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喧嘩は拳と拳!タイマンやろうがい! ケヤン&レディア 視点



 ── あの女と一緒にいると調子が狂う。


 危なっかしい行動や言動に、『コイツ何をしでかすか分かんねぇしな。俺が守ってやらねえと』みてぇな謎の感情が湧く。アレン以外に守りたいモンができたのは初めてで、これはおそらくレディアに“助けられた(救われた)”という事実がそうさせている。


「らしくねぇ」


 俺にそんなもんはねえと思ってたが、微かな情みたいなもんがあったことに驚いてるわ。


 別にアイツを守って死んだとしても、きっと悔いは残らねえ。アイツならアレンのことも何とかしてくれんだろうし。大前提、俺は本来極刑の身で今あの世でもおかしくなかったわけだ。


 アイツが俺を助けた、この命はあってないようなもん。俺は命懸けでアイツを助ける義務がある── それなのにアイツは『命懸けで守るな、迷惑だ』と言う。黙って守られてりゃいいもんを……ってそんなタマでもねえか、あの女は。


「はぁー。ったく、めんどくせぇ」


 監視塔から眺める夜空は、夜空でしかなった。綺麗だのなんだの思わねぇけど、こんなふうに夜空を見上げたはいつぶりだろうな──。


 貧しくて、普通の生活とはかけ離れた日々を送っていた。お人好しの父さんと母さんはトモダチとやらに騙されて、ソイツの借金を背負うことになったのが事の発端だった。家計は火の車で、休む間もなく働き続けた父さんと母さんは過労で死んだ。


 “悲しい”という感情より“これからどうすんだよ”という感情のほうが圧倒的にデカくて、『借金なんて残して逝くんじゃねーよ。せめて返済しきってから死ねよ、バカ親が』としか思えなかった。親が死んだってのに一滴も涙が出ないとか、感情が欠落してるに決まってる。


 そんな俺でも弟のアレンは特別だった。アレンは俺とは違って優しい。父さんと母さんが死んだ時も声が枯れるほど泣いていた。自分が発作で苦しい時、傍にいてもくれなかった親なんだぞ。どんだけ体調が悪くても『仕事に行ってくる』って看病もしてくれなかった親なんだぞ。なのにアレンは“悲しい”と泣いた。


 アレンは心も体も弱い奴だから守ってやらねぇとって、父さんと母さんが死ぬ前までは思っていた。だけど、それは違った。


 あんなに泣くほど父さんと母さんのことが好きだったのに、“苦しい”とも言わず“寂しい”とも言わず、ただ『いってらっしゃい、お仕事がんばってね』と笑顔で送り出していたアレンは決して弱い奴なんかじゃなかったんだ、強い奴だったんだって気づいた。それと同時に、たくさん我慢してきたんだろうなってそう思ったら、もう我慢も寂しい思いもさせたくねえって思った。


 だから俺は、どんな危険な仕事でも一度である程度稼げる仕事ばかりを引き受けるようにした。アレンとの時間を少しでも増やす為に。


 そんな俺でも殺しの仕事だけはしないと決めていた。この一線だけはアレンの為にも越えちゃいけねえラインだ。“殺し屋の弟”にするわけにはいかねぇからな。だがこの決意は、アレンを拉致られて音もなく崩れ落ちた。


 アレンのためなら何だってやる、ボーダーラインなんてあってないようなもんだろ。


『アレンより大切なモンなんて俺には無い。オマエに恨みはないが、俺とアレンの為に死んでくれ』


 俺はシンベルデノ帝国の皇帝 ガノルド・ラフマトスホユールの正妃候補を殺せという依頼を受け、それを実行したが失敗に終わった。その時点で俺の“死”は確定したも同然。


 頼む、アレンだけは助けてくれ。俺はどうなろうがどうだっていい、どうなっても当然の報いとして受け入れる。だから弟だけは、弟の命だけは──。


 アイツはアレンどころか俺まで助けた。俺の為に怒って、俺の為に拒んでいただろう皇帝の正妃になることを選んだ。


「……俺なんかの為に、つくづく馬鹿な女だな」


 俺には、アイツを守る責任が……。


 ま、皇帝の正妃になるだの何だのアイツが全部勝手に決めたことだ、俺には関係ない。アイツがどうなろうがどうだっていいだろ? どうだっていいはずなのにな、なんでこうも無駄にアツくなってんだよ。


 アイツがしたいようにさせればいいじゃねぇか。『迷惑だ、命懸けで守るな』そう本人が望んでんだ、適当に護衛すりゃいいだろ。俺には関係ねえ、アイツがどうなっても。たとえ死んだとしても……な。


「チッ、馬鹿馬鹿しい」


 ── 結局、モヤモヤしたまま一睡もできず、俺の足はアイツの部屋へ向かっていた。


 雇用主はアイツみたいなもんだし、雇われている身である俺から適当に謝るのが手っ取り早いだろ。それにアイツ、頑固そうだから絶対に曲げねぇだろうしな。俺が謝ったほうが早ぇ。ギクシャクしたまま護衛すんのは危険のリスクが高まる。これは仕事だ、仕事。プライベートでもオトモダチごっこでもねえんだし。


「さっさと謝って寝るか、眠ぃし」


 アイツの部屋の扉をノックしようとした時だった──。







 ケヤンとの仲直りを決めた私は気合いを入れて扉をバンッ! と勢いよく開けた。すると『ブハァッ!!』という声と共に、扉に何かがぶつかった感覚が……視線を下へ向けると、床に倒れてるケヤンと目が合う。というか睨まれる。


「何やってんのよ。ま、探す手間が省けたわ」

「オイ、第一声がそれかよ」

「ごめんごめん、怪我してない?」


 倒れてるケヤンに手を差し伸べると、複雑そうな表情を浮かべながら私の手を優しくペチッと払って、『自分で起きれる』と言いながら立ち上がった。お互い仲直りの仕方を知らないっていうか、そもそもこういう喧嘩をする親しい相手もいなかったのか、モゾモゾソワソワして落ち着きがない。


 (はた)から見たら、尿意を我慢してるようにしか見えない人族と小鬼の男女で、さすがに絵面がキツすぎる。


「「あ、あのさ」」


 ほら、こういう時って声が揃っちゃうパターンなのよね。で、更にモゾモゾソワソワしちゃうやつね。いつまでも尿意を我慢してるようにしか見えない絵面を続けるわけにはいかない。ここは年上の私が先陣を切らなくては!


「ケヤン、ごめんね」

「……別にオマエが謝ることじゃねぇだろ。それにオマエは俺に守られてりゃいい、死なせるつもりも死ぬ気もねえ。だからなんつーか……気にすんな、俺のことは」


 少し照れくさそうにそっぽを向いてもにょもにょ喋るケヤン。13歳のガキんちょにここまで言われちゃ、私も黙ってらんないな。守ってもらうお姫様~みたいなのは柄でもないし、互いの背中を預ける! みたいな関係になれるのかベストでしょ。


「私の背中はケヤンに預ける。だから、ケヤンの背中は私に預けて」


 そう言うと一瞬目を見開いたケヤンは後頭部をガシガシ掻いて、ジトーッとした目で私を見てくる。それが何なのか私には分からない。


「なによ」

「はぁぁ。やっぱお妃様って柄じゃねぇなオマエ。この不良女が」

「はあ? ケヤンだって口悪いし悪ガキじゃん、不良小僧!」

「あ? オマエと一緒にすんな」

「それはこっちのセリフよ!」

「やれやれ。無駄によく通る声ですね、貴女の声は」


 バッ! と振り向いた先にいたのは、これから拷問でもするのか? と疑いたくなる物を手に持っているユノが。


「そんな物騒な物を持ってどちらへ?」

「貴女を迎えに参りました」

「……ケヤン、雇い主(わたし)を守りなさい」

「護衛対象がオマエってだけで俺の雇い主はユノ様、そして陛下になる。オマエの言うことは二の次三の次というわけだ。諦めろ」

「薄情者ぉぉーー!!」


 ── で、連れて来られたのは資料室? 図書室? みたいな部屋だった。


「あの、それ必要あります?」


 ユノが手にしている手錠と足枷を指差して笑みをひきつらせる私。


「ええ、貴女が逃げようとすれば必要になってしまいますね」

「……ああ、そうですか」

「どのような教育を受けてきたのか知りませんが、貴女はもう皇帝の妻になのです。嫌でも自覚していただきたい」

「はあ……」


 古びた本を山のように積み上げるユノ。それを目の前にして唖然とする私。ユノ()は私にこの本の内容を2日で簡潔にたたき込むと息巻いてる。どうやら私は踊りやテーブルマナー諸々すべて一気に覚えないといけないらしい。


 はっきり言って無理ゲーすぎる。


「貴女に一つ聞きたいことがあります」

「なんですか? IQなら聞くだけ無駄ですよ。私のIQは底知れなっ」

「なぜ争いが起こるのか、なぜ争いは繰り返されるのか、貴女の考えが聞きたい」


 ・・・ふざけている様子は……なし。むしろ神妙な面持ちで私を見てるユノにゴクリと生唾を呑み込んだ。


 これは、何か試される感じ?


『なぜ争いが起こるか、なぜ争いが繰り返されるか』なんて、そんなの単純なことじゃない? でも、ユノが求めている答えはそんな単純なことなのかな……? まあ、なんだっていいか。私は私が思うことをそのまま伝えれば。


「一概には言えませんけど、お偉いさん達がまともに話し合わないから武力行使になって戦争になるんじゃないんですか? 争いは争いしか生まないし、憎みがまた憎しみを生む。ま、エンドレスですよね」

「ではどうしろと?」

「コミュニケーションがとれる生き物同士なんだからさ、話し合いなり口喧嘩なりで解決してもらって」

「口論で済まない場合は?」

「はあ……ユノさん、喧嘩の極意って知ってます?」

「騎士団の質っ」

「はあ!? 違う!! 喧嘩は拳と拳! タイマンやろうがい!」


 ガタン! と音を立てながら立ち上がって握り拳をユノに向けたのはいいけど、私を見るユノの瞳が死ぬほど冷めてて、スンッと真顔になった私は大人しく椅子に座った。


「「……」」


 真顔で見つめ合い、沈黙が流れるこの空間に響いてるのは時計の秒針が時を刻む音のみ。そして、朝食を抜いたせいでグゥ~とお腹が鳴った。


 誰か、今すぐ私をコロシテ。


「まずはシンベルデノ帝国について学びましょう。謂わばラフマトスホユールについて知るということです」


 ── こうして私は、夜までみっちりシゴかれた。

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