳裏に浮かんだのはこの前食べたクレープだった。あのクレープ、過去イチ美味しかったもんなぁ。美味しかったし、美味しかった(語彙力低下中)。


 私の頭の中はクレープのことでいっぱいになって、この帝城をどう抜け出してあのクレープを食べに行ってやろうか……しか考えられなくなっている。


「──様。レディア様」

「へ?」

「聞いてますか、私の話」

「え、ええ、まあ、何となく……?」


 聞いてるわけがない。だって私の頭はもうあのクレープのことしか考えられないんだもん。絶対に食べてやる、何がなんでも今日買いに行ってやる! 盛り盛りトッピングにしてやるんだから!


「貴女の集中力は幼児並みですか? はぁー。私は別件の用もありますし、3時間ほど休憩を挟みましょう」

「え、まじ!? やったぁ。ありがとうございます、んじゃ! 私はこれで~」


 瞬間移動レベルの俊敏さで廊下へ出て、ユノに手を振りながら満面の笑みを浮かべつつ扉を閉めた。


 で、自室まで猛ダッシュ! 


 街へ繰り出した時に使った変装マントを身に纏い、抜き足差し足忍び足で警備の目を掻い潜って、荷馬を見つけた私はその荷台にこそっと忍び込んだ。


「様子を見ながら街周辺で降りればいいよね」


 ── ・・・えーっと、はい、やらかしました。


 やらかしましたよ、完っ全に寝過ごしたぁぁ! どこだよここぉぉー!?


 慌てて荷台から降りたものの、ポツンと森の中に取り残されただけになってしまった。


 しばらく虚無状態に陥ってハッと我に返る。いっそのことあのまま乗っておけばよかったのに、なんで降りてしまったんだ私は。馬鹿なのかな? 馬鹿だな、紛れもなく。


「はぁ、とにかく城へ戻らないと」


 荷馬の跡を辿ってけば戻れるよね、きっと。なんて思いながら来た道を戻ろうとした時──。どこからともなくガサガサと音がして挙動不審になる私。


 とりあえず落っこちてる頼りない枝を拾ってイメトレ開始。私の脳内に浮かんできたのは、キャリー・ホッターだった。


 エクスペクト・パトローニャム、エクスペクト・パトローニャム、エクスペクト・パトローニャム──。


 何かが確実に私へ近づいて来ている── 来る、きっと来る、キタキタキタキタァァ!!


「君、なにしてっ」

「エクスペクト・パトローニャーームッ!!!!」


 ・・・シーン。


 鳥のさえずりさえも消え失せ、死ぬほど静かな時が流れる。


「へぇ~。魔法使いかな?」

「……ひ、人!?」

「君、狼人族にしてはちっさくない? なに、まだ子供なの?」


 この変装マントのおかげ? で狼人族だと思われてる……ていうか、超絶怒涛のイケメンだな! ガノルドほどではないような気もするけど、この人もかなりのイケメン。


 まあ、比べるのも難しいかな? だってガノルドとこの人じゃタイプが違いすぎる。ガノルドはワイルド野獣系イケメン、こっちは爽やかさとチャラさが融合した系のイケメン── て、やばっ!?


「ちょっ!?」

「……は? いや、君……人じゃん」


 耳付きのフードを下げられると、必然的に私の容貌も露になってしまう。


「いや、あ、あの、これには深い事情がぁ……」


 ジッと真顔で見つめられて、とりあえずひきつった笑みを浮かべるしかない私。で、何となくこの人に捕まったらヤバいかもっていう予感しかしない。


 だってこの人、見るからに一般ピーポーじゃなさそうだから! やばそう、これは冗談抜きで。


「うん、いいね」

「え?」

「めっちゃタイプ」

「へ?」


 これはもしかして、ありがちな展開きますぅ……?


「悪いけど、逃がすつもりはないよ?」


 逃げようとした私の首根っこを掴んで、にこにこ微笑んでる男。


「ボク、君のこと気に入っちゃったんだよね~。だからさぁ、拉致っちゃいまーす!」


 キタキタキタァァ! あるあるパターン発動!


 ははっ、やっぱ物語はこうでなくっちゃ~! って、んなわけあるかぁぁーい! これ以上ややこしくすんな! めんっどくさい! もう色んな意味でお腹いっぱいだっての! 十分だっつーの! 


 ただクレープを買いに来ただけなのになんでこうなった!? いや、クレープを買いにこそっと帝城を抜け出した私が悪いのは百も承知だけども!


「自分で言うのもツラいものがありますが、この際はっきり言いましょう。私、見た目はぶっちゃけ悪くないと自負しておりますよ、俗に言う“自他共に認める美女”かと。だけど、女らしさの欠片もないような女ですよ。気品? なにそれ美味しいの? な女です、止めておいたほうがよろしいのでは?」

「ははっ!! 面白いね~、君。まぁ確かに“自他共に認める美女”ってのは間違ってないかもねえ。いいじゃんいいじゃん、ボク君みたいな子嫌いじゃないよ~?」

「いやいや、ほんっとオススメしません。可愛らしさなんて微塵もありませんし、ガサツな女ですよ」

「ははっ、別にいいんじゃなぁい? だいたいさぁ、そんなこと言ったって逃がしはしないよ~? ボクのにするって決めたもーん」


 はい、イケメンナチュラルウインクいただきました

 ぁー。


 かっこいいなとは思うけど、ドキドキもしないしときめきもしない。そう思うとガノルドにはドキドキしっぱなしだな……謎すぎる。


「私これでも一応既婚者? なんで」

「いや、なんで疑問系~?」

「ああ、えっとぉ、あまり実感がないと言いますか」

「ふ~ん」


 まぁこれで諦めてくれるでしょ。


「なので私はこれで失礼しまーす」

「だぁから、逃がさないって言ってるでしょー。君が既婚者とかボクには関係ないし~」


 わお、一気に漂ってくるクズの香り。


 こいつ平気で人妻とか寝取るタイプに違いない。で、飽きたらポイ捨てして次から次へと女を漁るんだわ……こわっ。


 ていうか、ガノルドの嫁って知られたらやばいよね? たぶん。それこそ人質に捕られて、あれやこれやと面倒なことになりかねない。考えるだけでダルすぎて無理。


 いや、その前に『そんな女、俺の妻ではない』とか何とかガノルドに言われて呆気なく見捨てられそうだけども……ま、そうなったらなったで別にいっか。


「とりあえず他をあたってください。正直、微塵もあなたに興味ないし、この絡みもめちゃくちゃダルいし、時間の無駄なんで」

「……ククッ。いやぁ、いいねえ。このボクが振られるとは驚いた! ますます気に入ったよ~。ボクの名前はルイス・エルフィンストン。君の名は?」

「あー、ご想像にお任せしまーす」

「ええ~、つれないなぁ……ま、そういうところも愛らしいけど! さて、うーん、どうしようか。あまり時間も無さそうだし、ちょーっと眠っててくれるかな?」

「は? え、ちょっ……!?」


 首の後ろにドスッと鈍い衝撃と痛みが走って、そのまま気絶してしまった──。


 ── ここは、どこだろう。


 フカフカした何かに包み込まれているような、人のぬくもりを感じる。ダル重い頭痛にうんざりしつつ、開けたくもない目蓋を仕方なくゆっくり上げると視界に入ったのは、ニコニコしながら私を眺めている上半身裸のルイス。


「おはよう。いい目覚めでしょ? こ~んな色男が添い寝してくれてるなんてさ」

「はあ」

「ハハッ! いやぁ、イケメン耐性抜群だね~? まあ、君レベルなら突然かなぁ? 中身はともあれモテるでしょ~? 君」


 しれっと失礼だな、貴様も。


「その言葉、そのままそっくりお返しします」

「ククッ、相性良さそうだねえ? ボクたち~」


 なんだろう、無性に殴りたくなるこの感じ。


 悪気はなさそうだけどそれがまた妙に腹が立つ。この世界のイケメンは失礼な奴しかいないわけ? ま、人のこと言えないくらい無礼者な私がなに言ってんだって話だけど。


「何を仰いますか。相性最悪だと思いますけどねえ? ワタシたち~」

「ハハッ! ほんっと可愛いねぇ、君」


 だんだん冷ややかな目になる私を見て、なぜかテンションが上がっていくルイスにもうどうでもよくなってきた。


 何も考えたくない、考えることを放棄したい。


 ていうか、つるんつるんのバスローブ着せられてるけど、着替えさせたのはおまえか? 私の下着姿見やがったな? とか色々問い詰めたいけど聞く気も失せる。


 ただただ面倒なことになっているであろう現実から目を背けたい、切実に。


「ねえ、君。既婚者だって言ってたけど、もしかして狼人族と……とかありえちゃったりする感じ~?」


 さっそく図星を突かれて動揺する私も大概アホ。


「え、あ、いやぁ……さ、さぁ……? どうでしょうね」


 あからさまテンパる私を見てクスッと鼻で笑ったルイスは、ジッと私の瞳を捉えて離そうとしない。ダラダラと嫌な汗が流れていく。


「着てた洋服、あれはどう見ても狼人族のものだしね~。あ、騒ぎになると面倒だから君の服を脱がしたの、悪いねえ~! ははっ!」


 なにこの人、ほんっとイラッとする。


「で? もしかして君が噂の姫かな?」

「う、噂の姫……?」

「あのガノルド(皇帝)が人族の女を嫁にしただの何だのって噂。いやぁ、さすがにそんな話ないでしょ~くらいに思ってたんだけど、まぁ君なら納得かな? って」


 ・・・これってもしかしなくても、本当に面倒なことになりそうじゃない……? 


 よくあるやつじゃん、敵対国のお偉いさんに拉致られて揉め事に発展するパターンのやつじゃん、そういうパティーンじゃん。


 お願い、もう勘弁して。

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